着艦と風呂
今回も宜しくお願い致します。
ヒウラ隊は全機進入経路01にいる。
今、CATCCからの指示を旋回しながら待機している所だった。
『ヒウラ①、準鷹CATCCだ。着艦を許可する。』
『了解』
亜久留は上空旋回待機に飽きて来ていた。
(早く俺の番にならねぇかな。もう待機も面倒臭くなってきた。)
空母〔準鷹〕は、幾ら全長1000メーター級だからと言っても着艦場所は1つしか持ち合わせていないのだ。
(全長ばバカ長いクセに着艦場所が1つとかマジあり得ないだろ。)
そんなことを思っている亜久留の耳元には他の機体とCATCCとの交信が流れている。
『ヒウラ②、CATCCだ。着艦を許可する。』
『了解』
(はぁ…やっと次か。本当に待ちくたびれたな。)
亜久留は軽くテンションが上がった。そして―
『キャポ、CATCCです。着艦を許可します。』
(よっしゃ!俺の番―っておい!誰だよ割り込みやがった奴。貴重な入浴時間は一体どうなるんだぁぁぁぁぁ……)
亜久留はガックリと項垂れた。
(多分、キャポって言う呼び出し名から察するにあれだな。輸送機だな。)
亜久留の予想通り、『キャポ』は輸送機である。と、言うことは―
(着艦までに結構時間掛かるじゃねえかよぉぉぉぉぉ……)
そう、戦闘機に比べて機体が大きい輸送機は、着艦後の作業に多少時間が掛かるのだ。
亜久留の心はボロボロになりそうだった。
〈数分後〉
『ヒウラ③、CATCCだ。着艦を許可する。』
「了解」
その返事をする亜久留の声は死んでいた。
(はいはい、やっとデスカイ。ヤットナンデスネー。HAHAHA、入浴デキマスネ。ジャパニーズfuro、yeah。)
もう、亜久留の心は完全に崩壊していた。
スラスト・レバーを待機状態まで引き、サイド・スティックを前に倒し、降下を開始する。
目の前の水平線が上に上がっていく。
右下に護衛艦が居るのを確認し、その数十秒後に左旋回を開始、水平線と共に空母の後ろにいる補給艦の姿が右に傾き、左には空母が見える位置にくる。
左斜め前に視線を固定し、そこに護衛艦が見える位置に来たらまた左旋回、空母の前に来る。
その後(今までの)着艦についての説明は前回にした通りである。
そして、亜久留は、空母の着艦場所後方にいる。
『ヒウラ③、LSOだ。位置が高い、少し降下せよ。』
亜久留は何となくぼーっとしていた為、LSOからの指示の声にびっくりして、つい過剰に反応してしまった。
『おい!何をやっている!下げすぎだ。海面衝突したいのか!』
亜久留もその事に気付き、慌てて機首を上げ、スラスト・レバーを最大推力まで押してしまった。
すると、一瞬遅れて強い加速と共に亜久留はシートに押し付けられ、機体は勢い良く上昇した。
『バカ!高過ぎだ!着艦やり直しせよ。』
亜久留は一旦所定の高度まで上昇し、また進入経路に入った。
(ダメだ、頭がぼーっとしてる。本当にこのままだと死にかねない。)
そして、2回戦目、今度は、成功した。
(良かった~取り敢えず早く風呂に入ろう。)
前にいるプレーン・ディレクターの指示で(もちろん手信号)、駐機エリアに機体を停止させた。
エンジンその他機器を全て停止させた後、風防を上げ、機体を降りた。
亜久留は甲板に立つと軽い目眩に襲われた。
(あれ、なんか立ち眩みかな?)
一瞬体がよろけたが、すぐに姿勢を建て直し、艦橋に入った。
エレベーターを降り、レディ・ルームで着替えると、亜久留は一目散に自室に向かった。
自室で着替えとタオルを持つと、男子用大浴場へと行く。
「風呂、風呂、ジャパニーズfuro、yeah♪~」
等という訳の分からない(分かったものじゃない、むしろ分かりたくない)鼻歌を口ずさみながら大浴場の前に来た。
(これが俺の待ち望んでた風呂だよ!)
亜久留は数秒で着替えると、浴槽へダイブ!ではなく、体をしっかりと洗ってから浴槽に浸かった。
この大浴場にはいろんな人がいた。ヒウラ隊の人、甲板でオペレートしている人等だった。
(やっぱり人気あるなぁ~)
ゆっくりと疲れを癒す様に浸かった後、更衣室で、コーヒー牛乳等が売っている自販機(無料!)でコーヒー牛乳を飲み、部屋へ戻った。
何か部屋が妙に騒がしかった。
(ん?どっかで聞いたことある声だな。てか、俺テレビつけっぱなしだったっけ?)
何となく悪寒を感じた亜久留は、艦長に言って部屋を変えて貰うよう直訴しようと決意、歩き始めた。
「おい。」
背後から何やら声が聞こえた気がする。多分幻聴だろう。
「おい、亜久留君、無視するなよ。」
亜久留は冷や汗が止まらなかった。
「あの…人違いだと思います…」
「亜~久~留~君~キミは殺されたいのかな?」
「マジすいませんでした。それだけはご勘弁を。」
そこに居たのは……外交官の娘、キャシー・ワークスだった―
最後まで読んで頂き有り難うございました。