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第229話「生と死の狭間に立つ」

東導 号 書籍化作品⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

◎小説版《ホビージャパン様HJノベルス刊》

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◎コミカライズ版《藤本桜先生作画》

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 リーリウム村、村長のカスパルからオーク討伐の為、

 いろいろと情報を得たディーノ達は、とりあえず宿舎の空き家へ戻る事にした。


 と、その時。


「ちょっと待て」


 声をかけて来た少女が居た。

 

 着ている革鎧で分かる、

 先ほど飛び出して行った、カスパルの姪ヒルデガルドである。

 

 ……ヒルデガルドは兜を脱いでいた。

 やや小さめで細面の顔があらわとなっている。

 

 彼女の髪は短く刈り込んだ燃えるようなレディッシュである。

 眼差しは鋭く、鼻筋が通ったきりりとした凛々しい顔立ちをしていた。

 間違いなく美人の範疇はんちゅうには入るだろう。


 身長はさほど高くはないが、スタイルは良いし、

 言い寄る男は多いに違いない。

 

 ヒルデガルドは、ディーノ達を断固拒絶する態度なのに、

 彼女から話しかけて来るとは一体何があるのか?


「何か、用かい? ヒルデガルドさん」


「ああ、用があるから呼んだ。お前、ディーノと言ったな。話がある、今から付き合え!」


「話し合いか? ならば! 私も同席するぞ!」

「シグネも!」


 エレオノーラとシグネが割って入り、ヒルデガルドを睨み付けた。

 彼女達は人の事を言えないという感もある。

 だが、一貫して傲岸不遜なヒルデガルドの態度を、とても不快に思っていたらしい。


 しかし、ヒルデガルドはきっぱりと拒絶する。


「色ボケしてるお前らは不要だ。俺とコイツ、ふたりだけで話す!」


「この女! 何が色ボケだ。私はディーノの妻なのだぞ!」

「シグネも!」


「はっ、何が妻だ! 仕事でこの村に来ているのに、おままごとみたいに、いちゃいちゃしおって! だから冒険者は好かん!」


「いいかげんにしろ! 貴様、殺すぞ!」

「うふふ、秒殺でっす」


 エスカレートして行く女3人の戦い。


 辺りに不穏な空気が満ちて行く。

 ここでストップをかけたのはグレーヴである。


「ディーノ」


「はい」


「この子と、ヒルデガルドと話して来い。村長から聞けなかったところをしっかり聞いといてくれ」


 グレーヴは、ディーノに対し、一方的に命令を下した。

 エレオノーラとシグネへ有無を言わせない為だ。


 すると、まさに鶴のひと声。

 エレオノーラとシグネは無言で引き下がった。


 当然ディーノも、グレーヴの意図を即座に理解し、OKする。


「了解です」


 こうして……

 ディーノは、村長の姪、自警団の少女ヒルデガルドと、

 サシで話す事となったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ヒルデガルドへ連れていかれたのは……

 村の小さな教会である。

 司祭はおらず、無人である。


 礼拝堂へ入るなり、ヒルデガルドはいきなり叫ぶ。

 単刀直入に。


「おい! 先にも言ったが、俺達自警団はもとより、村民は誰もお前達に協力などせんぞ!」


 対して、ディーノもあっさりしたものだ。


 ギルドとの契約上はオーク討伐にあたり、

 リーリウム村の自警団と共闘する事にはなっている。

 

 しかし相手が拒否したら、その限りではない。


「ああ、良いよ。じゃあ放っておいてくれ」


 ディーノがそう言うと、ヒルデガルドはいきなり話題を変える。


「おいディーノ、お前、伯父さんから何を聞いた。何を言った」


「聞いたのはいろいろと、この村の状況とオークが上位種であること、陣容が大体分かった」


「ふん!」


 ディーノが答えると、ヒルデガルドは馬鹿にしたように鼻を鳴らした。

 だが、ディーノは構わず言葉を続ける。


「それと……何を言ったかとは決まってる。俺達がオークどもを倒すと言った」


「オークを倒す? どうせ口先だけだろう。結局、お前らもこれまでの冒険者と変わらん、嘘付きだ」


 やはりカスパルから聞いた通りだ。

 ヒルデガルドは冒険者を嫌っている。

 否、憎んでいる。


 ディーノは無言となった。


「…………」


「だから、俺は冒険者が嫌いだ! だいっきらいだ!!」


 やはりここまで言う。

 ヒルデガルドの心の叫びに対し、ディーノは淡々と返すしかない。


「……仕方がないよな、嫌いなものは」


「…………」


 今度はヒルデガルドが黙り込んだ。

 しかし、すぐに口を開く。


「冒険者は下劣だ。依頼をあっさり放棄した挙句、よりによって、俺を口説いて来やがった。自分の『女』になれって、な!」


「…………」


「どいつもこいつも! 俺に村を捨て、王都ロフスキへ行こうと秘密裏に誘って来た。王都へ行けば、素敵なドレスを着て、美味いものが食える。思い切り贅沢出来るぞとささやいたのだ」


「…………」


 今度は再びディーノが黙り込んだ。

 ヒルデガルドは、忌まわしい記憶を思い出したのか、怒りの感情を爆発させる。


「何を考えているんだぁ! 亡き両親が愛したこの村を俺が捨てるわけがないっ! 奴らにはそんな事も分からんのだ!」


「…………」


「冒険者など単細胞な上、腐れ切った下劣な野郎どもだ! そんな奴らの女に誰がなるかあっ!」


 同じ冒険者だと、十把じっぱひとからげにして欲しくない。

 そうディーノは思うが、今のヒルデガルドはディーノの考えを受け入れないし、理解もしないであろう。


「…………」


「両親の仇、憎きオークをぶち殺す! 絶対仇を討ってやる! 一体も残さず全滅させてやる! くそな冒険者の助けなど借りない!」

 

「…………」


「俺はリーリウム村を愛している! この村で生まれた俺は、この村で死ぬだろう」

 

「…………」


「村を守り、発展させ、人々が幸せに暮らす為に、この命を奉げる」


「…………」


 無言を通すディーノの生い立ちに興味が湧いたのか、

 ヒルデガルドは尋ねて来る。


「ディーノ、お前……親は健在なのだろう?」


「いや、父親も母親も、ふたりとも死んだ」


「…………」


 会話と無言の混在するやりとり……

 クロージングをはかったのは、ディーノである。


「ヒルデガルド、俺と仲間が嘘付きかどうかは、明日にでも分かる」


「…………」


「冒険者として、生と死の狭間に立つ俺達の戦いぶりを見ていればな」


「ふん! 生と死の狭間に立つ俺達か? カッコいいじゃないか! よくぞ言った! 口先だけのお前がこそこそ逃げ出さないよう、しっかり俺が見張っておいてやる!」


「ふっ、お前こそ、戦いに巻き込まれないよう安全な場所で見ているんだ」


「はっ、黙れ!」


 最後は、お互い何かが通じた気がした。

 ディーノとヒルデガルドは双方、不敵に笑ったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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