第197話「婚約の証?」
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ディーノはエレオノーラを投げ飛ばした。
しかし、投げたと同時に限りなく弱い風の魔法を発し、
エレオノーラと地面の間に『エアクッション』を敷いたのである。
周囲には思い切り大地に叩きつけられた!
そう見えたエレオノーラの身体は、あまりダメージを受けなかった。
だが……彼女の心の方はそうはいかない。
完敗!
それも一方的にやられた!
という感覚がエレオノーラにはあった。
はっきりと分かった。
実力の差で圧倒した上、ディーノが魔法を使い、
怪我をせぬよう手加減をしてくれた事を。
エレオノーラは投げられ、地に仰向けに倒れたまま、動かなかった。
……闘技場は、静まり返っていた。
若い騎士達は誰も何も発さない。
圧倒されたという言葉がぴったりだった。
やがて言葉を発したのは、エレオノーラの父グレーヴだった。
「勝負あった! ディーノの勝ち!」
瞬間。
呪縛から解き放たれたように、
「おおおおおおおおおおおおっ!」
騎士達が雄叫びをあげた。
ディーノの力を認めた賞賛のエールだった。
グレーヴの言葉を、そして騎士達のエールを聞いたディーノは、深く礼をした。
そして、ゆっくりとエレオノーラへ近付き、そっと手を差し出した。
自分の手に掴まり、立ち上がれというメッセージだろう。
しかしエレオノーラは反応しない。
彼女の目は開いており、ディーノが差し出す手が視界に入っているというのに……
ディーノは軽く息を吐き、エレオノーラへ告げる。
「エレオノーラ様、俺なんかを相手に手を抜かず、力を尽くして頂きありがとうございます」
「…………」
「エレオノーラ様との戦いは、貴重な経験となり、糧となりました。重ねてお礼を申し上げます。……ありがとうございました」
ディーノが再び礼を言うと、ようやく反応があった。
エレオノーラは仰向けになったまま、言葉だけ返して来る。
「ディーノ、お前は凄いな……本当に凄い男だ」
エレオノーラの称賛を聞き、ディーノは首を振った。
「いえ、全然、まだまだです」
「まだまだだと? ……ディーノ、お前はもっと上を! そして先を目指すというのか?」
「はい! 限界まで……いえ、限界をも突破し、未知の世界へ行きたいです」
エレオノーラへ語った決意……
そう!
父の死をきっかけに、エモシオンから旅立つ時、ディーノは決意した。
広大な未知の世界を見たい!
愛する真の『想い人』巡り会いたい!
自分が何者なのか、何を成し得るのか?
そして限界を突破出来るのか?
いろいろ知りたいと!
思いは……
全く変わってはいなかった。
否、更に上を目指したい!
必ず限界を突破するんだ!
という強き思いが生じている。
エモシオンを旅立ってから……
様々な人との出会いと別れがあった。
厳しくも優しい精霊とも邂逅した。
つらつら考えるディーノに、エレオノーラは言う。
「限界を突破し、未知の世界へ、か。素晴らしい!」
そして更に断言する。
「ディーノ、お前は私の理想だ!」
差し出したディーノの手を「がっし!」と掴み、
ばっと勢い良く、エレオノーラは立ち上がった。
やはりエレオノーラにダメージは無さそうだ。
燃えるような眼差しで、ディーノを見つめて来る。
しかしディーノはまたも首を振った。
何となく……嫌な予感がする。
「理想だなんて……そこまで仰って頂くと嬉しいですけど。エレオノーラ様との出会いは良き思い出になりました」
ディーノがそう言った瞬間。
エレオノーラはいきなり被っていた兜を後方へ投げ捨てた。
端麗な素顔が露わになり、美しい金髪が流れるように輝いた。
また兜を投げ捨てる?
これって、癖?
ディーノは、思わず笑いそうになった。
しかし!
エレオノーラの顔は真剣で怒りに満ちていた。
美しい眉が完全に吊り上がっている。
「ディーノ、お前は、何を言っている!」
「は?」
「先ほどから聞いていれば! 勝手に!」
「勝手に? 何をですか?」
「良き思い出に、なりました、だと! どうして過去形にした? そう聞いている!」
「はあ……過去形って。言葉通りですよ」
「何? 言葉通り?」
「はあ、……俺、しばらくしたら、旅立ちますし、エレオノーラ様とはお別れです。人生は出会いと別れの連続ですから」
「馬鹿者! 何が旅立つだ! 何がお別れだ! 何が! 人生は出会いと別れの連続ですよ、だ!! 先にはっきりと宣言したはずだ!! 私はお前を手放さないぞ!!」
「えええっ! 手放さないって、そんな! 勘弁してくださいよ」
「いや! 勘弁ならん!」
エレオノーラは叫ぶと、強引にディーノを抱き寄せ、
ぶっちゅうううううう!!
何と!
ディーノの唇へ彼女らしく? 熱いキスをした。
「「「「「……………………」」」」」
あまりの事に、再び静まりかえる闘技場。
唖然とする騎士達を尻目に、エレオノーラ父のグレーヴだけは、
面白そうに「にやにや」していた。
「ぷはあっ!」
しばし経って、ようやくディーノを離し、エレオノーラは悪戯っぽく笑う。
「ふっ! これで、私とディーノの婚約が確定した!」
「はあ!? こ、婚約? キスしただけでですか?」
「うむ! 想いを込めた本気のキスは婚約の証だ。我がロドニアの法律でそう決まっておる!」
キスで婚約?
法律で決まってる?
そう聞いてディーノは驚いた。
「法律って、何すか、それ?」
「うむ、今私が決めた!」
「はあ? 今決めたって?」
「大丈夫だ! 父上にお願いすれば、それくらい造作もない! なあ、父上!」
エレオノーラから同意を求められ、
グレーヴは再び「うんうん」と頷いている。
「おう、任せろ! 陛下に話を通してやる!」
「恩に着るぞ、父上!」
「は、はい~!? 何、言ってるんですか? ふたりとも!!」
何という強引な父娘……
更に国の法律を都合の良いように勝手に作る?
それも、こんな理由で?
さすがに、ディーノも唖然とし……
得意満面なエレオノーラと、良くやったとばかりに頷くグレーヴを、
呆れたように見つめていたのである。
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