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チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
46/51

呼び方で変わります

 王都での説明はアルさん達の人柄もあって上手くいった。

 多少は余計な出来事も発生はしていたけれど問題はないだろう。

 王都の治安が良くなったり。

 街道が安全になっていたと報告がだされたとか。

 上級学校で七不思議の噂が一つ増えたとか。

 そんなことは些細な出来事でしかない。



 無事に辺境伯領まで飛行船は帰り着き、クリスさんも送り届けた。

 まあ、当然の如く着の身着のままヴォルフさんと訓練に突入したのは言うまでもないな。

 んでさ、この筋肉が言う訳よ。

 王様をアルさん呼びしているのに、俺には余所余所しいのは矛盾してるぞってな。

 駄々を捏ねるからヴォルフさんと呼ぶ事になった。


 いや、一応師匠的な扱いでヴォルフガングさんと呼んでいたのに。

 心の中ではオッサンだったり筋肉鎧だったりしたけどさ。

 俺からすればオッサンの呼び方がどうだろうと意味は無いのだがな。


 重要なのは女性を呼ぶ時の名称だけだろう。

 呼び方一つで相手に対する印象が変わるからな、いや大げさじゃなくてさ。

 恋人に対して、「なあ」「おい」「お前」なんて使ってたら印象が悪いわけだし、当然相手からも同じように捉えられる。


 呼び捨てよりも「ちゃん」「さん」を付けた方が優しく聞こえるし、自然と全体的に丁寧な言葉遣いになる。

 意外に思うかも知れないが、自分自身の行動や態度も喋り方に影響を受ける事が多い。

 まあ、何が言いたいかと言われると俺がクリスさんの事をちゃんなんて気軽に呼べる日が訪れるかどうかってことだな、出来ればティーナちゃんと呼びたい。




 妄想が漏れた。




 さて、本日の俺の得物は一部の方々に大人気のトンファー。

 但し木製ではなく希少金属製。

 え、木製とかプゲラだよ、どこぞの世界樹で作るかなにかしないと、一撃も受け止められないで攻撃に触れた瞬間に爆散するわ。


 沖縄空手の旋棍が今では世界中の警察組織などで警棒として採用されている。

 それだけ携帯する装備の中で優秀だと評価されているということだ。


 そして、オッサン改めヴォルフさんが戦棍、所謂メイスを2本。

 いや、これ戦棍っていうか、それ先端がデカすぎでしょ。

 棘はないからモーニングスターではないけどさ。

 破壊力重視すぎるよ。

 三国志ゲームで女性が振るう訳がないって思ってたあれだよ。

 錘の一種で金瓜錘だったと思うけど。

 錘には鎖が繋がっているだけの機動する宇宙兵器の武器もあったよな。

 あれをハンマーだと表記するのは無理だろと子供心に思った。



 いや重要なのは其処じゃないわ。



 毎回思うんだが、俺の武器とヴォルフさんの武器が違い過ぎる。

 いや、俺の武器も大概だけどね。


 先端が重い武器なのに、まるで単なる二本の棒を扱うように振り回してくる。

 こっちはトンファーを受け流しに使うしかない。


「フッハッハッ、ソレソレどうした」

「うぉ、普通、そのての武器ってもっと体幹が流されるもん――だろうが」

「鍛えた筋肉と二つの武器を操るのだ、二つの流れる力を筋肉でバランスを取れるようにするのが妙というもの」

「ならっ、これで」


 トンファーの利用法は色々とある。

 有名なトンファーキックじゃないぞ。

 いやあれも受け流しからやれば立派な攻撃方法だけどさ。

 トンファーを持つ部分によって用途が変わるって話だ。

 普段の持ち手ではなく、柄の端をもって持ち手を鉤として使う。


 ――ガキンッ


「ぬ、フハハ、まさか武器を絡めとろうとするとはな」

「いや、奪い取れなかったけど、こいつの真骨頂はこんなもんじゃない」


 そこからは格闘戦に移行。

 近接戦闘になる。

 距離感を掴ませない攻撃を繰り出す。

 通常の防御姿勢から突きを繰り出すように見せかけて、旋棍の名の通りにグリップを利用して前腕部分からぐるっと回して打撃。

 

 しかし巨体の癖に素早い、空を切った。


「筋肉の防御は無敵、そして我が一撃はそんな物では防げぬ。

 ぬぉりゃぁ」


 どこの世紀末の覇者の科白だよ。

 つか筋肉関係ねー、あれ? あるのかも知れんが、解らん。

 兎に角、繰り出す連撃をさらに速度を上げていく。

 手数で勝負だ。

 

 ヴォルフさんも武器の持つ場所を変えて戦棍の長さを短くして対応してきた。

 さらにコンパクトになって暴風の如く暴れる。

 ああ、カンフー映画で戦鎚を扱う職人に主人公が反対に持って使えと指導したシーンを思い出したよ。

 あとバットのコンパクトスイングだっけ。

 ガンガンと打ち合うしかない。


 近づけば暴風の如き連続の攻撃。

 中距離になれば一撃必殺のフルスイングの連続。

 いや、近距離のでも十二分に必殺の一撃だけどね。

 ヴォルフさんも決定打を欠いているが、此方も攻めきれない。

 道具の力でどうにかするという考えはないからな。




 初めての引き分けですよ、ちょと嬉しい&休憩タイム。




「ふむ、アルが気に入であろう事は想定の範囲であったが、あのカーチャがな」

「ええ、無双に勝った男ならと。

 困りましたよ」


 言外にあんたのせいだろと目線を向けたが、そんな非難などは気にしないという太々しさ。

 いや、言外などこの筋肉に通じる筈がないのか。


「フハハ、まあ腕相撲の事も事実に違いはない。

 そしてこの対戦でも魔法などを使われれば間違いなくクロウが勝つ事は間違いないのだから嘘は伝えておらんよ」


 ま、事実だけどさ。

 そのお陰で王配云々って話になったんだよ、悪戯が成功したみたいに嬉しそうに笑ってるんじゃねえ。

 それにだ、俺の作った魔法込みで何とかなるかどうか微妙な所だと思うぞ、思考加速だけじゃこの人に勝てないだろ。

 やればやる程にこの人の強さを実感しているからな。

 魔法だって既存の物なら「ガハハ」とか笑いながら無視して突っ込んでも無傷とかあり得そう。


「いや、確かに何でもありならって条件ならばそうかもしれませんけどね。

 そんな理由で王配とか勧められても困りますって」

「ククッ、相変わらず自己評価が低いな。

 それよりも、我も断られたアルの顔が見たかったものだ」


 いや平然としてたよ。

 あわよくばって感じだったしな。

 それに子煩悩な点はオッサンもいい勝負だろうし、嫁には出したくない派だろ。

 つかやっぱり自分に勝たないとカーチャが納得しないのを知ってたな。


「ヴォルフさんからの手紙である程度は想定していたみたいですよ。

 仕方がないかって思われてたようですし」

「いやいや、昔から人に弱みや悔やんでいるのを悟らせない奴の事だ、相当残念に思っておる筈」


 アルさん、王様なのに竹馬の友がこんなんでいいのか。

 しかし、ヴォルフさんの話が本当で、あれで残念に思ってたのなら腹の中を読ませないのは流石なのかな。

 娘を気に入らないってどういう事とは思ってたみたいだけどさ。


「なんにせよ、承認も貰えましたから良かったですよ」

「うむ、あと近々の問題は例の孤児院の事ぐらいか」

「何かありましたか」


 おいおい、そんな話は訓練の前にするべきじゃないかなあ。


「その件は私からクロウちゃんに説明するわ、お疲れさま」

「あ、どうも」




 丁度いいタイミングでエリーさんとクリスがお茶を入れて持ってきた。


「此方で衛兵の巡回を多めにしていたから良かったのだけど、立ち退かせようとする輩が現れたわね。

 首謀者を探しているのだけど、捉えた者達からはでは命じた人物は辿れなかったわ。

 判明しているのは酒場での依頼の受け渡しのみで……慎重なタイプのよう……ね。

 あれ、クロウちゃん聞いてるかしら」


 へーそうか、孤児院に手をだすのか。

 あのモフモフパラダイスにね。

 俺をお兄ちゃんと呼んでくれるモフモフに対する敵対行動と見なしていいのか、そうかそうか。

 世の中にはそれはそれはおめでたい人もいたね。

 そんな人もいると聞いてたけど、潰していいよな。


「クロウちゃん、その、出来れば街は壊さないでね」

「クロウよ、許せぬ気持は判るが顔が鬼のようだぞ」

「クロウさん、大丈夫ですよ。

 流石に巡回がいる中で手を出す者はおりませんよ」

「ええ、大丈夫です、冷静ではいますから街を壊したりしません。

 ただ、ちょっと捕まえて事情を聴くだけですから」


 俺の顔が鬼のようだって、ハハハ。

 商人か教会か知らないけど、画策した奴は地獄行決定だよ。

 俺が裁こう、モフモフは正義だから構わんよな。


「もう、クロウちゃんたら、駄目よ。

 怖い顔してたら、子供達が悲しむわよ」


 ハッ、それはいかんな。

 ちょっと冷静にならないと。


「冷静になったみたいね。

 それはそうとして、ちょっと聞きたいのだけど、何か美味しいスウィーツをクリスに食べさせてあげたらしいじゃない」


 しまった口止めしてなかったよ。


「ええ、色々とお世話になって迷惑を掛けてるなあとお詫びも兼ねて」

「興味があるのだけど」

「ええ、そうでしょうね」


 先程の俺より目が怖いと思うんだがどうなのよ、いえ何でもないですよ。

 此方をどうぞお召し上がり下さい。

 贈呈しますので。




 最終兵器スウィーツを進呈しておいた。




「これ、凄いわね。

 ねえ、このレシピ」

「少々集める材料が大変ですけど、これです」

「あら、このスウィーツのレシピ売り物になるのよクロウちゃん」

「うーん、自分の考え出したレシピではないですからねえ」

「ふふ、でもこの国にはないレシピでしょ、情報は一つの商品でもあるわ」

「クロウさんの欲の無さも一つの美徳として好ましいですが、こういう物は森の採取情報と一緒です。

 価値ある物には正当な評価をするべきです。

 これを領主家が守らないと信用に関しての問題が発生するという事になってしまいます」


 それを言われるとな。

 確かに目立つレシピになるのは確定だろう。

 貰う側にも渡す側にも義務はあるか。


「なるほど、ではそうですね、提案するのは二つ。

 一つ目はこれを元に出資してもらってお店を作るなんて言うのはどうですか」

「お店を出すの」

「ええ、知っているスウィーツのレシピを中心としたカフェを開けばいいかなと。

 上流階級向けならば、この領都でも王都でも受けると思いますし。

 一般には持ち帰りの販売とかも可能でしょう。

 自分には伝手がありまえせんが、どうせレシピを出すならその道の専門家を育てる事を目標にしたいなと。

 但し、その前に色々と大変な事がありますね。

 酪農で牛乳、ホイップクリームやバターを作る分まで含めて必要量確保したり、養鶏で大量の卵を確保する必要もあります」

「辺境だから牛乳を手に入れるのは少し厳しいけれども、それぐらいなら何とかできるわよ」


 言い切れるのが凄いね。

 さすが王妹ってところかな。

 俺の知る限りの範囲だと牛乳を手に入れるのは難しかった。

 なにかコネでもあるのかね。


「二つ目、このレシピを欲しがるだろう商売人や職人にどこまで許すかはお任せします。

 対象は勿論貴族相手も含みますよ」

「それは、なるほど面白いわね。

 美味しいスウィーツを餌にお茶会を開いて注目を集めてご婦人方に恩を売る事も可能だし、貴族の賛同を得ることも可能、さらには領内の新しい名物を作る事の交渉権利も貰えるのね」

「ええ、店を出せばレシピを欲しがる貴族や商人が現れるでしょう、是非利用してください」


 相当出したスウィーツが気に入ったのか話がトントン拍子に進む進む。

 ヴォルフさんは口出しする気配すらない、懸命なようで何よりです。

 クリスさんは全面的に賛成のようですぐさま手配できるように何やらメモしている程。

 こうなれば俺は試作品を作ろう。

 材料の違いはどうしてもあるし、種類も増やしたい。

 丁度いいから孤児院でいいよな、食べるテスターにも困らない。



「純利益で結構ですから、その四割を俺に、残り六割を辺境伯家の取り分にするという契約で如何ですか。

 商家との交渉に関しては其方の利益のみで結構ですよ。

 此方からはレシピの他に菓子作りに使う調理道具や設備と指導を提供します、辺境伯家からは土地や営業資金、人材をお願いします」

「あら、売り上げからだったり粗利からだったりしなくていいの、普通の考案料やオーナーの取り分は最低でも粗利から三割は貰う物よ」

「儲かるとは思いますけど、自分で経営をする気はないですからね。

 基本的に人任せでやるのに欲張る事もないでしょう。

 本当は一割と言いたい所ですけど、少ないと怒られるのでこれでも上げているんですよ

 それに珍しい採取品や必要な道具は必然的に俺が請け負う事になりますから其方でも利益を取れますからね」


 簡単に言えば共同経営してね、ってところかな。

 其の後は近々に店舗の確保や職人の確保について話し合う事を決めてお暇する事になった。

 上手に話を逸らしてくれたから今は大分冷静になった。

 取り合えず、明日は孤児院に顔をだそうか。

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