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第11話「召喚訓練③」

『ケルベロス、ルイ・サレオンの指輪とは何だ? 答えよ!』


 ディーノがまっすぐ見据えて命ずると、

 観念したのか……

 ケルベロスは仕方なくという感じで話し始めた。

 無論、念話である。


『わ、分かった! もうお前には逆らえない』

 

『よし! 話せ!』


『……ルイ・サレオンの指輪とは……創世神へ仕える天使のおさいにしえの魔法王ルイ・サレオンへ与えたものだ』


『ええっと……ルイ……サレオンって誰だ? 知らないな』


 魔法には全くの素人であるディーノは、ルイ・サレオンの名を知らなかった。

 この世界で魔法を学ぶ者なら……

 まずは開く、基本的な魔導書の著者としてその名を誰にでも知られていたのだ。


『お、愚か者! お前は自分の師匠から習わなかったのか? 魔法を学ぶ者なら知っていて当たり前の人物だぞ!』


『ご、ごめん! 後で必ず勉強するから、許してくれ。先に指輪に関して教えてくれないか?』


 ケルベロスに一喝され、ディーノは恥ずかしくなり頭を掻いた。

 そしてふと思った。

 

 ロランは遥か古代の人間。

 生きていた時代は全く違うのだが……

 

 もし生前のロランとこの世界のどこかで巡り会っていたら、

 仲の良い師匠と弟子という素敵な関係になっていたかもしれないと。

 否、ひとりっ子のディーノは、優しく頼もしい兄貴になって欲しいと望んだに違いない。


 つらつら考えるディーノを見て、ケルベロスは大きなため息をついた。

 しかし、機嫌は直って来たようだ。

 

『分かった、改めて説明しよう……ルイ・サレオンの指輪とは数多あまたの悪魔を、支払う代償などなしで支配する事が可能な魔道具なのだ』


『えええっ!』


『ちなみに俺も初めて見たぞ!』


『そ、そうなのか! あ、悪魔を支配!? た、魂を取られないんだ?』


 ディーノは思わず叫んだ。

 そもそも……

 悪魔召喚は禁忌として、このヴァレンタイン王国では固く禁じられている。

 

 しかし、悪魔を代償なしで使役出来ると聞いて胸が躍った。

 さすがに魔法知識にはうといディーノでも……

 悪魔と契約しようとして失敗したら、

 代償に魂を取られてしまうという常識くらいは、さすがにあったのだ。


『ああ、通常の契約とは違う! 契約者の魂など取られん!』


『す、凄いな!』


『ふむ……俺は魔獣であって悪魔ではない。だがお前に従い、素直に質問に答えているのは明確な理由がある』


『明確な理由?』


『そうだ! 指輪の絶大な効力は悪魔のみでなく、俺のような魔族にも及ぶ。つまり、全ての魔族が指輪の所持者が発した指示に絶対服従するのだ』


『はぁ、何それ? もう言葉が出ないよ……』


 ルイ・サレオンの指輪とはそこまで凄い魔道具なのか……

 ディーノは思わず脱力してしまった。

 しかしケルベロスの説明はまだ終わっていないようだ。


『おい、待て! まだあるぞ! 悪魔や魔族どころか、指輪の効力は天の使徒にも及ぶのだ』


『な! 何! 天使にも!』


 ディーノはますます驚いた。

 使徒とは創世神に仕える使いであり、絶大な力を誇る者達だ。

 当然人間の指示など従うどころか、聞く事さえまれだ。


『うむ! 見た通り指輪は真鍮しんちゅうと鉄、ふたつの素材で構成されているだろう?』


『ああ、確かに真鍮と鉄だね』


 ディーノは改めて指輪を見た。

 確かにふたつの素材で作られている。


『指輪の力を使う時、天の使徒へは真鍮、魔族には鉄の部分に触れるのだ。もし望みがあるのなら、念話で存分に伝えれば良い』


『す、凄いな! ホント! ルイ・サレオンの指輪って、す、凄すぎる魔道具だ!』 


『うむ、お前が装着しているその指輪は、類稀たぐいまれな世界唯一の至宝と言って過言ではない』


類稀たぐいまれな世界唯一の至宝……』


『まあ、指輪の力を完全に使えるかどうかは、術者の力との兼ね合いもあるがな』


『そ、そうか……俺、頑張るよ』


『うむ……頑張れ!』


『あ、ありがとう』


 いつの間にか……

 一歩間違えば喰われそうになったケルベロスに対し、

 ディーノは親しみを感じていた。

 もしかしてペンタグラムか、指輪の効力もあるやもしれない。

 

 対して、ケルベロスも満更ではないらしい。


『う、うむ……補足しておくとだな、天の使徒へ及ぶ指輪の力は交渉が好意的に受け入れられるというレベルなのだ。しかし! 悪魔を含め、魔族に関しては全く違う』


『…………』


『先ほども述べたが、我々魔族は指輪から完全に認められた所持者には、絶対の服従を誓わねばならない。もしも反抗すれば相当なダメージを喰らうからな』


『指輪から? 完全に認められる?』


『そうだ! ルイ・サレオンの指輪とは我等のように己の意思を持つ魔道具なのだ』


『己の意思を持つ魔道具……』


『ふむ……その様子だとお前はまだ未熟者で指輪に認められていないようだが……少なくとも拒否されてはいない』


『じゃあ、俺、現状では指輪に好かれてもいないけど、嫌われてもいないって事か……良かった!』


 ディーノは安堵した。

 

 ジェトレで会ったクロティルドの好意を無にしたくはない。

 だが彼女はここまでの魔道具と知った上で自分にプレゼントしてくれたのだろうか?

 

 疑問は尽きないが……

 どちらにしても、いつか彼女には報いたいと思う。

 それに現世では永遠に礼が出来なくなった、師ロランの墓参りにも再び行きたいと思う。


 ここでケルベロスが尋ねて来る。

 今迄の殺気は完全に消えていた……


『……今、気付いたが、お前が胸から提げているペンタグラムも、指輪に近い結構な逸品のようだ……』


『そ、そうか』


『はっ、両方とも意味も知らずに身に着けていたのかよ! ……変わった奴というか、不思議な奴だな、お前は……一体何者だ?』


『俺は……ただの人間だ』


 自分で言っておいてその通りだと……ディーノは思う。

 己はただの人間であると。


 いくら凄い魔法を習得しても、素晴らしい魔道具を貰っても……

 残るのは、己の心と身体のみ。

 所詮、平凡な人間なのだと。

 

 そう考えるのは卑屈になるという事ではない。

 エモシオンに居た頃よりも、心身共、確実に成長しているとは思うから。


 この旅で、果たして自分が何者なのか、

 何になる事が可能なのか、

 しっかり見極めたいと思うのだ。


 少しだけ余裕が出て来たディーノは、ケルベロスへ微笑む。


『すまなかった、ケルベロス、お前を使い魔と間違えて』


『な、なんだ? 急に?』


『折角、俺の召喚に応えてこの世界へ来てくれたんだ。戦友として俺と旅をしてくれないか? 宜しく頼む』


 ディーノはそう言うと、深く深く頭を下げた。


 ケルベロスは冥界の門番を務めていただけあって、

 本来は生真面目で礼儀にうるさい魔獣である。

 

 ディーノみたいな頼りないタイプは放っておけないと感じていたのだろう。

 それ以上に召喚した自分を対等な存在とし、丁重に扱ってくれるのが相当嬉しいようだ。


『戦友か? 分かった! こちらこそ、宜しくな、戦友!』


 こうして……

 召喚された魔獣ケルベロスは『導き継ぐ者』ディーノの仲間として、

 共に長き旅を続ける事となったのである。

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