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五代記  作者: なっかー
第二部――3章
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第十七話 初陣


 名乗りを上げたものの、いざ敵意ある集団の前に立つとなると妙な切迫感を感じる。

 なるべく早めに終わらせたいので示威効果のある名刀、土師部を抜く。


「各々方! 即座に降られよ」


 よく響く声で叫ぶと、一同の表情に戸惑いが表れる。

 すると誰かが肩を叩いた。

 その方を見ると、お京がいつの間にか取り出していた扇子を開いて口元を隠す。

 これはお京がよく、耳元で囁くときの合図である。

 耳を近づけてみると、助言だった。


「何も訴えはしない。ただ、我が傘下に入ってもらおう、とでも言うのはどうでしょう」


 それはつまり、お京は勢力を拡大してほしいと思っているということに他ならないだろう。

 お京の願いを叶えるのが自分の使命であるというのは、常々思っている。

 ところが、今まで何を出来ていただろうか。そのような思いが心の片隅にある。


 改めて集団を見渡すとあのときの――何もできずにただ逃げ、自分一人だけが生かされたときの――記憶が蘇って来た。

 親を失い、それで自分は何か成長できたのだろうか。

 自らに問うが、答えは出ない。

 しかし、あの後誓ったはずだった。きっと家を大きくすると。


 自分はただ、お京と出会ってから、その緩やかな時の流れの中で過ごしたいと思っていた。

 そしてそれは、お京のためであると思っていた。

 しかしそれすらも、自分の中で勝手に組み上げた甘い幻想だった。

 お京は、自分の心の中では言い訳の材料にしかなっていなかった。


 ここまでほぼ何事もなかったのは、お京のお陰だった。

 お京は何にしても、最後、決断する際には自分を抑えていた。



 ――ならば道は一つしかない。



「お上に訴えたり、罪に問うたりは断じてせぬ。ただ、その代わりに我が傘下に入ってもらいたい。どうだろうか」


 沈黙の中で発した言葉だったが、さらに静寂が続いた。



 その中、一人の男がおずおずと前に出てきた。

「あの……」


「どうした」

 表情は変えずに答える。



「あなた様は盗賊を討ち果たしてくださったお人ではなかろうか」

「あの女盗賊のことか」

「ええ」

「如何にもそうだが……」


 その言葉を聞くなり、集団の長が飛び出して跪いた。


「この度は申し訳ございませんでした! 我ら一同、誠心誠意仕えさせていただきますので何卒お赦しを……」


 それだけ叫ぶと、まるで仏像を崇めるかのように五体投地もかくやという姿勢になって固まった。



 反応に困ってお京の方を見ると、彼女もまた、驚きのあまり固まっていた。

 そのお京を見ていると、逆に冷静になることができた。


「咎などない。ただ、二心を持たぬ間はそなたを活かそう。そなたと言い合っていた嘉兵衛の顔が面白いほどに悔しそうであった。口が立つのは確かであろう」


 そこに嘉兵衛が口を挟む。

「こやつは昔から口が達者で一度も勝ったことがございません」


 嘉兵衛と旧知の仲であるならば都合が良い。


「お主、名は何と申す」

「古き名はもう名乗りませぬ。どうか、新しき名を頂きたく存じます」

「……ならば太兵衛と名乗れ」

「はっ。この太兵衛、身の終ふるまでこの温情を忘れませぬ」


 ふとお京を見ると、何か思案しているようであるが、一先ずこのまま続ける。


「太兵衛。お前は今日から嘉兵衛の許で働け。兵衛(ひょうえ)同士で気張れ」




 ――このとき、まだ忠氏は気づいてはいなかったが、盗賊を討ったことの影響は計り知れないものだった。


タイトル詐欺第二弾でした。後の世の歴史上では、これが一応、初陣扱いとされています。そして様々な脚色が加えられているとか。

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