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第4話 ラックの思惑


フランはゴクリと生唾を飲み込みラックの言葉を待つ。


「今日の昼間さ、タルマンの森の話してたろ?」


「それがどうかしたのか? ……! ラック、まさかお前」


「さっすが! 察しが良いなフラン」


今日の昼間。ラックはフランとレナにタルマンの森にあるルピマ鉱石について話していた。

しかしレナの話によると、そのルピマ鉱石があるのはタルマンの森の中の更に奥にある滝。そしてその上の樹の上層に目的のルピマ鉱石はあるという。


ただルピマ鉱石があるのはルピマ-グというモンスターの巣の中で、殆どの人間を襲う事が無いとしても捕獲レベルCプラスは危険だとレナは言っていた。

しかもルピマ-グはルピマ鉱石を狙う人間には容赦しない性格の持ち主で、そんな危険を犯してまで欲しがるものではないとタルマンの森へ行く話は無くなっていた。


「ラック、気持ちは分からなくも無いよ。だけど流石に捕獲レベルCプラスはまずくないか?」


捕獲レベルCプラス。このアストリア大陸全土でみるとさほど強いモンスターでは無い。しかし此処はルマ平原の中でも捕獲レベルCが漸く生息するくらいの地域に位置している。


その為この捕獲レベルCプラスというのは本来のモンスター生息レベルを若干上回るもので、危険度は高かった。


「見つからなきゃ良いだけの話! ルピマ-グが巣から離れてる間にスッとルピマ鉱石を頂けば良いのさ!」


「ったく! ラックの所為でいつも面倒するよ!」


ラックのその単純過ぎる思考に呆れてしまうフランだった。


「またまた~。そんなこと言って本当はフランもルピマ鉱石欲しいんだろ?」


「そ、それはだな……」


フランは言葉を濁した。


「別に隠さなくて良いよ。昔からのよしみだ。フランの考えていることなんてなんとなく分かる」


「……本当はな俺は勇者になりたかったんだ。だけど勇者になるにはそれなりに強くなきゃいけないし、頭も良くないと。それに武器や防具だっている」


フランがマ-ク博士の元に来た理由は勿論、今後研究所で活躍していく為。

しかし内心思っている事は全く別で、幼少期から憧れていた勇者になることがフランの夢だった。


ある程度お金は貯めていたものの、武器や防具、旅の資金などを考えると全くと言っていいほど足りていない。

そんな中このルピマ鉱石についての話題が出たのはフランにとっても悪い話ではなかった。


「なるほどな。それは俺もフランと同じだったから良く分かるよ。だけど現実を見てみろよ、勇者なんてのは人一倍努力が必要で命の危険と常に隣合わせ。それに比べて研究所で働く人間はどうだ? そりゃモンスターの調査や能力開発で危険な面もあるよ。だけど大陸中を旅する勇者よりよっぽど安全な仕事さ!」


「それでも俺は勇者になりたい! 勇者になるのは俺の夢なんだ!」


フランがここまで勇者にこだわる理由。それは過去にあった出来事が深く関係していた。


フランは研究所より遥かに離れた村で母であるティア・ハ-トと共に生活をしていた。

父はフランが物心ついた頃には既に居ない。のどかな雰囲気漂う村で育ち、幼馴染のレナやラックと共に大きくなっていった。


しかしある日のこと。


そんなのどかな村に押し寄せたのはモンスターの大群だった。

村には腕に自信がある勇者もいたが、そのモンスターの大群には敵わず多くの住人達が犠牲になってしまった。

フランの母もその1人で、嘆き哀しむ彼のことを知っているのは幼馴染のレナとラックと僅かに生き残った村の住人だけだった。


そして現在、他に生き残った村の住人が何処にいるのかは見当がつかず、フランは当時まだ若かったマ-ク博士の家で住むようになった。


フランが勇者を志したのも、当時自分にも力があれば母や村の人達を守れたかもしれないという思いが強く残ったからだった。


ただ当時のことがフランにとってトラウマとして強く定着してしまい、勇者になる為には必須であるモンスターに関する情報から目を背けているのも事実だった。


「分かった、フランの気持ちはよおく分かった! だったら、さっき言ったルピマ鉱石の話手伝ってくれるよな?」


「ラックそれとこれとは話が違う!」


そう反論するフランだったが内心は興味が尽きなかった。


「大丈夫さ! 直ぐに戻ればバレやしない! それにこれは今後フランが勇者になる為の第1歩にもなる!」


「……勇者になる為」


「そう! 勇者になる為!」


フランはこれが正しいことではないと理解はしていたが、自身が勇者になって活躍する姿を想像していた。


「それなら一丁やってみるか!」


(これは勇者になる為の訓練、そう訓練だ!)


フランはそう自分に言い聞かせる。


「良しその粋だ! ーー決行は明日の明朝。『モンスター図鑑』によるとルピマ-グはまだ他のモンスターが活動していない時間帯に自分が食べる木のみを探しに行くって書いてあった」


ルピマ-グは争い事を嫌い、他のモンスターが活動していないまだ日が登らない朝方に餌である木のみを探しに行く。


「ラックってこういう事になると嫌に張り切るよな」


ふんと鼻息を出し自慢でもしているのかように、ラックの表情はキラキラと輝いている。


「おうよ! でもそれはフランだって同じだろ?」


と、ラックが言うようにフラン自身もワクワクしていた。


「ま、まぁな」


するとフラン達がいるフロアまで美味しい匂いが漂って来る。



「この美味そうな匂いは……。フラン明日に備えて体力つけようぜ!」


ラックは足速に部屋を飛び出した。

フランはゆっくりとした足取りで夕食が並ぶ1階のフロアに向かった。







「2人とも上で何してたのよ! 夕飯出来てるわよ!」


焦がしバターの風味漂う匂いは、若干14歳そこそこの2人の腹を刺激する。リビングのテーブルには色とりどりの野菜、ス-プ、パン、シチューなどが並んでいる。


「マ-ク博士は?」


フランはその場に居ないマ-ク博士の居場所をレナに尋ねる。


「おじいちゃんはモンスターの生態調査で忙しいんだって! なんでも、今朝のスライムの事も調べなきゃいけないからって!」


マ-ク博士は本来の仕事であるモンスターの生態調査の為研究室にいた。


「そう。レナ、あのな--」


「フラン!」


ラックはフランの口を塞ぐ。フランはラックがした行動を直ぐに理解して話を合わせた。


「どうしたの?」


「いや、ほんとレナって料理上手だなぁって思って」


「えへへ、そう?」


レナはフランに褒められた事が余程嬉しいようで、照れ笑いを浮かべた。


「うんうん! 本当レナは料理の才能あるって! 研究所にいるより料理人になった方が向いている!」


「わざとらしいのよ! 言い方が!」


レナはラックに軽く蹴りを入れた。


「いて! 何で俺だけ……」


ラックはレナに蹴られた箇所を擦りながら自分には何故か厳しい事に疑問符が頭に浮かぶ。


「じゃ頂くよレナ」


フランは椅子に腰をかけて暖かいス-プを手に取った。


「俺も食べようっと」


そしてラックとレナも席に座って食事を始める。


近くのソファ-の上では研究所の番犬であるトマトが気持ち良さそうに眠っている。ラックはそんなトマトを気にしつつも、テ-ブルに並んでいる夕食を頂く。


食事中、3人はたわいも無い話をしながら明日の予定について考えていた。


「ねぇ、明日の事なんだけど。研究所にまた勇者様が来るんだって」


レナは焦がしバターが付いたパンを取り、シチューに浸しながらそう言った。


「勇者様が? その人名前なんて言うの?」


フランは食べていたチキンを完食してレナに聞き返した。


「確か、マ-テリー・カレンって人」


「マ-テリー・カレン……何処かで聞いた名前」


フランは記憶にある人物を探した。


「フラン、マ-テリーって言えばそれなりに有名な勇者の1人だぜ? 何でもエウリア海の諸島に生息するあの珍しいモンスター、グリフォンを仲間にしてるって話だ」


エウリア海。


それは此処アストリア大陸とサウザ大陸の中間にある。そして今話題に上がったグリフォンはモンスターの中でも上位クラスの強さも持ち、それと比例して捕獲レベルも当然高い。


さらにグリフォンは極めて目撃例が少ないモンスターの1匹で、この研究所にいるトマトより珍しいモンスターであることは間違いなかった。


勿論、トマトも珍しいモンスターであることに変わりは無いがグリフォンの個体数の少なさが希少性の後を押していた。


「グリフォン? 何だそのモンスター?」


フランはあいも変わらずモンスターに関しては無頓着だった。


ラックは少々呆れ気味に息を吐き、フランの肩に手をかけた。フランは頭に疑問符を浮かべるも、食事の続きを始める。その様子をやれやれといった感じでレナは見ていた。


「とにかく! 明日はその人が来るから大人しく研究所の用事を手伝うのよ!」


「分かってる!」


ラックは明日、自分達がルピマ鉱石を取る為にタルマンの森に行くなど口が裂けても言えなかった。


フランはシチューに浸したパンを食べながら片手を挙げて返事をする。


それからは、既に食事を済ませたレナの武勇伝や今朝ラックが行った街の話などを聞きながら夕食は間も無く終わった。


レナは空になった皿などを手早く片付け、マ-ク博士の生態調査の手伝いをに向かった。


「なぁラック。やっぱりルピマ鉱石取りに行くのやめない?」


「何言ってんだよ。フラン行く気満々だったじゃねーか」


「だけど……」


フランはやはり自分がしようとしていることが良くないことだと感じていた。


「良いよフラン!」


「良い?」


フランは何かを吹っ切ったラックに聞き返した。


「俺1人でタルマンの森に行くよ。その代わりレナには黙っといてくれよな!」


ラックはフランがそう言う事が分かっていたかのように潔く切り返した。


「何処行くんだよ! ラック!」


ラックの足取りは軽く、急ぎ足でリビングから出た。研究所の廊下を走る音からはまるでラックの今の気持ちを表しているようだった。


(ラックよっぽどルピマ鉱石が欲しいんだな)


リビングにはフランとソファ-で気持ち良さそうに眠るトマトがいるだけだ。


その何気無く訪れた僅かな静寂な空間はフランにとって騒がしい日常から解放された瞬間だった。

するとむくりと起き上がり目を覚ましたトマトは伸びをした後にリビングから出て行った。


「さてと俺も」


研究所の廊下に出たフランは奥の研究室から何かのモンスターの声が聞こえて来たことに少しばかり驚く。そして時折聞こえて来るレナの声は、フランのいる位置からは何を言っているのかは聞こえない。


フランは先に戻ったラックが部屋でゴソゴソとするのを気にしながら自室に入り、早めの就寝をとった。





ーー翌明朝。


まだ日も登って間もない時間フランは目を覚ました。それはやはりラックが1人でタルマンの森に行くと言ったことが気が気でなかったからだった。


隣の部屋では既に起床しているラックが何やらゴソゴソとしており、ギィっと鳴る音と共にゆっくりとドアが開く。


「ラック、ラック」


フランはそうっとドアを開き慎重な足取りで1階フロアに降りるラックを呼び止める。


「やっぱり行く気になったのか?」


「昨晩考えたけどラック1人で行くのはやっぱり危険過ぎる。準備するからちょっと待ってくれ」


フランは手早く準備を済ませた。


その後、早朝にも関わらず奥の研究室の明かりはついており2人はそれを気にしつつもタルマンの森に向かった。








「ラックそう言えばさ、タルマンの森が何処にあるか知ってるの?」


「ああ。此処からそう遠くはないよ。タルマンの森はト-ル湖を越えた向こうにある」


「ト-ル湖かぁ。俺が聞いた話だと確か昔落ちた巨大な落雷で出来た場所だって」


ト-ル湖。


それは大昔この地に落雷して出来た巨大な窪みの後に出来た湖。それは推測された中でも歴史上稀に見る落雷の一つに観測されており湖が出来上がる程の巨大な穴となった。

またその湖の近くに流れる川が繋がったことで、数多くの野生生物が生息するようになっている。


その為今ではルマ平原の中でも有名な場所の一つとなり、釣りや観光といった目的が絶えないスポットだ。


「そうそう。すげぇよなぁ、落雷で湖が出来るなんてよ」


「全くだ」


何故湖になる程の落雷が起きたのか、アストリア大陸の研究者の間では昔から度々話題に上がっている。

ただそれが単なる自然現象によって出来たのか、それとも何らかの人工的なものか。もしくは、まだ知らぬモンスターによってなのか。


それは現段階でははっきりと分かっておらず、巨大な落雷によって出来たとされる、ト-ル湖を含めた他の湖についても世間的には自然現象によるものだと公表された。



そして2人が研究所を出発してから間も無く、多くの人にとっての移動手段となっている巨大な馬、ビックヒッポスがゆっくりとルマ平原を歩いている。

その近くにはモンスターもいるものの全くビックヒッポスを襲う気配が感じられない。


それもそのはず。


ビックヒッポスの捕獲レベルはダブルAという極めて高い指標。それはトップ捕獲レベルSと二つ程しか変わらない指標であり、ビックヒッポスに挑もうなどという馬鹿なモンスターはそうはいない。

それでも中にはルマ平原を雄大と歩いている様が気に入らないようで、向かって行くモンスターもいる。


しかしながら結局はビックヒッポスの威圧感だけで身を引くモンスターばかり。

だが捕獲レベルが高いビックヒッポスは、今回フランとラックが向かっている森にいるルピマ-グより遥かに大人しいモンスター。

その為、怒らなさなければ人間達と何不自由なく接することが出来る。

ビックヒッポスが移動手段となっているのもこうした性格を知ってのことだからだ。



フランとラックは朝早くから仕事をするビックヒッポスを見つめながら、目的地であるタルマンの森に急いだ。


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