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五代記  作者: なっかー
第二部――3章
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第十六話 騒乱


「注進!」

 その男の様子から只ならぬものを感じたのですぐに会議を中断した。

「如何した」

 咄嗟にお京が持ってきた水を一口飲んでから、その男は口を開いた。

「彼の村の連中が大挙してこちらに向かっております」

 その言葉に、一同が息を吞んだのがわかった。

「どれほどの数が来ているかわかるか」

「はい。村の半数が来ております」

「わかった」


 一度直師と視線を交わすと、彼は直ちに動いてくれた。

「あとのことは万事おまかせください」


「嘉兵衛。お前は動ける者を纏めて向かい合わせておけ。お京、忠師、ついて参れ」

「はっ」

 嘉兵衛はすぐに消えていった。


 馬のいるところまで行くと、速やかに準備を整え、騎乗する。

「お京。不都合はないか」

「大丈夫です」

「忠師。お主にとっても初陣となる、目覚ましい働きを期待しておる」

「はっ」


 鷹揚に頷いてから号令をかける。

「しばらくは音をあまり立てぬように駆けよ」



「御武運を」

 直師の見送りを横目に村を出る。


「対峙しているところより少し前で一度止まる。よいな」

「はい」

「はっ」



 しばらく駆けると、やがて二つの集団が見えた。


「嘉兵衛がいるのが味方だ。何かわかることがあれば教えてほしい」

「まともな装備があるのは私たち三人のみのようですね」

「いや、よく見てください。味方の方にもう一人いますよ。あれは……」

「長老殿か」


 思い返せば、あの長老ならばおかしくない。

 はじめて対面したときの所作や口調、刀の良い音、知識。


「気にするのはすべてが終わった後だ。行くぞ」



 * * * * * * * * * * 



 ――忠氏ら3人が到着する前の戦場にて


 一際目立つ男、嘉兵衛が集まった男衆に呼びかける。

「よいか。我らが仰せつかったことは、敵と向き合い、動かないことだ。敵を動かさないようにしていれば長たちがうまくやってくれる」

 続いて、長老が呼びかける。

「あの盗賊が倒れたときを思い出すのだ! 信じてひたすら待て」


 新進気鋭の若者の有力者と前の長の話とあれば異議を唱えるものもいない。



 そこに丁度、手に農具やら槍やらを持った一団がやって来た。

 その集団の長が大声で呼びかける。

「お前ら! 此度は許されると思うなよ」


 一人、彼と面識のある人物がいた。嘉兵衛だ。

「お前……」

「ああ、嘉兵衛か。気分はどうだ。数はこちらが多いぞ」

「数などどうでもいい」

「もう諦めたのか、嘉兵衛よ。張り合いがなくてつまらないではないか」


 嘉兵衛があくまでも時間稼ぎに徹しようと沈黙を貫いていると、彼はさらに続けた。


「ああ、なるほど。隣にいる長に媚びへつらってガキ大将にでもしてもらったか」

「もうその人は長ではない。それに媚びた訳ないであろうに」

「その口もいつまで続くのやら」


 嘉兵衛は旧友に呆れながらも、横目で忠氏ら三騎の到着を確認した。

「この無駄話も直に終わりだ」

「そうだな。お前の口が……」

「もし、こちらに武士(もののふ)がいるとしても、まだ続けられるかな?」

 嘉兵衛の強い語調に旧友はたじろぐ。

 その横で嘉兵衛が左腕を大きく回した。三騎への合図だ。


 その瞬間、馬の鳴き声と共に馬蹄の音を響かせながら、立派な武者が三騎駆けてきた。

 懸念されていた飛び道具の類は見られない。

 予定通りに辺りを一周走ると二人の近くまでやってきた。



 正面に立つ忠氏が叫ぶ。

「我こそはあの村が長、新太郎忠氏なり」


 京子はその隣で、夫がわざと家名を名乗らなかったことに気付き、くすりと笑った。


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