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第6話 怪鳥の住む森




「もういいか」


「だな。それにしてもあのピクシ-達、俺達に敵意満々だったな」


2人はさらに森の奥まで進んだが其処はまだまだ樹々が生い茂っているばかり。




微かに聞こえて来たのは水の流れる音だった。


「フラン聞こえたか?」


頷き。辺りにピクシ-がいないことを確認してフランは水が流れる音が聞こえる方向を見る。


「行こう」


2人がピクシ-達から必死に逃げて辿り着いた場所は運良くも目指す滝からそう遠くはない位置だった。


近くでは水が流れる音は微かに聞こえるものの、眼前に広がるのは樹々とその間から見える青い空だけだ。


2人はピクシ-達を警戒しながらその歩みを進めて行く。


そして歩く最中見えて来た一本の樹に2人の視線は釘付けになる。

その樹には丸く張りのある黄色い果実が実っており、2人の食欲を刺激した。


「一つくらい良いよな?」


ラックはその樹にぶら下がっている果実を取ろうとしている。


「大丈夫か? また何か起きるのは勘弁してくれよ」


フランは今、自分達がいる森が明らかにただの森だとは思わなかった。


「へーきへーき。--ほらな、取っても何も起きやしない!」


ラックは少しばかり高い位置にあったその黄色い果実を取り、ムシャムシャと食べてしまった。


「ほんとラックには慎重さが足りないよ」


「そんなこと言うなって! ほらフランの分!」


ラックはもう一つ取ったその黄色い果実をフランに向かってほいっと投げた。


「と! まぁ確かに美味そうだけど」


ラックは自分が持っている果実を食べながら、フランに食べるように仕草をする。


フランは持つ黄色い果実が気になりつつも恐る恐る口に入れた。

そのシャリシャリという音はりんごの食感に近い。


「うん。美味いけど……」


「けど?」


「俺達ってこんな呑気に食ってていいのか?」


フランは口に入れていた果実をゴクリと飲み込み、今自分達がする本来の目的をラックに諭した。


「まぁまぁ。落ち着いて行こうぜフラン。急いでもルピマ鉱石は逃げたりしない」


「それはそうかもしれないけど……レナは大丈夫なのか?」


そうフランが言うと先程まで明るかったラックの表情がみるみる青ざめていく。


「そ、そ-だ! 俺達こんなところで呑気に食べてる場合じゃない! ほら! 行くぞフラン!」


ラックは手に残っていた残りの果実を食べ切り、直ぐに水が流れる音が聞こえる方へそそくさと行ってしまった。



(ラック、よっぽどレナが怖いんだな)


フランの言葉が効いたようで、ラックはしっかりと本来の目的であるルピマ鉱石を目指して前を向いて突っ走る。


「フランもっと早く歩けないのか!?」


「そう急かすなよラック。俺だって早くしたいけど、さっきの矢が思ったより効いたみたいで」


フランは先程のピクシ-達によって放たれた光る矢で、身体中にまだ痛みが残っていた。

ただ肌寒い季節が幸いして、長袖であったことが多少なりとも肌へのダメージは軽減されていた。


「そうだったのか。ならそれを先に言ってくれって!」


ラックは歩くスピードを下げた。


「悪いな」


それと同時にフランは自分と同じくピクシ-達から光る矢を受けていたにも関わらず、全くと言っていい程ピンピンとしているラックに驚く。


「いいって気にすんな!」


タフな体。そう言えば聞こえは良いものの実際はラックの我慢強さが成せる技だった。


そしてラックはフランの体を心配しつつ、眼前何処かにある滝を探していた。


「--ラック、あのピクシ-達何で俺達を襲って来たんだろうな」


暫くの間歩みを進め、フランは疑問だった事をラックに聞いてみた。


「……これは俺の推測なんだけど。森の部外者は入って来るなって忠告なんじゃないか?」


「かも知れないな」


フランは自分が予想した事と同じ考えだったと同調した。


「でも変だよな」


ただフランの頭の中にはどうしても気になる点が一つあった。


「変?」


「レナだよ」


「あ! ……確かにそうだ。何で?」


ラックはフランのその指摘に気付いたが、理由が分からなかった。


それは研究所にいるレナが、週に一度だけ1人タルマンの森に行くからだった。

しかしレナは何も無かったかのように研究所に帰って来る。


「それは分からない。だけど絶対何か理由はある」


「まぁ仮にそうだとして、レナは何で教えてくれなかったんだ?」


2人は歩きながらその理由を考えていた。


「ん~分からん!」


ラックは頭をくしゃくしゃとした。


「今考えても分からないな。帰ってからレナに直接聞こう」


そして2人はその話題をとりあえず横に置いて、水の流れる音が近くなって来ていた事に気付いていた。






ザァァァァァァァァ




そして森の中で2人の眼前に広がったのは、小さな湖と高さ8mある滝だった。


「やっと着いた」


フランは森の中を歩き疲れその場にぺたりと座り込んだ。


「フラン休んでる暇なんてないぞ。帰ったらレナがお待ちかねだからな」


「そ、それはそうだけどよ」


どの口が言うのか、フランはこの森に来たのはあくまでラックだと主張したかった。


(でも俺も同じか)


しかしフラン自身、勇者になる為の訓練の一つなどと自分に言い聞かせていた事をひしひしと感じていた。


そして2人はさらにその滝の上を目指す為、一度湖がある段差まで降りる。


その滝で出来た小さな湖は細い川となって森の中に通じており、他の生き物にとってもかけがえのない水。


それは森の中に住んでいる野生の動物が、その川の水を飲んでいる様子から分かることだった。


「やっぱり水分補給は大切だな!」


ラックは躊躇することなく湖の水を飲んだ。


「フランは飲まないのか?」


「俺はいいよ」


特に喉も渇いていなかったフランは滝の上に登れる場所を探す。


そんなフランを見ながらラックはもうひとすくい水を飲む。


「ラック。あの蔦登って行けそうじゃないか?」


フランが見つけたのは滝の直ぐ横になっている多様な方向になる蔦だった。


「うん、問題無さそうだな」


ラックはその蔦を触り登れる事を確認した。


そして蔦に足をかけながら、頭上高くにある足場を目指す。


フランもラックに続いて蔦に足をかけ、未だ見ぬルピマ鉱石とそれを取って来た鳥、ルピマ-グを想像していた。


フラン達の長所を言うとすれば、その恐れない精神と行動力だ。

普通いくら安全なモンスターと言われているルピマ-グも、羽根を広げればゆうに3mは超える大鳥。


ただフラン達は研究所に来てからというもの、3mを越えていたモンスターなど何回も見ている。

その為フラン達は例えルピマ-グが巨大なモンスターであろうとも、慣れた一種の錯覚に陥っていた。


間も無くフラン達はその蔦を登りきり、ルピマ-グがいると『モンスター図鑑』に書いてあった樹がある場所に辿り着く。

其処は先程フラン達がいた樹々の場所とさほど変わりはない。


「フラン、あの樹の上見てみろよ」


蔦を登りきって直ぐ近くにあった一つの樹の上を指差すラック。


「巣がある……。ルピマ-グの巣か?」


その樹の上。

高さ5m程の場所に枝が交差する巣が確認出来る。

しかしその巣を作った持ち主は居ないようで、それがルピマ-グのものかどうかはフランには分からない。


「フランあれ見ろ」


ラックは先程の樹の上にある、巣の中にポツリと輝くものを見つけた。

それは森の景色の中でキラキラと輝いている青い光だ。


「青い光!? またピクシ-か!?」


身構えながら、フランはそうっとその光を確認した。しかしその光はピクシ-が放つ光では無く、ルピマ鉱石の表面に反射する光だった。


「違う、あれがルピマ鉱石だ。--取って来る」


ラックは器用にもルピマ鉱石がある樹に足をかけた。


「頼む。俺はちょっと休ませてもらうよ」


フランはピクシ-達に追われた疲労と、異様に広いタルマンの森に翻弄されていた。近くにあった小さな岩の上に腰を下ろしたフランはその疲れを感じる。


(ルピマ鉱石、そんなに高く売れるものなのか?)


フランはそのキラリと輝くルピマ鉱石がどれ程の価値があるのかを想像していた。






「おわあぁぁあぁぁあ!!」


そして都合良くも突然起こった突風によりルピマ鉱石は高々とある巣から転げ落ちる。


ラックは樹から落ちまいと必死に掴まっている。


「これがルピマ鉱石……」


樹からコロコロ落ちたルピマ鉱石を拾い上げたフラン。意外にも大きい事に驚く。


青く光って見えたルピマ鉱石は、その光より濃い青色でその大きさは卵程の球体でずっしりとした重さがある。


「な? 綺麗だろ? 予想だけどそれくらいだと5万ゴ-ルドくらいかな」


突風が止んだことを確認したラックは、樹から降りてフランの元に行く。


「これが!?」


フランはこの小さな球が、労働で一日で得られる金額を大きく上回っていることに驚く。

ただそれはあくまでラックの自己判断の値段に過ぎず、実際のところどの位になるのかは不明。


「もう一つくらいないかな」


ラックはその一つで満足していないようで、ちらりとルピマ鉱石があった場所を見る。


「一つでいいだろラック! いい加減帰らないとレナの大目玉だけじゃ済まないぜ!?」


それはフランが自分達の身の安全を気にしたことの発言だった。


「大丈夫だって! 巣にはルピマ-グも居ないし、俺が見たところ後もう2、3個ルピマ鉱石はある!」


それはあくまでラックの予想だ。


「……ラック、本当に知らないからな」


念を押したフランだったが、ラックはもう一度ルピマ鉱石がある樹に登り始める。


良く言えば行動的、悪く言えば自己中心的。ラックは自分が無理だと思うまで突き進む性格だ。

それはフランが学生寮にいた頃から感じていたことで、何事にも突っ走る性格が羨ましくもあった。

しかしそれは時として良い結果に終わる事は少なく、大概は失敗に終わる事が多かった。


今回フランの頭をよぎったのは、またそんな失敗が繰り返されるのではないかと思ったからだった。







「グアァァァァァァァ--」






そんな中、森の中から特徴的な甲高い鳴き声が聞こえて来る。

そしてその声は明らかにフラン達の方へ近づいて来ていた。


「これって……」


フランは辺りを見回した。


「ルピマ-グの声だ。違いねえ」


ラックは途中まで登っていた樹から降りた。


「離れよう!」


フランはそのトーンからそれは鳥が威嚇している時に出す声に似ている事が分かった。

それと同時にフランは身の危険を感じて、其処から急いで離れた。


「待てって! フラン!」


ルピマ-グの姿こそ見えないものの、ラックはその声が近づいて来ることに慌ただしく走り出す。




「グアァァァァァァ!」



再び2人の耳に聞こえて来たのは明らかに近い距離。


2人は辺りを見渡すがルピマ-グらしき姿は確認出来ない。


「こっちだ!」


フランは登って来た蔦の方とはまた違う道を指差す。


「フラン、ルピマ鉱石は持っているだろうな!?」


「ああ、持ってるよ!」


フランが持っているルピマ鉱石を見せると、ラックはほっとした表情を浮かべる。


そしてフランから宝石にも負けない光沢を放つルピマ鉱石を受け取ったラックは、その輝きを改めて確認する。


「うん、やっぱり売るの勿体ないくらい良いな」


「ラック! そんなことより早くこの場を離れよう!」


フランはルピマ-グが今何処に居るか気にしながらラックの腕を掴む。


「分かってるよ!」


自身の懐にルピマ鉱石を入れたラックは、さっと振り返って先程の樹があった場所に向かってお辞儀をする。




「良し! 逃げるぞフラン!」


「伏せろラック!」


2人の上層を掠るかのように飛行する巨大な物体が通り過ぎる。


草木は靡き、風の音が周囲に広がる。


「……あっぶねえ」


咄嗟にフランの声で判断したラックはその飛行する物体がいる上を見上げる。


「あれがルピマ-グ……でかい」


目の前には樹の幹の上に止まる、巨大な怪鳥ルピマ-グが鋭い眼光を2人に向けている。


「フラン。これはかなりやばいかもな」


「……ラック、取って来たルピマ鉱石を置いていくんだ」


フランは研究所に来てから度々災難にあって来た。


一度目は研究所に訪れた初日の朝。トマトによって吹っ飛ばされて壁に激突したこと。


二度目は研究所で生態調査の真っ只中にいた、岩のモンスターに捕まりそうになったこと。


三度目はルピマ-グと同じくらいか、それ以上ある巨大な鳥に掴まれて空高くまで飛んで行ったこと。


そして四度目は起床後、逃げ出したスライムに朝食のサンドイッチを食べられて追われ、挙げ句の果てにはスライムの自爆で身の危険を感じる羽目になってしまったこと。


僅か一週間という短期間でこれだけの災難を経験したフランは少なくともモンスターに対して恐怖感が増していた。


その為、フランから見た今のラックの行動はルピマ-グを刺激しているようにしか見えなかった。


「はあ!? 何言ってんだ!? せっかく此処まで来てやっと取ったルピマ鉱石! 置いていけるわけないだろ!」


ラックは懐に入れたルピマ鉱石を強く握り締める。


「いいから置いてけって!」


「嫌だよ! 離せってフラン!」


フランは抵抗するラックに対して、力づくでルピマ鉱石を取り上げようとする。だがラックもそれに対抗するように抵抗する。


そんな風にもみ合っていると、ルピマ-グは巨大な羽根を羽ばたかせて勢いよく2人に向かって飛び出す。



「グァアアアアアアア!」



ラックは後方から飛んで来るルピマ-グを見て大きくフラン突き飛ばした。


ルピマ-グは2人の目の前で間を通り抜けて行く。


「助かったラック!」


「これで借りが出来たな」


「何言ってんだこんな時に! 早くルピマ鉱石を捨てろって!」


ルピマ-グが2人を襲う理由。それは紛れもなくラックがルピマ鉱石を巣から取ったからだった。


フランがラックにルピマ鉱石を捨てるように諭すのは、それを置いていくことが最良の答えだったからだ。


ルピマ-グは幹の上に再度止まったが、標的を逃さまいと2人から眼光を外さない。


「嫌だね! 俺はこれ売ってお金を貯めるんだ!」


「ラック!」


ラックは強くルピマ鉱石を握り締め、来た道とはまた違う森の中を走り出す。


「グァアアアアア!」


怒声を発するルピマ-グは羽根を大きく羽ばたかせ、スピードを上げて逃げる2人を追う。


そしてルピマ-グによって発生する風によって周囲にある草樹が揺れる。


「これでも喰らえ! デカ鳥!」


ラックは落ちていた石を拾い向かって来るルピマ-グに素早く投げる。



カァァン



するとラックが投げた石はルピマ-グの頭付近に見事にヒットする。ただその音が表していたのはルピマ-グの体の硬さであり、それが怪鳥と呼ばれる所以だった。


「カン? 硬い鳥なのか?」


フランの疑問は当然だった。


通常、鳥と聞くと体全体は羽毛で覆われおり、そんな機械のような音などするわけがない。


「知らねえのかフラン? ルピマ-グは別名『鉄の鳥』なんて呼ばれてるんだぞ。--だからこんな石投げても痛くも痒くもないのさ!」


ラックは再び落ちてある石を拾い、ルピマ-グに向かって勢いよく放り投げた。


「グァアアアアア!」


しかしひょいっと交わしたルピマ-グは、さらにスピードを上げて2人に向かって来る。


「これはマジでやばいかもな……」


ラックの額につうっと汗が頬伝えに流れる。


「だから早くルピマ鉱石を捨てろって!」


「……だめだ。俺には、俺にはどうしてもお金が必要なんだ!」


ルピマ鉱石を再び強く握り締めたラックは全速力だった。


「ラック!」


何故それ程までに固執するのかフランには分からなかった。


こんな危険な状況にも関わらず、そこまでルピマ鉱石を手放さないことには何か必ず理由があると思ったフランはとっさの行動をとった。


「フラン何してるんだよ!?」


フランは走るスピードを落として自らルピマ-グの標的になる。


「いるんだろ、それ。だったら俺が囮になるからさっさと逃げろ!」


ルピマ-グは逃げる対象をフランに注視して激突する勢いで向かって来ている。


「馬鹿野郎! 出来るかそんなこと! --ちくしょう……こんな石ころ!!」


ラックは懐からルピマ鉱石を取り出してルピマ-グに向かって勢いよく投げる。


「!」


ラックの意外過ぎる行動にフランは驚く。




ゴオォォン



重低音が響いた。


ルピマ-グは頭をふるふると振り落ちたルピマ鉱石を確認する。



「グァアアアアアアア!」


しかしルピマ-グの怒りはおさまらずその巨躯で2人に向かって来る。





バキバキバキバキ--




2人の横方向から樹の枝が折れる音が突如聞こえて来る。


直後。


ルピマ-グもちらりと音のする方を見るが、間も無く突風と共に吹き飛ばされて樹に勢いよく衝突する。


辺りにはまだその風の音が静かに鳴り響いており突如として訪れた救いの手に2人はしばし呆然としていた。


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