表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/337

第21話「炎の飛燕①」

 ディーノは英雄亭の面々に暫しの別れを告げ、冒険者ギルドへ向かった。

 ふところにはダレンが記した、ギルドマスター『ほのお飛燕ひえん』ミンミ・アウティオ宛の紹介状が忍ばせてある。


 ダレンに告げた通り、まずは冒険者ギルドで登録証を発行して貰わねばならない。

 登録証は王都市民証代わりとなり、氏素性、身分を問われた時、提示すれば身元のあかしとなるからだ。


 ディーノは幼い頃から……

 英雄亭同様、冒険者ギルドへも父に連れられ、良く行った。

 場所さえ変わっていなければ、すぐに分かるはずである。


 道行く人に聞いてみたところ、ギルドの住所は変わっていないようだ。

 

 ディーノは中央広場を突っ切り、広場に面した官庁街区へと入って行く。

 官庁街区の一番手前に冒険者ギルドはある。

 つまり出入り口を中央広場へ向けている事になる。


 さてさて!

 冒険者ギルドの混雑時間、すなわちラッシュアワーは、

 朝の7時から9時までである。

 オープンから2時間の間、依頼を求める冒険者が殺到するからだ。

 その事を良く知るディーノは、ピーク時から1時間ずらして午前10時にギルドへ足を踏み入れた。


 出入り口へつながる大きな正門の両脇には、屈強な守衛がふたり立っているが、滅多に呼び止めはしない。

 彼等の経験則からなる、よほどのヤバイ挙動不審な奴以外は敢えてオミットしているのだ。

 

 いちいち来訪者全員を呼び止めていたら、入場さえままならなくなるからである。

 という事で、ディーノは問題なくギルドの敷地内へ入り、入口へと向かって行く。


 入り口から入ると、すぐ傍に受け付けカウンターがある。

 受け付け担当の女性職員へ用件を伝えれば、すぐに対応し、各担当カウンターへ通してくれる設定だ。


 本日ディーノはマスター宛の紹介状を所持している。

 なので、「マスターに面会したい」と来訪の趣旨を告げ、

 職員へ紹介状を渡した。


「しばらく、お待ちください」


「はい」


 果たして……ダレンの紹介状は効力があるのか?


 10分経った。

 20分経った。

 30分が過ぎた……

 そして待ったまま1時間が過ぎようとしている。


 しかし……

 まだ呼び出しは来ない。

 何故か、事務受け付けの女性はディーノと目を合わそうとしない。

 

 このまま突っ立って、待っていても意味がない。

 少し躊躇ちゅうちょしたが、仕方なくディーノは、申し入れをする。


「すみません。必ずこの1階フロアに居ますから、この場を離れても構いませんか?」


 待つ間に周囲を見回したら、フロアの片隅に掲示板があった。

 そこに紙を「ピン止め」したものがたくさんあった。

 多分、膨大な依頼書の一部が掲出されているのだろう。


 ディーノは現在どのような依頼が出ているのか、

 今後の参考に見たいと思ったのだ。

 しかし女性職員の返事はにべもなかった。


「マスター含め、ギルド幹部に面会の場合、この場でお待ち頂くのが規則です」


「ふ~ん、立たせたままずっと放置ですか?」


「はい」


 何なんだと思う。

 ディーノには不可解だったが、

 まあ、仕方がない。

 マスターはきっと忙しいのだろう。

 よくよく考えてみれば、自分は正式にアポイントも取っていないのだから。


 でも、困った!

 このままだとずっと待たされる気がする。

 ディーノはちょっと考え、ひらめいた。


「よいしょっと」


「あ!」


 金髪碧眼の美しい女性職員は驚き、目を丸くした。


 何と!

 ディーノが受け付けカウンターへ直接座ったからだ。


 しかし驚いた後、女性職員は切れ長の眼を吊り上げ、怒りの色を見せ、


「お客様、いけません、カウンターには座らないでください」


 目の前で怒る女性職員は……

 自分よりも結構年上だろうけど、綺麗な人だとディーノは思う。

 もう少し笑顔で接客してくれればと残念にも思う。


「いや、立ちっぱで少々疲れたのさ。この場に座るモノもないし、仕方がないだろ?」


「いけません! 困ります、とても迷惑ですから降りてください」


「って、言われても貴女はしっかり座ってるじゃないか?」

 

「わ、私はこの椅子に座って、カウンターで受け付け業務を遂行するのが仕事です」


「了解! 成る程、理屈だ」 


 ディーノは納得し苦笑すると、あっさりカウンターを降りた。

 そして、どこかへ歩き出そうとする。


「ま、待ってください」


「いや待たない。面会はもうやめだ」


「やめ?」


「そう、中止」


「ちゅ! 中止ぃ!?」


「ああ、もう1時間以上待った。これ以上時間は無駄に出来ない」


「…………」


「よくよく考えてみれば、アポも取らずに来た俺が悪かった。紹介などなしで、普通に適性試験を受け、ギルド登録して貰うさ」


「ええ~っ」


「じゃあ、マスターにはそう言っといて」


「こ、困ります!」


「貴女は別に困らないだろう? そのまま報告すれば良い、脚色一切なしで」


 と、その時。

 奥に会った魔導昇降機らしい扉が開くと……

 革鎧に身を包んだ幹部らしき女性剣士がひとり現れた。

 訝し気な表情をしており、カウンターへ呼びかける。


「お~い、どうした? マスターがず~っとお待ちかねだぞ」

 

「は?」


「は? じゃないよ、ネリー君。さっき君へ使いをやったはずだ。マスターがすぐ会うとな」


「使い? いえ、サブマスター! そんな連絡は私へは来ていません!」


 これだけ待った原因が判明した。

 何か手違いがあり、行き違いとなったようだ。

 ずっとこの場に居たディーノも、サブマスターの使いらしき人物は目にしてはいない。 


 しかしネリーと呼ばれた女性職員の抗議は一切受け入れられなかった。

 女性剣士……サブマスターは一方的に糾弾したのである。


「何言ってる? こちらから人をやって連絡したのは間違いない!」


「ええっ? で、でも!」


「もう1時間も経ってる。駄目じゃないか、大事なお客さんをこんなに待たせちゃ。ネリー君には厳重注意の上、ペナルティものだ」


「うう、そ、そんなぁ……」


 と、ここでディーノが「ずいっ」と身を乗り出した。


「すんませ~ん、俺が全部悪いんで~す! ふらふらと勝手に席、はずしましたぁ! この人は……ネリーさんは全く悪くありませ~ん」


「は?」

「な、何?」


 ポカンとするネリー。

 驚くサブマスター。


「サブマスターさん、じゃあ、行きますか? マスターへは俺からお詫びしまっす、土下座でも何でもしまっす」


 「ぺこり」と頭を下げたディーノは、曖昧な表情で微笑んだ。

 しかしネリーは真面目な性格らしい。


「ど、土下座!? お、お詫びだなんてとんでもないですっ! お待たせしたのはこっちですし、全然ディーノさんの責任じゃあないですよっ」


 すがるような眼差しのネリーへディーノは「ひらひら」と手を横に振る。


「いいから、いいから、さあサブマスターさん、行きましょう」


「は、はい」


 今度は戸惑うサブマスターを促し、

 ディーノは階上へ向かう魔導昇降機へ乗り込んだのであった。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

宜しければ、下方にあるブックマーク及び、

☆☆☆☆☆による応援をお願い致します。


東導号の各作品を宜しくお願い致します。


⛤『魔法女子学園の助っ人教師』

◎小説版第1巻~7巻

(ホビージャパン様HJノベルス)

大好評発売中!

◎コミカライズ版コミックス

(スクウェア・エニックス様Gファンタジーコミックス)

第1巻~2巻も大好評発売中!

※月刊Gファンタジー大好評連載中《作画;藤本桜先生》

☆3月18日に発売されましたGファンタジー4月号に最新話が掲載されています。

また「Gファンタジー」公式HP内には特設サイトもあります。

コミカライズ版第1話の試し読みも出来ます。

WEB版、小説書籍版と共に、存分に『魔法女子』の世界をお楽しみくださいませ。


マンガアプリ「マンガUP!」様でもコミカライズ版が好評連載中です。

毎週月曜日更新予定です。

お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。


最後に、連載中である

「帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者」

も宜しくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ