そしてあくる朝。
めくるめく18禁は今回カットさせていただきました(笑)
時間があったらそのうちお月様の方にでも投稿させてもらおうと思います。
…なんでこうなったんだろうなぁ。
朝食の席。
自分ではとても作れないような絶妙な焼き加減の卵が、とろりと白い皿に流れ出すのを見ながら軽い現実逃避を行っていたミハルは、そぉっと正面に向けて顔をあげ、「うっ」と小さく呻いた。
――物理的に後光が差して見えるレベルに、リュートの笑顔が輝いている。
「ミハル、今日はあまり無理をしないように。歩くのが大変なようなら誰か介添えをつけさせるが…」
「いや、結構です」
手に持っていたカトラリーを無言で元の場所に戻し、皆まで言わせず制止する。
怪我人でもなし、処女喪失の痛みで動けないから介護してくださいなどと口が裂けてもいえない。
ましてや…。
―――痛くない。痛くないんだよ…。
リュートがよっぽど巧みだったのか、それともみはる自身が以外にそちらの才能があったのか…。
深く追求するのはできればやめておきたい。
「そうか?彼らも喜んで世話をしてくれると思うが」というリュートのつぶやきも、自身の精神衛生上聞かなかったことにする。
「次は朝食の時間も少し遅らせるようにしよう。私も、もう少し君の寝顔を見ていたかった」
「寝顔を見られながら起きるのは本当に心臓に悪いのでもう勘弁してください…!」
起きた瞬間、すぐ側にあの顔がある衝撃。
しかも神々しさ5割増しで、朝から目がつぶれるかと思った。
「今日から寝室はもう一緒でいいだろう?もう君がいない朝を迎えるのは辛い」
「うっ…」
すでに一線を越えてしまった以上、もはや我慢する気などないと、上機嫌のリュートの言葉はそう物語っている。
だが、ここではっきりそれを認めて良いものか…。
なし崩し的に毎晩…なんてことになったらどうしよう。
果たして耐えられるだろうか(精神的に)
「…も、もうちょっと待ってください」
「もう少し待つと式だな。…やはり初夜まで待つか?」
「くっ」
今更初夜という言葉はそれだけでダメージを受けるな、と思いつつ、とりあえずこくこくとうなづく。
「そうか。…なら、期待しよう」
「…」
何を!?と言わなかっただけ成長したな、自分と思いつつ、もはや言うまでもなくわかりきっているだけの事実にはは・・・と笑いが漏れる。
そうだ、話題を変えよう。
「あの、リュート様」
「?今更改まってなんだ」
「昨日の話の続きなんですが…式の前に、一度セインさんと話をするわけにはいきませんか?
できれば、アイリーンさんも呼んで」
その言葉に、訝しげな表情を見せるリュート。
「まだ何か、納得のできないことがあるのか?」
「…違う、とも言えませんね。確かに、気になるのは間違いないんで」
「私の説明では不十分?」
ほんの少し悲しげな顔をするリュートに申し訳なさがこみ上げるが、放置していい問題ではない以上、きっちり決着をつけなければ。
「多角的に見て自分なりに判断したい、それだけです」
「そうか…」
事情を知っているであろう人間3人、それぞれの話を全部聞いた上で自分なりに整理をつけたいというみはるの気持ちを理解したのか、「では明日、こちらに二人を招くことにしよう」と料理人に当日の采配を委ねるリュート。
「ありがとうございます」
「構わない。むしろ直接言ってもらえただけ嬉しい」
「…影でこそこそ、とかどうも難しくて向いてないんです」
だから今回も、悪手と思いつつリュートに直接話を聞くことを選んだ。
自分の家族のことを、他人に勝手に話されるのも気分のいいものではないだろうと。
「難しい、か…面白いな」
「面白くありませんよ。ただ単に馬鹿なだけですから」
そう、自分はいつまでたっても―――馬鹿なのだ。
だが、今回の判断に関しては馬鹿でよかったと思う。
もし、本人のいないところでこの話を聞いていたら、流石にもっと大きなショックを受けていたことだろう。
それを盾に結婚の取りやめを迫られたら、悩まないでいられる自信はなかった。
ちらり、とリュートに視線を送り考える。
もしかしたら、彼はそこまで分かっていて、「新しい家族を作ろう」と言いだしたのだろうか。
当然だが、子供を欲しがる彼は避妊などしていない。
排卵日の計算など考えてはいなかったが、昨夜の行為で子供が出来ている可能性は十分にある。
卑怯かもしれないが、それによって一つの理由ができたのだ。
彼のそばを離れずに済む、理由に。
世の中には、愛する人間の子を宿したまま姿を消す女性もいるようだが、みはるにはそれはできない。
それはこれから生まれてくる子供、そしてリュートにとっても大切な「家族」を奪うことだとわかっているから。
子供が出来たなら彼のそばで産み育てる。
それは、決して譲れない結論だ。
まぁ…たとえ逃げたとしても、リュートは決してそれを許しはしないだろうが。
自分と同じく、リュートもまた「家族」というものに強い執着を持っていることを、みはるは気づいていた。
恐らくそれは、彼の父親に起因するものなのだろうが…。
「セイン殿には使いを送っておこう。アイリーン嬢には…」
「私が直接お願いしてきます」
「そうか。それがいいだろう」
こちらに来てもらう、という手もあるが、お願いをするのはこちらだ。
自ら出向くのが筋だろう。
ましてやアイリーンはセインを嫌っていた。
同席してくれるかどうかは賭けである。
「ミハル」
「はい、リュート様」
改めて名前を呼ばれ、正面から向き合う。
「何があっても君を愛してる。それを忘れないでくれ」
「はい」
今更忘れろと言われたところで、忘れられるはずもない。
気づけば彼の存在は、こんなにも自分の心の奥深くに根付いている。
「楽しみだなぁ」
ふふ、っと笑われ、それが何を意味しているのか一瞬考えて…ぽん、っと顔が真っ赤に染まる。
それは、二人を迎えての食事会を意味しているわけではない。
それを証拠にリュートの瞳は、みはるの下腹部に、優しく向けられているのだから。
「そんなにすぐ…出来るとは限りませんよ」
くすぐったい思い出ぷいっと横を向き…みはるもまたそっと、まだ膨らむはずのない自身の腹に手を当てた。
いずれここに新しい命が生まれる。
知識としては知っていても、今はまだ実感がない。
だがいずれ…その日はそう遠くはないことだろう。
「でも確かに楽しみ…ですね」
そう、自身の腹に向かって小さくささやくようなみはるの言葉が、朝の日差しにゆっくりと溶けていった。