5話 異世界の特異な豚事情
小鳥の囀りが遠巻きに聞こえてきて、目が覚める。
異世界にやってきて、初めての朝が来た。
洞窟からでると、まばゆい朝日に目を細める、ようやく目をあけて景色を見渡せば、昨日は暗くて良くわからなかったが、綺麗な草花が、朝露に輝く幻想的な森の中だったことに気が付く。
森林浴を楽しみ深呼吸して伸びをしたら腹の虫がなる。
「美しい景色をみたら、腹が減ってきたぜ」
昨夜、アルヴィアールが別れ際に渡してくれた小袋に入っていた食料は、どれもアウトドア向けの携行食で非常食として残しておきたい。
次の目的地となる街には、どうやら徒歩で5時間は掛かるらしい、出発前に森で朝食を済ませておきたい。
「せっかく剣をもらったことだし、これでいっちょ狩りでもしてみるかね」
正直、こういうサバイバルは憧れていて、剣を太陽に翳してはうっきうきで勇者気分を味わう。
「う~ん、これが剣か……、めっちゃカッコイイな……。今なら、なんとかべっぽが無くても戦える気分だぜ。まだかな~、モンスターのエンカウントまだかな~♪」
森の中を歌いながら探索し、ニタニタ笑って獲物を探す。
その姿は、ある意味モンスターよりも危険な姿に見えるかもしれないな……。
「そういえば、アルヴィアールのやつ、モンスターでなくて“亡魔獣”とか呼んでいたな、スライムみたいな奴は“ヌメロドロ”とか言っていたし……。固有名称みたいなのがちゃんとあるんだな。モンスター情報みたいな攻略サイトがみたいぜ……アルヴィアールにあのスマホみたいなやつで予備に使ってないの持ってないか聞いておけばよかったぜ……、多分スマホとならこのヌメロドロの結晶と対価あいそうだよなぁ……、しくったなぁ~」
昨夜アルヴィアールのスマホ(個人用携帯端末と言っていたが)を軽く使った感じ、ネットも使えそうな雰囲気があって、この世界の攻略記事をかってに想像しながら、草木が生い茂った歩きにくそうな場所をあえて進んでいく。
「あのヌメロドロはやっぱゲームでいうと王道の最初の雑魚キャラでHPは大体50くらいかなぁ、弱点属性は火だな、いや水っぽい感じだし雷系に弱いかもなぁ」
なんて、独り言をいいながら適当に設定を練っては一人で納得して遊ぶ。
風邪で学校を休んだ日とか一日中一人で漫画書いたりしてたな、そこは真面目に寝とけよってな。けど、熱とか出てぼーっとしている時って、無駄にいいネタが浮かぶんだよな。
いつか見た夢の続きって程でもないけど、幼い日に傘とか棒状の物を剣に見立ててなんとか斬りとか技を編み出してテンションを上げていた日々を思い出す。
だんだん最初の目的を忘れ童心に返ってしまい、無心で雑草を敵に見立てて叩き切っていた。
「しっかし、この剣の切れ味すげーな! おじさんのナイフはここまで切れなかったもんなぁ。商人のjobになればこの剣の攻撃力とか数字で見れたりするスキルがあるのかね、アルヴィアールにもっとjobスキルについて聞きたかったなぁ」
見た目は普通の鉄製の剣に見えるが、やっぱ現実世界の刃物とは切れ味が違うな!
少し長めの蔓を切り裂き、開けた場所に辿り着くと、モンスターもとい、亡魔獣に遭遇する。
どうやら向こうはまだ気がついていないらしく、先制攻撃のチャンスだ。
(しめた、さすがの俺も人語を喋るデュロックや、ヌメロドロみたいなキモい奴は食う気にならんが、あれなら食えそうだ)
それは、まんま豚の姿をした動物だった。
実は俺、自分の手で動物を捌いたことはないけど、現場なら見たことはあるのだ。
母の友人に、野生動物を狩るおじさんハンターがいて、鹿やイノシシの解体に立ち会った事があり、その時のイノシシとこの豚が同サイズだったため、素人の俺でも、「なんとか仕留めれそうだ」と思った、豚は地面に鼻を突っ込んで大人しくしている。食事時間のようで、そこに集中しているうちに息を殺して、ゆっくり、ゆっくりと近づく……。
やがて射程距離に入り、後ろから刺すようと剣を構えるが、不意に不安がよぎる。
おじさんは猟銃を使っていたため、刃物で狩猟するのは未知の体験となるからだ。
体験的に野生動物の皮の弾力性は覚えていて、普通に切りつけても恐らく跳ね返され、最悪、新品の剣でも刃が折れるケースもある、素人剣法なのでそのリスクはかなり高いし、勢い余って怪我をする場合もある。
剣を握る手が汗ばむ、それでも決心をつけ背骨から肋の隙間を貫くようにと、目標を定め、首筋を注意深く観察すると、その豚の模様だと思っていた頭部が模様でないことに気がつく、薄く繊細な布生地、丁寧に施された刺繍、レースの縁取り……!?
「ちょっ!! なんで豚がパンツかぶってるんだよ! まじウケるし!! 笑い殺す気かよッ!!」
豚みたいな動物はなぜか頭に女子物の下着を被っていたのだった。しかも微妙に女子力の高そうなパンティーだったのが余計にツボにハマってしまう。
命を掛けて真面目になっていたときに、野生動物が人工物のパンツを被っているというあまりの意味不明さに不意打ちをくらって爆笑してしまう。
笑い声に驚いて豚が逃げた……。
「やっべ、逃げられた、くっそ!! まちやがれ!!」
笑いすぎて涙目になりながら剣を振り上げて追いかける。
空腹感とアホらしさにムキになってガチで捕まえようと追い掛ける。
「こうなったら絶対にとっ捕まえてやるぜ!!」
動物との追いかけっこは、普段犬たちとよくやっていたのでなれていたが、流石に小型犬と野生動物ではスタミナも速さも違っていた。
「くっそ、追いつけねぇ……そうだ……アルヴィアールがくれたこいつを使ってみるか!!」
アルヴィアールが素早く歩けるようになるという疾風牌というアイテムを使ってみる。
疾風牌は麻雀牌くらいの大きさのもので最初片手では折りづらいイメージがあったが、“使う”と意識して軽く指で押したらポッキリと割れた。その瞬間――。
「おっ、おっ、おっ……これはすげぇぜ」
体が軽くなり、追い風を受けたみたいに走りやすい、ぐいぐいと追いついていく。
「よっしゃぁ、追いついたぜ、うりゃぁぁ!!」
渾身の一撃を御見舞し、豚っぽい亡魔獣?を仕留めることに成功する。
「やったぜ!! 初しょーりっ!!」
ヌメロドロとの戦闘はほぼ無意識のうちに終わっていたのでノーカンである。
豚が倒れる間際、頭に被っていた可愛いパンティーが、ふわっと地面に落ちる。
それを両手で拾い、目の前でつまみ上げる。
「……ドロップアイテム扱い……なのかぁ?」
『スギボウは、可愛いパンティー(白)を手に入れた!!』ってファンファーレとフキダシが見えた気がする。
「や……やったぜ……??」
スギボウの大冒険メモ
【テクニカルソード】
剣技を極めた者の力を借りることが出来る剣。
装備することで剣士jobスキル『剣修練Lv1』をパッシブで使用できる。
又、武器強化に伴いスキルレベルが+1される。(最大50)
系列:剣(片手)
攻撃:125
重量:1.5kg
【疾風牌】
一定時間移動速度が増加する魔法の牌。
使用レベル制限:1
重量:15g