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第7話 忍び寄る影と闇


「……何が起きたんだ?」


呆然とするフランは前を掠めた突風が発生した方角を確認する。


あいつ(・・・)は……」


ラックは樹々の奥から走って来る者に、思わず表情が緩む。



「ワン、ワンワン!」



ヒューっと流れて来る風と共に樹々の間から現れたのは研究所にいるはずのトマトだった。


「お前、助けに来てくれたのか?」


「ワン!」


フランの質問に答えるようにトマトは返事をする。


「なんにしても助かった! 早く此処から逃げるぜフラン!」


「あ、ああ」


何故トマトが此処に現れたのか、気が気でなかったフランだったが急ぎ足でその場を離れた。


トマトは先程吹き飛ばしたルピマ-グを警戒しておりフラン達の方を見向きもしない。


「フラン此処はトマトに任せよう。俺達が居たって何も出来ないだろう?」


「……そうだな」


トマトはフラン達の方を見ること無く、ただルピマ-グを警戒している。


フランはトマトに感謝しつつラックと共に走ってその場から離れた。





「グァアアアアアアア!」




体勢を整えたルピマ-グは逃げる2人を追おうとする。



ガッッ



しかし風を体に纏ったトマトの体当たりにより、いとも簡単にルピマ-グの巨体は再び吹き飛んだ。


「おっかねえ……。俺達あんな化け犬と一緒にく暮らしてんだな」


ラックは遠くまで響いて来るその戦闘音に暫し驚愕しながら、フランと森の中を駆ける。


「ラックそんなこと言ったらまたレナに怒られるぞ」


「いやフラン。言わせてもらうけどありゃ本当に化け犬だ」


助けてもらっていながら何という言い様だ。


通常アストリア大陸、及びその他の大陸に生息している数多くのモンスターは好んで闘いを挑む者は半数以下。

それは生き残る為に極力争いを控えて生活をしているモンスターが多いことを表しており、またそれが彼らの在り方だからだ。


しかし、彼らと反する者がいることも確かでモンスターがモンスターを襲うという世界も存在している。

それは弱肉強食の世界では至極当然のことであり、彼らにとっても生きていく為にはごく自然のこと。


ただ中には例外的なモンスターもおり、強さを求める人間のようなモンスターもいる。

そしてその中のモンスターの1匹であるのが、先程フラン達を助けに来てくれたトマト。


正式名称はレスキロス。

意味は風の犬。風を自由自在に操り、風のように早く走ることが可能で起こす風の強弱も変えることが出来る。


また成長するにつれてその風の力は大きくなり、一説によると過去に起こった巨大な竜巻が複数のレスキロスによって消滅してしまったという話もある。


本来、街を直撃していた巨大竜巻がレスキロス達により消滅したことは今や有名な話。


その為一部の人からは街を救ってくれた風神などと呼ぶ者達もいる。


またレスキロスの別名は『戦闘犬』と呼ばれており、その名の通りとにかく闘うことが好きなモンスター。

何の為に闘うことを好むのか不明ではあったが、近年の研究によると無作為により闘かっているのではないと分かった。


現にこれだと断言出来るものではないが、何らかの被害をもたらすモンスターに対してのみ戦闘体勢を見せるとされている。


ラックがやたらとトマトのことを化け犬呼ばわりするのはこうした背景を知らないからだった。


「グァアアアアアアア!」


ルピマ-グは声を荒げて自身の体の硬さを利用した突撃をする。


しかしトマトが巻き起こす風により、僅か数メ-トルの付近で止めらてしまう。



「グァァ」


弱い声。飛ぶことすらままならない状態と、目の前にいる勝ち目の無い相手に弱気な鳴き声を出すルピマーグ。


何故天敵の居ないこの森にいるのか、ルピマ-グは隙を見て飛びかかろうとするがトマトに一蹴されてしまう。


それもそのはずだった。


ルピマ-グの捕獲レベルはCプラスに対してトマトはAクラスのモンスター。


通常、Aクラスのモンスターがいるのはアストリア大陸の中でも場所は限られてくる。

もしくはそれなりに大きな研究所か、名の通った勇者の仲間くらいだ。


それでもトマトがマ-ク博士やレナの研究所にいるのは、過去赤ん坊だった頃からいるからだった。


「グァァグァ!」


ルピマ-グは羽根を羽ばたかせてタルマンの森から飛び立って行った。


ルピマ-グがいなくなったことを確認したトマトはくるりと回って森の中を駆けて行く。







--そして。タルマンの森を抜けたフラン達は現在、追って来たレナと会い話し合っている。


「もうっ! 本当に心配したんだからね! 分かってる!? 2人とも!」


「ごめんレナ」


「ごめん」


レナの厳しいお怒りを受けて2人はしゅんとしてしまう。


「無事だったから良かったものの、下手したら怪我じゃ済まなかったんだからね!?」


「ごもっともです」


2人は声を揃えて言った。


「……全く」


レナがこれ程までに怒る理由。それはルピマ-グの性格からは考えられない凶暴性、さらにフラン達は出くわしてはいないがタルマンの森には他にも危険なモンスターがいたことを知っていたからだった。


「でもレナ! 俺はただ--」


「言い訳しない!」


フランは自分はラックについて来ただけだとやはり主張しておきたかったが、レナに一刀両断される。


勿論、フランは自分が決めたことだと理解はしていたがその点は伝えておきたかった。


「いい? 2人共。タルマンの森は何もルピマ-グだけがいるわけじゃないわ。悪戯好きのモンスター、ピクシ-。幻覚症状を引き起こす粉を蒔くモンスター、ファラエナ。他にも人間に敵意を抱くモンスターだっている」


レナがそう伝えている時、2人は反省の色と共に自分達がいかに危険な森に入ったのか理解した。


「でも、ほんと無事で良かったわ」


余程心配していたのか、レナは安堵の表情をやっと見せる。


「レナ、俺もう勝手な行動しないよ」


「あ! ずり-ぞフラン! 俺だってもう勝手なことはしないさ!」


「当たり前でしょ! 帰ったら研究所の用事たっぷり手伝ってもらうからね!」


そう言われたフラン達はどんなことをさせられるのか想像した。


そしてレナは、タルマンの森の直ぐ側にあるト-ル湖の草道に入って行く。

しかしフラン達はそんなレナを余所目に、またピクシ-達が襲って来ないかとビクビクとしていた。


「何してるのよ-2人共! 置いて行くわよ!」


「ま、待ってレナ!」


フランは慌ててレナの後を行く。


ラックもフランの後について行こうとするが先程まで懐にあったルピマ鉱石が余程物おしいのか、タルマンの森に目をやる。


「ラック行くぞ!」


「分かってるよ!」


フランに呼ばれたラックは悔しそうな表情をして2人の入っていった草道に入って行く。





程なくして3人はト-ル湖の草道を何事も無く通り抜けた。


フラン達は何故ピクシ-達が襲って来なかったのか疑問が拭えなかったが、ト-ル湖を抜けたことにほっとしていた。


「--レナ。ところで今日のことだけど」


フランは恐る恐るレナに聞く。


「勿論おじいちゃんに報告するわよ」


きっぱりとそうレナに言われたフラン達は悲痛の表情を浮かべる。それはいつもは優しいマ-ク博士も、事、勝手な行動を起こした者には容姿無くペナルティーを与えるからだ。


そしてとぼとぼと研究所に帰るフランとラックの表情は重く、レナはそんなフラン達を余所目に研究所を飛び出して行ったトマトの行方が気がかりだった。




「ところでレナ」


「何フラン」


フランは気になっていたことをレナに聞いた。


「レナは何でタルマンの森に行っても平気なの?」


それはフラン達が研究所に来てから2日目のこと。レナが1人タルマンの森に出かけていたからだ。


「……それは私だからよ」


「? どういう意味?」


「--仕方ない。研究所まで時間あるから話してあげるわ」


レナの話によるとタルマンの森にいるピクシー達は本来、人間に対してとても友好的なモンスターだった。


しかし過去、タルマンの森にやってくる一部の人間達による乱獲によりピクシー達の個体数は激減してしまった。


ただタルマンの森以外にもピクシー達は生息している。それでもタルマンの森にピクシー達を狙う人間が後を絶たなかったのは、他の地域より危険なモンスターが圧倒的に少なかったからだった。


そして間もなくしてその事態に気づいた人間達によりタルマンの森のピクシー達の乱獲は無くなった。


しかしピクシー達は自分達が受けたことを決して忘れず、タルマンの森のピクシー達に限って人間に敵対するようになった。


そんなある日。タルマンの森を訪れたのがレナだった。


まだフラン達が研究所に来るずっと前の話で、当時からお金の面で苦労しており街に買い物に行くなど贅沢な話だった。


タルマンの森に何か食べるものはないかと1人向かったレナはそこでピクシー達に襲われてしまう。


今回フラン達が受けたような光の矢の洗礼を浴び、当時のレナは理由が分からなかった。


だが、そんな状況にも関わらずレナは逃げなかった。何か必ず理由があると思いその矢が止むまで待っていた。


間も無くピクシー達はそんなレナの行動に攻撃の手を止めて、その場から離れていったようだった。


その後レナは研究所に戻り、その理由を知った。


それからのレナは、来る日も来る日もタルマンの森に足を運びピクシー達と触れ合った。

しかし長きに渡り人間達から受けた痛みは消えない傷となりピクシー達は同じ人間であるレナを襲った。


それでもレナは諦めず、来る日も来る日もピクシー達に会うためタルマンの森に行った。


そしてある日。またタルマンの森に足を運んだレナだったがピクシー達が襲うことはなかった。

それはピクシー達の心境の変化でもあったのか、あくる日も同じだった。


それからと言うものレナはピクシー達と次第に仲良くなり、それが今に続いている。


ただタルマンの森のピクシー達が心を許しているのはレナだけのようで、その話に興味を持ったマーク博士は手痛い目にあったようだった。


レナがモンスター達にかける愛情。それがピクシー達の心を癒したのかもしれない。




「--そうだったのか……」


フランはその話を聞いて、何故ピクシー達が襲ってきたのか理解した。


「これで分かったでしょ? 私達人間とモンスターとの間には埋められない溝があるってことを」


「レナも色々あったんだな」


「そりゃあるでしょ! 人間生きてたら人には言えないことの1つや2つくらい」


レナは他人事のように言ったラックに対して少しばかり声を荒げた。



「--俺は」


ラックが何かを言おうとした時だった。


「到着!」


トール湖を抜けてルマ平原を歩くフラン達。

タルマンの森を出てから数十分後。漸く3人は研究所に戻って来る。


そしてレナが扉を開けようとしたその時突き抜ける突風が吹く。




「トマト-!」



レナは風を体に纏って走って来たトマトを見て安堵する。


「ワンワン、ワン!」


トマトは自らを纏う風を解くとレナに向かって行く。


「何処行ってたの!?」


レナはトマトの頭に手をやりそう聞くが、クゥンという甘えた声を出しているだけだ。


「2人は何か知ってる?」


「いや、俺達は何も知らねえ。なぁ? フラン?」


「あ、ああ」


「そっか。だったら何処行ってたのよ? トマト」


フラン達があえてトマトが助けに来てくれたことを言わなかったのは、トマトを自分達と同じ枠に入れない為だった。


正義感から動いたトマトに対して自分達のとった行動は興味の範疇を超えたもの。


その為フラン達とトマトの差はとても大きなものだった。


トマトはクゥンクゥンと鼻を鳴らして時折ちらりとフラン達を見ており、その度トマトの賢さを感じざるを得なかった。


自分達を助けてくれたトマト。


正式名称レスキロス。別名『戦闘犬』の名を持つトマト。

知能もとても高く仲間を思い遣るモンスターとしても有名。


それは先程の話。過去、巨大竜巻を消し去ったのはずっと進んだ先に仲間達の住処があったからだ。


とりわけ風を読む能力が高いレスキロスは、事前に巨大竜巻の進路を見据え仲間のレスキロス達と共に巨大竜巻を吹き飛ばしたと後の話で明らかになっていた。


そんなレスキロスであるトマトはまだ同じ仲間に会ったことはないが、もしかすると研究所に来たフラン達に一種の仲間意識を感じたのかもしれない。



そして研究所に入ると、マ-ク博士とマ-テリーの会話が聞こえて来る。



「もしかして誰か来てる?」


「言ったでしょ? フラン。今日マ-テリーさんが来るって」


「そうそうその人! 俺一度で良いから会ってみたかったんだよな」


マ-テリーは街では知らない人がいない程名の通った勇者で、マ-ク博士とは古くから付き合いのある人物。


ラックがそう言ったのはそんな人物を一目でいいから会ってみたいという興味本位からだった。


「ラック、そしたらマ-テリーさんに部屋案内してあげて」


「案内って泊まるの?」


現在、マ-テリーは仲間であるグリフォンを強化する為に研究所にある一室を借りている。


それは研究所で行うモンスターの強化というのは、対象のレベルによっては時間も長くなりグリフォンの場合だと丸半日を要する。


「そうよ。明日には帰るみたいだけどね」


「そうなのか。まぁ有名な勇者になるとそれだけ依頼が多くなるんだろうな」


本来マ-テリーのような勇者達の大半は、街や村、施設から依頼されたモンスターの討伐が主な仕事。

また、未だ開拓されていない島や地域の調査も彼らの仕事である。


その為当然どのようなモンスターに遭遇するか分からない場合、仲間であるモンスターは可能な限り強い必要がある。


マ-テリーがマ-ク博士の研究所を訪れたのも、今後行く未開拓の地に備えての為だった。


「そういうこと」


レナは頷いた。


「あのさ2人共。悪いけど俺ちょっと上で寝て来るよ」


「フラン、寝るってまだお昼にもなってないよ。それにマ-テリーさんに挨拶しなきゃ!」


レナは疲れきったフランのことなど気にもしていないようだった。


それもそのはず。フランが研究所に来てからというもの、それ程疲れた様子を見ていなかったからだ。


ただ、確かにフランは研究所に来てから僅か一週間という期間で様々なモンスターから危険な目にあっていた。

しかし今回の件はまた違ったようで、自ら進んで招いたことだという自覚も重なりその時には無い疲れだった。


「レナ。今は寝かせてやってくれないか? 今回のことは本当に悪かったって思ってる。だけど俺達もルピマ鉱石を取ることがこんなにも大変だなんて思ってもみなかった。--まぁ結局! ルピマ鉱石は取れなかったけどな!」


そんな2人を見たラックは、共に行動していたからこそフランの疲れも共感出来た。


「もう……。今回だけだからね! 」


「ありがとうレナ」


そう言い残したフランの足取りは重く、余程疲れた様子。


そんなフランを見ていたレナは心配そうな表情を浮かべている。


ラックもフランと同じく疲れてはいたものの、今回のことは自分から言い出したことだと責任を感じていた。


ただレナがフランには心配そうな表情を見せていたにも関わらず、自分にはそれがなかったことが、ラックの心を揺さぶって病まなかった。


そしてレナとラックはマ-ク博士達の元に行った。






「--そんなことが……」


「そうなんじゃよ。この研究所もな色々とガタがきておる」


レナとラックが向かうと、まだ話し合いの途中だった。


「博士、おはようございます」


何を言われるのか、ラックは内心ビクビクしながらの挨拶だった。


「ラック、ま-た何かやらかしたのか?」


「おじいちゃん。その事なんだけど私から2人にはビシッと言ってやったから許してやってくれない?」


それを聞いたラックは意外なレナの言葉に驚きを隠せなかった。


「むむむ、とは言うがなレナ。何をしておったのかくらいは--」


マ-ク博士は手を合わせるレナを見て考える。


「分かった。レナを信じよう。ラック、レナに感謝するんじゃよ。本来なら儂が直々に説教するところじゃ」


「はい博士」


ラックはマ-ク博士に頭を下げる。


「うむ。して、フランは何処じゃ?」


「……えっと、フランは二階でちょっと休んでる」


そうレナが言うとマ-ク博士はやれやれといった仕草をする。


「まぁよい。レナ、後で良いから三人でまた儂のところに来なさい」


「う、うん。分かったわ」


そしてラックはマ-テリーに挨拶をする間も無く、研究所リビングに向かう。





「何だろうな」


「う~ん、私にも分からない」


2人はリビングにあるソファ-に座りながら、マ-ク博士に何を言われるのか考えていた。


「……レナ。博士はずっと一人で研究所にいるのか?」


ラックが研究所に来たのは今から一週間前のこと。


ラックはフランやレナ程、マ-ク博士については知らないことが多かった。


「一人じゃないよ。私だっているし、トマトもいる。それに警備員のルナ-ドさんだって。何か気になることでもあった?」


「いや、そういうわけじゃないんだけど何かすごい人だなって思って」


「すごい、か。分かるよ、その気持ち。私も思うもん。何処からそんな探究心が出て来るの? って」


マ-ク博士の研究所はアストリア大陸でもそれなりに名の通った場所。

それはマ-ク博士のモンスター強化技術を始め、数多くのモンスターの生態調査を手掛けているからだ。


「でもね昔は一人じゃなかったんだよ。随分昔の話だけど、私がまだ小さかった頃、おじいちゃんと一緒に研究所を設立した人がいたの」


ラックは終始、レナの話の続きを聞いている。


「だけど、何が原因か分からないけどある日突然この研究所を出て行って」


「そうだったんだ」


ラックは意外なマ-ク博士の過去に少し触れて、少し距離が縮んだ気がした。





「何話してたんだ?」


すると二階で寝ていたはずのフランが2人のいるリビングにやって来た。


「フラン起きたのか」


「あんまり眠れなかったけどな」


フランは二階に上がった後、数分程度仮眠した程度だった。


「フラン、もう勝手な行動しちゃダメだからね」


「分かったよ、も-しない」


「よろしい! あ、それと、おじいちゃんが後で3人で来てって」


レナは先程マ-ク博士に言われた事を思い出してフランに伝える。


「何だろ?」


「とにかく行ってみよ」








「お-来たか!」


3人がマ-ク博士の元に行くとマ-テリーは研究所にある客室用部屋に向かったようだった。


「おじいちゃん話って?」


「うむ。話というのはだな、昨日のスライムの件じゃ。レナは分かっていると思うが、あのスライムいつもと違う感じじゃったろう?」


それは昨日のスライムが起こした研究所爆破事件。スライムによって研究所B通路は大きく大破し、今も修繕の目処は立っていない。


「もしかして、昨日レナが言ってたこと?」


フランはふと昨日の朝レナが言っていたことを思い出す。


「おじいちゃん、話そうとしていることってスライムの大きさのことだよね?」


「そうじゃ。レナがいきなり連れて来るもんじゃから何事かと思ったわい。でもよくよく考えるとな、どうも腑に落ちなくてな」


マ-ク博士は額に手を置いて答える。


それはそこまで重要な事なのかと疑問に思ったフランとラックだったが、レナは1人真剣な表情をしていた。

しかしその表情は一件深刻に見えるものの、レナの瞳の奥は真っ直ぐだった。


「ちょっと待ってて!」


するとレナは部屋を出て行ってしまった。


「なんじゃ?」


「フラン昨日何かあったのか?」


ただ1人。昨日の現場に居なかったラックは会話の外にいた。


「あ-そういえばラックは居なかったっけ。説明するとな--」


フランは昨日のスライムの一件について知っていることを全て話した。



「そんなことあったのか……。だったら今、B通路はそのスライムの所為で大穴が開いてるのか」


こうして話している今もB通路は大きな風穴が開いており、いつでもモンスターが入ってこれる危険な状態。


「お待たせ」


間も無く戻って来たレナは一冊の古い本を持っていた。


「おじいちゃんこれ見て」


レナはあるペ-ジを開いてマ-ク博士に渡す。


「--これは……だがしかしだな、いや、まさか……」


マ-ク博士はそのペ-ジを見るな否や1人ぶつぶつとする。


「レナ。よく気づいたな」


「うん、よく読んでいた本だったから」


「マ-ク博士、話が見えないんですけど説明してもらえませんか?」


フランはマ-ク博士とレナが何を知ったのか気が気でなかった。それはラックも同じようで事情の把握に必死だった。


「何と言ったらよいのかのう。分かりやすく言うとすればじゃの、突然変異の一種じゃ」


「突然変異? 何ですかそれは?」


「しょうがないのう。説明してやるわい。突然変異というのはだな--」


突然変異。


それはおよそ10万分の1から100万分の1の確率によって起こるもの。

遺伝物質の質的、量的変化によって生じる変化であり色が違う状態で生まれるなどがそれだ。


そして昨日。レナがタルマンの森に行く途中の岩山の上で見つけたスライムもその突然変異の一種であり、個体の平均より大きく上回る大きさだった。


今回レナが気になったのはスライムの突然変異と、過去の本に書いてあったある記述が興味深かったからだ。


レナが持って来た本によると、過去に見つかったビックヒッポスが今より明らかに小さく姿も今とはまるで違っていたことが記載されている。

それは通常の馬よりは大きいが、それでも3m程だ。今、アストリア大陸にいるビックヒッポスの多くは10m級で過去の3倍以上ある。

しかしいつどのタイミングで今の大きさになったかは明らかになってはおらず、記述には突然変異としか書いてはいない。


ただその一文の一節には、ビックヒッポスのように巨大化したモンスターも他にも見つかっており、それは他の何らかの影響によりもたらされたものではないかという研究者の言葉もある。


これが何を意味するのか、レナとマ-ク博士は気づいたようだった。

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