理の一つ
アイちゃん、一応だろうという推測は成り立っているけど説明できる証拠はあるかな。
(検索します――終了。
魔法の教育現場の資料からの類推した内容となりますので証拠というのは厳しいかと。
恐らく問題は生活魔法にあるのではないかと考えられます。
要点を纏めた物を表示します)
サンキュー、アイちゃん。
それが判れば大体は俺の考えで問題は無いと思う。
(どういたしまして、マスター)
資料にしてくれた内容も確認しよう。
生活魔法というか、これはステータスの弊害も大きいな。
これを説明するのって大変そうだ。
「クロウさん、魔法に適正が存在し無いというのは流石に在り得ないと思うのですけれど。
私たちが学校で習った魔法の知識ですが、伝統的なものですが、体系的に纏められていて判りやすい魔法学だったと思います」
「そうですね、伝統だからこその間違いがあったりもするのですが、学校で習った内容を簡単でも良いので説明して貰っていいですか」
「はい、簡単な説明になりますがそれで宜しければ。
一番最初に魔法を学ぶ際に教えられるのが二極四大八属性です。
魔法は大きく分けて聖なる光、悪なる闇の性質を持っていてこれを二極といいます。
次に世界を構成する四大元素があり、火、水、土、風が存在するとされていてこれを四大としています。
更に先程の二極に其々四大元素が属しているのでこれを八属性とし、魔法の基礎として覚え、自分に適正のある魔法を調べるのです。
調べるのは二極の光と闇も魔法として存在しますから合計で一〇種類についてとなります」
クリスさんが図面に書いてくれた訳だが、学問にするから拗れている気がするなあ。
図面の内容はちょっと宗教思想も入っている様子だな。
二極 四大元素八属性
光――火<水<土<風<火
>
闇――火<水<土<風<火
光と闇でどちらが強い的な考えなんてまさしく宗教だ。
――ピコーン
うわあ、このタイミングでこの音。
(お察しの通りです、マスター)
思考を加速して一気に脳内で読み上げるしかない。
クロウ殿へ
治癒の女神から話は聞いています。
是非、魔法の間違った認識を改めて発展に努めて下さい。
治療魔法だけでなく他の魔法に関しても神々の間では問題は無いと判断しています。
但し、危険な魔法の仕組みを教えるのだけは禁止の方向でお願いします。
クロウ殿の考えた空想科学魔法についてはこの先も一人の人間では魔力量の問題で発動は出来ないでしょう。
ですが普通の人間には無理でも人間は知識を追求する習性がありますので何かしらの方法で実現する可能性があります、いえ可能にするでしょう。
簡単に言えば世界を滅ぼす可能性を秘め大量殺戮に繋がる知識の散布だけは容認出来ませんので注意してください。
より良い魔法の発展を願っています。
魔法担当一同より。
気軽に手紙をメール感覚で送り過ぎだと思うのは俺だけか。
しかも一同って何、何柱の女神が関わっているのかね一体。
そして何気に内容が怖い。
これは注意しなさいってことだ。
確かに核分裂とか説明したら危ない。
鉱山などの工事現場で用いる火薬の危険性を減らす為に発明されたダイナマイトが人を大量に殺すために便利な兵器として利用されたように、必ず危険な魔法は戦争などに使われる可能性がある。
この事を踏まえた上での魔法の発展か、何気に軽くお願いされてるけど大変な内容な気がするぞ。
なんとかするしかないんだろうけどね。
先に言ってほしかったなあ。
そうしたら、手を出さなかったのに……それすら見越されているのかもしれないな、うん。
思考加速を終了。
まだクリスさんの説明は続きがある。
「属性はこの図のように光が闇に強く他の元素よりも優れていて、各元素もまたこの図のように優劣が存在しています。
火に強い水、水に強い土、土に強い風、風に強い火という力関係になっていてどれが優れていると言う訳では無いと教わります。
更に魔法使いは自分に適した属性を極めていくと上位元素を操る可能性が出てきます。
上位に位置する元素は火から爆、水から氷、土から金、風から雷なのですが、二極にも同じ事が言えており光は癒に、闇は心に発展するとされます。
光が発展したのは所謂、治療魔法。
闇が発展した場合は心を操るような魔法とされていて、女神を信奉する人々には闇の属性は使えなくて、使えるのは魔物や亜人などだけと言われています。
これは飽く迄も宗教的な意味合いがあると考えられているので実際には闇属性を使える人も少ないながら存在はします。
その他として神に与えられた適正を持つ者のみが使用できる、恩恵と言われている魔法も存在し、有名なのが治療、時間、空間でしょうか。
後は完全に例外とされているのですが、特定の一族が秘伝としている血統魔法や種族特有の魔法などですね。
こうして様々な魔法も存在していますが、基本は光に属する四大四属性に適正があるかないかを調べて私たちは魔法習い使っています。
その他については才能を神様から与えられているかどうかだとされていますよ」
うーむ、上位の元素にされているのって所謂ゲームで言う所の上位属性って奴だな。
四大元素とかまあ元素だろうが属性だろうが構わないんだけど、なぜそうなったかを説明しないと納得するのも難しいだろうな。
「多分ですが、こうして体系化された原因は生活魔法にあるのかもしれませんね。
確かにステータスにも属性の魔法は存在するようですけれども、それも或る意味誤解している原因なのかもしれないです」
「クロウちゃん、誤解しているってどういうことかしら」
「そうですね、まずステータスに現れている魔法という物から説明しないと駄目ですね。
俺の認識では生活魔法とステータス表示されているのは治療魔法と同じなんですよ。
先日説明しませんでしたかね、治療魔法は女神様が使いやすいように手助けしてくれている魔法だと。
あれと同じで生活魔法は人間の暮らしに最低限必要な魔法です。
だから、女神様がこれらの魔法を一組として使いやすいようにしてくれているだけなんですよ。
考えてみて下さいね、生活魔法には薪などに火をつける種火、少量の飲料を出す飲水、小さな穴を地面に開ける穴堀、手や体、髪を乾かす為の微風、蝋燭の代わりになる光の灯、汚れを落とす浄化がワンセットになってます。
光の灯と浄化があるという特殊性もありますけど、生活魔法でさっき説明してもらった四大元素、四属性が使えるのに、どうして適正なんて言われているのか、不思議に思いませんか?
結論だけを述べると、属性魔法と考えられて使われている魔法は全て、女神様が手助けしてくれています。
これは予想ですが、治療魔法と同じで使えるようになったらステータスに認識されて詠唱を発動キーとして魔法の発現がされやすくなっているのだと思いますよ。
最初に魔法を覚える時を思い出してくださいね、まあ新しい魔法を覚えるという事でも構いませんが、最初に呪文を覚えさせられて、呪文を唱えてイメージして魔力を操作してという手順じゃないですかね。
でも発動しようとしている魔法ってその時点ではまだステータスに記載されていないですよね?」
あれ、頭を傾げているだけかな。
頭の上に疑問符が浮かんでいる状態か。
同じタイミングの動作だから親子だなあと思ってしまう、しかも二人揃って美人だからちょっとした絵になるな。
じゃなくって、もう少し説明がいるのかと思ったんだけど、やはりこの二人は優秀だったみたいで答えにたどり着けそうな質問が来た。
「属性魔法は存在しているけれど、女神様の手助けが入った魔法で、治療魔法と同じ……ならステータスとは」
「ならクロウちゃん生活魔法も含めて今私たちが使っているのって」
「そう言う事でしょうね、恐らくですが殆どが女神様の手助けがある魔法です。
最初は違うのでしょうけども、長い時間をかけて世界に浸透した方がそういう類の魔法はより安定して使えるようになりますからね。
便利だし間違いは起きにくいですし、後世に伝えやすい。
何よりもステータスに現れるので習得度合も理解しやすいでしょう。
自分が作るテキストもその習得方法に止める予定ですけどね」
止めるというかその方が安全だな。
女神様達が認可している魔法のみならば混乱も起きない。
やるべきことは間違った認識を正すだけでいいと思う。
「確かに、そう言われると目安にしていますね」
「でもその魔法は魔法の本質ではないんですよ。
ここからは広めるつもりがない事なので他言無用でお願いしますね」
二人が頷いてくれる。
まあ使おうと思っても使えない魔法を披露する事になるだろうから心配はしていないし、空想科学魔法と名付けた魔法も理論を詳しく教える訳じゃあない。
この世界が発展すれば判らないけどな。
「今使っている魔法というのは殆ど魔術に近いと言っていいと思いますよ」
「魔術は陣を作り詠唱をして決まった発動しかしないものよ、魔法の一種とされているけれどね」
「魔道具作成などにも用いられている技術ですから其の辺りの評価でしょうね。
でも女神様の手助けがその陣の役割を果たしているとしたら、どうですか。
クリスさんが疑問に思っていましたよねステータス、それをちょっと含めて説明してみましょうか。
少し違いますけどステータスに現れているのがその陣と同じもので、詠唱が発動するキー、放出する魔法領で威力の変化が起きるように作られているだけですよ」
「クロウさんの説明の通りなら、ステータス自体が魔法……」
「その通りですね、ステータスとは世界に掛かっている一番大きい魔法です、理と表現していいでしょう。
只それを人が理解出来るように目に見えている形にしているだけだと言っていいかと」
「クロウちゃん、なら魔法らしい魔法っていうのは」
「例えばですが……まあどういう魔法がステータスに現れる物か判りませんから取り合えずでやってみますが、こういうのはどうでしょうか」
まず、魔法らしい魔法とアイちゃんにも言われた、手が燃えるように見える魔法を使ってみる。
「え、手が燃えてる、いえ手に炎が纏わりついてるの?」
「大丈夫なのですか」
「その反応でこれが登録されていない魔法か、若しくは失伝されているのは判りました。
いや最悪の場合はこのような魔法を闇の分類に捉えている可能性もありますね。
この炎は俺が燃やそうと思っている物にしか燃え移りませんよ」
「闇属性にあると言われている幻覚を見せる物ではないのよね」
「ええ、流石に炎を触って下さいというのも無理でしょうから、これに変えましょうか」
次に出すのは火と違って触ってもらって問題の無い水球だ。
但しこの水球は腕を突っ込んでも濡れない、なのに水に触れた感触は存在する概念を込めて発現させた。
「これなら問題ないので触って頂いても大丈夫でしょう」
「水ね、これは水弾……じゃないわねそれより無詠唱でこれは」
「クロウさん、なんですかこれ、不思議です触れたのに濡れない水だなんて」
「これが魔法らしい魔法ですよ、火なのに燃えない、水なのに濡れないそういうものを作り出すのが魔法ですよ。
魔力を使って世界を書き換えているのに近いのですから。
想像でしかありませんけれど、一番最初に魔法を作った人がいて、一番理解しやすい自然現象を魔法で作ったのが火、水、土、風の魔法だっただけでしょうね。
それを見た人や考えた人が説明したり、他者が納得するのに適していたのが生活魔法として簡単に習得できる四大元素、四つの属性魔法という捉え方だったと思います」
「これはクロウちゃんのステータスには現れてない魔法なのね」
「まあ似たような物はありますけど、即興でやっただけです。
便宜上というか、自分の中では概念魔法と名付けました。
まあそれは良いとして、魔法とは極論ですが、明確な想像力と必要な量の魔力、そして魔力を操作する力の三つを使った現象の事なんですよね。
学校で習うということがどういうことかで考えてみましょう。
先人の教え、つまり教師に従えば必然的に教師が教える際に見せる魔法を見る事によって生徒はその魔法の発現方法や威力などの印象が植え付けらています。
そして同じ詠唱を習い発現するまで同じ方法で修練を続けてステータスに現れたら習得した事になるだけじゃないですかね。
そこに明確な想像力を持てとか、必要な魔力量の説明や魔力操作の重要性なんかは一切語られていないのでは?」
「私もこれ程に魔法学を覆す内容を聞いて驚かないのですからクロウさんに影響を受けすぎなのでしょうね」
「ウフフ、私もね、クロウちゃんの説明で納得しているのって自分でも凄いと思うわ」
「アハハ、まあもう少しだけ説明しておくと、生活魔法で水が飲めますよね」
「そうね、生活魔法の水は美味しくはないけど飲めるわ」
「まあ常識的な……いえ何でもないです、それが問題だと判って来ました」
「クリスさんは気が付きましたか」
「え? どういう事かしら」
「水弾の水は飲めない、攻撃が終わってからしばらくすると無くなるのが水の攻撃魔法です」
「そうね、攻撃魔法の水に限らず消えるわ、だって常識……あら」
「そう言う事です、生活魔法の水、さてこれはなんでしょうかということですね。
実際には他にも土、風などもありますが、これも結局は魔法であることは変わらないのですけれど、ある工程を経て飲める水が発現するようになっている魔法を生活魔法という方法で再現させているだけです」
「生活魔法の水と攻撃魔法の水は魔法の使い方が違うのね」
「そうですね、生活魔法の水は空気中にある水分を集めていると言っていいかと」
本当は水素と酸素も使ってそうだけど、教えないでおこう。
二人を信頼していない訳じゃないけど危険だ、水素爆発とか洒落にならない。
そう考えると危険な事してたなあ。
人がいるところで使う魔法の開発はもう少し慎重に考えよう。
「水が空気の中にある……」
「自然現象の講義になりそうですが、水を熱し続けたら湯気になって空気中にどんどん消えていきますよね、あれは消えたように見えて水蒸気という形に変化した水が空気中に溶け込んでいるだけと表現した方がいい状態です。
そして蒸発した水分は目には見えませんけど温められた事によって空を登っていって冷やされていくと逆の現象が起き始めて湯気とは違いますが、冷える事で雲になり、許容量を超えると雨になって地面に降り注ぐんですよ。
生活魔法の水の正体はこの空気中にある水を集める魔法だという事ですね」
小学校で習うことだし、自然の内容なら……うむ大丈夫だろう。
図面にしてみたけどちょっと懐かしいな。
「魔力を変化させて作った水じゃないから飲めると言う事ですか」
「雨は水だけど、どうして冷えて落ちてくるのかしら」
「クリスさんの考えで正解なんですが、エリーさんの疑問はちょっと魔法からズレますけど答えは簡単ですよ、山の上にいくと涼しいでしょう。
飛行船は障壁で温度なんかが下がったりしないよう守られていますが、あの高度の山ならば上った事は無くても春過ぎまで頂上に雪が残ったりしている筈です」
「確かに、初夏になっても頂上は雪景色のままになっているわね」
「その付近が涼しい証拠です、あと自然現象で近いといえば朝露でしょうね、夜になって冷えた空気に含まれる水分が植物なんかに付着して水滴になっているでしょう」
「雨も降ってないのに水滴ができるあれね」
「そう言う事です。
さて、説明する内容が少しずれたような気もしますけれど、これまでの説明で生活魔法などが女神様の手助けが入っている事は理解が出来たんじゃないかと思いますが、どうですか。
いわば適正と考えられているもの自体が全て女神様からの魔法に対する理解力があったか無かったかということだけが理由だと判ると思うのですけど」
「確かにステータスに現れていないのに最初に習って魔法が使える様になって気が付いた時にはステータスに表記されていて習得したと思っていたけど、勘違いだったのね」
「では何故これ程習得率に違いがでるというか適正と言われるほどに使える魔法と使えない魔法があるのでしょうか」
「教え方が一番問題なのだと思いますよ。
教師が全ての魔法に通じていればいいですけれど、四属性と言われている属性全てを極めた人なんて少ないのではないですかね。
まあ教える内容自体が間違っている認識による知識なので致し方ないとも言えますが。
他に考えられるとすれば、自然現象にどれだけ触れていて理解しているかいないか、トラウマのようなものを持っているかいないかも重要でしょうね。
そうした要因は絶対に明確な想像に影響があるでしょうから、水に詳しく無い人や水が怖い人が明確な水についてのイメージが出来るとは思えませんからね」
「確かにそうですね」
「一応ですが、そんなに突拍子のない内容でテキストを作るつもりは在りませんから安心してください。
四大元素の相克や使えそうな部分はそのまま取り入れますし、学校で教える魔法は今までと同じでステータスに存在する魔法だけに限定しますから。
実際の所、まあこんなモノが来てますので」
そういって、俺は女神様一同のお墨付き二号に魔力を纏わせて取り出した。
二人が「またですか」と呆れた顔をしたのは言うまでも無いだろう。




