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チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
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 リリの魔道人形は基本的に球体関節で内部の構造を作った簡易なゴーレムだった。

 少々俺の目的の物とは違うが、参考になる意見も聞けたので勉強になった。


 他にも色々と素材の話などで盛り上がったのだが、希少価値のある素材は王都で探すより地方の冒険者組合などに協会を通して依頼し手に入れるのが確実な方法なのだとか。


 やはり素材は冒険者らしく自分で集めるか。

 目標は自律型生体機械人、所謂オートマタと言われるゴーレム系を発展させた人形を作りたい。

 ホムンクルスは倫理的にどうなのだろうという事もあるし、そちらは目指していない。


「へえ、もっと精巧なゴーレムをね」

「ま、飽く迄も目指しているだけなんだけどさ、人と変わらないレベルの出来上がりを目指したいんだ」


 楽しい会話というのは時間を忘れさせてしまうものだ。

 何時の間にか、月待の鐘が鳴り響いていた。

 リリは一流の職人としての腕と知識を兼ね備えていて、雑談においても長年に渡って蓄えたであろう叡智が会話をより楽しくしてくれついつい熱中したようだ。

 技術や素材の話をリリともう少し交わしてみたいけれど、お客も新たに入ってきたのでお暇する事にした。


「じゃあまた」

「ええ、またね、依頼でもさせてもらうわ」

「依頼がくれば優先的に引き受けるよ」


 手を振って別れを済ませて、滞在場所である辺境伯の館に向かった。




 ちょっと急がないとね、鐘がなって暫くすれば夕食だ。




「お帰りなさいませ、旦那様」

「旦那様じゃないですよ」


 それで王女様がなんで此処にいるのかな。


「クリスさんただいま帰りましたけど、まず説明を」

「お帰りなさい、それが、未だに説得出来ていません。

 現状は仕方がないという判断です」


 ああ、クリスさんの表情がかなりやつれているし、どこか憂いを帯びているということは余程説得したのだろうな。

 しかし王女様には通じなかったか。

 これは強制送還しかないな。

 夕食も食べてないし、帰って来たばかりだけど仕方ない。


「では、ちょっと散歩にでも行きましょうか、エカテリーナ様」

「そんな他人行儀な呼び方をして欲しくありませんわ、カーチャとお呼びくださいませ」

「いえ、私的な場ではありませんからね、エカテリーナ様と。

 行きましょう」

「ウフフ、お散歩、これがデートというものでしょうかしら」


 ああ、厄介な。

 アルさんとヨハンナさんは……態と見逃したなこれは。




 とりあえず、連行した。




「と言う事で、お連れしましたので脱走しないように宜しくお願いします」

「う、うむ」

「あら、知らない間にどうしてかしらお城にいますわ」

「では御機嫌よう、陛下と妃殿下にも宜しくお伝えください」


 ふう、一仕事終えた気分だな。

 話術で楽しませてお城まで連れ歩いて、あとは近衛を呼んで引き渡した。

 扱いが酷いと言われそうだが、そんなつもりは一切ないな。




「と言う感じで引き渡して来ましたよ」

「クロウさん、いえ、お疲れさまでした」


 こういう時はスウィーツ仲間として甘い物で疲れを取るに限るよね。


「こういう時は、美味しい物を食べて疲れを癒すべきですよ。

 食後のデザートに特製のものをお出しするので楽しみにしてください」

「それはあの飛行船で食べたアレですか」

「いえ、同じものを何度もというのも楽しみが減りますから、別の物を用意しますよ」


 館で用意された料理を無駄にはできないからね。

 まずは食事を楽しんで、それからデザートだ。


 作ったのはミルフィーユっぽいスウィーツ。


「これはガレットでしょうか」

「いえ、中に入っているのは違いますよ」


 そば粉のガレットは中におかずのようなものを入れている料理。

 クレープにシーチキンなどを入れる様な料理だからデザートにはならない。

 見た目は確かにクレープ生地で包んでいるからガレットだと思ったのだろう。


「あら、切ったらサクって」

「ええ、パイ生地、クレープ生地、リキュールアイス、生クリーム、桃のコンポートを何層にも重ねてあるんですよ」

「食感が楽しいです、さくっとしてたり、ふんわりしてたり、冷たかったりと」

「その食感も楽しんでもらえるように作ったスウィーツですから」

「お陰で気が晴れたような気分です」

「良かったですよ」


 美味しいお菓子は人を幸せな気分にしてくれる。


「でも、本当にどうしたものかしら」

「王女様の件ですね」

「ええ、なんだか一周回って輪を掛けたように悪化したような」


 ええ、改善させる筈が負けて悪化したとか笑えないですね。




 王都二日目。




 俺は市場へ、クリスさんは王城へ。

 基本的に別行動ではあるけど、送迎はしておいた。

「将来の専属受付嬢を守るのと婚約者の噂も広めるためですから」とはクリスさんのお言葉である。


 王都だからと治安がいいとも言えない。

 辺境伯領では貴族は少ないから例のチャラ男のような貴族は少ないし、情報も手に入るのだが、王都となればそれこそクリスさんを狙う輩は多いのだそうで、噂を流す為にも王城までの同行は必要だそうだ。

 まあ、あのお茶会や賢人と聖女の策謀渦巻く話し合いに参加しないでいいと許されているだけでも有り難いと思っておこう。




 (いにしえ)よりの諺が語り継がれるのは其処に真実が見えるからだ、今俺は凄く実感している。




「敷居を跨げば七人の敵あり」とはよく言ったものだな。

 いや俺の場合は「犬も歩けば棒に当たる」だろうか、まさにトラブルが葱を背負ってくる男。

 どこかの空港やビルで大活躍しそうです。


 ハゲてないし予定もないけど。


 市場で買い物を楽しんでいた訳ですよ。

 基本的に王都の周辺だと辺境に比べると畜産もされているし、畑も多く様々な地方から果物なんかも運ばれてきていて念願の米も手に入った。


 いやあいい買い物をしたよ。

 なーんて思ってたら。


「邪魔だ、どけぃ」

「きゃあ」


 なんていう、ド定番の一幕が訪れた。

 しかも俺の後ろで。


 付き飛ばされた少女必然的に受け止める俺。

 なんか偉そうな肥満児、いや豚がズンズンと此方に迫ってくる。


「俺の前に立ちふさがる者の処理を邪魔するとは無礼な奴だな。

 おい、どいて跪け」


 豚が人間の言葉を喋ってるだとっ。

 飛べない豚の癖に人間と同等だと考えているとか、これがオークという豚顔の魔物だろうか。


(それは只単なる肥満な貴族です。

 宮廷貴族と言われる領地の無い貴族でデンブレン伯爵家、長男ディボルトですね、他は護衛が10名。

 雑魚です)


「取り合えず、人間様の言葉を喋る魔物に命令される筋合いはないな」

「なんだと貴様、貴族に対してのその暴言、許されざる罪と心得ろ。

 貴様らが証人だ、この無礼者を処分しろ」

「へぇ、豚貴族なんてのがこの国の制度にあったかな、貴族ってのは人に貴いと敬われるからこその貴族であって暴力を振るう豚なんて居ないはずだがな」

「こ、の俺を豚だと、構わん殺せえ」


 いやあテンプレな煽りで燃え上がるな。

 次々と抜剣する護衛。

 まあ人相も悪いし、一人も躊躇してないから同罪でいいよな。


「貴族に逆らうなんて馬鹿な奴だぜっブゲァ」


 おっと力加減を間違えたか、顔面強打で空中で一回転したわ。


「ひ、怯むな、男はたった一人、一斉に突き殺せ」


 おお、意外に悪くない判断じゃないか。


「せゃああ」「おりゃああ」「うらあ」と掛け声だけは勇ましいけど勢いが全然ないね。

 所詮は貴族のボンボンの護衛か。


 あまり派手に殴ったりすると周りの店に被害がでるからな。

 障壁で受け止めてからの、剣から走る電撃でジエンドだ。


「アバババァババヴァ」と電撃を受けながら悲鳴のようなものを叫んでいる。

 骨も折れてないし、ちょっと刺激的なだけだから運がいい。

 ま、半殺しで勘弁してやるさ。


「道を開けよ、何の騒ぎかっ」


 おお、意外に到着が早い。

 優秀だねえ、王都の守備隊。


「これは何の騒ぎか、貴様が当事者か」

「ええ、突然斬りかかって来ましたから対処したまでですけど何か」

「愚弄した罪を贖って死ねええ」


 ああ、そう言えば豚がまだ残ってた。

 剣を振りかぶって突撃してくる蛮勇はある意味凄い。

 肥満体だからドスドスとやってくる。

 せめて声を出さずに突きを出すべきだろう。

 まあ足音がなくても気が付くけどさ。


 振りかぶってくる剣なんて普段振っていないのが一目瞭然。

 見切って振り切った態勢の豚の顎を掌底で打ち抜いてから序に割れ顎に修復。


「あー居たの忘れてたよ。

 脂肪を筋肉に変えてから出直して来い。

 あ、お待たせしました、こんなのに絡まれてたんですよね」

「あ、ああ、災難だったな。

 おい、転がっている奴らを連行しろ。

 お手数ですが詰所まで同行して頂いても宜しいでしょうか」


 うーん、まだ買い物も全部できてないんだよなあ。


「何かあればノルトマルク家に滞在しているので其方にお願いします、まだ用事が残っているので。

 あ、これ組合のカードと、一応身分証になるって貰った短剣です」

「こ、こここぉ。

 ハッ! 拝見いたしました。

 ご滞在先も伺いましたので、何か御座いました際には是非ご協力をお願いいたします」


 さすが王様の短剣。

 まあ相手が貴族だし、いらぬ詮索が来る前に使っとけってやつだな。




 それから、三日間が過ぎて。




 王都を発つまでに不良貴族、チンピラ、冒険者と俺が歩けば棒に当たり過ぎるようで、まあ当てるのは相手になんだけどさ、アルさんには「王都の掃除をしてくれて助かったよ有難う」なんて言われた。

 褒美に回収した物をくれるとか、まあ只働きじゃないからいいが。

 あれだな自動で掃除してくれるロボット的な扱いだよな。

 街を歩いてたらゴミを回収して不用品をポイするとか。

 今の王都では不良貴族子弟は戦々恐々、勉学に勤しんでいるのだとか、下手に騒ぎを起こしたら身包みを採取するコレクターが現れるなどというデマが飛び交っているのだそうだ。

 失礼な話だ、俺が一番行ったのは王都の外での採取だぞ。

 王都の清掃なんて片手間で絡んでくるのをポイしてただけだ。

 

 しかしさ、ほんとしょっちゅう絡まれるんだけど。

 悪人ホイホイなんて能力はステータスのどこにも載ってないよね。


(悪漢に出会うのも運ですから、もしかするかもしれませんよマスター)


 おい、幸運を返却してくれ。

 悪人を倒す事が条件の幸運とかいらねえ。

 いや、感謝もお金も貰えたけどさ。


(マスター残念ながら女神様からの加護は停止、消却不可でした)

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