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「私、実は異世界から来たんです」

「…異世界?つまり、この世界のどこにもミハルの故郷は存在しないということか」

「…まぁ、そうなりますね」


土下座を止められ、何故か向かい合わせに乗せられたリュートの膝の上。

何かとてもいいことを聞いたとばかりの様子で満面の笑顔を浮かべるリュートに、みはるの方が軽く怯みつつ、恐る恐る尋ねる。


「あの…リュート様?なんで若干嬉しそうなんですか?怪しさ満載じゃありません?ってか、頭おかしいんじゃないかと疑ったりしません?」

「何故?」


―――いや、それこそ何故。


「どう考えたっておかしいですよ!だって、この世界には異世界人なんて言葉存在しないし、異世界からの迷い人なんて都合のいい設定もない。当然勇者もいなけりゃ魔王もいない!そんなところで突然『私異世界から来ました!』なんて言い出す女、不審者以外の何者でもないじゃないですか!私なら即効通報します!」

「別にかまわないんじゃないか?異世界から来ようがどこから来ようが、言葉が通じないわけでなし、何の不都合がある」

「…あぁ、まぁ確かに言葉は通じましたね…」


その理由は今でもはっきりわからないのだが。


「君は来るべくして私のもとへやってきた、それで十分じゃないか」

「十分…?ですかねぇ…」


なぜ、自分が説得される側なのだろう。

なにかがおかしいと首をひねりつつも、反論する理由はない。


「ところでリュート様。その嬉しそうな笑顔の意味は」

「君の帰る場所が私の元以外どこにも存在しないと知って嬉しくなった」

「!!!!」


そうくるか!!


リュートのヤンデレ度の高さに思わず脱力して膝をつきたくなったが、リュートの膝に上に座らされている現状では物理的に無理だ。


「…突然この世界にやってきたんです。もしかしたら、突然帰ってしまうかもしれませんよ?」


そうしたらどうするつもりですか、と伏し目がちに尋ねたみはるは、次の瞬間ぐっとリュートの胸元に引き寄せられ、その胸に顔をうずめていた。


「帰さない」

「…ですから、私の意志じゃどうにもできないかもしれないんです」


次に階段落ちしたら駅のホームに立っていた、なんて話もありえないことではない。

なんとかしてリュートの腕から脱出しようとして顔を上げるが、そんなことをお構いなしにリュートはみはるを抱きしめる腕に力を込める。


「ミハル、君は帰りたいと思うのか?私をおいて」

「…その、私をおいて、っていうのにアクセントをおくの勘弁してくださいよ…」


抵抗する力が弱まり、今度は自分からその胸に顔をうずめながら、くぐもった声で答えに窮する。

ある日突然元の世界に戻っていた。それであれば仕方ないと言える。

だが、元の世界に帰るかこの世界に留まるか。

自分で選択することを許されるとしたら、その答えは―――――。


「ミハル?」


答えを欲しがるその瞳が、常になく揺れている。


怖がっているのか、彼も。


すぐそばでその瞳を見上げ、そう気づいたとき、心は決まった。

――――否。


「目で訴えるのは卑怯です。…決まってるじゃないですかっ!」


初めから、帰る場所はひとつしかない。


「リュート様、あなたが私に家族になろうと言ってくれた。

そのあなたの元以外、どこに帰るって言うんです……!」


言って、リュートの瞳を正面から見つめて、すぐに気恥ずかしくなって再び顔を隠す。

ぐりぐりと胸に顔をうずめて、「あぁもう羞恥心で死ねる」とぼやくみはるだが、隠された顔にようやくの笑みが浮かんでいることにリュートもまた気づいていた。


「でも、不可抗力は別ですからね。その時は…その時です」


そう。今考えても仕方ないことは、その時になってみないとわからない。

前向きに思考放棄することもたまには大切なのではなかろうかと。


「ならその時が来る前に…早く家族を増やそうか」

「…はい!?」


ふっと耳元に息を吹きかけられ、囁かれた言葉の意味に思い切り飛び上がる。

ちょとまて。


「今そういう話してました!?」


してない。

間違いなくしてなかった。


「沢山、子供を作ろう。そうすれば、やがてその子達も大きくなり、家庭を作り、孫ができる。

その全てが君の居場所で、帰る場所<家族>だ」

植え替えたばかりの小さな木々が、長い時間をかけて、やがて大樹となるように。


「そうすれば、君はもうとても異世界人などとは呼べなくなるだろう?

まぎれもない、この世界の住人だ」


この世界にたくさんの根を張れ――――。

家族を作れと、そういっているのか。


「ふふ…そんな屁理屈…通用しますかね」


リュートの言いたいことが分かり、彼らしいと半笑いになって、思わず憎まれ口をたたく。


「通用させてみせるさ、必ず」

「じゃあ、それを信じます」


もう一度ふふ、と笑って、みはるはリュートの膝から立ち上がろうとするが…。


「あの、リュート様」

「なんだい?」

「…いや、なんか今ものすごく現実に戻りました。っていうか思わず真顔になりましたし正気に戻りました!」

「だから、どうしたんだ?」


何を言っているのかわからない、といった様子で首をかしげるリュートだが、いやいやいや。


「その…やる気満々のご立派なブツはなんですか!?」

「家族を作るんだろう?」


―――今すぐに。

何を今更、といった表情のリュートに、みはるは今が夜であることも忘れ、卒倒寸前の大声で叫んだ。



「誰も、今ここで(子作りする)なんて言ってません!!!!!!!」





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