定番
一口に魔道具と言ってもピンからキリまで多種多様な物がある。
大きく分けると二種類に分類できるかな。
戦闘に使われる物と生活に使われる物だ。
唯一魔道具全般に共通して言えるのは全てが高級品であると言う事。
素材は高価だし、魔道具を作成する一流の知識と技術料で値段は跳ね上っている。
一件目は貴族御用達で入店拒否。
まあ、御用達なら仕方がないよね。
二件目からは入店こそ出来たものの、店員が疑わしい目で見てきて不愉快だった。
窃盗でもするか、冷やかしだと思われているようだ。
非常に居心地の悪い態度で接客されて気分が悪くなってしまった。
二度とこないし、採取依頼がこの店の名前で出てたら受けてやらない。
(マスターの装備を見抜けないのは当然ですが、少し見る目があれば違いは判る筈ですので、所詮はその程度の店だということですよ)
いいんだ、顔つきは昔から怖いとよく言われたから。
アイちゃんに慰めてもらった事もあって、もう一軒だけ入ってみようと思う。
「いらっしゃいませ」
おや、普通だ。
今までが今までだけに普通の対応をされると逆に驚いたよ。
「何かお探しですかの」
「いや、魔道具に興味があって色々と見させて貰おうかと」
「成程、腕のいい冒険者さんなら魔道具に興味があるのは当然じゃからの。
ゆっくり見ていってかまわんぞい」
まあ腰に刀を佩いているし、外套も羽織っているから冒険者と判断するのはおかしくはない。
でも腕のいいってのはどうやって判断したんだろうね。
よく見ると店員さんなのか店主さんなのかは不明だが、この人はファンタジーの人気種族エルフ、こちらでいう光輝族だ、耳が長いし、なにより美人だ。
ちょっと方言っぽいけど種族差かね。
「じゃあお言葉に甘えて」
遠慮なく物色中。
お、これは面白いな、商品だから鑑定を使ったけど、身代わりの腕輪とでも名付けたい品だ。
魔力生体障壁が急激に減ったら自動で再補充する仕組みで、それ用に自分の魔力を封入できる魔道具の腕輪だ。
「ほう、それに目を付けられるとはの、中々に目が高いようじゃし、もしや鑑定もお持ちなのかの」
「ええ、これは凄いですね」
「この辺りで用意可能な素材の中でも最高の物を使っておるでの、かなりの魔力を封入でるぞい」
「だからいいお値段になるんですね」
値札に付いているのは中々にいい値段だ。
35,000エール、だが使われている希少金蔵や魔晶石に技術料を考えれば妥当なのかな。
「うむ、残念ながら殆どが材料費じゃからして、もっと安く材料が手に入れば良いのじゃがな」
材料確保は大変だよね、俺も結構大変なとこに行かされたもの。
それにしてもこの店は魔道具を仕入れている訳じゃないのか。
「もしかして、此方を作られたのは」
「この店にあるものの大半は作ったものじゃな」
「いい腕をお持ちですね。
これ気に入ったので買わせて下さい」
「うむ、褒められるのも悪くないがの、これはおぬしでも作れるじゃろうに」
「うーん、こういうのは発想ですから。作れるか作れないかで言われれば作れますけど、考え付かなかったと思いますよ。
それよりも、どうして俺が作れると思ったんですか」
さっきといい、今といいクリスさんと同じような人なのかね。
でも鑑定はされた気配もないし、そもそも女神様の偽装は破れない。
「簡単なことじゃぞい、こう見えても腕にも目利きにも自信があるのじゃぞ。
なのにじゃ、その衣服に外套、鑑定はせんでも見たことのない素材じゃろ。
それに製法も知らぬ方法のようじゃし。
しかも寸分たがわぬ作りじゃからして専用の一点ものじゃ。
しいて言うならば意味が解らぬぞい、見た目だけが質素な冒険用の衣服じゃ、実際には判らぬが隠されているのは相当に高度な技術じゃろうな。
そこまでの品を作ったのじゃから製作者も商品も名前が売れぬ筈がなかろう、普通ならば情報が出回るのが当然じゃぞい。
じゃがここしばらくの間で一切その手の話は噂すらなかったのじゃ。
じゃからして作り手は名前を売らない主義と言う事になるじゃろ、なのにじゃ目立つ事が仕事のような冒険者が専用の物でもっているなどありえんのじゃ。ならば、あとは解るというものじゃ。
あとは感じゃな」
この世界の女性の感とやらはどうなってるの。
偽装の阻止と偽情報では防げないの。
(こちらの店主に敵対意思の反応は在りませんが、情報を表示しますか)
いや、いいよ。
こういうのも楽しまないとね。
「感ですか」
「感じゃぞい」
「じゃあ、その感が当たっているかどうかは不明ですけど、他の商品も見ていいですか」
「フフフ、ゆっくりと楽しむがいいぞい」
ウフフフと微笑が似合う美人エルフ。
異世界に来てから目の保養が捗るわ。
腕輪を購入するのは決まりとして、他にも見せて貰おう。
戦闘用の魔道具が冒険者や騎士に売れる物だけに豊富に取り揃えられている。
攻撃用の物は杖に魔晶石が取り付けられていて、火、水、風、土といった属性の弾や槍を飛ばす。
他には先ほどのような腕輪や指輪、首輪などの装飾品に何かしらかの効果を持たした物。
魔力の収束を速める杖替わりになる魔法の指輪や、装備した腕や足の筋肉が強化される力の腕輪、素早さの足環などの戦闘補助になる物。
ロールプレイングゲームの定番とも言える魔道具達が存在していた。
ちょっとテンションあがりますわ。
(マスター、ご自身で作る事が可能ですが)
それはそれ、これはこれだよアイちゃん。
そもそも、それを言ったら殆どの魔道具が俺には必要がないだろ。
こういうのは収集家というか興味があるから楽しいんだよね。
自分で魔道具職人にはならないだろうからさ。
(マスターが作成すると聖遺物級の魔道具や魔導具の製作者になりますからね、世界が震撼しますよ)
治療魔道具の悪夢を繰り返すわけにはいかない。
クリスさんに怒られて凍るような視線で見られるし。
なにより俺のスウィーツが減る。
生活の魔道具を見てみよう。
こっちは生活用でもあり、野営などでも使える物になる。
一番普及しているのが灯りを生み出すランプのような魔道具。
シーカーなどの冒険者には必須の魔道具とも言われている。
一般家庭ではちょっと厳しいけれど、貴族の家ならば蝋燭は使用せずにこの魔道具を利用している。
他にも庶民には手が出せない高級品になるが、氷を生み出して涼しい風を送る空調の魔道具やひと昔前に利用された冷蔵箱があった。
冷凍庫は別に存在していたが、お値段が半端ない値段になっていた。
どうやら魔道具の素材と、ただ氷を作るだけなのと物を凍らせるのと何かが違うのだろう。
魔晶石の大きさも大分違う。
あとは説明を聞かないと判らなかった給湯器。
大きすぎて何の箱かと思ったが、貴族用のお風呂などに使用されるらしい。
まあ、白物家電じゃないけど似たような生活用の魔道具だ。
ちょっと効率が悪いような気もするが、最新の電化製品を知っているからそう思うだけで、この魔道具達もこれからもっと進化するんだろうなと思う。
実際、電気もなにも無しで利用できるのだから魔晶石を使うと言っても地球産の物より優れている点はあるしな。
で、この店で一番目を見張ったのはこれも魔道具かよという品だった。
ドンと鎮座しているのは鋼鉄製の騎士鎧。
なんでこの店に騎士鎧がおいてあるのかね。
流石に魔法の付与がされていてもこういうのは防具屋の領分だからだ。
ところが、この騎士鎧は鎧では無かった。
分類でいえばゴーレムになるらしい。
魔道人形。
但し、魔法で操る必要があるので普通の魔法使いでは自律行動は不可能なのだとか。
どうやら売り物では無くて、受注生産のサンプルで防犯用に置いている店主の持ち物らしい。
で、普通の魔法使いでなければ何ができるかと言えば、精霊を召喚してこれを動かしてもらうのだそうだ。
ファンタジーだった、AIの代わりに精霊を使役してるのね。
どこかの鉄の人とか機動するタイプではなく精霊に動かして貰うとか、ちょっと凄いな。
何気に俺の作ろうとしている目標に近しい物があったなんてな。
「これは凄いですね、流石は光輝族の方ですね」
「ッ、」