4話 この世界のことを知ろう
なんだか面倒くさいやつと出会ってしまったなぁと、あからさまに嫌な顔をするアルヴィアール。
まあ、俺も最初に出会うのが美少女でなかったことで残念な顔をしているのでお互い様かな。
「で、jobってなんなんだ? それになって無いとかなりマズイのか?」
アルヴィアールが「ほんまにわからんのか?」という表情をしてから、ゆっくりと説明を始めてくれた。
「jobってゆうのは、剣士・魔術師・商人・射手・聖職者・暗殺者の総称で、それぞれのjobになることで、固有のスキルが使えるようになるんや、試験場で簡単にテストを受けるだけで、それらのスキルがタダで使えるよぉなるねん、jobに就いてへんと損やで?」
「ほぉ、なるほどな。そのjob試験が6才から受けれるようになるってことね。なっちゃえばそれだけでイキナリ魔法みたいなのが使えるようになるって事か? 修行とかなしに?」
「まぁ、50個までっていう制限はあるんやけどね。割り振ればすぐ使えまんねんよ」
「スキル振り分け制かよ、MMORPGにあるスキルツリーみたいなシステムだな……この世界ってもしかしてゲームの中なのか?」
「ゲームっちうか、普通の人間でも魔法を使えるようにと、マニアが開発したみたいやからね、その辺りの仕組みはよぉわかりまへん」
「マニア……? っていうのは何だ?」
「わいとは違って、頭のええ連中をマニアと呼んでいまんねんわ。この機械でスキルを振り分けて登録すれば、あとは自動で使い放題や、まぁSPがなくなりよったら使えなくなりまっけど、SPの残量やらなんやらもこれで確認できまんねん」
「SP? ああ、マジックポイントのことをこの世界ではSPっていうのね」
マジックポイントと言われて逆に不思議そうな顔をされるが、大体わかった。
ちなみにSPは、spiritualpointの略称らしい。
小さな端末を鞄から取り出すアルヴィアール。
それはなんと元の世界で馴染みのあるスマートフォンとほぼ同じ形状をしていた。
「ほぉ……すげぇな。ちょっと見せてくれるか?」
「ええやけど……、マイフォルダだけは開かないでおくんなはれね」
剣と魔法の世界だと思っていたけど、結構科学が発展しているっぽいな。
アルヴィアールが差し出した機械は、中身も完全にスマートフォンでタッチパネル式で、アプリとかまであって、元の世界のスマホと変わらない使い心地だ。勿論、通話やメールといった通信機能もある。
違うところといえば、そこにアルヴィアールが言うjob職業に関係するアプリのようなものがあり、スキルの管理が出来て、さらには、HPやSPというステータスの表示があり、レベルという概念もあるようだ。
数字をそのまま読み取れば、アルヴィアールのレベルは36でHPは2506、SPは117らしい。
この数字が高いのか低いのかは今はまだわからないが、彼の物腰から駆け出しでは無いということはわかる。
更にいじっていると、画像フォルダっぽいところがあって面白そうなので開いてみたら、可愛いアイドル風の女の子の写真が入っていた。アルヴィアールの彼女の写真だろうか。だとすればかなり羨ましいんだが。
「スギボウはん‼︎ 記憶喪失かと思っとったけど、個人用携帯端末は使いこなせるんやね、もう見ないでくれへんかの。恥ずかしい画像とかあるんや!!」
「すまんすまん、適当に触っていただけだ。何も見てないし俺も馬鹿だからすぐ忘れるから怒んなって」
ちょっとキレ気味になったアルヴィアールにスマホを奪い返される。どうせ使いこなせないだろうと思って渡したことが運の尽きなのさ。しかし先程の友好的な態度から、完全に恋人に中身を見られてふてくされるみたいな表情で睨みつけている。
「ホンマやろか? もう絶対に見せまへんからね!!」
「ははは、わりぃわりぃ、許してくれ。それより画像の女の子は誰よ? 彼女? めっちゃ可愛いな!!」
「スギボウはん!! やっぱり見たんやな!! まぁええ、美少女声優のホムリンこと凛華ちゃんやで!! メンコイやろ!?」
女の子の趣味があったらしく仲直りし意気投合するのは意外と早かった。
「まじで!? 声優までいるのかよ、この世界すげぇ!! と言うか凄い和風な名前の子だな、この世界に日本ってあるのか?」
「日本? は、ないな。和風ってスギボウはんの名前みたいな感じのやつやろ? 意外と多いで、そういう名前」
「ほぉ……そうなのか。じゃあ俺みたいな名前の人間がよくいる国の名前ってなんていうんだ?」
「東亜や」
「東京みたいで親近感あるなぁ。いいねいいね~」
気味の悪いモンスターが蔓延る見知らぬ世界に迷い込み、一時はどうなることかと思ったが、以外にも文明は元の世界と変わらないくらいに発達していそうで、現地の人間とも話が通じて、この先もどうにかなりそうだとほっとする。
「その東亜って国行ってみたいなぁ、ここから遠いのか?」
「東亜はやめときな、スギボウはん死ぬで?」
「…………え?」
異世界の観光名所したいなぁ、という軽いノリからの、そこに行くと死ぬ!発言で、いきなり現実に戻される。
やはり、種族間の戦争や、文明の発達によって暴徒化した機械などがあるのか?
「ここからは遠すぎて無理やで、歩いていったら死ぬで!」
「そーいうことかよ!! てか、そのjob職業のスキルだかで瞬間移動みたいなのは無いのかよ!!」
「あるで!」
「あるのかよ!!」
とりあえず、治安的な意味でアウトでは無いようだ。
東京に似た名前の国、東亜がどんな国なのか期待が高まるぜ。
「テレポートは、聖職者と、魔術師が覚えれるjobスキルで、わいは商人やので、使えまへんけどね。この個人用携帯端末も最新式で東亜製やで、カッコええやろ!」
「ほうほう、東亜は科学が発展してるんだな。アルヴィアールは流行に敏感なんだな、マジでそのスマホカッコイイぜ」
シャープで男心を擽るイカしたデザイン、街に行けたらとりあえず俺もそのスマホに機種変だな。
「スマホ? スギボウはんの国ではそう呼ぶのやね。ワイもそう呼ぼうかのぉ。東亜は無理やけど、この辺ならウエストロッド16番あたりがスギボウはんのいう和風の名前が多い地域やね」
「ウエストロッドね、次の行き先が決まったぜ」
「あそこはええ場所やで、やあ、わいはこれで、おいとませまんねん」
そう言うと荷物をまとめて立ち上がるアルヴィアール。
最初は野郎だとがっかりしていたが、話をするうちに仲良くなれて、今日は二人で野営するつもりでいたので意表を突かれる。
「え? 今日はここで野営するんじゃないのか?」
「待ち人がいるので、わいはもう出発しまんねん。行き先がちゃうので、スギボウはんはここで一泊して朝向かうとええ、この森を抜けて西に向かえば5時間くらいで、大きな木が見えてきまんねん、そこがウエストロッドの首都ステイビアや」
「そうか……ううむ、5時間も歩くのはきついな……」
「そういえばスギボウはん、武器もなあんも無いんやね、これはお近づきの印で差し上げまんねん」
剣と、小さな袋を差し出されるまま受け取る。
剣は、木製で出来たしっかりした鞘に入れられていて、引き抜いてみると刃こぼれのない新品だった。
「いいのか? これってお前の売り物だろ?」
「ええでええで、ここでなぁんもせんで別れたら、わい鬼やで。袋の中は、食べ物と疾風牌や、折ると早く歩けるようになるんやよ」
「おお!! こんな小袋に色々はいってやがる、すげー!!」
どういう原理かわからないが小さな小袋なのに、食べ物やその疾風牌とかいうアイテムが外観以上に何個も入っていた。さすが魔法などがある世界だと感動する。
「わい、レベル上げ代行業をしておるさかいに、といっても、まだ、開業前やけど。もしjob職業に就いたら連絡おくんなはれ。これわいのアドレスや」
そう言って、小さな紙にメアドみたいなアドレスを書いて渡してくれた。
レベル上げ代行というのは、job職とは違う。元の世界と同じ意味合いがある職業なのだろう。
どんな仕事なのかは今はよくわからないが、代行という辺り、アルヴィアールが代わりにレベルを上げてくれるのだろう。どっちかというと、レベル上げは人に頼らないで自力でやりたい派だが、個人でレベルを上げるのは大変な世界なのだろうか。
考え込んでいると、既に森の出入り口に向かっていたアルヴィアールに慌てて声をかけ引き止める。
「おーい、まってくれ、これ拾ったものなんだけど、やるよ。流石にこんな沢山タダでもらうわけにはいかねえよ」
そういい、スライムのようなモンスターを倒した時に見つけた輝く石を渡すが、それをみたアルヴィアールは驚いた表情で突き返してきた。
「これ、ヌメロドロの結晶やないか!! ごっつー高級品や。わいなんかより魔術師に売りつけたほうがええで。これ頂いたら、逆にこっちの対価が割に合わなくなるんやわぁ……」
「そんな凄いもんだったか……確かに、なんか凄いオーラあるもんな」
「めっちゃふっかけてもええ品やでぇ、ほなっ!」
そう言い、手を降ってアルヴィアールは去っていった。
それを見送って、辺りを見回すと、デューロックが残した焚き火の奥に洞窟があって、どうやらそこが普段デューロックの寝床として使われているみたいだった。
洞窟に入り、これもデューロックが残しただろう藁の布団に潜り一晩過ごすことにした。
若干獣臭い感じだが、イヴの臭さに比べたらかなりマシだったので、気にすることもなくぐっすりと眠りにつくことが出来た。
(アルヴィアール良い奴だったな……この先の出会いも良いやつばかりなら良いな)