表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

やり取り

●ショウタが東京に引っ越して一週間後のこと。


「ゴメンね、ユリ。お父さんがお金がかかるからダメって言うんだ」


 そう言われたユリは、あまりのショックに、その後の話に耳を傾けることはできなかった。



 ユリはショウタとの連絡手段を無くした。



 否、本当に無くしている訳ではない。なぜなら、ユリから電話を掛ければ向こうは料金を払わずに済むからだ。


 しかし、幼さ(ゆえ)か、その事実を二人は知らない。


 ユリの家族はその事実を教えなかった。なぜなら、家族はユリがショウタと連絡を取れなくなった理由を知らず、[取れなくなった]ではなく、[取らなくなった]と勘違いをしていたからだ。


 一方、ショウタの父親もその事実を教えなかった。なぜなら、電話の向こうの相手…つまりユリに、ショウタを奪われる気がしてならなかったからだ。



 しかしユリは、新たな連絡手段の扉を、最後の電話を終える直前に作った。


 ショウタが別れを告げる直前、ユリは我にかえり、あることを言った。 それは、ユリのケータイのメールアドレス。 声を震わせながら、ユリは丁寧にその暗号を何度も繰り返し伝えた。


 ショウタはそれを電話越しに聞きながら、紙に書き記した。途中、鉛筆が何度も折れた。



 そして、全てを書き記し、二人は別れを、


「ケータイを買ったら、メールをしてね」

「一番最初に送る。 絶対」

「絶対だよっ!」

「うん」


 告げた。



●それから三日後の夕方。 ユリのもとに一通のメールがきた。それは、知らないアドレスからだった。


 ユリは少し不審に思いつつも、メールを開いた。


送信者:○○○○○@ezweb.ne.jp

 件名:(non title)

 本文:ショウタだよ!(^^)!


    ケータイ買ったo(^^)o


    父上様を説得するの

    大変やったわ(-_-;)



 ユリはベッドの上で飛び跳ねた。驚きと喜びを隠せていなかった。 まさかこんなにも早く再会するとは、夢にも思っていなかったからだろう。


 ユリは自らの高鳴る鼓動を感じながら、返信メールを打った。 頬が若干赤い。


 件名:Re:

 本文:お! ケータイ買ったんや

    (*^_^*)


    良かったわー(〒_〒)


    やっと連絡とれるように

    なったね☆


    これからは

    毎日メールするけん!

    覚悟しぃよー(^_^)//



 ユリは焦りながらも、なんとか打ち終えた。 そのときの焦りが若干メールに現れていることに気付かず、そのまま送信した。


 ショウタのアドレスを記録して、次のメールを待った。



●数分後。 ユリのもとに、返信のメールが届いた。


送信者:ショウちゃん

 件名:Re2:

 本文:お前こそ覚悟しろ(^_^)v



 ユリは「覚悟しよう」と思った。



●翌日の昼。 ユリは学校に居た。そして今は昼休み。


 ユリは、もしメールが届いていたら、他の子に見られたくないという思いから、女子トイレに入った。


 そして、サイレントマナーモードにしておいたケータイのチェックをした。


 案の定、メールが届いている。ショウタからだ。


 それも、届いた時間は十二時半。今より一時間もまえだ。少し申し訳ない気がしてか、ユリは恐る恐るメールを開いた。


送信者:ショウちゃん

 件名:(non title)

 本文:よ! 元気?

    俺は超元気だょ(°▽° )


    勉強はドコモ難しい

    しゅん(_ _※)


    ユリは相変わらず

    エリートかな?


    なんてねー_(_^_)_



 メールの内容を見て、ユリは笑う。そこにさっきまで居た不安は、どこかへ逃げていった。


 件名:Re:

 本文:おかげ様で(*^_^*)


    エリートだよー。

    きらーん☆ ふふふー。


    勉強ね。だいじょーぶ!

    ショウちゃんは

    やればできる子よ(^_^)/~



        送信。


「ショウちゃん……」


 ユリは、ケータイを「ギュッ…」と、強く握りしめた。



●ユリは教室に戻り、席についていた。


 不意に、授業中じゃないため、通常マナーモードにしておいたケータイが震える。 ショウタからのメールが届いたのだ。


 さっきまでは、他の子に内容を知られることを恐れていたが、その注意はショウタのメールの内容が知りたい思いでかき消されていた。


 その姿が気になってか、ユリの周りに数人の子供が集まる。


 その中、一人の女の子がユリに、「誰からー?」と訊いた。


 話し掛けられたユリは少し驚いていた。どうやら、子供達が近づいていたことに気付いていなかったらしい。


「ショウタ君から、だよ」


 質問されて答えないのは流石に失礼だと思ったらしく、ユリは答えた。


「ショウタから!?」


 数人の中の、一人の男の子が声を張り上げる。


「なんやアイツ! 俺にはなんも連絡ナシなのにー」


 その男の子はショウタと仲が良い子で、ショウタとよく遊んでいた。


 ユリもそれを知っていたから、一つの連絡も無いことに少々不自然さを覚えていた。


 しかし、その疑念はすぐ消えた。


「お前、ケータイ持ってないやん」

「あ、そうやったな。ははー、ウッカリしとったわ」

「アンタぐらいだよ、持ってないのは」


 というやり取りを聞いたからだ。


「で、なんち(なんて)書いとる?」

「え? えっとね…」


 他の男の子が、メールの内容を知りたいと、目を輝かせる。ユリがそれに応じる。


 この日からしばらく、こんなやり取りが続くことになる。





 このやり取りこそが、ヒントであることに、ユリは最後まで気付けなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ