第107話「了解」
⛤『魔法女子学園の助っ人教師』
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『ディーノ、君の心と身体へ剣技と体術、そして魔法の極意を刻んだ』
『…………』
『最高位の極意を得るために、更なる修練は必要だが、君は既に火と風の力を使いこなす魔法剣士となっている』
『…………』
『私が極めた至高の魔法剣だ。心にイメージするだけ、無詠唱で使えるぞ。世の為に役立ててくれ……では、さらばだっ!』
ブレーズから最後の……別れの言葉が響いた瞬間。
閉じられていたディーノの双眼が、ゆっくりと開かれた。
と、同時に心配そうなエミリーの声が、ディーノの耳へ飛び込んで来る。
「ディ、ディーノっ!!! だだだ、大丈夫ぅ!?」
ブレーズの記憶が創った、夢とも幻とも分からない、
不可思議な世界から戻ったディーノには、エミリーの声がはっきりと届いた。
「…………」
ディーノは無言で手を挙げ、問題なしと言うように、
左右へ軽く振った。
そして、
「うん、大丈夫だ……」
「ディーノ……」
「エミリーさんには、だいぶ心配かけたかな?」
「う、うんっ! い、い、いきなり! ディ、ディーノの身体が凄く光ったのよっ!」
「そうか……光っていたのか……」
「ねえ! ホントに何ともない? 身体、大丈夫ぅ!?」
「ああ、ホントに大丈夫だ……」
ディーノは微笑み、エミリーを安心させると、
傍らに立つブレーズの石像を見た。
先ほどディーノが触れた石像は……
まだ淡く光っている。
ブレーズが天へ還る前に残した言葉――遺言が次々にリフレインする。
『ひとつめは私の子孫……エミリーを宜しく頼む。結婚するのか、恋仲になるのか、任せるが……どうか、優しくし、慈しんでやって欲しい』
『もうひとつは私を象ったこの石像だ。私が天へ還った後、君が行使する地の究極魔法で有効に使ってくれ』
『ディーノ、君の心と身体へ剣技と体術、そして魔法の極意を刻んだ』
『最高の極意を得るために、更なる修練は必要だが、君は既に火と風の力を使いこなす魔法剣士となっている』
『私が極めた至高の魔法剣だ。心にイメージするだけ、無詠唱で使えるぞ。世の為に役立ててくれ……では、さらばだっ!』
ディーノの心に、志を託した者達、その姿と言葉がはっきりと甦る……
ロランも、アルドワンも、そしてブレーズも……
己が命を懸け修練し、苦労の末、会得し極めた……
血と汗の結晶ともいえる技能を、ディーノへ託して逝った。
そしていずれ自分も……そうなると確信する。
『次の世代』へ志を託す日が必ず来るだろうと……
「了解」
思わず肉声で呟いたディーノの言葉を、エミリーが耳にし、
訝し気な表情となる。
「え? ディーノ、了解って? 何?」
尋ねられたディーノは曖昧に微笑む。
「いや、何でもない……そろそろ行こうか、ステファニー様達の下へ戻ろう」
「う、うん……」
まだ戸惑うエミリーへ、ディーノは再び手を差し出した。
ディーノが穏やかに微笑むのを見たエミリー。
彼女の表情も徐々に明るくなって行く。
「エミリーさん、大丈夫。俺達は絶対に勝てる。楓村は救われるんだ」
きっぱりと言い切ったディーノ。
エミリーは同意し、頷くしかない。
そう、勝つと信じ、懸命に戦うしかないからだ。
勝たなければ、待つのは『死』しかない。
「う、うん!」
「ブレーズ様とエマさんが遺したこの楓村を、外道どもに踏みにじられてたまるものかよ」
「え? ディーノ!? エ、エマさんって!? 貴方っ!?」
な、何故、その名を知ってるの!?
と、続く言葉を呑み込み……
エミリーは驚き、思わず叫んだ。
違和感を覚える。
確かにディーノには、村の開祖ブレーズの名は教えた。
だが……
彼の伴侶となった『村の少女の名』を告げてはいない。
しかしディーノは間違いなく、
エミリーの先祖となる村の少女の名を口にした。
今、ディーノの身体が光っていた時、とんでもない何かがあった……
間違いない。
……でも今は、目の前の戦いに勝つ事が重要である。
ゴブリン達を撃退しなければ明日は来ない。
だから今の時点で、根掘り葉掘り突っ込み、
ディーノのモチベーションを下げるのは得策ではない。
はっきり言えるのは……
ディーノが楓村の為、そしてエミリーの為、
損得勘定抜きに、命を懸けて戦ってくれるのは間違いないという事なのだから。
再び頷いたエミリーは、告げられた言葉を確かめるように、
「ぎゅっ」とディーノの手を握り直したのであった。
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