第199話「何故こんなに早く起きる?」
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翌朝……
というかまだ真夜中の午前3時過ぎ……
ディーノはパッと起床した。
ガイダル家から貸して貰ったノリの効いた寝巻きを脱ぎ、愛用の革鎧へ着替えた。
ざぶざぶ顔を洗い、さっぱりすると……
ディーノは本館を出た。
ほぼ毎日行う朝の定時訓練の為である。
早く起きる事は昨夜エレオノーラ父のグレーヴへ伝えてあった。
芝生一面の庭を横切り、昨日エレオノーラと試合をした屋外闘技場へ入った。
まだ周囲は暗く、夜間照明用の魔導灯が淡くフィールドを照らしていた。
ディーノは軽くストレッチを行い、身体をほぐすと、
ウォーミングアップとして、ダッシュ10本とフィールド5周のランニングを行う。
次に、突きや蹴りを鋭く素早く数十発繰り出す。
更に剣の素振り1,000回、そのまま魔法剣の訓練。
火の魔法剣は引火したら危ないので、超低威力の風の魔法剣のみ、
様々な角度へ向け数十発放つ。
1時間余、じっくり訓練をして、ひと休みしていると……
血相を変えたエレオノーラがすっ飛んで来た。
愛用の革鎧を着込み、鼻あて付き兜も装着している。
「ディ、ディーノ!」
「おはようございます! エレオノーラ様」
「ディ、ディーノ! 様は不要だ!」
「はい! では、おはよう、エレオノーラ」
「お、おはよう……ディーノ」
エレオノーラの頬が紅い……
魔導灯のせいではないようだ。
「むむむ! 面と向かって、呼び捨てにされると……照れるな……い、いや! そういう話ではないっ!」
「そんなに慌ててどうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも、妻として凄く早起きして部屋へ起こしに行った」
「妻としてって、ええっと……」
何かとんでもない言葉が含まれているので、ディーノは突っ込みを入れた。
だが……スルーされてしまう。
「すると、どうだ! お前は既に居なかった! まだ午前4時過ぎだぞ! 何故こんなに早く起きる?」
「何故? って言われても……俺、以前貴族家に仕えていた時から、だいたい午前3時前には起きてましたから」
ディーノが当たり前のようにしれっと言うと、エレオノーラは驚いた。
「ご、午前3時前!? まだ完全に夜中じゃないか!」
「ええ、夜中ですけど……従者として貴族家に仕えていた時は、その時間から、結構仕事がありましたし、やめてからは冒険者と兼業で居酒屋の調理担当をしてまして、毎朝市場へ仕入れに行っていました」
「はあ!? ちょ、調理担当って! ディーノはコックもやっていたのか?」
「ええ、自画自賛になりますが……俺の作ったメニューは、店では結構人気で……冒険者向きの料理ですが、女子からも結構リクエストがありましたよ」
「女子からもか! す、凄いな! 私もぜひ! 食べてみたいぞ!」
「凄いですかね?」
「ああ、凄い! ディーノはとんでもなく強くて魔法も使えて、気難しい馬にも乗れて、文学にも造詣が深く、その上、女子が喜ぶ料理も作れる! 凄すぎる!」
「いや、そこまで言うのはほめ過ぎです。自分では、まだまだだと思いますから……でも、もし許可して貰えられば、料理くらいご馳走しますよ」
「ほんとか! 嬉しい! い、いや! 食べるだけではなく、私もぜひ料理を習得したい! 美味い手料理を愛する夫のお前にふるまいたい! ぜひ教えて欲しい!」
また危ない言葉が入っていて、ディーノは苦笑する。
「愛する夫は違う気がしますが……一応、了解っす!」
「うふふっ! う、嬉しいぞ! ありがとう! ディーノ!」
思わずディーノに思い切り抱き着き、デレデレしてしまったエレオノーラ。
だが、ハッとし、叫ぶ。
「いや、いかん! いちゃついている場合ではない! 今朝からディーノと一緒に訓練すると決めたんだった! ディーノ! い、一緒にやらないかっ!」
「了解! メニューはどうします?」
「ディーノと同じで構わないっ! というか手解きしてくれないか?」
「了解っす! エレオノーラが普段やってるような騎士の訓練ではなく、あくまで冒険者メニューですけど、良いですか?」
「構わないし、良いも何も、私も父上同様、冒険者登録している! ランクはCだがな!」
「そうだったんですか?」
「ああ、冒険者仲間の貴族女子とクランも組んでいる! 多忙でなかなか依頼を受けられないのは、誠に残念だ。依頼を遂行しないとランクは上がらんからな」
「成る程! まあ、とりあえず訓練やりましょう。まずはストレッチから」
「ストレッチか! 了解だ!」
ディーノは再び、ストレッチから始まり、ダッシュ、ランニングと基礎メニューを消化して行く。
速い!
ペースが速すぎる!
戸惑うエレオノーラ。
「な、何だ? ペースがやけに速くないか?」
ディーノの訓練ペースは、『常人』では辛いらしい。
ストレッチだけは問題なかったが、エレオノーラはダッシュ、ランニングとも、
追走に苦労していた。
気が付いたディーノは、さりげなくランニングの速度を落とす。
「ええっと……失礼しました」
「す、すまん! もっと鍛えて今後は頑張る! だが、容赦なく鍛える父上と違い……ディーノは優しいな」
……続いて、ふたり並んで突きと蹴りを繰り出し、剣の素振りをこなす。
魔法剣はまだ伏せておこうと考えたディーノは……
エレオノーラと剣を使った模擬戦を行う事にした。
使う剣は真剣ではなく、昨夜使ったもの。
軽度の雷撃を付呪し、刃を潰した練習用の模擬魔法剣である。
「とおやあっ!」
かいいいん!
「はっ!」
ぎゃいいいん!
「でえりゃあ!」
きいいいん!
「ふっ!」
エレオノーラの気合が入った声、ディーノの短い声、模擬魔法剣の刃がぶつかる音が交錯し、闘技場に響いた。
そうこうしているうちに……
通常の騎士達の練習開始時間、午前5時となり、
団長も務めるグレーヴと、彼に連れられて来た配下の騎士達が闘技場に姿を現した。
グレーヴと騎士達は、迫力ある模擬戦を行うディーノ達を無言で見つめている。
無心にディーノと剣を交える愛娘の姿。
グレーヴは満足そうに、大きく頷いたのであった。
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