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あるブラックな環境に生きた騎士の最期

アルファポリス様にて18禁バージョンを先行投稿中ですので、よろしければそちらもよろしくお願いします。

現在育休中の新米ママなので、時間の空く限り執筆する所存です!

(注 メンタル虚弱ですが、おだてられると気に登るタイプ(笑)なので感想等いただけると更新スピードが飛躍的にアップする場合があります。

もし、続きが気になって仕方ない!という方がいらっしゃったら、是非感想お願いします。



プロローグ


本当に、自分という男は救いようのない馬鹿なのだろう。

背中に突き刺さった矢は、肺までを貫通し、声は出ず、ヒューヒューとした息だけが口から漏れた。

気づかなければ良かったのだ。

王を直接守る役目を担っているのは、貴族階級出身の騎士達。

その彼らが見落とした暗殺者の姿になど、なぜ気づいてしまったのか。

「王!ご無事ですか!」

「即位式の最中を狙うとはなんという……!あぁ、ご無事で何よりです」

ただ、物陰から王を狙うその姿に気づいてしまったら、後は無意識だったとしか言い様がない。

儀式の最中、突然動き出した彼を静止しようとした同僚を振り切り、王の前に飛び出した。

王を暗殺すべく放たれた矢が、目標の正面に立つ彼を打ち抜いたのは、当然の事だ。

「暗殺者だ!!」

「どこから射ってきた!!?探せ、逃がすな!」

周囲の騒然とした音が、だんだんと小さく、遠くなっていく。

代わりに近づいて来るのは、つま先から徐々に侵食するような、死の気配。

「おい、大丈夫かっ!?」

―――大丈夫に見えるならお前の目は節穴以下だな。

余程そう返してやろうかと思ったが、残念ながら声は出ない。

誰もが王の元へ駆けつける中、ただひとり彼の元へやってきたのは、長年付き合いのある同僚だ。

数年前に行った彼の結婚式にも出席し、その席で酔っ払って散々に管をまいた、腐れ縁の友人である。

「このバカ!何でお前が出てったんだよ!近衛騎士のやつら、何してんだ!こんな馬鹿に遅れを取るようなら、近衛なんてさっさと解散しちまえ!!」

声を荒らげる男は、散り散りに動き始めた近衛を睨みつけ、暴言を吐く。

常であればその無礼を咎めるだろう騎士たちも、今回ばかりは誰ひとり構うものはなく、それどころか男達に視線を向けるものすら誰もいない。

王を保護し、暗殺者を探す、その為に動き出した騎士たちには、すでに用済みとなった”盾”の一つなど、どうでもいいに違いない。

所詮は使い捨ての道具。それが今回はうまく役に立ってくれた、その程度の認識しかないのだ。

『それが分かってんならどうして飛び出したんだ!』

そう、友人であるこの男なら言いそうだが、つい体が動いてしまったのだから勘弁して欲しい。

どうせ自分は馬鹿なのだ。救いようのない、大馬鹿だ。

せめてもの救いは、顔も性格も嫁に似た息子が、自分とは大違いに優秀なことか。

今度、騎士の試験をトップで通過し、まもなく王城へと上がるはずだった、息子。

平凡な願いかもしれないが、せめて息子の結婚式は見たかったな、と思う。

自分に似ず美形な息子は、いづれかわいい花嫁を連れてきたに違いない。

立派な式を挙げてやって、義理の娘には「お義父さん」と呼ばれたかった。

やがて生まれてくるだろう孫を、妻とともにでろでろに甘やかすのだ。

―――妄想と言われればそれまでだが、結局全てが、馬鹿な自分のせいでおじゃんになったのだと思うと、情けなくて涙が出そうだ。

この先、息子の未来を見続けることはもうできないのだと、それを考えるだけで。

これほど、己の命を惜しいと思ったことはない。

せめて声が出るのなら、友人であるこの男に妻と息子の世話を頼みたい。

そう思い、最後の力を振り絞ったその口元から吐き出されたのは、大量の鮮血。

「死ぬな!おいまて、まだ死ぬんじゃねぞ!!」

吐き出された鮮血を真正面から受け、自身もまた血にまみれながら、叫ぶ男。

彼らの傍に誰かが駆け寄ってくる気配を感じる。

もしかしたら治癒をできる人間がやってきたのかもしれないが、すでに手遅れだ。


『あぁ、惜しいな』


そう思ったのが、彼の最後の記憶だった。




読了ありがとうございました。


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