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チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
7/51

ヤってみよう

 現在俺は魔獣と対峙している。

 そう、目の前にいるのは魔獣であって倒すべき敵だ。

 醜悪でG並みの繁殖力だと定評のあるゴブリン氏、粘液プレイで有名なスライム氏、クッコロプレイなオーク氏など――まあ名前は違うのだけど――定番を又もやアイちゃんの索敵で躱した。

 軒並みのテンプレフラグをへし折って登場したのが、眼前に佇む丸い巨大な毛の塊である。直径は1m程あるのではないだろうか。


 で、アイちゃんこれウサギってマジですか。


(はい、丸角兎という魔獣です。

 攻撃方法は体当たりを仕掛けてきます。

 毛に覆われて見えにくいですが鋭利な角を持っていますのでご注意を)


 アイちゃんの設定してくれた視界を意識で操作すれば確かに丸角兎と表示されている。

 イメージとしてはヘッドギアを付けた状態のVR箱庭系の本人視点の状態。

 ちょっと違うのは視界を塞ぐものは意識しなければ消えていて何もないし、敵のパラメーターなんかも無い事か。

 便利なのはそれだけじゃなくて、視覚強化の効果で3割増した視界。

 さらにその外に意識を向けると、そこにも視界が新たに広がっていて、自分のパラメーターがグラフと数値で表されていたりする。

 ファンタジーインプラントな素晴らしい仕様だ。




 只の肥満の塊かと思いきや武器を隠し持った野生の動物、いや魔獣。

 距離は5m程離れているが、それぐらいの距離はあって無いようなもの。


 槍を構えながら全力(・・)で一撃を加えるべく地面を蹴った。


 ――ザスッ


 森の静寂の中で地面を削る音が響き渡った。


 まず最初に蹴り出した右足の一撃は大地を穿った。

 その反動でかっ飛ぶ俺。

 慌てるもその瞬間に発動する思考加速が余裕を生んだ。

 瞬時に状況を理解し、脳からの指令は身体強化:雷で思い通り足に伝わる。

 踏み出した左足の脚力は、どこの漫画の功夫ですかという程の震脚で大地割らんばかりに踏み抜いた。

 そこから腰の捻り、膂力が唸りをあげ、捻じりながらも突き出されていく。

 最後に腕の力を得た槍は空気を切り裂き、丸角兎に当たる前に――パンッ――と鞭が弾けるような音をだしていた。

 切り裂かれた空気が白く見えたよ。

 加速された思考が捉えるスローカメラのような視界の中なのに槍は残像を残しながら魔力を纏った刃を見事丸角兎に叩き込んだ。


 お察し頂いたのではないかと思う。

 槍は見事に丸角兎を貫いたのだけれども的になった兎は吹っ飛んだ。

 たかが身体駆動2.25倍と思っていた。

 されども強化されたのは全身、ちょっと頭を使おうな、俺。

 そして思考加速の世界の中で俺は思った。


 直に街へ行かなくて良かったと。

 そして完全に制御不能ですってこういう事じゃね、と。


 まだ使いこなしていない肉体、引き延ばされた時間の中で吹き飛んでいく亡骸を見つめつつ、バランスを崩して自身も転がり飛んで行く中で、さらにこう思った。


 何事も予習って大事だよね、これぞ後悔先に立たずと。



 さて、吹き飛ばした一部破損した丸角兎と顔面の一部の接触済ませ、心理的ダメージを負った事を除いて肉体的にはダメージが無かった。

 地面を転がり木と衝突したのにだ。

 元々体は頑丈だったけど、それ以上に、刹那を数秒まで引き上げる加速思考の能力と格闘が促した受け身、更には魔力で強化された防具と魔力生体障壁があったからだろう。

 完全に能力頼りでしかない。



 反省中。



 無事だった俺はアイちゃんの指導の元で丸角兎の処理中である。

 実のところ、この獲物を解体して肉にしたり皮にしたりするのは異次元倉庫で可能である。

 入れて置いたら小人ならぬ技術の運用で全てやってもらえるのだとか。

 だが、それだと己の成長に繋がらない。

 普通の冒険者というのがこの世界にもいる訳だけれど、そうした人たちは必ず解体を持っている。

 何故かと言えば稼ぎに直結するからだ。

 それにこうして解体する事によって魔獣の肉体構造が知れる訳で次の戦闘に繋がる。

 無論、こんな風に傷だらけにすれば毛皮の価値はダダ下がりである。

 そしてもう一つ、高位の魂位になると大した足しにはならないのだが魔素を徐々に取り込めるという事。

 戦闘し相手を倒すと得る事ができる魔素。

 位を上げるのに必要な要素は死亡の瞬間に全てが発散される訳では無い。

 放っておけば霧散してしまう魔素だが此方が魔素を多く受け入れる状態、つまり戦闘後の状態であると意味がある。

 まあ、通常であれば収納系の術など持っているのが珍しい訳だから魔素を取り込む事を態々考える事も無いのだが。


 アイちゃんにそんなこんなを教えてもらいながら、なんだかんだと作業を進める。

 解体を終えて肉や臓物、毛皮と分けて異次元倉庫へと収納し、さて次の獲物を探そうかと移動する前に槍や解体に使った短剣を綺麗にする生活魔法を使ってみた。

 驚きの輝き。

 何処かの洗剤の謳い文句では無いが、実に綺麗になった。

 このときに想い描いたのは汚れ、つまりは血糊や脂、砂や埃などを取り除きたいと輝く白さをイメージしながら発動したらピッカピカである。

 因みに、体は六根清浄で知らない間に綺麗になるが、手などは綺麗に見えても気持ち悪いので一応水を生み出して洗っている。


 魔法などもアイちゃんにばかりやってもらっては成長しないと頑張ってみているのだ。


(マスター、お待たせしました)


 へ、何を。

 その時俺は気の抜けた返事をしていたと思う。




  視界に映ったのは可愛らしと表現すべき大きさと雰囲気を纏った某人形程の美少女。



 思わず目を擦ったが消えない。消えないどころか目を瞬こうが閉じようが其処にいる。

 不意にふわっと浮き上がった美少女はニコリと微笑んで話しかけてきた。


(マスター、目が痛いのでしょうか)


 いやいやいや、アイちゃんが現れた。

 別段エンカウントミュージックが鳴った訳では無いのだけれどね。

 目の前の美少女フィギアっぽい大きさの女性はアイちゃんらしい。


 驚愕である。


 しかも視界を横切ったと思ったら肩に音もなく座った。

 座った? って、重さを感じないのだけれど、なんぞこれ。


(視覚効果で其処にいるようにしているだけですので)


 ハイテク、じゃないな、いやはや何ともファンタジーだねえ。


(この方が何かと便利ですので、この姿はお気に召しませんでしたでしょうか)


 とんでも御座いませんよ、バッチリ好みですハイ。

 透き通るような銀髪、碧眼とすっとした鼻筋、すこしぽっちゃりした唇。

 どこか猫のような表情の綺麗な顔立ちの美少女がいます、小さいけど。

 さらには、なんでメイド服なのかとか最高じゃないか。

 しかもミニの絶対領域仕様なのかとか、何故それを選んだのか問いませんとも、ええ。


(マスター、私のいる方へ三歩程歩いて下さい。

 はいそれぐらいです)


 なんだろうか、何かあったの。


(はい、採取品がありましたので。

 周囲にある有能な採取品などを光点で指示しておきます。

 マスターが忙しい場合や他の作業をされている時、採取漏れがある場合などに自動的に収納いたします)


 やべぇ、アイちゃんの有能性が果てしなく青天井だ。

 近い将来には天元突破するのは確定だろう。



 次の獲物に向かって歩いていると周囲の薬草などだろうけれど、点滅していた物が綺麗に無くなっていく。

 自然破壊具合がちょっと心配になった。

 アイちゃん曰く、薬草などの採取品はこうした森では再生速度が尋常じゃない程早いらしい。

 安心したよ。


 こうした森は一部の木々が魔素を循環させているので回復が早く、その辺を司っている木々や魔木でも乱獲しない限りバランスが崩れたりはしないとか。

 そんな魔素がある森だけあって、食物連鎖で魔獣化なども起こりやすく、更には澱みが酷いと魔物の発生率が上がり、特殊な魔法生物なんかも発生してしまうのだそうだ。

魔素のあるおかげで薬草があったりするけども、魔獣も生み出すんだよなあ。

災いと幸福は表裏一体ってことね。


 大昔には乱雑に森を分け入る国があって森のバランスを崩したそうだ。

 崩れたバランスが齎したのは、通常では考えられない程の大規模異常発生だったんだと。

 魔物や魔獣が群れを成してそのまま大規模暴走に発展、一昼夜にしてその国を飲み込み、周辺国にも被害を与えたとか、怖すぎる。

 今では獣が魔獣になるのは森の魔素に満ちた生態系からの発生であり、魔物の一部が澱みと人の悪意から生まれると仮説が発表され、ほぼ立証された事で魔素の濃い森は急激な伐採を禁じられているのだとか。


 それだけ自然に対して気を使っていても魔物の暴走は無くならない。

 人がいる限り発生するのだから。

 ただ傲慢が身を亡ぼす事は一国の悲劇が伝えている。


 森を怒らせてはいけないと。


 森は生活に必ず必要な物。

 無ければ人類の生活が成り立たない。

 それに森に牙を立てれば恐ろしい程の咢が反撃してくるのが森なのだ。



 残念な事に未来にフラグを盛大に立てているが、避けれないイベントなど無い筈である、と信じたい。

 そう、フラグクラッシャーだ、なんとか回避はしたい。

 「フッ、俺は知らずのうちに魔獣を倒して世界を救っていたのか」ってモノローグ入る予定だよね。

 いや、まって魔獣倒してるじゃないか、ダメだよ成長する前に討伐だよ。



 お馬鹿な思考を垂れ流してました。



 その間も身体駆動との意識のズレを修正したり、出力の調整をしたりとやるべき事は済ませてましたよ。

 ながら作業で森を散策しつつも狩りを進めていく。


 で、思ったのだけど。

 身体駆動がもしも反射神経や思考想像の補正と同じように10倍を超えていたらと思うとガクブルじゃないか、恐ろしい。

 身体駆動補正が2.25倍で精密動作補正が3.5倍であるからこそなんとかなっている。

 案外と箸で豆腐を挟んで掬うように優しくソフトにするのは比較的難しく無い。

 何が難しいかというと、強過ぎないという微調整と最初の槍のように筋力の重ねていくような動作がで強さを調整するのが難しい。

 全力のピッチングフォームでチェンジアップを投げるようなもの。

 腰を入れた全力の右ストレートで放つ軽いジャブ。

 レーシングカーをアクセルをフルスロットルで踏み込んで、クラッチ操作のみで公道を走って法定速度を厳守しているような操作かな。


 車で思い出したが男はミッションを取ることをお勧めしておく。

 何故かって、一部地域ではレンタカーなどでオートマを用意していないからだ。

 東北で車が全部ミッションのみだったのには驚いた。


 おっと話が逸れた。


 何にせよ街に行って、テンプレ的に何か事件に巻き込まれていたらと思うと冷や汗ものだ。

 確実に齎されるのはスプラッターな光景だ。

 特訓の三時間程の狩りで得た獲物の約5割程で部位が弾けたりしている。

 これでも、マシになってきてるから、マジで。

 直近の六匹は綺麗に首を切り落としている、その前のは爆散したけど。




 現状は倒す・次に向かって走る・倒す・次に向かって走るを繰り返している。

 なので魔物の処理は全てアイちゃん任せだ。

 少なくとも身体駆動だけは今日中にコントロールしておきたいので。


(頑張ってください、マスター。でも休憩も必要ですよ)


 だよね、ちょっと遅いがお昼にしよう。

連投中

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