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第187話「ヒッチハイカー少女騎士」

⛤特報! 『重版』決定!!


『魔法女子学園の助っ人教師』

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 ポミエ村を無事出発。

 天気は今日も快晴。

 雲ひとつない。

 といって、さほど風は強くなく、爽やかにディーノ頬を触っていた。


 『コードネームG』をカミングアウトしたディーノ。

 戦友3人に散々いじられながらも、馬車をのんびり走らせる。


 ステファニーが「永久に待っている」事を考えると、

 結構な重圧プレッシャーはかかる。

 だが、彼女が自分への恋心を捨て去る可能性はゼロではない。

 そう気持ちを切り替えたら、あまり気にはならなくなって来た。


 やがて街道沿いの森林が少なくなり、雑木林の混じる草原――原野となった。

 僅かな水の匂いがディーノの鼻腔に忍び込んで来る。

 土を盛り上げた堤防らしきものが遠くに見える。


 さてさて!

 まもなくロドニアとの国境である。

 国境を越える際にも冒険者ギルドの登録証は、国際身分証明書として有効である と、ギルドサブマスターのブランシュ、またキャルヴィン・ライアン伯爵から教えて貰っている。


 まずはヴァレンタイン王国側の関所を越え、次にロドニア側の関所を通り入国する形となる。


 ちなみに二国の国境を分けるのは川である。

 川の真ん中が丁度国境となっている。

 両岸にそれぞれ関所がある形だ。


 国境を分ける川は、さして大きくない。

 しかし……

 古来は、この川を境に何度も領土をめぐる戦いが繰り広げられたという。

 架けられている石造りの橋を渡り越境するのだが、

 この橋も何度も落とされたり、架け替えられていると聞いている。


 関所のチェックは両国とも問題なしだった。


 ディーノがランクAの登録証を見せると……

 「こんな子供が?」と最初は驚き露骨に言われ、最後は感嘆したような表情であっさり通してくれた。

 まあ、しっかりと通行料は徴収されたが……


 ディーノが国外へ出るのは生まれて初めてである。

 だが国境を越えてもすぐに風景は変わらない。

 街道沿いは同じような原野が続く。


 15分ほど走った。


「あれ?」


 ディーノは思わず声をあげた。

 100m少し先……

 誰かが、街道の脇に立っていた。

 視力がビルドアップされたディーノには、立っている者がはっきり識別出来た。


 索敵も行い改めて見やれば……

 立っているのは……若い女子である。

 結構背が高い。

 カルメンほどではないが、身長は180㎝近いようだ。

 

 鼻あてのついた兜を被り、サーコートを着込んでいる。

 腰から大きな剣を提げていた。

 女性……騎士かもしれない。


 馬車が進み、顔がはっきり見えた。

 鼻あてで隠れてはいるが、美しく凛々しい顔だ。


 改めて見ても、やはり女性騎士であった。

 まだ若い。

 大人の女性より、少女と言った方がピッタリである。

 ステファニーより、ふたつくらい上だろうか。


 少女騎士は、まるで「ストップ!」と言うように片手を大きく真横に出していた。

 拳からは親指だけが「ピン!」と突き出ている。


 ディーノは少女騎士の真横で、馬車を止めた。


「あの……どうしたんですか」


「逃げた」


「は?」


「遠乗りをしていたが、乗っていた馬が逃げた。ひと休みしていたら、つないでいた綱がゆるんでな」


「はあ……成る程」


「というわけで、乗せて貰う! 手を貸せ!」


「は?」


「どうせお前は、このまま王都ロフスキへ行くのだろう? ならば丁度良い、御者台で構わん! 乗って行く!」


 有無を言わさないという雰囲気を醸し出し、少女騎士は手を差し出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 少女騎士は、仕方なく差し出したディーノの手を握ると、

 軽い身のこなしで御者台に座った。


 身のこなしで、ディーノには分かった。

 結構「出来る」子だと。


 荷台に乗るケルベロス達を一瞥した後……

 少女騎士は尋ねて来た。


「お前、名は? 年齢は? 職業は?」


「はあ、ディーノ・ジェラルディ15歳。職業は冒険者です」


 ディーノが名乗ると、少女騎士はじろりと見て来る。


「ふん! 若いな! それにひとり旅とは良い度胸だ。犬と猫を連れた駆け出しの冒険者か?」


「まあ、そんなモンです」


「ふむ!」


 納得したのか鼻を鳴らす少女騎士。


「…………」


「…………」


 しばし沈黙が続き、ディーノが口を開く。


「あの……」


「何だ?」


「俺、一応名乗ったんで、貴女もお名前を教えて頂けませんか?」


「……ふん、良いだろう! エレオノーラだ! エレオノーラ・ガイダル、ロドニア貴族家の娘だ!」


「はあ……エレオノーラさんですか?」


 少女騎士はエレオノーラ、エレオノーラ・ガイダル。

 しかし、ここで教育的指導が入った。


「馬鹿者! 貴様は平民だろう? 様と呼べ! エレオノーラ様と!」


 こういうやりとりはステファニーで慣れている。

 ディーノは素直に言い直した。


「エレオノーラ様」


「宜しい!」


 満足そうに頷くエレオノーラ。

 そこからまた沈黙が続く。


「…………」


「…………」


「あの……エレオノーラ様」


 口を開いたのはまたもディーノだった。


「何だ?」


「馬……捕まえて来ましょうか?」


 ディーノの『提案』を聞き、エレオノーラの眼差しが訝し気となる。


「馬鹿者!」


「はあ……」


「逃げた馬は、私が持つ馬の中でもとびきり速い馬だ。どこへ行ったかも分からんし、追いつけるわけがなかろう!」


「とびきり速い馬? じゃあ失えば、尚更、惜しいじゃないですか」


「何を言ってる? 逃げた馬を人間が単独で捕まえられるわけがない! 騎士たる者、時には諦めが肝心だ」


 エレオノーラは否定するが、今のディーノなら試してみる価値がある。

 修行にもなるし、愛馬が戻ればエレオノーラは馬車から降りるだろうから。

 

 「せっかく気楽な旅をしていたのに」とディーノは思う。

 はっきり言ってエレオノーラの闖入ちんにゅうは大迷惑である。


「……とりあえず、やってみます。ジャンと……その黒猫と一緒に待っていてください」


「お、おいっ!」


 ディーノは、街道から外れた空地へ馬車を停め、飛び降りた。

 ケルベロスとオルトロスを連れ、走り去って行く。


 ジャンと共に残されたエレオノーラが唖然として見送る中、

 あっという間に姿が見えなくなった。


 ……10分が経った


「あいつ……何を考えているんだ」


 不機嫌そうに口を尖らせるエレオノーラ。

 常識外れなディーノの行動に憤りを隠さない。


 とその時!


 ぱからっ、ぱからっと、一頭の馬が駆けて来て、

 エレオノーラの乗る馬車の真ん前に止まった。


「ただいま、戻りましたぁ」 


「え!! ええええええええええ~~~っ!?」


「こいつの鞍に、エレオノーラ様のサーコートと同じ紋章が付いていましたから……この馬ですよね?」


 ひひひ~ん!!


 驚愕するエレオノーラの前に現れたのは、

 いななく、元気な鹿毛の駿馬しゅんめまたがったディーノだったのである。

いつもご愛読頂きありがとうございます。


※当作品は皆様のご愛読と応援をモチベーションとして執筆しております。

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