表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/337

第22話「炎の飛燕②」

 ディーノは、サブマスター……ブランシュと名乗った若い女性剣士……

に連れられ、マスター室へ到着した。


 扉の前で、軽く息を吐いたブランシュがリズミカルにノックすると、


「入って!」


 と短く返事があった。

 少しだけ怒りの波動が伝わって来る。


 ディーノはオベール家へ仕えている時、

 ある程度、人との接し方を学んでいた。

 なので、大人しいが、いわゆる完全なコミュ障ではない。


 しかしディーノは全く人見知りをしないわけではなかった。

 本来、彼が行う他人へのアプローチは極めて、生真面目且つ臆病だ。

 相手が初対面であったり、機嫌が悪いのなら尚更、用心深くなる。


 今回、面会するマスター、ミンミは状況からして、

 『ふたつの条件』を両方完全に満たしている。

 ディーノは超が付く慎重さをもって、事に当たらねばならなかった。

 『冒険者登録』という、今後の人生を左右する大イベントならより一層、気合を入れ直さねばならない。


 ディーノはブランシュ同様、軽く息を吸い込んだ。

 気合がみなぎる。


 ブランシュが扉を開けると同時に、ディーノは勢いよく深く頭を下げた。

 そして頭を下げたまま、はっきりと言い放つ。


「マスター、初めましてっ! ディーノ・ジェラルディです。この度、自分の不注意でマスターをお待たせし、深く謝罪致しますっ! 誠に申しわけありませんっ!」


 ちらっと見えたが……

 ダレンの言う通り、ミンミはアールヴ族であった。

 アールヴ族はプライドが人間より遥かに高いというが……

 許して貰えるのだろうか?


 一瞬の沈黙。

 どうなるかと、ディーノが身構えた瞬間。


「あははははっ」


 いかにも楽しそうな笑い声がマスター室に響いた。

 何と!

 ミンミが大笑いしているのである。


「マ、マスタ―」


 ブランシュが慌てるが、暫しの間、ミンミは笑い続けた。

 そして、


「あ~、可笑しい。ディーノ君、貴方、ブランシュやネリーをかばってるでしょ?」


「な!」


 どうして?

 という顔で呆然とするディーノへ、ミンミはびしっと告げた。


「貴方は嘘をついている。でもバレバレ」


「え? バレてるって?」


「うふふ、貴方の心が放つ波動が教えてくれるの。ごめんなさい、ボクは真っ赤な嘘をついていますってね」


 言い放ったミンミは「すっく」と立ち上がり、


「気に入ったわ。さすがね、ダレンさんの推薦だけの事はある、貴方は優しい男の子なのね、ディーノ君」


「…………」


「私がこの王都支部のギルドマスター、ミンミ。ミンミ・アウティオ。ちなみにマスターなんて堅苦しい呼び方はナシ、ミンミでOKよ」


 深い菫色すみれいろの瞳に、長い金髪をなびかせたクールビューティ。

 長身痩躯なアールヴの女は……

 その端麗たんれいな顔立ちを、面白そうに微笑えませながら、はっきりと名乗ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ギルドマスター室で、ディーノ達3人はいろいろと話をした。

 まずは改めてお互いの自己紹介となったが……

 もはや、ディーノは緊張していなかった。

 さすがに呼び捨てなど出来ないが、雲の上のマスター、ミンミをさん付けで呼べる余裕は出て来たのである。


 ミンミの物言いや反応から、ディーノにとっては、

 話しにくさ、やりにくさは全く感じられなかったのだ。


 頃合いを見て……

 ディーノはざっと自分の経歴を話した。

 

 元々は王都で生まれ、長く住んでいた事。

 亡き父と共に、オベール辺境伯家へ仕えていた事。

 父の死を機に『退職』し、故郷『王都』へ戻って来た事。

 かつての父と同じく冒険者になりたい事など……


 ミンミは頷きながら聞いていたが……

 またも面白そうに笑った。


「ねぇ、ディーノ君、貴方はまだ肝心の事、話してないわね」


「え? 肝心の事?」


 一瞬、まさか!

 とディーノは思った。


 先ほど、ディーノの『隠し事』を見抜いた事を気にしたのだ。

 読心魔法、召喚魔法、そしてロランの事、ルイ・サレオンの指輪等々、

 今のディーノには、絶対に他言出来ない大きな秘密がいくつもある。


 しかしとりあえずその心配は杞憂だった。

 ミンミの指摘は全くの別件だった。


 実は……

 昨夜の『騒動』が早くもミンミの耳へ入っていたのだ。


「そうなの! 聞いたわよ、君の評判」


「は? 評判?」


「うふふ、か弱い女子を守る為、殴られてもひるまず、たったひとりで大勢のならず者へ立ち向かって行ったわよね?」


 ああ、『その事』か……

 表には態度を示さなかったが、ディーノはホッと胸をなでおろした。


「ま、まあ……アレは大した事は……ないというか」


「いえいえ! たいした事なくない! 武器を使わずに素手で、それも自分からは手を出さなかったんだって?」


「はい、一応……王都で暮らしていたんで、この街の正当防衛のルールを知っていましたから、……まあ最後は我慢出来ずにぶっ飛ばしちゃいましたけど……」


「わお! さすがねっ! 正々堂々と男気を貫いた君に比べて、女の敵ともいえる愚かな犯人はウチ所属の冒険者だった」


「ら、らしいですね」


「私は責任を感じたのと同時にめちゃ腹が立ったわ! あいつら、素手の君に対してあろうことか剣を抜いたんですって? ホント、さいってい!」


「は、はあ……」


「己への戒めとして私は今月分の俸給を返上したわ。そしてマスターの権限で奴らを厳罰に処したの。全員鞭百叩きの上、各自の全財産没収。加えて冒険者ライセンスをはく奪し、ギルドから永久追放の処分にしたのよ」


「な、成る程……」


 どうやら、ミンミは規律遵守に関して、自分にも部下にも厳しいようだ。

 

 ディーノから見て、犯人である冒険者達へのミンミの処分は厳しく重い。

 加えて、裁判にかけられた上での追加処分もある。


 そんなディーノの気持ちを見透かしたようにミンミは言う。


「冒険者とは……良く言えば荒くれで元気いっぱいのやんちゃ坊主、悪く言えば、どうしようもない屑のろくでなし……常に厳しくしないとタガがすぐに緩むわ」


「ま、まあ……そうでしょうね」


「で、話はいきなり変わるけど……」


「は、はい……」


「しばらく貴族の従者を務めていた貴方は、冒険者になりたいと言った。お父さんの後を追ってね」


「ええ、確かに言いました」


「でもディーノ君、貴方は一体何者になりたいの? そして冒険者に何を求めるの?」


 いつの間にか……

 ミンミの今迄の柔和な笑顔が一転し、

 厳しい眼差しで、ディーノを見つめていたのだった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。


東導号の各作品を宜しくお願い致します。


⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

◎小説版第1巻~7巻

(ホビージャパン様HJノベルス)

大好評発売中!

◎コミカライズ版コミックス

(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)

第1巻~2巻も大好評発売中!

※月刊Gファンタジー大好評連載中《作画;藤本桜先生》

☆3月18日に発売されましたGファンタジー4月号に最新話が掲載されています。

また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。

コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。

WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。


マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が好評連載中です。

毎週月曜日更新予定です。

お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。


最後に、連載中である

「帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者」

も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ