第207話「どっと疲れが……」
《お詫び》昨日更新した第206話は朝の更新時しばらく、
「本文だけ」本日更新した第207話となっておりました。
既に修正して差し替えてあります。
申しわけありませんが、現状が正しい並びとなります。
修正済の206話と合わせてお読みください。
何卒宜しくお願い致します。
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一見男子に人気の癒し系……否、
小悪魔系女子シグネ・ヨエンスーが発した、
ディーノとの衝撃的な結婚宣言。
思わず絶句したディーノとエレオノーラだが……
落着きを取り戻したエレオノーラが身を乗り出し、シグネに迫る。
「バ、バカ! な、な、何言ってんだ、シグネ! ち、血迷うんじゃない!」
「いえいえ、血迷ってませ~ん! 言葉通りですよ~、エレオノーラ様ぁ」
「はあ!? 言葉通りぃ!」
「私もディーノちゃんがとっても気に入ったからぁ、結婚する! シンプルイズベストで、本気でっす!」
「馬鹿者! やらん! 渡さん! ディーノは、私の男だと言っただろ!」
エレオノーラがにらみつけても、シグネは全く意に介さない。
「あらぁ! 忘れたんですかぁ? ディーノちゃんの故郷ヴァレンタインもぉ、我がロドニアもぉ、一夫多妻制を公式に認めているんですよぉ、ノープロブレム! 全然問題ありまっせ~ん!」
ああ言えばこう。
こう言えばああ。
シグネは更に、エレオノーラの数段上を行っていた。
「おいっ! シグネぇ! き、貴様ぁ~!」
「あはは、エレオノーラ様。そう興奮しないでくださいよぉ、私の言ってる事、正論でしょ?」
「くっ!!」
「プリーズ、ジャストモーメント!」
仕方ないという感じで、ディーノが止めに入る。
ケルベロス達戦友のケンカで仲裁には慣れている。
「どうどうどう! あの~、俺との結婚って……当の俺をほったらかして、何ふたりで勝手に盛り上がってるんですか? それにシグネさん」
「はい、なんざんしょ、ディーノちゃん」
「なんざんしょじゃないっす。今日初めて会ってたった数時間しか経ってないのに、俺と本気で結婚するって何ですか、シグネさん、どこまでチョロインなんですか?」
「いえいえ~、私はチョロインなんかじゃありまっせん!」
「はあ? チョロインなんかじゃありまっせんって……」
「いえ~す! 見た目通り、私は身持ちの固い女なんでっす!」
「見た目通り、身持ちが固いって……あの~、シグネさんは見た目と中身が全然違うんじゃ?」
「シャラップ! 鋭い直感に端を発し、様々な事実に基づいた慎重な検討をし、結果、私は100%幸せになれる! 今よりも何倍も人生が楽しめる! まとも且つ確信的思考を経て、更に更に、慎重な熟考の上、導き出されたディーノちゃんとの幸せな結婚!! という人生の超重要結論なんですよぉ」
滑舌良くガンガン放たれる強烈な口撃に、ディーノは圧倒されてしまう。
「シ、シグネさん……何だか、すらすらぺらぺら、立て板に水っすね。突っ込む隙が全く皆無でっす」
「当然! 私はディベート、超が付く大得意なんだものっ!」
「ほら見ろ、ディーノ! シグネはまるで口から先に生まれ、ぺらぺらと男を惑わし、気が付けばねっとりした毒液で動けなくした上で、パクっと呑み込む食虫魔法植物マギウツボカズラのような怖ろしい女なのだ!」
「何、それ? マギウツボカズラってぇ。エレオノーラ様ひっど~い!」
「何が酷いだ! 厳然たる事実だろうが!」
ここで、外出していたエレオノーラ父グレーヴが大広間に姿を現した。
「おいおい、何騒いでる?」
ちょうど良い場面で『味方』が現れた!
エレオノーラの瞳が期待に染まる。
「あ、父上、お帰りなさい! 聞いてください、シグネが!」
「おう、エレオノーラ。シグネちゃんがどうしたって?」
「大事件なんですよ、父上! コイツ、ディーノと本気で結婚するって言い切ったのですっ! 何とかしてくださいっ!」
しかし!
シグネは全然余裕。
にこにこ笑顔で、楽しそうに手を打ち振っている。
「は~い、ガイダルパパぁ、お疲れ様でっす! お邪魔してまぁ~す! シグネは直感、検討、更に確信確定というまともな思考を経て、このディーノちゃんと結婚するという結論に至りましたぁ!」
「おう、いいじゃねぇか! 俺はシグネちゃんなら大歓迎だ!」
「な!? 父上!」
「わあ! さっすが! ガイダルパパは話が分かるぅ!」
「うん! シグネちゃんは可愛いし、頭が切れる。猪突猛進なエレオノーラには、人生の良き参謀役になる、なあ、ディーノ」
いきなり同意をも求めるグレーヴに対し、ディーノは大きなため息を吐く。
「……はあ、公爵。折角頂いた、至極まともそうなご意見ですが、その実、俺を完全無視して、ロジック崩壊してますから……」
「まあ、細かい事は良いじゃねぇか、ははははははは!」
豪快に笑うグレーヴ。
「もう! ぜんっぜん、細かくないっ! よりによってシグネもディーノの妻になるなど、私は容認出来ないぞっ!」
呆れたエレオノーラは強く抗議するが……
愛娘らしく父に気配りを見せる。
「でもあの、父上……口の脇に肉汁が付いている。みっともないから、すぐに拭いた方が良い」
「おう、サンキュ!」
しかめっ面のエレオノーラに指摘され、拳の甲で乱暴に拭ったグレーヴは、
がらりと話を変える。
「そうだ。肉汁で思い出した! ディーノお前料理、すげぇ上手いな!」
ディーノを称賛するグレーヴの言葉を聞き、
エレオノーラは訝し気な表情となる。
「え? 父上はディーノが作った料理を食べてないだろう?」
「いや食った! 良い匂いがして、調理場をのぞいたらよ。料理人達が美味そうな、まかない食ってたから、無理言って俺の食事と全部交換して貰った」
「は? まかないを? 全部? 交換?」
さすがにエレオノーラは驚いた。
どこの世界に使用人のまかないを取り上げ、
自分の食事を代わりに与える主人が居るのか……
否! ここに……しっかり居た!!
「おう! すげぇ腹減ってたからな! あのまかないは、ディーノが作ったと聞いたぜ、違うのか?」
「はあ、確かに作りました」
「ははははは! 奴ら、美味い飯取られて涙目になってたから、ちょっと悪い事したなとは思ったがよ。まあこれくらいは主人の特権だろ」
「えっへん!」と胸を張るグレーヴ。
そんなグレーヴの考え方や行動が、シグネにとっては『心のツボ』らしい。
「わあ! そういうガイダルパパの、裏表がないど真ん中で豪速球ストレートなとこ、素敵! シグネ、大好きぃ!」
「おう! 俺の魅力にしびれたか? シグネちゃんもすっごく可愛い素敵な女だぜ」
「あはは、ありがとパパ!」
グレーヴとシグネは盛り上がって、ハイタッチした。
ディーノに、どっと疲れが襲って来た。
何故だろうか?
「……あの、エレオノーラ」
「何だ、ディーノ」
「何か俺、……このふたりに比べたら、エレオノーラが、すっごくすっごく、まともに見えます」
「ディーノ! そういう酷い例えは、妻たる私に対し凄く失礼だぞ、ふざけるな! と、いつもなら大いに怒るところだが……今回は同意せざるをえない」
「すんません……失言でした……はあ」
「良いんだ……はあ……これからも宜しく、ディーノ」
「……了解っす」
ディーノとエレオノーラは顔を見合わせ、脱力し、苦笑したのである。
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