見えてた
何気なく告げた単なる事実。
だがどうやら地雷を力強く踏み抜いたらしい。
店主の顔が青ざめた。
あるえ、おっかしいな、何も発言に問題はなかったよね。
寧ろ褒めたよな俺。
(鑑定をしておりませんので詳細は不明ですけれど、正体を隠していたか、若しくは光人族な可能性もあるのではないでしょうか)
闇輝族なドワーフ的な人は鍛冶だなんだと人族の領域にいるけど、光輝族のエルフっぽい人達が自分たちの領域を出るのは滅多にないんだったな。
それかハーフエルフと言われる光輝族と文人族との子孫で光人族の可能性もあったか。
「でも、え、壊れてないし」
どうやら混乱中らしい。
喋り方も変わった。
さて正解はどちらかという問題ではない。
恐らくは偽装か何かで隠していたのだろうけれど、俺にそれが通じてなかったのだろう。
うーん、獣人族の問題は聞いたしな、獣耳族と言われる子供達の事も知っているけど、光輝族や光人族にも差別問題とかあるのかね。
(いえ、光人族にたいしての差別は確認されておりません。
但し、国を超えてでも奴隷化を目論む奴隷商などが他国には公然と存在します)
そっちっぽいかな。
「えーと、何が拙かったのか判りませんけど無かった……事にはできなさそうですね」
「うぅ、完璧に外見や声まで偽装する幻惑の効果が見破られているなんて……」
ものっ凄い落ち込んでらっしゃる。
そうか声も変えてるのか。
「もしかして、最初から老婆に見えて無かったの」
「ええ、店に入ったら美人な方が店員さんなんだなと」
「……うう、最初からだなんて美人って褒められるよりもなによりも悲しい、私の努力を、お婆ちゃんになり切る演技力がっ」
あ、また落ち込んだ。
あれはやっぱり演技だったのか、へんな方言だと思ってた。
(原因は恐らく幻惑対象に魔力的な作用を及ぼす筈がマスターの魔力の方が高かったのか、もしくは状態異常の判定となり六根清浄で打ち消されたか、あるいはマスターの目は常に魔力が籠っているので幻惑をそのまま無視したのだと思われます)
それはまた酷い理由だな。
「こ、こうなったら、………………………、え無理、絶対に敵わないから諦めろですって。
ちょっと嘘でしょ、魔道人形が、え、それでも無理だって、そんな」
一人でなんだか騒いで失意体前屈の姿勢になってしまった。
(どうやら、土の精霊に頼んで拘束するように小声の精霊言語で最初は頼んで逃亡を図ろうとしたようですが、土の精霊が無理だから諦めるようにと告げたようですね。
マスター相手ですから当然の結果でしょう)
あーうん、なんだかすいません。
ヒソヒソと話していたのは精霊だったのか。
おお、あの小さいのが精霊なのかもしれん。
あ、ビクってした、大丈夫攻撃はしないぞ。
手でも振っておこうか。
おお、安心したのか振り返してくれた。
「えっと別に害意は在りませんので」
「でも人族に知られたら光人族は人攫いに連れていかれるってお母さまが言ってたもの」
そうなの、いや国によっては公然とやってて、禁止しているような国でも隠れてやっている奴がいないとは言えないか。
「大丈夫ですよ、と言っても何にも証になる物がありませんが……、あっと、これ出してもいいかな。
これを貰うぐらいの立場ではありますから、嘘はつきませんよ」
「そ、それって聖遺物」
「ええ、ちょっとした事で送られてきた女神様からのお墨付きなんですけれどね」
「…………、判ったわ信じるわ、良く考えたらノームが諦めろなんて敵わなくても言う訳がないものね」
そうなのか。
(まあ、精霊ならばマスターのこれまでの活動に関してそれなりの情報を持っていても不思議ではありません。
精霊も敵対したくないでしょうから必要最低限の助言に止めたのでしょう)
「改めて、クロウだ、ブランデンブルクで普段はコレクターの冒険者をやってる、宜しくな」
「アルーフの森、光に包まれし白銀の髪をもつ民の長スキルニール・フルゴル・アルブスとアルーフの南の谷、弓を構え光に集う民の娘のライララライ・アルクス・ルークス・が娘の一人、リリヤリッリ・ルークス・アルブスよ」
長いそして覚えられない。
(マスター、既に記録済みですが、お呼びになる際は本人の名前だけで大丈夫ですよ)
この場合はリリヤリッリ・ルークル・アルブスと呼ぶのかな。
(短縮はなさいませんように、相手が短縮して呼ぶことを認めない場合に略して呼ぶのは輝人族のマナーに反しますので)
了解、文化は色々だからな。
「まあ、文人には長いでしょうし、私を見破る程の男だもの、リリでいいわよ」
「いいの、文化はどうしたの、しかも完全に省略してるし」
「フフ、輝人族の文化も知ってたのね、伊達に文人の社会で暮らしていないわ」
「そうか、まあ確かに長いなとは思ったが、文化だしと受け入れていたんだが。
よろしくな、リリ」
「ええ、宜しく」
とりあえず問題はなくなったかね、しっかりと握手をかわした。
演技してた時もいい観察眼だったしな。
知り合えたのも何かの縁だろう。
「ところで、気になったのだけど、貴方さっき手を振ってたわよね」
「ああ、挨拶だけでもしないと怖がられてそうだったからな」
「それって、ノームに」
「ああ、ノームに」
何を驚く、挨拶は基本だろう。
「えっ、ちょっと」
「話しかけてただろ、それで気になって見たら居たからさ」
「『居たからさ』じゃないわよ、なんで文人で精霊のノームが見れるのよ」
「いや、なんでって言われてもな、見えたとしか」
どうやら普通は精霊は見えないようだ。
知らなかったよ。
(余りにも普通に接していたので疑問にも思いませんでしたが、確かにかなり珍しい事ですね)
まあある意味魔力が常に籠っている目だからな。
「恐らくそれでリリの変装も効かなかったんじゃないかな」
「なるほど、確かに可能性はあるわ、幻惑を突き破ってたのなら……」
「然程気にする事でもないだろ、そうそう俺みたいなのは居ないって」
SSSランクのレアキャラだぜ、世界に今の所俺一人だけ。
渡世人で高位文人族。
ボッチ族でもあるな、アハハハ。
「まあそうね、しかし王都には何をしにきたの、ブランデンブルクなんて辺境でしょ」
「色々とあってね、知り合いの護衛を頼まれたんだ」
「へえ、コレクターなのに護衛ね。
聖遺物ももってるし、相当腕のいいコレクターなのね」
「いや、腕は悪くないつもりだけど、始めたばっかりでな、まだ格付けはシングルのランクエイトだ」
「格付けで腕の良し悪しなんて見極められないわよ。
あっちならいい素材もあるんでしょうねえ。
王都は物は集まるけど、近場ではいい素材がないのよね」
「ま、其の辺りも実はあまり詳しくないんだが、辺境伯領なら其れなりに素材はあるな」
位階:幻はなんとか作れるレベルのな。
「そうなの、詳しくないってなんだか不思議ね」
「ああ、実は――」
カバーストーリーを展開中。
「へえ、そんな事もあるのね。
確かに持っている武器は東方の刀ね」
「ところでさ、精霊にあの魔道人形に入ってもらって自動で動いて貰うんだろ」
露骨だが話を変えてみる。
いや実際ちょっと興味があるのよねアレ。
「ええ、さっきは敵対行動なんてとるな馬鹿って怒られて入ってくれなかったけど」
「ハハハ、まあそれはおいておいてさ。
精霊との契約ってどうやってやるんだ」
「あー、そうかクロウは文人族よね。普通は精霊が見えないから文人族には其の辺りの口伝はないわよね。
でも見えるなら、魔力を対価にして契約を望んでいると精霊言語で喋ればなんとかなる筈よ。
厳密にいうと契約ってことでもないのだけど。」
「精霊言語か……」
(翻訳機能を起動、拡張終了)
「土の精霊ノームと契約を望み願いを奉る」
イメージはラテン語を喋る感じなのだろうけどさ。
「なんじゃ、話せるんか、大丈夫じゃけ、ただ緊張しまくったけぇ。よかよ、契約するやつをよぶけえ友達としてくれや」
方言ミックスかよ。
理解できるギリギリだよね。
たぶん翻訳機能でもこれが限界だったんだな。
もっとフランクでもよか気がするばってん。
(翻訳機能を調整中、少々時間がかかります)
いやかまわんぞい。
おっと、大丈夫だよ。
「なんじゃ、急に呼び出して、ぬぉぉ、こん人ばあれじゃなかか」
「あれじゃな」
「あれかいな、契約すっと」
「ええ、お願いしたいですね」
「有名人の契約者の仲間入りじゃんね」
「有名ですか」
「そりゃもうな、最近の大事件だでよ」
(騒がしいのは宜しくありませんが、おめでとうございます)
「うんじゃ……またの、契約者殿用事があれば呼び出してくれ、土さえあれば何処でもいけるぞい」
「宜しく頼みます」
ああ、サポートしてくれたお陰で契約できた。
これで俺も精霊を使えるってことは試験運用も可能だな。
「ちょ、クロウ、なんで精霊と普通に会話しちゃってるの」
「え、契約したかったし。
見えてることもリリは知ってるし、今更じゃないか」
「いや、ううん、いいわよもう」
呆れた風に首を振られたし、ちょっと傷つくわ。




