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チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
49/51

何時の間にやら

「さて、これだけの物を売るのですもの、菓子職人は我が家の専属の料理人でもいいのでしょうけど、問題は販売員ね……」

「ええ、侍女達ではマナーは出来ていても商売と言う点では不安ですね」

「何か問題になりそうですか」

「価格が大きく違うものばかりなので、計算に秀でた者じゃないとお会計が心配です」

「あー、一応解決する物を作ってはいるんですが、早まったかな」

「クロウさんまたですか」

「あら、何かしら」


 この世界の基礎的な識字率、計算能力は低い。

 例の冒険者の話の通りだ。

 但し、これにはちょっと注釈が必要だろう。

 教養もお金も在るところには在る。

 要は格差があるようにされていると言った方がいい。

 

 まあ驚きなのは貴族の教育でさえ数学、いや算数レベルを修め鶴亀算や小数点の計算、分数が理解出来れば優秀とされる事かな。

 理由は計算能力が必要ならその能力を持つ者を配下に持てばいいという考えだからだそうだ。

 うーん、言わんとする事は判るがそれでいいのかとも思う。


 高度な数学知識については学者が有してはいるけれど、活躍する場が少ない為か一部の大学施設のみで受け継がれる専門知識となっている。


 一般人でも一部その知識を伝え続けている人たちがいる。

 所謂、親方と弟子の関係だ。

 面積を計算したりする必要がある知識のみを親方から弟子に教え込む。

 商売に関しても同様だろう。



 そんな社会で商売が成り立つのかと思ったが、庶民は逞しい。

 果物などを販売する屋台などでは表を利用することを前提に販売する物の値段を決定してある。

 林檎1個で10エール、檸檬は二つで10エールにしておけば、表を見れば代金が幾らになるか一目瞭然。

 そうして工夫がないと計算のミスが生じやすいと言う事だが難しい遣り取りは必要なくなる。



 ちょっと大きな商家であれば其れなりの教育を施されている。

 様々な商品があるために、一纏めに出来ない事もあるのだが、商人は計算棒という升算を発展させた計算用の道具と計算台という算盤のような台の石を動かす道具で計算している。

 計算棒は地球でいうところのネイピアの骨と言われる物。

 予め段毎に九九の書かれた棒を用意して、掛ける対象の数字を並べていく。

 2の表記だとこんな感じ。

 2|0/2|0/4|0/6|0/8|1/0|1/2|1/4|1/6|1/8

 こんな風に出来ている棒(縦書き)を使って計算をする。

 432×7

  |×1 |×2 |×3 |×4 |×5 |×6 |×7 |×8 |×9 

 4|0/4|0/8|1/2|1/6|2/0|2/4|2/8|3/2|3/6

 3|0/3|0/6|0/9|1/2|1/5|1/8|2/1|2/4|2/7

 2|0/2|0/4|0/6|0/8|1/0|1/2|1/4|1/6|1/8

 ×7の段を抜き出す。

 実際には斜め読みで直に計算ができるけど一応ね。

 2/8+2/1+1/4

 一桁4、十桁1+1=2、百桁8+2=10、1繰りあげて0、千桁2+1=3

 答え、3024になる。

 これと算盤と同じ仕組みの計算台を組み合わせて商売相手と顔を突き合わせながら計算しているのが現状になる。


 この遣り取りしてみたけどさ、端的に言って非常に面倒。

 いやさ、何桁の計算でも和算するだけになるし、お互いに確認しながらってのも悪くはないけどね。

 せめて一桁の暗算さえ出来れば升算で対応も筆算でも可能な内容だ。

 まあ紙すらも羊皮紙か木の板しかないんだけどね。

 いや異世界物でよくある算盤もさ、結局は一桁の暗算、九九が出来る事が前提だから駄目なんだよな。


 そんなこんな事情だからレジスターないと困るよねって思った訳だ。

 お金の計算なんだからレジスターでしょって発想だよ。

 機械式計算機の仕組みを魔術で作って電卓っぽくしただけで、単に商品の小計と合計金額を算出する為に掛け算と足し算、代金の受け取りからお釣りを渡すのに引き算の機能だけ持たせたんだが。

 本当はオーダー受注時に計算して注文を通すシステムを思いついてたなんて教えられない。

 あれ便利だと思うんだよな、居酒屋とかファミレスの注文を受けるの。

 文化レベルをぶっ飛ばしそうだから控えめにしたんだけどなあ。


「計算が自動でされる魔道具」

「商品の値段と数を打ち込んで合計して預かった金額を入力したらお釣りまで……」


 ええ小計を足して合計金額を出してお釣りを出すだけですよ。


「クロウちゃん、こんな魔道具を作れるんだもの、もしかしてだけど暗算は得意なのかしら」

「ある程度なら可能ですよ、覚えられる数字の桁的に5桁で勘弁して欲しいですけど、掛ける数字が大きくなると3桁位迄ですかね」


 まあ、能力を使わなければそんなもんだろうな。

 能力を使ったら、うん際限がないわ。


「では筆算なら何桁でも可能なのね」

「そうですね」


 ああ、そうか能力がなくても俺の受けた教育のレベルがこの国での貴族レベルを超えるのは当然だわな。

 つまり、どういう事かと言うと。


「戦闘能力に魔道具の知識に留まらず、計算にも強いのね、ウフフフ」

「コレクターとしてだけでなく、……(事務方の手伝いを)




 目が獲物を狙う猛獣と見間違える程にマジだったのでHANASHIAIの場を設けた。




 辺境伯家とか冒険者組合の事務仕事を引き受けさせられかねないので魔道具を数点作って販売する事になった。

 機密に関わったりするのは嫌だし。

 異世界で事務員やってますとか夢が無さすぎるだろ。

 能力的には天職だろうけど。

 まあ、算盤を売るよりもファンタジーだよね。

 九九が出来なくても大丈夫なところがミソだ。


 販売価格は一つ10,000エールに決まった。

 一つ10万円ですよ、ぼったくりだなあと思うよね、でもクリスさんやエリーさんの意見は違った。

 魔導具を安く販売するのはそもそもが問題だそうだ。

 確かに原価は日本みたいに安くない、少なくとも魔晶石、水晶、金属なんかを結構使う上に模造防止の魔術や機械式計算機を魔術で作り上げたという制作技術料が入ればこんな値段でも妥当だとか。

 話し合った結果こんな魔道具を作る人は他には居ないと呆れられたけどね。

 やはり魔道具と言えば戦闘用という認識が大きいみたい。




 色々と協議中。




 最終的にこのカフェテリアの事業と合わせて一つの商会を持つことになった。

 ノルトマルク商会、俺の名前は出さないのは一つの条件みたいなものだ。

 人材はノルトマルク家から、技術や品物は俺からで、代表者もなぜか俺。

 この魔導式計算機の制作と販売の様な魔道具関連とカフェテリア等の飲食事業を経営する商会として登録する。

 制作については全部を俺が作っても良かったけど、どうせなら部品なんかを外注した方が色んな人に利益が出る、つまり辺境伯家としては地域振興の一環として扱えるという話、俺は儲けを独り占めしないで済むし恨みも買わないだろうという目論見。

 そんな理由もあって職人などに入力する部品などを発注する事になった。


 おかしい、スウィーツの話をしてたら何故か商会を立ち上げる事になってた。

 うーむ、程ほどだけど俺自身も便利な物は欲しいからなあ。

 或る程度上手く使われる代わりに俺もこの商会を利用すればいいか。

3204→3024

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