7話 デジコとの出会い
「う……くっ……」
「あ、生きてた」
気がついた途端、少女の生きていたという声が聞こえてきた、どうやら死は免れていたらしい。
介抱され、彼女の部屋に運ばれ、ベッドで目を覚ます……という事はなかった。元いた場所から微動だにしないで放置されたままだ……。
動くと体の節々が痛むが、身を起こして彼女の方に体を向ける。
「巻き込んじゃったみたいだから助けようと思ったけど、デューロック臭かったから近寄れなかったの、ごめんね」
「…………ほぉ……」
魔法を打ち込んでいた時の彼女の顔は如何にも気が強そうで、「ごめんね」と謝る顔はどこか愛嬌があり……いや、ない。
一応手を合わせて謝る仕草をするが、何故だろう、謝罪の台詞に心が入っていなかった。とりあえず謝っとけという感じだ、この貧乳魔法少女は全然反省していない。異世界の出会いを大切に、この子には快よく結晶を渡そうと思っていたが、気が変わった。
「なぁ~~~~~にが臭いから近寄れなかったじゃああ!!!! 死にかけたじゃねぇかぁ、ふざけんな!!!!」
「はぁ? 仕方ないでしょ、クッサイんだから!! 一応気がつくまで見張ってて上げたんだから感謝しなさいよね!!」
「なにが見張っていただ、自分が汚れないの優先して、怪我人を放置するのがてめぇのいう見張りかよ!!」
「なに? そうだけど? 文句あるの? 亡魔獣から守ってあげていたんだから良いじゃない」
「あ゛? 亡魔獣?」
周囲を見渡すと、見たことのない亡魔獣の死体が転がっていた、何戦かした跡がある。
気絶していた俺を、この亡魔獣から守るためにずっと側に居てくれたのか……。
「……こいつらから、守ってくれていたのか……ありがとうな……怒鳴って悪かった……」
「わかればいいのよ、ま、私もイライラして周り見ないで大魔法撃った事も悪いんだし? それに私の魔法で死ななかったのは凄いと思うけど、その装備でこの森抜けるのは無理よ、あなた商人? 仲間はいないの?」
「仲間……は居ない、というか俺、この世界に突然呼び出されてしまったみたいで、そのjob職業って言うやつには就いてないんだ」
「突然呼び出された? けどその武器、商人がよく使う剣よね、job職業のことも知っているみたいだけど?」
「話せば長くなる……その前に、自己紹介しとこうぜ、俺の名前は杉木泰弘。よろしくな!!」
「……私は……、デジレ・シャトレーヌ……よ」
名乗ることを一瞬躊躇ったように思えたが、彼女は異世界に呼び出されたという俺の話を真剣に聞いてくれていた。
もちろん最初は案の定目を丸くして驚く表情を見せるが、冷静に要所を突いてくる。
見た目は幼いが、その切り替えの速さは熟練の冒険者って感じだ。
順を追ってこれまでの経緯を話していく。
その途中、アルヴィアールからもらった剣は、名前を『テクニカルソード』と言い、剣士のjobスキルである『剣修練Lv1』を使用可能な特殊効果付きの武器で、剣士job以外のjobでも剣士並の剣技が扱えるという凄い武器だった、どうりで素人なのに簡単に豚を倒せた訳だなと納得する。
「なるほどね~、時渡りの魔術っぽいけどそんなスキルはjobスキルには無いし……」
「jobスキル以外に魔法とかは無いのか? “時渡りの魔術”とか言葉がパッと出るあたりあるんだろ?」
「あるといえばあるけど……時渡りの魔術は本当に実在するかどうかはわからないって所かしら」
「可能性はあるが、未確認ってことか、俺の元いた世界では異世界転生とか異世界召喚という言葉があったんだけど、その線はないのかね?」
「それもあるかもしれないわね、けどこっちでは貴方のいう異世界というものはなく、魂は常に同じ世界を繰り返していて、私としては時渡りの魔術というイメージが強いわね」
「時渡り……それって、俺は同じ世界の別の時間にいるって考え方か?」
「まぁ、ね。けど私は異世界からの召喚のほうが夢があって好きだけどね」
「ふむ……」
思った以上にややこしくて難しい話になり、俺のぼんくらりんな頭では追いつけない領域の話しになっていく……。
ただ、転生の概念がこの世界にはあるらしいことがわかった。
わかった途端に、自分はもしかして知らないうちに死んでいたのでは? と寒気がし震える……。
「それよりさぁ……」
「ん……?」
急に雰囲気が変わり、強請るような甘い声に男を蠱惑するまなざしをしだす彼女に、どっきりする。
「それ欲しいんだけどぉ……、いい?」
「…………やらん」
やっぱり、ヌメロドロの結晶目当てで居ただけだったようだ。
「なによぉ、ケチ!! 別にタダで貰おうとは思ってないわよ!」
「ほぉ、怪我させた代償もあるし、一切値切らせないからなっ!」
「んむっ…………これでどぉ?」
掌を開いてみせる、5……だとは思うが、桁までわからない。
(5万かな? アルヴィアールはふっかけても良いとか言っていたし、もっと粘ってみるか)
「はぁ~……っ、まだまだだな……そんなんじゃ全ぇぇん然っっ足りないぜ!!」
「なっ……!? 5百万でも足りないっていうのっ!?」
「え゛っ゛、ご、5百万ッッ!?」
お互いに言葉を失い沈黙する。
予想外の高額に、逆に緊張するのは俺の方だった。
(ま、まじか……、この世界の貨幣価値とかよくわからんが500万は絶対すごいだろ……)
「しょうがないわね……っ、こうなったら足りない分は体で……」
「ちょっとまてぇぇぇぇぇぇっ!!!! いいよ500万で!!!! むしろ買い取って下さい!! まいどありぃ!!」
「ほんと? やったぁ!!」
「ひぃぃ……焦った……」
ローブの首周りに手を掛け脱ごうとする彼女を慌てて止めて、ヌメロドロの結晶を渡す。
実は、これまで年下の子供相手だと思って緊張しないで会話が出来ていただけで、今まで女友達も彼女も出来たことがない俺にとって、女の子の会話なんて普通にキツいのだ……。
「デ、デジコはまだ子供じゃないのか……? お、お金が足りないからと言って……いきなりぬ、脱ぎだそうとするのはな、や、やめといたほうが良いぞ……? というか、お金もいいよ、500万とか大金だろ?」
見た目的に小学生にも中学生にも見える彼女の大胆な行動に、説教くさいことを言って平静を装おう。
6歳から魔法とか使えるようになるということは、それくらいの年齢から冒険とかしているのだろうか? 元の世界とは、貞操観念が違うのかもしれないが、やはりここは年上らしく言っておかなきゃならないよな。
「はぁ? 私これでも一応300歳以上ですけど?」
「……ロリババアかよ……」
子供扱いされたことに半ギレし、ロリババア発言を聞いた彼女が直後脊髄反射で魔法を放ち、俺は再び地面を舐めることになった。
「それより、デジコってなに? 私のこと?」
「あだ名だよ、なんか……名前で呼ばれるの嫌なんだろ? だからあだ名でデジコだ、だめか?」
「ふーん、まぁ、いいけど?」
「俺のことはスギボウって呼んでくれよなっ!!」
生返事を返すが、表情を見れば、あだ名に満更でもなさそうに嬉しそうにしている気がする。
自己紹介をするとき、名を名乗るのを躊躇する素振りがあったため気を利かせた事が良かったようだ。
その理由が何かは気になるところだが、今は聞くつもりはない。
「それより、お金はちゃんと払うわよ、私は子供じゃないし500万くらい払えるんだからね!!」
親戚の子が背伸びしているみたいに見えたが、また喧嘩になりそうなので表情には出さない。
「そっか、じゃあ遠慮なく払ってもらおうか」
この世界の通貨がどんなものなのか期待してワクワクしながら待っている。
紙幣なのか、コインなのか、500万という数字から札束とか金貨とか出てくるのだろうと思っていたら、デジコは、例のスマホ型の機械である個人用携帯端末をとりだした。
それを見て、なんか察してしまった。
「もしかして、お財布ケータイみたいな感じかよ……」
当然まだ端末未所持の俺はお金を受け取ることができなかった。