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五代記  作者: なっかー
第一部――2章   家
13/28

第六話 CAN YOU CELEBRATE ?


 婚約がなされてすぐに、冬将軍はやってきた。その将軍は年も変わらぬうちから勢力を拡大し、年末にはあたり一面を銀世界にした。

 そして年が明けた、ある日のこと。



 * * * * * * * * * * 



「若……ではなく……殿!」

「どうした、じ……忠師」

「実は隠していたことがございまして」

 そう言って忠師は大量の書状を持ってきた。

「これは……」

 手に取って見てみれば、手紙を交わしているのが錚々(そうそう)たる面々であることがわかる。

 忠氏は驚きを隠せずに、一つ一つ丹念に確かめていた。忠師が手紙を交わしていたのは、五摂家から三管領など、多岐にわたっていた。そして、それらからは京の様子もうかがえた。その書状によると、足利義視が新将軍に奉られたとかいう。


 やがて、忠氏は自室から紙と硯を取り出すと、現・近衛家当主、近衛権大納言政家殿へ書状を(したた)めた。



///


謹啓

 新春を寿ぎ、謹んでご挨拶を申し上げ候。近衛様も益々御健勝の事と存じ候。

 此度、貴方が姪御、京子殿と婚約致し候。此の儀、公認せられたし。

 以後とも宜しく頼み候。

謹言

 応仁二年正月吉日

            ()()新太郎忠氏(花押)

近衛権大納言政家様


///



「これを」

 そう言って忠氏は忠師に手紙を渡した。

「何処に」

 忠師の問いに脇にいた京子が答えた。

「叔父上様ではないのですか」

 忠師が来たとき、すでに京子は今のような立場にあった。つまり、彼は京子がどこから来たのか理解する必要がなかった。また、疑問に思っていたのだが、主や本人に聞くのを躊躇っていた。

「叔父上様とは、どちら様でしょうか」

 そこで再び忠氏が答える。

「近衛の権大納言様だ」

 忠師は少し驚きながらもかしこまりました、とだけ言い残して一面の銀世界に一人飛び出していった。



 * * * * * * * * * * 



「――――頼むぞ。『オオカシラ』」

「お公家さん、褒美はたんまり頂きまっせ」

「うむ。行け――――」



 * * * * * * * * * * 



 鳥の鳴き声がする。

 とても清々しい朝だ。

 大きく息を吸って、それからいよいよ今日という日が来たのだと感じた。

 ふと土間を見ると、すでにお京が起きている。

 お京が食事を作るその横へと行き、それから加勢をする。

 ふと横を見たときに見えたお京の表情はいつもよりも艶麗に見えた気がした。


 それは、本当に静かな朝だった。



 日が高く上った頃、一人の客が来た。

「近衛権大納言様が名代、正親町三條公治にございます」

 無論、このようなことは予想もしていなかった。

「よくぞ参られた。婚儀は今宵ゆえ暫しお待ちを」

 無難な挨拶のみを交わして、客間にお通しすることになった。


 当然のことながら、「客」は一人だがお付きは当然いる。彼ら全員を客間に通してから、忠師に会った。

「お主が連れてきたのか」

「いえ、近衛様が婚礼に親がおらぬなど姪は余りにも不憫であろうとおっしゃりまして、その代わりとして名代をお出しになられたようなのです」

 確かに気が利くと言えば気が利く。

「なるほど。それでは私はどうなるのであろうか」

 忠師は少し困惑した表情を見せたが、すぐに答えた。

「殿には儂がおりますれば」

 忠師はそう言い残して、そのままどこかへ行ってしまった。




 ――――やがて、静寂の朝とは打って変わって騒がしい宵が来た。

 その喧噪の中心はかつての村長、つまり今の長老殿の家にあり、そして主役は、この忠氏と、そして妻の京子である。

 盛り上がる宴の中、一人が盃を交わしに来た。

「村長さん。あんたの嫁、別嬪さんやわ」

 その男は名を嘉兵衛と言い、交友が深い者のうちの一人である。彼は酔っている上、彼であるから別に不遜な態度を咎めはしない。

 彼の視線に合わせてお京の方を見ると、彼女もまた、村の女房たちに囲まれていた。

 女房たちの間から垣間見えるお京の顔は酒で明らかに紅潮していた。嘉兵衛が言うのも頷ける。

 辺りを見回すと、そこらは無礼講と化していた。その輪の中には正親町三條殿もいるというから驚きだ。


 それから何人もと盃を酌み交わした。次第にこの夜が永遠に続くのではないかと思うようになった。

 少しずつ夜が更けていくと、それに伴って宴も酣になった。そこで正親町三條殿が立ち上がった。

「宴も酣ではございますが、そろそろお開きにしましょう」

 しかし、その声は喧噪にかき消され、皆の耳に届くことはなかった。

 ただ、このままでいる訳にもいかないので、宴から退出して帰った。

 主役が抜けてもなお盛り上がる宴が昼まで続いたのは、また別の話である。


I can celebrate……

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