第2話「解雇! 追放!」
ある日、ディーノにとって辛く悲しい出来事があった。
父クレメンテが死んだのだ。
依頼の最中に負った大怪我を何とか治し、恩義あるオベール家へ仕えていたクレメンテであったが……
古傷が悪化し、それが原因なのか、体調と体力が著しく落ちていた。
王都から遥か南方のエモシオンまで旅をしたのが、傷に堪えたのかもしれなかった。
クレメンテの葬式が終わった翌日の夜……
父との永遠の別離が心に満ち、
必死に悲しみをこらえていたディーノは、突如オベールから呼ばれた。
辺境伯となった後、オベールからは直接呼ばれる事は滅多になかったディーノは、主の書斎へ訝し気な表情をして入って来た。
オベールは椅子を勧め、ディーノを座らせると、
おもむろに話を始めた。
「ディーノ」
「は、はい」
「亡くなったお前の父には気の毒な事をした。今更だが、クレメンテを住み慣れた王都へ帰してやれば良かったと後悔している」
「お、お気遣い頂きありがとうございます」
「ふむ……」
「…………」
「…………」
しばし沈黙が部屋を支配する。
……オベールは中々用件を切り出さない。
ディーノは期待と不安が入り混じる。
やがて、オベールは重くなった口を開いた。
「言い難いが……結論から言おう」
この切り出し方でディーノには分かった。
とてもが付く嫌な話なのだと。
「ディーノ、お前にはこの城館を出て行って欲しい」
「…………」
「いや、お前が嫌いだとかいう話ではない。……むしろ逆だ」
お前が嫌いだとかいう話ではない?
……むしろ逆?
ディーノは一瞬戸惑い、混乱した。
だがすぐに落ち着いた。
城館を追い出されるのは、他に何か特別な理由があるのだと気付いたからだ。
「実はな、我が娘ステファニーが幼馴染のお前を好きだ申しておる」
「は? 幼馴染!?」
ディーノは思わずポカンとしてしまった。
あの猛女が?
自分なんかと!?
それも俺と幼馴染だって?
違う!
絶対に違う!
勝手に自称しやがって!
幼馴染の温かみなんて!
あの子には皆無だ!
加えて、俺の事が好き!?
じょ、冗談じゃない!
ディーノの反応は傍から見て、顔に出ており、まる分かりだったようだ。
苦笑するオベール。
「おいおい、そんな顔をするな」
「…………」
「ステファニーがお前に対し、日ごろきつくあたっていたのは私も知っている」
「…………」
いやいや……きついってレベルじゃね~から!
心の中で、ディーノは即座に否定した。
思わず実際に首を横にぶんぶん振りそうになる。
「ふむ……ところでな、ステファニーは16歳になり、大人扱いされ、急に結婚を意識し出したようなのだ」
オベールの持ちだしたステファニーの話を聞き、ディーノは首を傾げる。
何とか言葉を戻す。
「そ、そ、それは分かりますが……でも何故そのお話を? 従者の私にはお嬢様のご結婚など全く関係ないのでは?」
確かにヴァレンタイン王国では、満16歳になれば結婚する事が可能だ。
しかし何故かディーノの質問には答えず、オベールは話を続ける。
「可哀そうに……ステファニーはこの地へ移り、親しかった友人達とも離れ、寂しさが増したようだ、日々やつれて行くのが父親の私にも分かる」
「はぁ……」
あの子が寂しがっている?
日々やつれて行く?
可哀そう?
全然そうは……見えないが……
何という親バカだ。
と、ディーノは思う。
いらいらして、心の中で呟く言葉がどんどん汚くなって来る。
しかしオベールは「しれっ」と一方的に話を進めて行く。
「だが、一緒に育った幼馴染のお前が居てくれて、くじけずとても心強かったと申しておる」
「…………」
……それは、あいつが俺を欲求不満のはけ口にしただけだろ!
とディーノは思ったが、そんな事を口に出せるはずはない。
心の中で呟くしかない。
「お前と同じくステファニーには母が居ない。なのにめげずに頑張るお前が励みになったとも申しておる」
「…………」
めげずに頑張る俺?
あいつにお仕置きされるのが嫌で嫌で、やむなく頑張ってただけだ!
「お前が好きになって、遂には恋してしまったと言うのだ」
「はぁ!? こ、恋ぃぃ!?」
んな、バカな!
俺が好き!?
マジなのかよ!
恋?
いや! ありえないっ!
絶対に!! 300%可能性なしだって!
ふざけてるだろ!! それぇ!?
「……どこにでもある平凡な容姿で魔法もあまり使えない。腕っぷしだって強くないお前に何故、ステファニーが惚れたのかは謎だ」
「…………」
どうせ、どこにでもある平凡な容姿だよ。
それに俺だってそんなの謎だよ。
あいつが俺を好きになった理由なんか、知りたくも分かりたくもないよ!
まあ……たま~に優しくしてくれた時は、ほんのちょっぴりだけ嬉しかったけどさ……
「だが色は思案の外、蓼食う虫も好き好きというではないか」
「…………」
蓼食う虫?
失礼な!
さえないのは確かに自覚しているけど……
その言い方って……
俺は、最低のゲテモノ野郎かよ!
憤るディーノへ、更にオベールから衝撃の言葉が告げられる。
「ここからが本題だ、良く聞け、ディーノ」
「は、はぁ……」
「ステファニーは単にお前が好きというだけではない。今すぐに結婚したいとまでせがまれた」
「はぁ!? け、け、結婚んん!!?? い、い、今!? す、すぐに!! けけけけ、結婚!!!」
「ディーノ、さすがに吃驚したのか? そうだろうな」
「あうあうあう……」
「いじめるのは大好きの裏返しだと私にも分かる」
「…………」
「あの子はお前の我慢強く優しいところがとても好きだそうだ。それが理由で結婚したいとまで申しておるのだ」
「そ、そ、そんな馬鹿なぁ!」
ステファニーが自分に好意を持つと聞いてでも、ディーノは全く信じられなかった。
「うむ、確かに馬鹿な話だ。常識的には考えられん、完全に想定外だ」
「は、はぁ……」
「もう一度言おう。私はな、ディーノ。お前の事は嫌いではない。世話になったクレメンテの息子という愛着もある」
「は、はい……」
「だがな、ステファニーは上級貴族の娘、お前はしがない平民且つ使用人、いくら可愛い娘の願い事とはいえ、そのまま通すわけにはいかぬ」
「…………」
「かといって、お前との結婚は駄目だと告げれば、あの子は猛反発するだろう」
「…………」
「なので、お前が父の死をきっかけにして、一身上の都合により従者を辞し、出て行くという形を取りたい」
「え? お、俺、い、いえ私が!? で、出て行くのですか?」
「そうだ! しかし! 念の為に言っておく。放り出すのではないぞ、あくまで円満退職だ。証拠に退職金、そして新たな生活を始める為の支度金は弾む」
「円満退職……退職金に支度金……を、わ、私が! い、頂けるのですか!?」
「そうだ、ディーノ! お前が路頭に迷わぬよう、当座の暮らしに困らぬよう、たっぷり払おう!」
「……………」
「すまぬ! そんなに悲しい顔をするな! 私も悲しいのだ! だから頼む、ディーノ。目立たぬよう明日の朝早く、出て行ってくれ。お前が出発する段取りはキングスレー商会のマルコ・フォンティへ頼んである」
や、やったぁぁ!!
た、大金貰って追放って……ス、ステファニーとこれで!
堂々と! あの子とバイバイだ! きっぱりと、おさらば出来るぅぅ!!
追放!! だ、大歓迎だぁ!!
一方的な解雇を言い渡され、表向きは沈痛な顔付きのディーノであったが……
実は内心、渡りに船!
という浮き浮き気分だったのである。
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