第201話「手をつないで……」
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ひと通り話が終わり……
お代わりをした紅茶をディーノが飲んでいると、
エレオノーラが話しかけて来る。
「ディーノ、今日はどうするのだ?」
今日は……どうする、か。
もしもガイダル邸に宿泊していなければ、適当な宿に数泊しながら、
のんびり観光でもしようかと考えてはいた。
なので、ディーノはこう答える。
「えっと、市内観光がてら、冒険者ギルドでも行こうかと思います」
すると即座に、エレオノーラから言葉が戻って来る。
「ならば! 私も行く! 案内もするから、連れてってくれ!」
「……了解」
『冷却期間』の事が頭をよぎったが、この状況では致し方ない。
グレーヴとの『約束』もある。
それにロフスキが生まれ故郷のエレオノーラなら、
市内の面白い場所を知っているかもしれない……とも考える。
と、ここでガイダルも、
「おう、行って来い。めぼしい依頼があれば、ディーノと一緒に受けてみろ。内容にもよるが、人助けになるぜ。ランクも上げたいだろ?」
「分かった、父上!」
「言っとくが、冒険者やる時は、あまり派手な格好はダメだぞ。とりあえずウチの紋章が入ったサーコートもやめとけ」
「了解だ!」
本当にグレーヴとエレオノーラは仲の良い父娘だと、ディーノは思う。
同じ貴族家でもクロードとステファニーのオベール家とは全然違うとも……
そういえば……
ステファニーは今頃どうしているかとも思う。
彼女が発した言葉がリフレインする。
「ありがとうございました、ヴィヴィ様。私、王都に帰ります。そしていろいろな手続きを終えた後、エモシオンの城館へ戻って辺境伯になる修業をしながら、ディーノを待ちます」
「構いません! ひたすら、ず~っと、いえ、永遠に待ちますっ!」
「あはははは、ディーノ。私が勝手に待つんだから、気にしない、気にしない」
「はああ……」
思わずため息を吐いたディーノへ、グレーヴが突っ込む。
相変わらず勘が鋭い。
「何だ、ディーノ。昔の女の事でも、思い出していたのか?」
「いえ、そんな事は……」
「その子は、エレオノーラみたいな押しかけ女子じゃないのか?」
「い、いえ! ち、ち、違います。勘弁してくださいよ」
「ははははは、ディーノ! すっげぇ怪しいぞ、お前」
大笑いするグレーヴ。
そんな父の笑い声に刺激されたのか、
エレオノーラがキッとディーノを見据える。
「ディーノ!」
「はい、どうしました?」
「塗りつぶす!」
「はい?」
「お前の心を私で塗りつぶす! 昔の女など一切合切忘れさせる! 他の女の記憶など全て消去させてやるぅ!」
エレオノーラも少しタイプは違うが、ステファニーと同じである。
まるで「ごうごう!」と激しく燃え盛る炎の化身のような女子であった。
「…………」
ディーノはただ、無言で微笑んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ぎゅっ!」と、エレオノーラはつないでいる手に力を込めた。
常人なら……相当痛いのではと、ディーノは思う。
そうなのだ。
今、ディーノとエレオノーラは手をしっかりつなぎ、
ロフスキの市街を歩いている。
あれは、これはと、エレオノーラは笑顔で街並みを指し、
丁寧に説明してくれた。
ガイダル邸を出た時に、
「手をつなぎたい!」
エレオノーラは真剣な眼差しで告げて来た。
一瞬迷ったが、ディーノは押し切られた形となったのだ。
「ふんふんふ~ん♪」
楽しそうに鼻歌を歌いながら歩くエレオノーラ。
ディーノが改めて見てもエレオノーラは美しい。
ステファニーと同じく、
長く美しいさらさらな金髪と、宝石のような碧眼を持つ美しい女子なのだが……
受けるイメージがまるで違う。
例えれば、ステファニーが荒々しく大地を駆ける精悍な駿馬なら、
エレオノーラは天高く飛ぶ、神々しいペガサスである。
さてさて!
ふたりが街中を歩いていて、困った事があった。
「エレオノーラ様! 何故!? 従者などと手をつないで歩いているのですか?」
とか、
「確か……エレオノーラ様に、弟君は居なかったはずですよね?」
と、ガイダル家の知り合いらしき者数人から尋ねられたのだ。
エレオノーラは苦笑する。
苦笑しながらも嬉しそうではあるのだが……
「うむ~。お前とは3つしか違わないが、やはり私の方が、結構年上に見えるのか~」
今のコメントで、エレオノーラは18歳だと分かったが……
年上なのを何故か気にしているようだ。
ここは……
フォローすべきだろう。
「申しわけないですね。俺ガキっぽいし、貫禄もないですから」
すると、エレオノーラはますます破顔した。
心の底から嬉しそうだ。
「そんな事はない! それに……ディーノはやはり、優しいな!」
「そうっすか。結構冷たくしてましたよ」
ディーノが言葉を戻すと、エレオノーラは目を遠くした。
どうやら……
旧い記憶を手繰っているようだ。
「ふふふ……違うな! そう見えるだけだ! ディーノは優しい!」
「…………」
「……父上と母上も、こうしてデートしていたらしいんだ」
「そうなんですか」
「ああ、うっすらと記憶に残ってる。私が幼い頃、母上が仰っていた。父上は、表面は、とても素っ気なかったと」
「…………」
「だが、そう見えただけで、いつも私には凄く甘かったよって」
「………」
「貴女のお父様を、この私が、好き以上に、大大、大好きにさせたのよって……な」
「………」
「だから、私も! いや、母上を超える! 超えてやる!! 私には甘いディーノを! 私以上に大大大大、超が付く大好きにさせるのだっ!」
エレオノーラはそう宣言すると、にっこり笑った。
そしてディーノとつないでいる手に、再び「ぎゅっ!!」と、
力を入れたのである。
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