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第5話 タルマンの森の妖精

そしてフランとラックが研究所を出発してから2時間後。

レナも起床するが2人が居ない事に気づいていた。


「信じらんない! こんな朝早くから居なくなるなんて!」


(昨日フランの様子がおかしいとは思っていたけど、まさか2人で行くなんて)


レナはリビングのテーブルの上に置いてあった、一枚の紙切れを見ながら2人が居ないことに頭を抱えていた。


その紙切れには『未来の博士 レナへ タルマンの森に行って来ます byラック』と、丁重とは言えない文字で書かれたラック直筆のメモだった。


(ルピマ鉱石。昨日ラックがやたらと聞いて来たから間違いないけど、どうしよう……おじいちゃんに言った方がいいかな)


レナはフランとラックがタルマンの森に行ってしまったことを自分の所為ではないのかと思っていた。




「ワン!」


すると舌を出して腹を空かせているトマトも起きて来る。トマトはレナの様子を見てるものの、キョトンとしたその瞳は早く餌が欲しいと訴えていた。


「あんたは呑気で良いわね。--ちょっと待って直ぐ用意するから」


「ワン!」


トマトはその場でぐるぐると回り空腹を紛らわせる。


レナは棚の中からドックフードを取り小皿に入れた。



「はいどうぞ」


トマトは小皿に盛られているドックフードを勢いよく食べる。よほど腹を空かしていたようで、数分も経たないうちに平らげてしまった。


レナはいつもながらそのトマトの食欲に呆気にとられつつ、これからどうしようかと悩んでいた。




すると食事が終わったトマトが床をすんすんと嗅いでいる。


「トマト?」


普段からトマトが匂いをよく嗅ぐことは知っていたが、いつも以上に念入りにしていることが気になった。


「ワンワンワン!!」


「ちょっとトマト! 何処行くの!?」


トマトは体に風を纏い勢いよく研究所の入り口に向かって飛んで行くように走って行った。


レナはトマトが起こした風が収まるのを待ち、その行動の意味を考える。


「なんじゃいなんじゃい!? 今の音は!?」


マ-ク博士が来たのは風が収まった直ぐ後のことだった。


「おはようおじいちゃん」


(また徹夜したんだね、おじいちゃん)


レナは目の下にクマが出来たマ-ク博士を気にしながら、いつも通りに挨拶をする。


「ん、おはよう。ところでレナまた(・・)何かあったのか?」


マ-ク博士は昨日の朝スライムが起こした出来事のようなことが、また起きたのではないかと思考を巡らせる。


「大丈夫よおじいちゃん! トマトがちょっと暴れただけ」


「なんじゃ? また餌が欲しいと駄々でもこねておったか?」


「う、うん。そうなんだ」


レナがそう言うとマ-ク博士はやれやれといった表情でくるりと方向転換する。






ピンポ-ン



研究所のインターホンが鳴り響く。


「こんな朝早くから誰じゃ!」


マ-ク博士は徹夜明けで隠せない苛立ちをあらわにし、振り返り足取り早くその来訪者の元に急ぐ。


(ほんと、こんな朝から誰だろう……)


レナもマ-ク博士の後に続き、誰なのか想像する。




ピンポ-ン



「一度押せば分かる! まったく誰じゃ一体!?」


再び鳴ったインターホンはマ-ク博士をさらに不機嫌にさせた。


ガチャ


「おはようございます。マ-ク博士」


その来訪者は血相を変えたマ-ク博士に驚きつつ、冷静に挨拶をする。


「ど、どちらさんかな?」


マ-ク博士は斜めになってしまった眼鏡を戻しながらそう聞いた。


「お忘れですか? マ-ク博士」


そう聞き返す青年はベ-ジュ色の服を着ており、1メートル近くある長剣を腰掛けにぶら下げている。


「……もしやマ-テリーか?」


マ-ク博士は冷静さを取り戻し、その来訪者の直ぐ後ろに隠れていたモンスターを見て思い出した。


「そうですよ! 嫌ですよ忘れないでください!」


マ-ク博士にそう呼ばれる人物は、ぱあっと表情を明るくした。


「グリフォン……」


レナはマ-テリーの後ろにいるモンスターを見てそう言った。


声一つ上げないのはグリフォンの知性が見える。

大概のモンスターは何かとギャーギャーと騒ぐが、グリフォンは凛とした表情で、ラックより賢そう、とレナは思った。


「へぇ、よく知ってるね君。そう彼はグリフォン。僕は今日、彼の強化を頼む為にこの研究所に来たんだよ」


マ-テリーは馬よりやや大きいグリフォンのくちばしを撫でている。


(なるほど、これがグリフォン。そしてこの人が、昔おじいちゃんが話していたマ-テリーさん)


レナは今日、この研究所に来る人物がマ-テリー・カレンという名前の人だとは聞いていたが会うのは初めてだった。

ただマ-ク博士に聞いた話によると、まだレナが記憶も定着しない幼い頃、一度だけこの研究所に来たということだった。


「大きくなったなぁ……。あの時はまだお前も、儂の孫レナとさほど変わらない歳だったのになぁ」


マ-ク博士はレナの頭に手を置いた。


「マ-ク博士のお孫さんですか! 通りで目がよく似ている!」


「ど、どうも」


レナは少し気につつもそう返す。


「あ、そうそう! 此処に来る前寄った街で美味しそうなもの売っていたから買って来ましたよ。良かったら食べてください」


マ-テリーは片方の手に持っていた袋から、丸い果実を手渡した。


「ほぉ。これはホイップの実ではないか」


「ホイップの実?」


流石のレナもその実のことは知らなかった。


「ヤゴン島で取れる実だよ。何でも、その島で見つかった新しい実でとても甘い味がするよ」


マ-テリーが研究所を訪れる前に寄った西の街は、比較的他の街に比べて珍しい食べ物が多くある。


今回、マ-テリーが持って来たホイップの実はアストリア大陸南に位置する島、ヤゴン島で見つかった樹に実っていたもの。

そのホイップという名前はケ-キなどに使うホイップクリームの味に良く似ているということで名付けられたそうだ。


「んん! これは美味い! ホイップクリームの濃厚な甘みを凝縮した感じが素晴らしい! ほれ! レナも食べてみい!」


マ-ク博士は貰ったホイップの実に被りつきその甘味を味わう。


「--甘い」


レナはみかん程の大きさのホイップの実を両手で持ちながら少しだけ食べてみた。


「気に入ってもらえて良かったよ。後、良かったら残りの分も差し上げます」


マ-テリーはにっこりと笑い、まだ余っているホイップの実が入った袋をマ-ク博士に渡す。


「良いのか?」


「僕はもう食べたので。後はお2人で食べてください」


「それなら有り難く頂くとしよう」


マ-ク博士は余程気に入ったようで、ホイップの実が入った袋を嬉しそうに受け取った。


「おじいちゃん、私ちょっと出かけて来るね!」


ホイップの実を食べたレナは、マ-テリーに軽く会釈をして研究所入り口を飛び出した。


「レナ! 何処行くんじゃ!?」



「直ぐ戻るから~!」


研究所を飛び出したレナは急いでフランとラックの元に向かった。





「忙しないのおぅ」


「元気が良いだけですよ。僕もあれくらいの時は無茶ばかりしてました」


「まぁじきに落ち着くじゃろうが、レナはこの研究所の担い手となる人物」


今でも研究所に十分過ぎる程貢献しているレナは、マ-ク博士にとっては無くてはならない存在だった。

それは単に研究所の担い手というだけで無く唯一の家族だったからだ。


その後、マ-テリーの依頼により彼の相棒であるグリフォンの強化をする為、マ-ク博士はその身体を休める暇も無く研究室に戻って行った。







アイツら(・・・・)ったら本当自由気ままね!」


(私の言う事なんてまるで聞かないし、研究所に何しに来たのよ!?)


そしてレナは2人が向かったタルマンの森に急ぐ為、自分が出せる限界の速度で走っていた。

それはタルマンの森にいるモンスターがルピマ-グだけで無く、その他にも厄介なモンスターがいるからだった。

レナは2人がそのモンスターの対処法を知っている筈がないと、全速力でルマ平原を駆ける。





--そして。


そんなレナを知る由も無いフランとラックは、ト-ル湖のほとりにある人1人やっと通れる道を歩いていた。


「フラン、タルマンの森もうすぐだからな」


ラックは両脇に草が生い茂った道を進みながらそう言った。


「それ何回言ったよ」


フランは未だにタルマンの森に着かない事に少々疲れを見せる。

それはト-ル湖に入ってからこの細い道を何十分も歩いていたからだ。


そして時折、肌に触れる小さな虫がチクチクと刺してフランの疲れを増幅させる。


(レナ今頃怒ってるだろうな)


フランはレナが起こる姿を想像する。


「ラック! 早くこんな道抜けよう!」


「ちょっ、押すなってフラン!」


フランは早くレナのいる研究所に戻ろうと、前を行くラックの背中を押した。





パッ



すると両脇にある草の茂みから僅かだったが青く光るものが確認された。


「今の、見た?」


ラックは背中を押すフランに顔を向ける。


「うん。なんだろう……」


「いいってフラン。そんなことより早くタルマンの森に行くぜ」


フランは道を外れて青く光った場所を確認しに行く。


ただその場所には何も無くただただ背丈程ある草が生い茂っているばかりだった。


「イテッ!? 何だ?」


シュッと微かに聞こえたその音と共にフランの太ももに何かが刺さった。


「どうした? フラン」


「いや別に大したことじゃないんだけど、虫か何かに刺されたかもしれない」


痛みがする箇所を確認すると、ズボンの上に刺さった細く小さな矢のようなものがあった。


(何だこれは? --矢?)


それは文字通り矢のような形をしており、尚且つ光っている。するとその光る矢はフランが手に持つな否や直ぐに消失してしまった。


「消えた……てイタイイタイイタイ!?」


と同時にフランを襲ったのは先程消えてしまった光る矢だ。


光る矢はフランの身体に容姿無く放たれる。


「ラック! 此処早く出よう!」


フランは無我夢中でその場から離れた。


「何か知らないけどそうしよう!」


ラックは必死な表情で向かって来るフランを待ち、その場から急いで離れる。


しかしその光る矢は止むことなく放たれる。


「フラン! さっきから飛んで来るこれは何なんだよ!?」


ラックは腕に刺さったその光る矢を抜きフランに聞くが、直ぐに消失してしまう事に困惑と不安感が襲う。


「俺が知るか~! いいからもっと早く走れ!」


フランはその光る矢を放つ正体が気になりつつも前を走るラックの後を追う。


そして2人はト-ル湖を抜ける迄の間、その光る矢から逃げつつ漸くタルマンの森に着く。


間も無く今迄2人を襲っていた光る矢は唐突に止み、辺りに静けさが戻る。


「はぁはぁ……何だったんだよ! 俺達が一体何したって言うんだ!?」


ラックは両手を膝に乗せて息を切らした体を休ませる。


「--来る者拒む。それ又、汝らが所以」


「フ、フラン? いきなり何言ってんだ?」


突然フランの口から出たその言葉にラックの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。


「昔な、学生寮にいた時先生に聞いたんだよ」


それはフランがまだ学び舎の生徒だった頃、当時の先生から聞いた話だった。


「この世界は未だに未知の場所ばっかりで、その殆どは本来俺達のような人間が立ち入るべきところじゃない。だから、昔の先人達がそれを分かりやすく伝える為に残した言葉だって」


実際フラン達がいる世界は未だに謎が多く、解明されていない事を少しでも解き明かそうと研究が進められている。


しかし同時に、過去の先人達の末裔の中には人間が立ち入ってはならない世界もあると世に発信し続けてもいる。

しかし進んだ今の科学により、彼ら先人達の話を受け入れない姿勢を示す国もある事も確かだった。


「な、なるほどな。で、それが今の俺達の状況だって?」


「可能性だよ可能性! でもタルマンの森は既に人間達が足を踏み入れてる場所。それはまず無いと思うけど……。ホラ、行くよラック」


先程、自分達を襲って来た光る矢が気になりつつもフランはその歩みをタルマンの森に進める。


「待てってフラン!」


ラックは本来の目的であるルピマ鉱石を目指す為気持ちを切り替えた。


2人が悪戦苦闘しながらも漸く辿り着いたタルマンの森。


其処はト-ル湖から近い影響で地面が少しばかり柔らかい。

そして何より特徴的なのがその樹の太さ。周辺にある樹の殆どは樹齢が永く、1本1本がその風格を漂わせている。


「でさ、タルマンの森に入ったは良いけど目的のルピマ鉱石がある滝は?」


「……フランその事なんだけど」


「……まさか知らない何て言うんじゃないだろうな?」


フランはぐいっと近寄りラックに問いただす。


「…………」


ラックは目を泳がせている。


「はぁ~。そんなことだろうと思ったよ!」


「悪いフラン! でもこうしてタルマンの森に着けたんだ! 後はなるようになるさ!」


いつものラックのお気楽思考が発動し、フランはただただ呆れるばかりだった。


「……全く。まぁもう来てしまったものは仕方ない。とりあえず前に進もう」


フランはその足を、何処にあるか分からない滝を目指して森の中に歩みを進めた。


「さっすが! 頼りになるフランちゃん!」


「ちゃんはやめろ」


フランにそう言われラックはは-いと手を挙げた。


そして土の感触を確かめながらフラン達はルピマ鉱石がある滝に急ぐ。



しかし歩けど歩けど滝らしき音は聞こえず、2人の視界にはただ樹齢を感じる樹々が広がっているだけ。


たまに聞こえるのは何かの鳥の声だったが、それがルピマ-グかどうかは2人には分からなかった。


「なぁラック。もしルピマ鉱石を取ったらどうするんだよ?」


「そんなの売るに決まってるじゃん」


「だろうな」


ラックがそう答えると分かっていたフランだったが、内心何故ルピマ-グがその鉱石を好むのかも気になっていた。


「そう言うフランはどうするんだよ?」


「……俺は--」


その時、また2人の前に現れたのはト-ル湖で見た青い光だった。


そして2人がその光に気付いた瞬間ーー


シュシュシュシュシュ


四方から光る矢が飛んで来る。


「またあの矢だ! 逃げるぞラック!!」


「全く! 何でまた俺達を狙うんだよ〜!」


謎の光る矢は2人に容赦なく放たれる。


その矢はそれ程痛いわけではなかったが、チクチクと刺激するのは可能であれば避けたいものだった。


2人はその謎の光る矢から逃げる為、さらに奥深く森の中を進んで行く。


「ラック! あれ!」


逃げる最中、樹の上を移動する物体がフランの目に見えた。


「あれって、ピクシ-!?」


2人が見たその物体はその光る矢を放つ張本人達だった。


「あれがピクシ-」


(でもどうして……)


フランは光る矢をガ-ドしつつ、何故彼らピクシ-が追って来るのか考えていた。


「フラン、何でアイツらが俺達を狙って来るのか分からないけど、まずこの場を何とかしよう!」


「それはそうだけど、どうするんだよ!? この状況!!」


無数に2人に放たれる光る矢は、量が量だけに痛さが増していく。


「俺に良い考えがある! ちょっと目瞑ってろフラン!!」


何やら服のポケットに手を入れてゴソゴソとし出したラックは、丸い玉を取り出したかと思うとそれを勢いよく近くにある樹に向かって投げた。




コンッ



すると樹に衝突した玉はぱあんと弾けて、辺りには視界が見えない程の光がフラン達を覆った。


「行け! 行けフラン!」


まばゆい光でラックの声だけが聞こえる。


「わ、分かった!」


フラン達は視界が見えない状態で、走るスピードを落としてその場から離れた。




キィンキィンキィン



急に聞こえて来たその音はフラン達の耳を刺激する。

それはラックの投げた発光弾の音ではなく、先程のピクシ-が困惑した時に出す声だった。


フラン達はその特徴的な音が離れて行くことを確認しながら光が無くなるまで歩みを進めた。

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