第214話「悪徳村長ざまぁ!」
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「すんませ~ん!」
「頼もう~!」
「すみまっせ~ん!」
ヴィオラ村村長グスタフ宅前……
少年がひとり、少女がふたり立っていた。
冒険者の恰好をした3人は村長に大事な用があるらしく、大きな声を張り上げ、
繰り返し呼びかけている。
そう、3人はディーノ、エレオノーラ、シグネの3人であった。
だが……
いくら呼びかけても、グスタフ宅から反応はなかった。
ディーノ達はめげずに何度も呼びかける。
やがて……
「これ以上居留守は使えない」と、覚悟を決めたのだろう。
遂に「根負けした!」という表情で、ようやくグスタフが顔を出した。
うるさく呼ばれていたから、当然グスタフは不機嫌である。
ディーノ達3人を見て、ますます顔が怒りでゆがんだ。
「お、お前等ぁ! 一体何の用だっ!」
「はい、村長へ大事なお話を伝えるのを失念しておりまして」
村長に無事会えた事で、作戦は無事発動した。
しかしディーノ達は何か仕掛けるわけではない。
普通に、にこにこしていた。
しかしディーノ達の笑顔は、グスタフの怒りの炎に油を注ぐ事となる。
「大事な話? 失念? ふざけんじゃねぇっ! バカヤロ! クソガキ! ジャリアマ! さっさと失せろ! 目の前から消えろっ! すぐゴブリン倒しに行きやがれ~!! 全て倒すまで死んでも帰るなよ~っ!! 分かったかぁ!!!」
グスタフは速射砲のように、超が付く猛毒を吐いた。
でも、何故かディーノは怒らず、怪訝そうな顔つきで首を傾げる。
「あれ? ちょっと酷い言い方ですね? エレオノーラさん、今の聞きました?」
「リーダーよ、私は確かに聞いた。村長は私達の訪問を邪険にした上、だいぶ興奮されていたようだぞ」
「はい、ですよね。それとシグネさん、今の村長の発言内容をちゃんとメモしましたか? 万全を期すために日付けと時刻付きで」
「いえす! 抜かりありません、リーダー。グスタフ村長の、私達3人への罵倒、差別的な呼称、品のない攻撃的な物言い、及びパワハラを、日付け時刻は勿論、発言内容を万全に書き留め、パーフェクトに記録致しました」
3人の少年少女は、やけに丁寧に、そして極めて慇懃に対応した。
作戦は順調に進んでいたといえよう。
一方、ディーノ達の極端な低姿勢さが、却ってグスタフを不安にした。
不気味に思う。
怖くもなって来る。
「な、な、な、なんでぇ! おめ~らぁ!」
対して、ディーノは、容赦なく作戦を進めていく。
「いや、実は俺達頼まれまして」
「何を! 誰に! 頼まれた!」
「はい、ある方から、ヴィオラ村の領主、エーギル・アルヴェーン騎士爵様へご報告するようにと。ご報告するのは当然村長、貴方の行状についてです」
遂に主砲が発射された。
見事に命中!
案の定、グスタフは大ダメージを受けた。
「な、なに~!? ある方からぁ! お、俺の行状ぉ! 領主様にぃ!!」
「は~い! 俺達、王都ロフスキへ戻ったら、エーギル様へすぐお会いし、先ほど行った打合せの内容も含め、村長の発言及び態度、全て詳細にご報告する事になってま~す」
ディーノの言葉を聞いた、グスタフは何とか反撃を試みる。
完全に動揺して、大いに噛んではいるが……
「ふ、ふざけるな! なな、何でっ! て、てめぇらみたいな冒険者の小僧と小娘が、りょ、領主様にお会いするんだよぉ!」
ここで副砲2門が放たれた。
エレオノーラとシグネである。
「うむ、ジャリアマで小娘の私はな、アルヴェーン殿の奥様ハンナ殿とこのシグネ3人で、親しくお茶を飲む間柄なのだ」
「ジャリアマで小娘の私なんてぇ、お茶を飲むのもそうですしぃ、ハンナ姉を師匠にし、花嫁修業の一環にぃ、メイクの仕方や礼儀作法を教えて頂く弟子なのですからぁ」
「な、なんだ、それぇ! ふざけるな! お前らが奥様と親しいなんて! 嘘だろ! ごまかしもいい加減にしろ!」
しかし、グスタフの反撃をエレオノーラとシグネは華麗にスルー。
副砲が容赦なく、ガンガンガンと乱れ撃ちされる。
「おおそうだ、シグネ。ハンナ殿からご領主のエーギル騎士爵殿へ、村長の言動を一切合切伝えて頂くというのは、どうだろう?」
「それはとっても良きお考えかと! ハンナ姉は礼儀作法に厳しくて面倒見の良い女子ですから、怒るでしょうねぇ! そんな下品で尊大な村長、即クビにしろと言うかもしれないですねぇ! 騎士爵殿はハンナ姉の言う事なら、なんでもOKと聞き入れてくれる優しいご夫君ですからねぇ」
「なななな、なんだって、おい、ちょっと!」
こちらも見事に大命中!!
侮っていたジャリアマで小娘のふたりは、領主の妻とたいへん懇意にしていた。
想定外の砲撃を受け、グスタフは致命傷を受けてしまう。
慌てふためくグスタフへ、今度はディーノが言う。
「あと、村長」
「な、な、な、なんだよぉ?」
「クソガキで小僧の俺も、村長がギルドへ依頼した報奨金の数字を、ついでにエーギル様へバッチリお伝えしておきますよ。我々が頂ける金額を具体的に、ね!」
報奨金の横領が領主様へ発覚!?
それはヤバイ!
本当にマジヤバイ!
見事にとどめの命中!
またもディーノから轟音をたてて主砲が放たれ、グスタフは完全に沈み始めた。
最後のあがきか……
グスタフは震えながら、手を伸ばして来た。
「あわわわわっ!! ちょ、ちょっと待ってくれ! た、た、た、頼むからぁ!!」
しかしディーノ達は素っ気ない。
ダボハゼのようには喰いつかない。
「頼むと言われましても、俺達はホントの事を、領主様へお伝えするしかないですから」
「うむ、リーダーの言う通り! 嘘偽りに染まってしまうのは、人としていけないと思う今日この頃だ」
「うふ、領主様を騙せと言われても、シグネ困っちゃう!」
「お、おい! ここは人目がある! な、中で話そう! 俺のウチでじっくり相談しよう! い、いや! お、お願い致します! ぜひご相談させてくださいっ!!」
よっし、クロージング。
後は詰めを万全に行う事!
作戦は無事成功した。
「はい、では中で話しましょうか。あ、俺達が戻らなかったら、村長が言ってたデカい男から領主様へ通報が行きますんで!」
「うむ! 私は村長の相談とやらをぜひ聞きたいぞ! じっくりとな!」
「うふふふっ、こっちからも、い~っぱいお願いしちゃうよぉ!」
「分かったあ! 何でも言う事聞くからかぁ!」
こうして……
ディーノ達連邦軍とグスタフ公国軍の間には……
『一方的な、ざまあ!の休戦協定?』が締結されたのである。
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