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1-4.はじまりの日 4覚醒

これは以前投稿した「1-2.はじまりの日 2」を二部に分けた後半部分になります。

ご了承ください。

 一行は歩き続け、十分程経ったが、道中に人の姿はもちろんのこと普段は道路に止まっているはずの車の姿もなかった。


(おかしい。あまりにも不自然だ。やはり異常。公園に着けば何かわかるのか?)


 ジン達が感じている違和感を他所に骸骨とエンカウントすることなくこの都市最大の川に掛かる橋にさしかかった。


 その時、

「雨か......」

 ポツリと雨粒が頭に当たる。


 不安な心を投影するかのように急に暗雲立ち込め、雨粒が橋に染みを作り始めた。

 見慣れない赤い空も不気味であったがこれはこれでよろしくない。


「一旦どこかで雨宿りしたほうがいいと思うわ。みんなそろそろ限界よ」

 ユキノの言葉にジンは後ろを振り返った。


 そこには極度の緊張からくる疲れの表情が見てとれる家族の姿があり、骸骨の姿はなかった。


(橋を越えたら宮廷跡地公園はすぐだが、みんな疲労がピークに達しているか......)


「そうだな。橋を越えたら橋下で休もうか。もうちょっとだ。みんな、がんばろう」

 ジンの“休憩宣言”に全員が安堵の息を漏らした。


(骸骨の姿が一向に見えないのは引っかかるが雨で体温が下がることは避けたい)


 張り詰める緊張間の中、異常に気づいたのはやはり先頭を歩くジンであった。


「止まれ!」

 ジンが左手を広げて、叫んだ。


「あっ、あれは何だ?」

 ジンが震えながら左指を指した方向に全員の視線が注がれた。


 __闇


 突如、空間に空いた。いや、ほんの小さなひび割れた穴から闇が垣間見える。


 誰もこの目の前の異常にただ固まっていた。人生で感じたことのない得体の知れない何かに襲われていた。


 ひびが広がり、人が通れる大きさを越え、ちらりと白い何かの一部が見えた時、ジンとユキノに戦慄が走った。


「ジン君、あれって」

 指を指すユキノの声が震える。ジンは固まっていた。金縛りにでもあったかのように指一本動かせない。


(俺の体!動け!動けえぇぇ!)


 口を動かそうとすると血の味がした。そう思った時、


「が、骸骨だ!逃げろ!反対方向だ!」

 ジンは叫んでいた。


 その声に皆我に返り、全員が回れ右をして転げるように走り出した。


 しかし、すでに後ろには空間のひびが広がっており、ひびから骸骨が橋を埋め尽くす程出て来ていた。


 逃げ場を失い、ジン達は橋の中央で絶望のままに立ち尽くすしかなかった。


 前と後ろからじりじりと詰め寄る骸骨に一歩、また一歩と後退し、ついには橋桁まで追い詰められた。


(もうだめだ)


 一番はやく諦めたのは自分の状況を冷静に理解し、骸骨の冷たさを知っていたジンであった。目の前には絶望。逃げ道はない。“詰み”であると。


 頭だけの決意、覚悟は余りにも脆く、いともたやすく崩壊した。


 ぺたりとその場で座り込むように体の力が抜ける。


(ああ、寒いし疲れたな。......一体“俺”はどんな風に骸骨に殺されるのか。また首か。それとも別のとこか)


 虚ろな目で骸骨を捉えた。


 その時、

「ジン!立って!みんな、川に飛び込みなさい!今なら飛び込んでも死にはしないはずよ!」

 ユミがジン達の前に仁王立ちになって立った。


「か、母さん......」

「私は母親だから。ジン。後は頼んだわよ」

 ユミが優しくジンにほほ笑み、覚悟を決めて前を向いた。


 その姿は子供を庇う母親の誇り高き姿であった。


「さあ、来なさい!化け物ども!」

 肺から絞るように声を出すユミの体は恐怖で震えていた。


(俺は......大切な家族を幼馴染を守れずに死ぬのか。クソだせぇ。力が欲しい!!!こんなクソみたいな状況を変える力が!!!)


「くそおぉぉっっ!」

 ジンは拳を地面に叩き付け、自分の非力さを心の底から呪った。世界ではなくただただ自分が憎い。


「ならあげるわ。ジン。あがきなさい。あなたならまだ戦える」


 __感情のない声


 ザクッという鋭い痛みをジンは背中に感じ、顔を上げて痛みの方に目を向け、自分の目を疑った。


 眠っていたはずのコハルが先ほどのパジャマとは全く違う服を身にまとい、細い剣をジンの背中に突き立てていたのだ。


「コハル?どうして?」

 何も答えず、コハルが細い剣を引き抜く。それと同時に服がパジャマに戻り、剣が姿を消した。


 __力?


  ジンは湧き上がる何かを感じていた。恐怖に立ち向かう何かを。


 倒れるコハルをジンが優しく受け止めた。背中の痛みはいつの間にか消え、変わりに別のもので満たされていた。


「母さん。コハルを頼む」

 ユミにコハルを託し、骸骨に正面から向かい合う。


 この時、蠢く絶望に対抗することのできる“何か”の使い方が頭の中に浮かんでいた。


 ジンは改めて骸骨を観察する。


 真っ白な体と心臓の位置にある漆黒の球体、深紅の瞳がコントラストを生み出しており、周りの空気が冷たくなるような雰囲気を放っていた。


 骸骨達が不意にあざ笑ったように見え、一体の骸骨がジンに近づき、ジンの首に手をのばした。


「ワンパターンだな。お前たち」

 ジンの恐怖はいつに間にか消えていた。自分の首に伸ばされた骸骨の手首を掴み、叫ぶ。


「凍れ!!!!!」


 叫びとともに、掴んだ手首から徐々に凍ってゆく。数秒で完全に氷尽き、動かなくなっていた。倒したのだろう。


 だが、目の前の骸骨を一体倒したのにも関わらず、湧き上がってくる感情は安堵でもなければ達成感でもなかった。


 それはただ家族を守るという使命感であった。


「......っ!」

 そんな覚悟とはお構いなしに急な疲労感がジンを襲った。だらんと手をぶら下げ、猫背になる。


(全力で100m走った後みたいな疲労感だが、まだだ。まだ戦える!)


「さあ、かかってこいよ!」

 凍り付いた骸骨を右手で殴って壊し、得体の知れない疲労感を隠して虚勢を張る。


 拳から血を流し、どう見ても満身創痍だがそれでも闘志は消えていないジンの姿を見て一瞬ひるんだように見えたが、骸骨達はまたすぐに向かって来た。


「みんな、私の後ろから離れるなよ」

 ジンが庇うように全員の前に立つ。


(どこまで持つかわからないが、力尽きるまで殺してやる)


 骸骨達が接近し、ジンが先頭の一体に触れようとした時、


「≪グラビティ・ルーム》」


「≪ライトニング・エッジ》」

 橋に閃光が走る。


 男性と女性の声とともに骸骨達があっけなく粉砕された。その場にいる誰も目で追えなかった。


 唖然としているジンたちに赤い外套を身にまとい、フードを深く被った二人組が近づいて来た。


(このタイミングで新手の敵か?いやそれなら骸骨諸共、初撃で殺せばいい。ということは少なくとも骸骨の敵か......)


 あまりの急展開にジンの額に冷や汗がにじみ出る。正直限界で戦える状態ではなかった。


(敵だった場合、全滅は免れない。ならば、こちらの戦力がばれてないと決め打ちして先手を打つ!)


「止まれ!顔を見せろ!要求に従わない場合、攻撃する!

 」


 ジンが右手を前に突き出し、腰を落として構える。これが今できる精一杯のブラフだった。


 二人はゆっくりとフードを取り、男性が

「ご無事で何よりです。お迎えに上がりました」

 と丁寧な口調で言い、胸に手を当てて深くお辞儀した。


「はぁ!?」

 予想外の展開に思わず、変な声が出た。


「だから混乱するって言ったでしょ、アノンっち。えっと、こんにちは。えーと、雨ですね。......私達はあなたの味方です。こんな感じかな。あ、ニャ」

 女性の方もフードを取り、男性の方にツッコミを入れた。


「..........」

 誰も状況を飲み込めない。


「ふむ、私の時とあまり変わらないようですが、レオ。......あと、あなたは獅子では?」

「細かいことはいいのアノンっち」

「ちょっと待ってください。私達を迎えに来たと言うのは本当ですか?」

 二人のやり取りを遮るようにユミがジンの前に出て、問う。


「ええ、本当ですとも。ほら、迎えの車が来ました」

 アノンと呼ばれていた男性が肯定し、ジン達の後方を指さした。


「お待たせ。レオ、アノンさん。さあ、乗って」

 屋根のない荷台を馬のような生物に引かせて、ユリと同じくらいの背格好の男の子がやって来た。


「さあ、さあ、乗って下さい。我々の“コミュニティ”までお送りいたします」

「待て!あなたを信用できる保証はない。何者だ?あなたたちは?」

 荷台に乗り込もうとする兄弟を静止し、赤い外套の二人組を疑う。


(言動が謎すぎる。軍人でも無い彼らが今の俺たちを助けて何のメリットがある?言葉にはできないが嫌な予感がする......)


「ふむ、なら、わかりやすくしましょう。最初の一撃で我々はあなたがた全員を殺そうと思えば殺せていた。これが敵意は無い決定的な証拠でしょう」

 断れるとは思ってなかったのか、アノンと呼ばれてた男性が腕を組み少し考え、左手で顎を触りながら淡々と事実を述べ、ジンを説得にかかった。


「だがそれでは―」

「乗りましょう。ジン。この人たちは大丈夫。直感だけどね」

「母さん。正気か!」

 母の決断にジンは驚いた。


「みんな限界だし、助けてくれたのは事実でしょ。大丈夫。大丈夫」

 ユミは反抗するジンを抱きしめ、背中をさすった。子供をあやすがごとく。


「わかった。わかったから離して」

 母親の温もりを味わうことなくすぐにユミを引きはがし、アノンに向かい合う。


「完全に信用したわけじゃあない」

「それで構いません。決定でよろしいですね?」

「あぁ、......よろしく頼む」

「では、皆さん。乗って下さい。そちらの倒れている方は私が」

 アノンがコハルとスグルを抱え荷台に飛び乗り、ユミやユリたちに手を貸した。


 最後に乗り込んだのはジンだった。


「これで全員ですね。ジェミニ、出して下さい」

 全員が乗り込み、ゆっくりと馬車が動き出した。


「ふぅー」

 ジンは思わず一息をつき、空を見上げる。いつの間にか雨は止み、虹がかかっていた。赤い空と虹のコントラスト。


「綺麗だな」


(あぁ、“俺”は生きているんだな)


 緊張の糸が切れ、死線をくぐった後の自然が織りなす絶景に今この瞬間生きているという、生のリアリティをジンは噛みしめた。


 命の危機からの生還。疑問が頭にたくさん浮かんだが、それよりも疲れていた。


 ふと、ジンが目線を右にやると、馬車の程よい揺れでウトウトしている幼馴染と家族の姿があった。


(無理もないか......。俺もね......む......い......)




20/04/09 誤字修正


ジンが能力に覚醒します!!!長かったでしょうか?

コハルの謎の剣と服。そして、赤い外套の二人組気になりますねー。

次回に続きます。

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