9話 スマホゲットだぜ!!
ウエストロッドの街ステイビア――。
中央に聳え立つ大木の名前がそのまま地名となったこの街は、都市の玄関口として一番栄えている。
ステイビアの木の葉は食用になり、とても甘い味がして、街の特産品にもなっているらしい。
「ウエストロッドって、町の名前だと思っていたけど違ったんだな」
「ま、その意味も込めて呼ばれるけど、正確にはウエストロッド大陸ね、この世界は4つの大陸に分かれているから」
「ほう、俺の元いた世界とはだいぶ違いそうだな」
デジコの話によると、この世界は4つの大陸で出来ていて、現在地の西大陸ウエストロッド、北大陸にノースベル、東大陸イーストエッグは大陸というより規模は島でイーストエッグ島とも呼ばれてて、南大陸がサウズロックと呼ばれるようだ。
度々名前の上がる東亜は、イーストエッグ島に存在する国らしい。
ようやく念願のウエストロッドに到着し、田舎者丸出しで辺りを見渡す。
町並みは、石造りの家が並んでいて、夕方の時間でも活気づいている。
「おお~、RPGの城下町みてぇな感じだな、いい雰囲気だぜ! この丸いのはなんだ? 意味あるのか?」
「ほら! のんびりしてられないわよ、急がないと閉まっちゃうわよ!」
のんびり見学をしたいところだが今は時間がないので観光は次回に持ち越しとし、スマホショップ基、個人用携帯端末店を目指し走る。個人的に玄関口に狛犬の様に設置されていた、道東とかにある丸型灯油タンクみたいな、球体のオブジェが何なのか非常に気になる。
「って、なんで顔隠してるんだ?」
備え付けのフードを深くかぶりだし、口元くらいしか見えなくなってしまった。
「別に、どうでもいいでしょ、走るわよ」
「おう! ……ここだな」
店自体はひと目でわかった。やはり、この世界の住人の必需品となるアイテムの店だけあり、外観から他の店と違っていて大きく立派な店舗である。
入ってみれば、元の世界さながらに端末が並べられていて、妙な安心感を覚える。
「すげぇ、完全にモバイルショップだよ、ポップとかまであるじゃん、“新型東亜製端末に乗り換えで端末代金割引キャンペーン中”とか書いてるじゃん~! “乗り換えキャンペーン”とかここに来て見れるとか感動なんだけど!! やべぇ!!」
玩具を買うために親に連れてこられ店に入った途端自尊心を堪えられず駆け回る子供の様に、はしゃいでしまう、何気なく目に入った商品案内のポップなどの文字もしっかりと読むことが出来た。完全に日本語だった。
こうなってくると、異世界というよりデジコの言うとおり同じ世界で別の時代かもとか思えてくる。しかし、そうなるとここは未来の地球で日本なのか? とか、次々疑問が湧き上がり思考停止するが、そこに店員さんが現れ我に返る。
今はそんなことより端末を買いに来たのだと。
「いらっしゃいませお客様、何かお探しの商品はございますか?」
「おっ、そうだな、ダチが東亜製いいって言ってたし、俺もそれにしようと思ってはいるんだけど、他のメーカーとか何が違うのか気になってたんだよね」
「あ、はい。今まで端末はKete製のこちらのタイプが主流だったのですが、東亜製品でタッチパネル画面方式という新しいデザインの製品が現れKeteが後を追う形でタッチパネル式を出し始めたところですね」
そうショップ屋のお姉さんが見せてくれたのは懐かしのパカパカ式のガラケータイプの携帯だ。
Keteというメーカーが独占でずっと端末を作っていたらしいが、ここ最近東亜がスマホ型を発明したらしい。スマホ市場によるガラケー根絶の波が異世界にまで広がっていたとは恐ろしいぜ……。
「なるほどね、デザインの先駆けは東亜さんで、製品の安定度はKeteさんってところかね、ちょっとKeteさんのスマホいじらせてくれる?」
「あ、はい。そんな感じです。あ、どうぞゆっくり検討して下さい」
「ふぅむ……これは悩むな……Keteもいいぞこれ……」
俺がスマホという度に、不思議そうな表情をする店員の心情をつゆ知らず。
やはり、店にきて製品を見て正解だったと悟る。
アルヴィアールが持っていた端末と比べると見た目のデザインは大人しいが、動きの滑らかさはKete製品の方が良さそうだ。
そして、耐久面のスペックを比べると東亜製は薄さなどに拘ったせいか若干弱そうである。
この先に自分が普段持ち続ける物として、とことん拘りをもって検討を重ねていく。
「そうだ、デジコのはどこ製よ?」
「えっ? 私?」
自分では決め兼ねて一緒に来てくれたデジコの持っているものを尋ねる。
俺の買い物に興味無さそうに特に買い換える予定は無いが店内を適当に物色していた所に声を掛けられ一瞬声がひっくりかえって可愛かった。
「東亜製……にしたかったけど、昔馴染みが出してるからKeteにしてる……わよ」
「なんだ、デジコの知り合いが作っているメーカーかよ。じゃ俺もKeteにしとくわ。サンキュー」
「よろしいですか?」
「おう、色は他に種類あんの?」
「ちょ、ちょっと、そんな簡単なことで決めていいの? ずっと東亜製にしたいって言ってたじゃない!!」
先程の拘りを切り捨てて淡々と決めていく俺の態度に慌てるデジコ。そんな彼女に向かってあっさりと答える。
「当たり前だろ、ここ迄してくれた奴の知り合いが作ってるんなら信頼感バッチリだぜ。ロゴも気に入ったしな」
後付のように決めた理由を付け足すが、ひらがなの“けて”に見えるロゴが煌めいていて、実際にカッコ可愛い感じのロゴデザインで好感触であった。
店員さんが、カラーバリエーションを数種類掲示して、一つずつ手に持って比べて、結局オリジナルカラーのホワイトゴールドに決めた。
ちなみに東亜製はKeteに対抗しているのかブラック系やダーク系の中二病心が疼くカラーがメインだ。
デジコの端末から代理で購入し、ついに念願の個人用携帯端末を手に入れたぜ!
「やったー!! スマホゲットだぜっ!!」
「お客様、製品登録は役所でこちらの端末をもって行いますので、後日お出かけ下さいね」
「やっぱりか……」
完全に使えるようになるには明日までおあずけである。
とりあえず、店を出ると外はもう真っ暗になっていて、街の隅に設置された街灯が人々を照らしていた。
「どうする? これから」
「どうするもこうするも、スギボウはどうせ役所の場所とかわからないし今晩泊まるお金も無いでしょ。仕方ないから明日まで付き合うわよ」
「なんだよその決めつけ、場所くらい一人で調べていけるぞ……ってデジコ一緒に泊まってくれるのか?」
「部屋は分けるわよ」
「ですよね」
女の子と二人で一緒に宿屋に入り、翌日店主に「おはよう ございます。ゆうべは おたのしみでしたね。」と言わせるイベントを期待したが、儚い夢だった。
たまにある挿絵は私がかきました。