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第225話「教えろよぉ!」

東導 号 書籍化作品⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

◎小説版《ホビージャパン様HJノベルス刊》

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 その日の昼過ぎ……

 ディーノ達はヴィオラ村を出発した。

 ガイダル家の大型馬車は広い。

 なので戦友3人も乗っていた。

 ジャンは黒猫に、ケルベロスとオルトロスは中型の灰色狼風である。


 御者台にエレオノーラと並んで座るディーノの左腕には、

 村長のグスタフから送られた漆黒の腕輪が既に装着されていた。

 彼の両親の形見である魔法が付呪エンチャントされた、

 ミスリル合金製の収納腕輪である。


 完全に打ち解けた村民達は総出で、ディーノ達を見送ってくれた。

 真ん中で、手を大きく思い切り打ち振るのはグスタフである。


 ディーノは投げやりにそして流されるままに生きていたグスタフを導き、

 彼と彼の両親都合3人の志を受け継いだ。

 腕輪を役立て、難儀する人々を救って欲しい、

 不器用に生きる者に、前を向くきっかけを与えて欲しいと。 


 馬を御し、馬車を走らせながら、軽く息を吐くディーノへ、

 グレーヴが背後から話しかける。


「ほう、渋い腕輪じゃね~か。親の形見をくれるなんて、あの村長、ディーノによほど恩を感じたんだろう」


「そうかもしれません」


 ディーノは短く返した。

 余計な事は極力言わないというのが彼の方針だった。

 尋ねられ、必要があると判断すれば告げれば良いという考え方だ。


「おう、エレオノーラ、シグネちゃん、どうだい?」


 いきなりグレーヴが女子ふたりに尋ねた。

 いつもより砕けた口調である。


「何がだ、父上」

「です、何ですっ、ガイダルパパ」


 ぴたりとディーノに寄り添うエレオノーラ。

 シグネは相変わらずジャンを構って遊んでいる。


「お前達、ふたりのディーノへの気持ちだよ」


 ズバンと直球を投げ込むグレーヴ。

 背後から不意をかれ、ディーノは戸惑いを隠せない。


「ぶっ! 予備動作なしっすか、公爵」


「ははははは、ウチの王国はよ、お前んとこのヴァレンタインと一緒で一夫多妻制OKだぜ」


 豪快に笑うグレーヴ。

 シグネも乱入する。


「あ、それ、シグネも言いましたぁ」


 グレーヴはふっと笑い、エレオノーラとシグネを交互に見た。


「で、どうなんだ、ふたりとも? 熱しやすく冷めやすいロドニア女の性癖出たか?」


「どういう性癖だ、父上? ありえんぞ、少なくとも私は」

「そんなの昔の変な例えでっしょ、現代のロドニア女性は一途なんですからぁ」


「がはははは、じゃあふたりとも、今でもディーノにお熱か?」


「き、決まってる! 燃え上がってる! 今すぐ結婚したい!」

「決まってま~す! 以下同文」


 エレオノーラとシグネは息がぴたりと合っていた。

 ゴブリンとの戦いを経た事で、絆が深まったらしい。


 ここで再び、グレーヴがズバンとより速度の上がった、豪速球を投げ込んだ。

 次の村に到着するまで背中を向け、話す事になりそうだ。


「だとよ、ディーノ! という事で! おめえの昔の女ともども、全員ガイダル家で面倒みてやるぜ!」


「昔の女って、公爵! 勘弁してくださいよ」


 当然エレオノーラとシグネも喰い付いて来る。


「父上、ホントか? ディーノに昔の女とは!」

「うふふ、シグネも気になりますぅ」


「がははははははははは!! コイツ絶対に女が居た! いや、今も居る! 俺には分かる!」


 会話がどんどんややこしく不毛となって行く。

 ディーノは話題の切り替えを提案する。


「もう……馬鹿言ってないで次の依頼の予習をしますよ」


「おう、ディーノは先生みたいな言い方するな!」


「コメントスルー。再度確認です。次の依頼場所はリーリウム村。村の自警団に協力し、数十年前に放棄された古城に、たてこもるオーク100頭を討伐するって案件です」


 ディーノが依頼内容を確認し、復唱するとエレオノーラが胸を張る。


「うむ、何だ、ディーノなら楽勝じゃないか、そんなの」


 しかしディーノは首を横に振る。

 油断大敵、勝って兜の緒を締めよである。


「いや、楽勝じゃないでしょ。それに野外戦闘と攻城戦は全く違いますから」


 ディーノの言葉を聞き、興味深そうに口を挟んだのがグレーヴである。


「何だ、ディーノ。攻城戦の経験がありそうな口ぶりだな」


「まあ、多少は」


 ディーノが曖昧に返すと、グレーヴは執拗に突っ込んで来る。


「何だよ、面白そうじゃねぇか、どんなだったか言ってみろ」


 エレオノーラとシグネも同調する。


「そうだ! そうだ! 父上の言う通りだ」

「白状しなさい、ディーノちゃん」


 しかしディーノは気乗りしないようである。


「何か、自慢みたいになりそうで嫌なんですけど……」


 ディーノが口ごもると、グレーヴは苦笑する。


「ホント、お前は変わってるな。普通、冒険者なら、声を大にして自慢するだろ」


「はあ……」


「良いじゃないか、父上。そういう奥ゆかしく細やかなところが、ガサツな父上にはない、ディーノの長所だ」

「確かに! ガイダルパパは超大雑把だからねぇ」


 エレオノーラとシグネのディーノ援護の弁を聞き、グレーヴは大笑い。


「がはははは、俺をディスってどうする。まあ自覚はしてるがよ。まあ、良いから話してみろって」


「了解です」


 こうしてディーノは……

 ミンミから依頼されて完遂した、

 山賊バスチアン退治の顛末を話し始めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ディーノの話が終わり、グレーヴ達は絶句した。


「はあ!? なんじゃ、そりゃ!」


「廃棄された砦にたてこもる、山賊の首領と配下含め100人以上を倒したのか!」

「それもひとりで完遂!」


「ミンミさんから直接の依頼で……まあ正確にはひとりじゃなくて、戦友の力を借りたんですけど」


 ディーノが単独の完遂ではないと、ことわりを入れるが……

 グレーヴが叫ぶ。


「おいおい! 戦友の力は大きいとしてもだ、デビュー戦がそれかよ! 依頼する方も依頼する方だ!」


「まあ、当初は山賊30人の予定でした。現場へ行ったら100以上居て、仕方なく……」


 ディーノがやむを得ず対応したという旨を告げれば、

 エレオノーラが身を乗り出した。


「凄いな、ディーノ! 炎の飛燕から直接の依頼だぞ! 憧れる! 彼女の奥義を見てみたい!」


「確かに……炎の飛燕は凄い技でしたね」


 ついぽつりと、本音が出たディーノ。

 

 しかし!

 これが3人を大いに刺激してしまう。


 目を丸くして、いの一番に聞いたのはグレーヴである。


「はあ!? 今、何て言った」


「いや、凄い技だったって」


「何だよ、それ! おいおいおい!」


「まさか! 我が夫はあのアールヴに秘奥義を使わせたのか!」

「なになにぃ! ディーノちゃん、信じらんないっ!」


 喧々諤々(けんけんがくがく)として来た中、

 再びグレーヴが尋ねる。


「で、でもよ! ディーノ、おめぇ、炎の飛燕受けて平気だったのかよ!」


「まあ、何とか防ぎました」


「防いだぁ!? ど、どうやって!」


「それは、ちょっと内緒です」


 ミンミの秘奥義『炎の飛燕』を封じた技……

 こちらも秘奥義たる『吸収(カルイェト)の剣』

 

 楓村でいにしえの魔法剣士ブレーズから授かった授かった事を、

 さすがに、ぺらぺら喋るわけにはいかない。

 

 しかし生粋の戦士グレーヴは大いに不満のようである。


「なんだよぉ、ケチケチせずに教えろよぉ!」


 ガタゴト街道を走る馬車には、

 子供のようにせがむグレーヴの声が大きく響いていたのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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