第十八話 希望
少し短いですが、どうぞ。
あの騒乱から暫くの時が流れた。
村は再び平穏に戻り、村が一つ増えたこと以外はあまり変わらない。
強いて言えば、二つの村の間の行き来が増えて忙しくなったことが騒乱前との違いだと思う。
そんな中、太兵衛が近隣の村の長たちを連れて来た。
「この者たちは皆、殿の傘下に入りたいと申しております」
太兵衛の発言に合わせて、長たちが一斉に平伏した。
余りにも突飛な出来事に困惑した。
未だかつて経験したことのない状況に動揺しているのが、自分でもわかる。
これは一度保留にして、落ち着いて考えるべきであろう。
「お主らの気持ちはわかった。明日には返答をする」
その場で断られると思っていたのか知らないが、彼らの表情が少し明るくなった。
「嘉兵衛。この者たちを案内せよ。太兵衛は残れ」
嘉兵衛と長たちが出て行った後、太兵衛に尋ねた。
「何故、斯様なことになったのか、わかるか?」
「盗賊の一件が知れ渡ってから、人が次々と集まっております。そこで遂に長たちが来た次第にございます」
太兵衛の言うことに誤りはなさそうだ。
しかし、それではどうも理由としては不十分である。
何かが欠落している。
それは恐らく……
「太兵衛。お主、言い触らしたであろう」
「御冗談を」
嘉兵衛が乾いた笑い声を出すので図星だったらしい。
「偽りを申すのは宜しくないぞ」
「……」
「……」
「ええ。おっしゃる通りです。殿の功績は皆に知られて然るべきでしょうから当然のことではないのですか?」
少し睨みを利かせるとすぐに自白した。
というよりも言い訳を始めた。
「分かった。此度は赦そう。だが、あまり勝手な真似はするな。情報は出すべき時に出し、隠すべき時は徹底的に秘匿せよ。その事、努々忘れるでないぞ」
「畏まりました」
「分かったのなら一つ、仕事を頼む」
「何でしょうか」
「それはな……」
全てを伝えると、太兵衛は驚いた表情を隠しながら出て行った。
そして誰もいなくなると、一人静かに溜息をつく。
そうすると気持ちが段々と落ち着いてきた。
十分冷静になったとき、誰かに声をかけられた。
「あの……」
振り向くと、お京が立っていた。
「旦那様に是非とも聞いていただきたいお話がございます」
お京が招いて入って来たのは、都から連れてきた医者だった。
その医者を見て、騒乱前のお京の言葉を思い出した。
体調が芳しくないという話をしていたが、まさか重篤な病にでも罹ったとでもいうのだろうか……
「申し上げます」
真剣な表情をしている医者の言葉を、何故か笑顔のお京が遮る。
「いえ、それは私の口から……」
「稚児が……できたみたいです」
一瞬、世界の全てが純白に包まれた気がした。
意識が戻ったとき、お京の手を握っていた。
それから、そっと腹のあたりに触れる。
お京の持つ温かさと温もりを感じる。
ただ、それだけではなかった。
不思議と、その奥に大切な存在がいるのだという感覚があった。
繋がりというものを感じて、それに入り浸った。
もしかすると、次々と失っていき一人しかいなくなった家族というものに飢えていたのかもしれない。
先行きの見えない不安の中で、お京との間に新たにできた繋がり、そして新たな存在は、暗闇の中の一筋の希望の光に思えた。
「お京……」
続く言葉が見つからない。
だが、彼女なら言わずともわかるであろう。
守りたいものが増えた。
お京とまだ見ぬ新たな命を想いながら、ただ健康に長く生きてほしいと思った。
本作最大の主題はズバリ家族なので本当の『五代記』は今回が始まりです。




