第230話「人間の底力を①」
東導 号 書籍化作品⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
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宿舎となっている空き家へ戻って来たディーノは……
エレオノーラとシグネから根掘り葉掘り聞かれた。
当然ヒルデガルドとの会話内容である。
当初、ディーノ達から見て、ヒルデガルドに対しての第一印象は最悪であった。
出会った際の言動から当然ともいえる結果である。
だが彼女の身の上、そして冒険者の行為を聞き、
ディーノ達の持つイメージは変わって行った。
3人の会話を聞いていたグレーヴは、腕組みをし、言う。
「いくら強靭且つ誉れ高き冒険者でも、誰もが皆、人間的にも優れている、つまり誠実で人格者だとはいえないからな」
グレーヴの言葉に反応したのはディーノである。
「ですね。性別、性格、身分、職業という共通点があっても全ての人が善人だとは限りませんし」
「だな! ディーノの言う通り、冒険者に限らない、貴族でも騎士でも商人でも一般市民でも誰でも同じだ」
エレオノーラとシグネは顔をしかめている。
自分達をそのように自分勝手で横暴、ズルイ冒険者とは違う。
そう言いたいに違いない。
「でも私達をそのような外道とは、一緒にはして欲しくない」
「シグネも同意でっす! その通りぃ!」
「俺もエレオノーラとシグネさんの言う通りだと思いますよ」
ディーノがふたりの女子に同意すると、
グレーヴが尋ねて来る。
「だな! で、ディーノ、結局作戦はどうする?」
「ええ、もう考えてます」
オーガの上位種約100体がこもる、ロドニアの旧城砦。
そこへたった4名で挑む。
グレーヴは騎士というよりは、軍人として興味がある。
「むう……で、どうするんだ」
「はい、作戦なんてカッコつけて言いますが、簡単です。俺が単独で突っ込み、オークども一切を殲滅します。公爵、エレオノーラとシグネさんは後方待機で、俺が打ち漏らしたオークを倒してください。戦友3人が盾になりますけど、万が一ヤバそうであれば撤退して下さい」
単身で突っ込む!?
「城砦をこの少人数で攻めるのは難しい」と正直グレーヴは思っていたが……
相変わらず無茶なディーノに呆れてしまう。
「おいおい! それじゃ作戦じゃねぇ。ただの突撃だろ? ディーノ、お前、また命知らずな事を言う。エレオノーラとシグネちゃんがすげぇ心配するぞ」
「まあ、それは申しわけないと思います。でもいずれ、俺は単独でファイアドレイクや吸血鬼の始祖にも挑むんです。オークカーネルぐらいで臆してはいられません」
今回の依頼書と一緒に持ち帰った超が付く高難度の依頼。
ディーノはやる気満々であった。
グレーヴは「はあ?」という感じで驚き、更に呆れ果ててしまう。
「何だ、お前! アレ本気だったのか? それもさりげなく単独でとか言いやがって」
「ええ、本気です。だけど皆さんを巻き込めませんし、戦友も居るから大丈夫です」
しれっと言うディーノ。
大いに反応するかと思いきや、エレオノーラとシグネとシグネは無言である。
「…………」
「…………」
「何だ、エレオノーラ、シグネちゃんもノーコメントか」
「黙りたくもなるぞ、父上」
「そうでっす。はっきり言って、ディーノちゃんのあまりの無謀さに呆れ果ててまっす」
「あはは、呆れ果てたか? じゃあ諦めるか、ふたりとも。ディーノとの結婚をよ」
「何言ってる、父上! 私は初志貫徹だ! 絶対に諦めん! ディーノは初恋の相手でもあるのだぞ」
「シグネもそうでっす。こんなに心ときめく男子は絶対ディーノちゃんひとりしかいませんも~ん」
グレーヴは女子ふたりの返事を聞き、大袈裟に肩をすくめる。
「だとさ!」
「ありがとうございます。素直に嬉しいです」
「まあ、ディーノが勇ましいのは良く分かった。だがな、俺はここで本音を言うぞ」
今迄のやりとりで、グレーヴまだ何か含むものがありそうだ。
「公爵、本音ですか?」
「父上、はっきり言ってくれ」
「ガイダルパパの考え聞きた~い」
3人からせがまれ、グレーヴは大きく息を吐いた。
「よっし、言おう。……俺はな、ディーノ。冒険者達を擁護するわけじゃない。だが、臆したのは理解出来る。何故なら依頼書に上位種の記載がなかった事、加えて、さっきのヴィオラ村同様、依頼の難度に対して報奨金も少な過ぎると思うからだ」
「成る程」
「村長の話を聞き、様子を見た限り、今回は横領とか不正じゃなく領主の問題だとは思うが……」
「父上、結局何が言いたいのだ」
「ああ、まずこれは基本原則。俺達は他の冒険者のように逃げたりはしない。これ以上冒険者の評判を落とすわけにはいかんからな。だがこの4人で上位種のオーク100余を攻めるのは無謀過ぎる」
「無謀ですか? では、公爵はどう対処しようとお考えですか?」
「うん、俺が緊急の魔法鳩便を飛ばす。このまま村で1週間ほど待機して、騎士団か軍の応援を要請した方が良い。リスクが大きすぎる」
だが、グレーヴの提案を聞いても、ディーノの考えは変わらない。
「公爵」
「何だ、ディーノ」
「待つなどしません。これ以上犠牲者が出ても困りますし、時間が勿体ない。それにヒルデガルドに、またも冒険者の良識を疑われてしまします」
「むう……まあ微妙なとこだよな」
「微妙じゃないです。見せてやりましょう、奴ら傍若無人なオークどもに」
「見せる? 何をだ?」
「ええ、冒険者の強さを、……いえ、人間の底力を!」
「人間の底力だと?」
「はい! たとえ困難な逆境に陥っても、挫けず諦めず、やり遂げ限界をも突破する、人間の底力を見せつけてやりましょう!」
きっぱりと言い切ったディーノは、
真っすぐにグレーヴを見つめていたのである。
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