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つまらない試合


 しばらくしてから、眠るトゥーフェイをたたき起こして「帰りたい」と伝えた。

 起こす必要は必ずしもなかったが、彼女はこの仕事部屋兼隠れ家のある場所を知られたくないと言っていた。その気持ちを尊重するなら、起きて案内してもらうしかない。


 ボクとライライは再び目隠しで視界を隠されたまま引っ張られ、大通りのど真ん中でまた目隠しを取った。


 「さよなら」とだけ告げると、トゥーフェイは気だるそうにとぼとぼ歩き去っていった。


 その貧相ながら隙の無い後姿をそっと睨みながら、ボクは見送った。


 どうしようもない鬱屈と、明日へのかすかな不安を引きずりながら、ボクは『呑星堂(どんせいどう)』へと戻った。


 風呂に入り、寝台の中で待ち構えていたミーフォンを追い返し、そのまま眠ろうとした。


 だが、なかなか寝付けなかった。緊張していたのだ。


 トゥーフェイが常に崩さない、あの気だるげでマイペースな振る舞いを思い浮かべる。


 あれは生来の性格ゆえというだけでなく、自身の武法の腕に対する絶対の自信の表れなのだろう。


 事実、彼女は前回の【黄龍賽(こうりゅうさい)】で優勝しているのだ。


 今回も、その結末が揺るがないと心から信じている。だからこそ、あの綿のごとく柔和な物腰を保てるのだ。


 考えれば考えるほど緊張が増してくる。


 けれど体は疲れに対して忠実だ。気がつくと、朝まで眠っていた。


 ボクは着替えて、【尚武冠(しょうぶかん)】へと向かった。


 準決勝はたったの二試合。なので、今までの試合より少し遅めの昼からの時間に始まる。


 けれど、どれだけ時間に余裕があっても、今のボクには足りないくらいだった。


 何かに追い立てられるように【尚武冠】へ足を急かす途中、ボクは唐突にひらめいた。


 ――トゥーフェイの【空霊把(くうれいは)】を破る、ある秘策が。







『さあ、やって参りました!! これから、準決勝の試合をとり行いたいと思います!! 見たくて来た方も、興味本位で来た方も、ここまで来たらどうか最後まで選手たちの行く末を見届けていってください!!』


 特殊な呼吸法で増幅された司会役の発声が場を穿ったが、これまでの試合とは違い、歓声は薄めだった。


 すり鉢状の【尚武冠】の闘技場。斜面の客席にびっしり並ぶ観客と、その無数の目が俯瞰する底辺にある円形の闘技場。


 ボクとトゥーフェイは、すでに闘技場のど真ん中で向かい合っていた。


 ボクはやる気十分だが、目の前に立つ白髪頭の少女はそれとは真逆で、すでにあくびをこらえている状態だった。


『では、準決勝第一試合!! 李星穂(リー・シンスイ)選手と、姫兎飛(ジー・トゥーフェイ)選手の一戦です!! どうか、盛り上がってご覧になってください!!』

 

 司会役のその叫びは、なんだか場を盛り上げようと躍起になってる感があった。


 けれども、やはりいつもの大歓声は無い。細波のようなざわめきだけがどよどよと場を揺らすのみ。


 その反応はむべなるかなと思う。


 なにせ――トゥーフェイの試合なのだから。


 トゥーフェイは今まで、一歩も動かずにすべての試合を快勝して見せた。


 「やる側」からすれば、面倒なく勝ち進めて万々歳だろう。

 「見る側」からすれば、そんな試合ほどつまらなく退屈なものはないだろう。


 けれどそれは逆に考えると、観客もまたトゥーフェイの勝利を一ミリたりとも疑ってはいないということだ。


 そう。ボクは今、この上なくアウェーなのである。


 誰もが李星穂(リー・シンスイ)が勝利する未来予想を浮かべていない。


 ――その予想を、今、全力で裏切ってやる。


 このアウェーな状況を覆さんとする気概が生まれる。


 ボクは改めて、トゥーフェイを見た。眠そうだ。


「昨日、ちゃんと寝たのかい?」


「ん。わたし、いつも眠いし」


「忠告しておくよ。そんな態度が通じるほど、ボクは甘い相手じゃない」


「そんな風に言って、結局最後には根負けした人、いっぱい見た。きっとあなた……えっと…………」


李星穂(リー・シンスイ)


(リー)……やっぱりいい。どうせ覚えるだけムダ」


 意地でも、ボクの名前を覚えさせてやる。


 それをなし得る方法はただ一つ、勝利以外ありえない。


 きっとこの子は、今まで一度も負けたことが無いのだろう。


 ならば、敗北という初体験の相手は、ボクがなってやる。そうすれば、否応なく名前を覚えてしまうだろう。


『では、準決勝第一試合――――開始っ!!!』


 試合開始の銅鑼(ドラ)が鳴っても、場は変わらず盛り下がったままだった。


 それにかまわず、ボクは(さっ)、と一瞬でトゥーフェイの間合いへ入り込む。驚くほどすんなりと入れたが、それは相手が一切動かないからだ。


 構えもせずに立ったままの白髪の少女めがけて、拳から衝突した。その【衝捶(しょうすい)】は狙いあやまたず、トゥーフェイのど真ん中へと突き刺さった。


 普通なら、彼女の細く不健康そうな体が、紙細工同然に軽々吹っ飛ぶのが必定。


 けれど、肉体の可能性を極限まで突き詰めた武法同士の戦いにおいて、それは必ずしも必定にあらず。


「んぐ!?」


 拳が衝突した場所の内側から、衝撃が膨れ上がった。痛くはなかったが、代わりにボクの体が大きく弾き返された。


 【両儀勁(りょうぎけい)】によって重心を大地に固定させていたため吹っ飛ぶことはなかったが、石畳の上を高速でスライドするハメになった。ふたたびトゥーフェイとの大きな間隔が出来上がる。


 その結果に、周囲から「やっぱりな」とでも言わんばかりの嘆息がいっせいに放たれた気がした。


 やっぱり、【打雷把(だらいは)】の勁撃でも跳ね返されるのか。


 トゥーフェイは受けた勁を大地へと逃がし、そこから同じだけの強さで跳ね返ってきた反力をボクの拳の接触面へと伝達させたのだ。いわば、自分で自分を殴っている状態。


 けれど、そんなものは想定内。


 ボクはひるまず突っ走った。今度は深い踏み込みと同時にその足をねじり込んで、沈下と螺旋の力を同時に生み出して炸裂させる【碾足衝捶(てんそくしょうすい)】。


 が、またも拳がトゥーフェイの体に喰らいついた瞬間、力が跳ね返った。大きく後ろへ滑らされる。……やはりこれも通じない。


 けれど、ボクは手を休めない。今度は重心そのものをぶつけるような体当り【硬貼(こうてん)】で滑り寄る。――また跳ね返された。


 またも突っ込み、今度は重心の衝突を肘で打つ【移山頂肘(いざんちょうちゅう)】。


 反射された。


 【衝捶】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【硬貼】。

 反射。

 【碾足衝捶】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【碾足衝捶】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【硬貼】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【硬貼】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【碾足衝捶】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【碾足衝捶】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【碾足衝捶】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【硬貼】。

 反射。

 【移山頂肘】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。

 【硬貼】。

 反射。

 【硬貼】。

 反射。

 【硬貼】。

 反射。

 【硬貼】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。 

 【衝捶】。

 反射。

 【衝捶】。

 反射。



 打って、跳ね返って、打って、跳ね返って、打って、跳ね返って、打って、跳ね返って――


 まるで自分の尻尾を永遠と追いかけ続ける犬みたいに、同じ行動、同じ流れを何度も繰り返す。


 打っているうちに、なんだか面倒くさくなってきて、攻撃も簡単なものになってきている。


 すでに客席はしらけきっている。「またいつもの展開だ」と思っているのだろう。


 だがそんな周囲の失望感などどこ吹く風で、ボクはまだまだ拳を打ち続けた。


 体力にはまだまだ余裕がある。尽きない限り、永遠に打ち続けよう。




 ◆◆◆◆◆◆




 シンスイとトゥーフェイの試合に対する観客の興味が失せきっているのは、紅梢美(ホン・シャオメイ)の目でも一目瞭然だった。


「お姉様……」


 隣に座るミーフォンが、心配そうにシンスイを見守っている。


 そろって試合を見に来た(ホン)家姉妹の周囲では、口々に好き勝手な文句が飛び交っていた。


「おいおい、やっぱりいつもの展開だぜ。また姫兎飛(ジー・トゥーフェイ)の事実上の不戦勝かよ」


李星穂(リー・シンスイ)なら【天下無踪(てんかむそう)】の無敗神話を覆せるんじゃないかと思ったのに、とんだ期待はずれだ」


「ほらな、やっぱり俺の言ったとおりだったんだよ。変に逆張りしないで素直に【天下無踪】に賭けといた俺の判断は正しかったわけだ」


「くそっ。後でおごれよな」


「やなこった。はははは、李星穂(リー・シンスイ)のおかげで今夜は酒と飯が美味そうだぜ」


 ミーフォンはそう言った男へ振り返り、火を吐くように言った。


「あんたお姉様ナメてんの!? あんましバカ吐かすと股間の鈴を引きちぎるわよインキン野郎!」


「落ち着けミーフォン。相手にするな。それと、女がそんな下品な言葉を使うんじゃない」


 シャオメイは冷静にミーフォンを自省させる。男はふんと鼻を鳴らして試合へ視線を戻す。


 ミーフォンはガシガシ床を踏みつけて憤慨しながら、


「ああもう、マジでムカつく! なんなのあいつら!? もう諦めてるわけ!? 玉無し! 根性無し!」


「まあ、私もまだ諦めるには早いと思うが……今のシンスイの状態を見ると、連中と同じ感想を抱きたくなるのも仕方が無いかもしれんな」


 そう言いつつ、シャオメイは闘技場で行われている試合を俯瞰する。


 否、それはもう「試合」と称していいのか疑わしいほど、一方的な展開となっていた。


 シンスイは、棒立ちするトゥーフェイめがけてひたすらに技を打つ。しかし技は通じず、跳ね返されるという結果ばかり。


 対し、トゥーフェイはこれまでの試合の例に漏れず、試合開始から立ち位置を一歩たりとも変えてはいなかった。今回もいつも通り勝つつもりなのだ。


 話には聞いていたが、実際にその光景を目にするとなると、衝撃的だった。


 これが【天下無踪】。一度も足跡を作らずに天下を取った少女。   


「……お姉様、勝てるかしら」


「分からん。すべては彼女次第、としか言えない。シンスイが姫兎飛(ジー・トゥーフェイ)の鉄壁の守りを破れれば勝利できる可能性が生まれる。出来なければその時点で終わり」


 そうだ。トゥーフェイのあの防御を破らない限り、シンスイに勝利はありえない。


 しかし、どうやって?


 あの技は、物理攻撃であれば何でも跳ね返す、武法泣かせな技だ。


 斬撃であっても、それは見方を変えれば「「刃」という極細の面積に加重する」という行為。かすり傷は負わせられたとしても結局は跳ね返される。


 体内浸透系の技法は? いや、それも結局は物理的な加重。力を自在に操る【空霊衝(くうれいしょう)】ならその浸透力さえも跳ね返しかねない。


 試合に出ているわけでもないのに、自分が対応策を熱心に考えてしまっている。だが、良い案は思いつかない。


 そうしている間にも、シンスイは打って跳ね返され、打って跳ね返されという無意味な行動を繰り返している。


 このままでは、ムダな体力を使うばかりだ――


「……ん?」


 だが、ふとシャオメイの視界に、妙なものが映った。


 それは、石畳をしっかり踏みしめたトゥーフェイの靴の根元にあった。


「――あれは、まさか」




 ◆◆◆◆◆◆




 姫兎飛(ジー・トゥーフェイ)は眠かった。


 ていうか毎日眠い。眠り病じゃないかってくらい眠い。


 目の前で、三つ編みの美少女がドンドンバンバン勁撃を打ちまくっている最中でも眠い。


 彼女の勁撃は、今まで出会った武法士の中でダントツに凄まじかった。


 けれど、やっぱり痛くもかゆくも無い。勁撃がこちらの体に接触した瞬間、その勁力は痛みを与えるよりも早く骨格を介して大地へ逃がされる。そこから同じだけの反力が戻ってきて肉体を通い、相手との接触箇所へ向かって流れ着く。相手は自分で放った勁で吹っ飛ぶ。


 そう、汗水流して殴りあう意味などない。


 無駄な行い。徒労。


 トゥーフェイは徒労はしないし、嫌いだ。


 いや、そもそもトゥーフェイは労力を使うこと自体を嫌う。


 しかし、生命を受けた者は、労力を使うという呪縛からは逃れられない。そうしないと生きていけないからだ。


 かといって、さすがに自決する気にもなれなかった。生命を持てば「労働」という呪いに縛られるが、同時に「怠け」の喜びも享受できる。


 トゥーフェイの人生は、いかに多くの割合を「怠け」で占められるか、という、ある種の戦いだった。


 そこそこ位の高い官吏である父と、薬師の母との間にトゥーフェイは生まれた。


 毎日仕事で粉骨砕身する両親を見て、こう思った――「こんな大人にはなりたくない」と。


 幼少期に読み書き算術を学んでいた『民念堂(みんねんどう)』で、「将来の夢」という題材の文を書かされた。


 「働かないで一生ごろ寝して暮らしたい」と書かれたトゥーフェイの文を見た教師はこう思っただろう。「こいつ世の中舐めてるのか」と。


 しかし、トゥーフェイは本気だった。


 だからこそ思った。自分の人生を可能な限り「怠け」で満たそうと。


 まず目をつけた職が文筆業だ。書いたものが大ウケすれば、一気に巨万の富を稼げるという。


 トゥーフェイは小説や連環画を基礎から独学で勉強し、わずか一年弱で大人気作『遊雲天鼓伝(ゆううんてんこでん)』を世に送り出した。


 そのほかにも何冊も売れる本を出し、どんどん金が入ってくるようになった。家と別の小さな建物を購入して余りある額のお金が。


 しかし、文筆業ほど不安定な職もない。今は人気で稼げているが、それがなくなった場合は金が入らなくなる。


 そこで目をつけたのが、優勝すれば莫大な賞金がもらえるという【黄龍賽】。


 武法で一攫千金を狙おう――そう考えたのと同じ時期に【空霊衝】の師父と出会ったことは、「怠けよ」という天の意思がもたらした運命であると今も本気で信じている。


 トゥーフェイは、常人の十倍以上の耐久性と弾力性をあわせ持つ特殊な骨格【剣骨(けんこつ)】を生まれつき持っていた。


 その【剣骨】の保持を習得条件とした【空霊衝】は、立ったままでも万人を倒せる無敵の武法とのこと。まさに天の采配ではないか。


 【空霊衝】を一年かけて習得し、十三歳の頃に【黄龍賽】へ初出場。そこで見事怠けながら優勝をもぎ取り、莫大な賞金を手に入れた。


 すでに懐はかなり暖かくなったが、それもいつかは枯渇するだろうし、老後にのんびりするための資金をもう少し貯めておきたい。なので今年も【黄龍賽】に出場した。予選大会のために遠出しなければいけないのが面倒だが、面倒事といえばそれだけだ。本戦は実家のある帝都で行われる。


 今回も楽々と優勝し、賞金を手に入れ、好きな書画に興じながら自堕落な生活に没入するのだ。それを考えると、よだれが出てくるほど楽しみだった。


 まどろんでいた意識が明瞭になる。目の前では、三つ編みの美少女がなおもこちらの体に勁を打ち続けていた。


 その必死さと熱心さに、苛立ちのようなものを覚える。いい加減諦めればいいのに。そうすれば楽なのに。


 もう一度、寝てしまおう。


 次に目を覚ました時、三つ編み美少女は自分の負けを認めているだろう。






 ――だがその時、トゥーフェイは気づいていなかった。


 自身の足元(・・・・・)を確認しないという、痛恨の「怠け」を犯していたことに。




 ◆◆◆◆◆◆




 もう何発目だろうか。


 「いっぱい」としか言えない。


 けれど、「いっぱい」打ったのだ。


 あらゆる技を出したが、すべて例外なくトゥーフェイに跳ね返された。


 けれど、その疲労は決して「徒労」ではない。


 ボクは、立ったまますぅすぅ眠るトゥーフェイの足元を見て、それを実感していた。


 大地に根を張ったようにしっかり立つ白髪の少女。その足元を中心にして、本当に根が張っているかのような深い亀裂が四方八方に走っていた。


 石畳が割れているのだ。


 たしかに、トゥーフェイは要塞のごとき防御力を持っているかもしれない。


 けれどトゥーフェイの反射技は、大地からの反力ありきのものだ。つまり、地に足が着いていなければ使えないということ。


 彼女の体は攻撃に耐えられても――踏んでいる足場はどうだろう?


 トゥーフェイの通り名は【天下無踪】。立ち位置を一度も変えることなく天下を取った者という意味。


 だが、立ち位置が変わらない以上、こちらが打ち込む威力の数々を、すべてその「変わらない立ち位置」が引き受けるということになる。


 土の地面であったならともかく、今は石畳という人工物だ。


 つまり――砕ける。


 この手段は、トゥーフェイと戦った武法士も考えたかもしれない。が、仮にそうだったとしても、勁撃の威力が足りず、体力が尽きるまでに足元を破壊できなかったことだろう。


 けれど、ボクは違う。


 ボクには【雷帝】と恐れられた最強の男が創った、最強の攻撃力を誇る武法【打雷把】がある。


 【打雷把】の強烈な勁撃を、何度も同じところへ打ち込めば、どうなるのか。


 その結果は、すぐに分かる。


 ボクはもう何度目か分からない【衝捶】を、寝息をたてるトゥーフェイに打ち込んだ。


 跳ね返される。が、ピキッ、という音とともに、亀裂がさらに増える。


 ダメ押しにもう一度【衝捶】を叩き込んだ。


 次の瞬間、






 崩壊した。






 ボゴンッ、という破砕音とともに、トゥーフェイが踏みしめていた石畳だけが他の石畳から砕けて離れた。


 踏みしめていた石畳ごと宙に浮かんだトゥーフェイ。その顔はすでにのんきな睡眠モードではなく、これ以上ないほどの驚愕で染まっていた。


 ボクはそんなトゥーフェイに溜飲を下げつつ、走り寄る。丹田に【気】を集める。必殺の一撃を浴びせるための準備。


 間合いに飲み込み、丹田の【気】の炸裂と同期させた【碾足衝捶】を叩き込んだ。


 拳が喰らいついたのを見れたのは、ほんの一瞬。その一瞬の後には、とんでもない速度で後方へ流された。まるで見えない糸で思いっきり引っ張られたように。


 壁に激突し、そこの石材を粉砕。





 ずっと沈んでいた観客のざわめきが、ざわっと大きく高ぶった。


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