表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
42/51

王都をぶらり

 一つだけ疑問に思ったんだ。

 何で賢人と聖女を足して姫騎士が生まれたかね。


 そんなどうでもいいことを考えている俺は今王都散策中だ。



 最終的に奉仕活動に従事するような選択肢はなんとか回避した。

 アルさんとヨハンナさん。

 こう呼ばないと拗ねる美丈夫と美女は王族だけあって駆け引きに優れていて、あわよくばと勧誘していたのが冗談だったのではないかと思う程、あっさりと手を引いた。

 但し、一つだけ押し付けられたのが、王家の紋章入りの短剣。

 これだけは友人として持っておけってさ。

 断りにくい言い方だが、俺の安全の為と言われればちょっと嬉しい。


 単純で悪かったね。


 いやさ、お墨付きがあるから最終的には何かあっても今回の騒動は乗り切れるだろうけれど、禁止されていないからと言って、そうそう持ちだす軽い物ではない訳で。


 女神様からの聖遺物に比べれば普通の短剣に過ぎなくとも、この国の中でこの短剣を見せれば俺が国王の庇護を受けている証明となる。

 例え公爵であろうとも俺に対しては手出し出来なくなるお守り的アイテムだ。

 この紋章が目に入らぬかってやつだな。


 褒美に関しては結局保留になっている。

 いや、教会の受け皿だけで結構ですと言ったのだけど、功に報いるのは王としてなさないといけない事だからと言われたので、先延ばしという方法で躱した。

 実際にまだやった事と言えば医療用魔道具の提供ぐらいだから妥当な判断だ。


 治療魔法の問題が片付いて、教会の改革が済んでから改めて何かの報奨を貰うと言う事にしてもらった。

 暫くはこれで躱せる……よな。

 相手があの王族二人にエリーさんとクリスさんだけに心配だ。


 最悪の場合は家でも貰えばいいのだろうか。

 スケールが小さいとか言わないように、大体さ根が庶民なんだから大きな物や大金を持っても上手く活用できないし、人からの妬みも買うだろ。

 そんなの御免だよ。


 俺はこうして屋台で買い食いをしながら一人でのほほんと歩いてたりしたいのよ。

 転移してからずっと忙しなく急展開が多かったからさ。


 クリスさんの護衛は如何したって。

 護衛の契約はお墨付きと説明までの約束だったからいいんだよ。

 王城で王女様とお茶しているとこに一緒にとか拷問だろう。

 あの遣り取りをした後で優雅にお茶は飲めないって。

 特に王女様がいるとさ。


 お、ケバブっぽい料理だな、国が変わればというか世界が違うから呼び名は当然違うけど、ピタパンに挟んで食べるのも一緒か。


「おっちゃん、美味そうだな一つ貰えるか」

「おうよ、ちょっと待ってな」


 塩と胡椒を振りかけた肉が炭火で炙られている。

 その表面を包丁で削ぎ落してピタに挟む。

 焼き具合はちょっとミディアムな感じでローストビーフっぽい。

 肉汁が溢れていて美味そうな匂いがする。

 薬草ではない丸葉草(キャベツ)の千切りと一緒にピタに挟むと、酢と油それに角切りし赤水果(トマト)泪零草の球根(タマネギ)の微塵切りの入ったソースをかけている。


「ほらよ、出来上がりだ、25エールだぜ」

「ほい、これ代金な」


 早速齧り付いた。

 量的に考えれば十分に安いのに美味しい、希望を述べればソースにマヨネーズを少し加えてやるか、唐辛子ベースのソースでアクセントをつけたいけど、トマトの酸味と玉葱の甘味にシンプルなドレッシングが合わさっていて悪くない。


「美味いぜおっちゃん」

「ありがとよ」

「追加で30個作ってくれ」

「そんなに一杯買ってくれるのか、いいぜちょっと待ってろよ。

 すぐ作るからよ」

「出来上がった分からこれに置いてくれ」


 この世界では紙は普及していない。

 いや普及というよりも無い。

 だから、屋台で一番多いのは串で売るスタイルかさっきのようにピタで挟むような物が中心になる。

 飲み物のコップは洗って使いまわすのが基本だし、もう少し本格的な料理の屋台だと簡易な椅子を用意していて其処で座って食べて食器を返す事になる。

 イメージはカンフー映画とかでの屋台だろうか。

 そうなると殆ど店舗と変わらないからお手軽に歩いては食べられない。


「ほう、これは葉っぱか」

「流石に持ち帰るのに其のままじゃ袋に入れ辛いからさ」


 用意したのは笹の葉と経木だ。

 綺麗に洗ってお握りを包んでいるような使い方をしている。

 笹の葉には抗菌作用があるのでこうした用途に適していて、昔から利用されている訳だが、この世界でも同じ効果がある事は調べ済み。

 今でこそあまり使われないけどお寿司のバランとかが緑色のプラスチックなのはその名残だね。


 経木の材料は様々な木を薄くスライスして加工したお寿司なんかを入れる為に使われている包装材。

 俺は抗菌作用があるのを鑑定して確認できた檜をスライスして作った。

 笹のバラン程ではないが、此方もかなり見る機会は少ない筈。

 こっちの世界では利用されてなくて、天然の包装材はデカい葉っぱを利用してた。

 因みに、経木の名前の由来は紙代わりに使っていたからだろうな。


 寿司関連の話をしていたら寿司が食べたくなった。

 そう言えば、塩を入れた酢で作るシャリ、生姜が材料のガリを口直しに合間に食べたりする事や山葵も薬味の意味以外に食中毒防止目的だったりするんだよな。

 他にも鮪ならズケと言われる醤油や酒などを合わせた調味料に漬け込んだり、足の速いヒカリモノを酢で〆たり、煮穴子や海老の様に茹でたりする、こうした技法も元は腐らないようにする工夫だった。



 思考が逸れた。



「なるほどな、今度俺も真似していいか」

「別に構わないけど、笹は新しい葉で使いまわしは禁止だし、軽く洗わないと駄目だ。

 この木を薄く切って作ったのは俺の自作だからな、手に入れるのは難しいと思う」

「まあ、買ってすぐ食べるって人以外に持ち帰ってくれる奴が増えれば笹の葉を洗うってのは手間じゃねえよ。

 子供とかに仕事として頼めるしな、っとほい出来上がりだ」

「はい、代金ね。

 商売頑張ってな」


 向上心があるのは結構なことだ。

 次は何か甘い物か何かないかね、甘味処とか領都と同じレベルなのかな。

 新たな屋台はないものか。


 む、あるかもとは思っていたが、まさかの水売り。

 年寄りの冷や水じゃないが、大丈夫なのかな。


(危ないですね、そのあたりの知識が無いために一つ間違えば大量に汚染された水から病気が発生する可能性はあります)


 茶屋みたいなのに比べると安いからなあ。

 材料が材料だけに。


「湧き水から汲んだ美味しい水だよぉ、うちのは魔法で冷えてるよ」そんな謳い文句で売っててもなあ、これはアルさんあたりに言っておこう。

 せめて煮沸してくれてたらなぁ。

 日本みたいに湧水を検査している訳でもないだろうし。

 いくら神様の教育で上水道がある程度発達しててもね。

 取り合えず鑑定した結果は問題は無かった。

 あれかな、鑑定してから売ってるのかな。



 そろそろ商店街に差し掛かる。

 王都だけあって、珍しいアイテムなんかも見つかるかもしれない。


 ――トンッ


 突然よろけた人がぶつかって来て軽い衝撃をうけた。


「おっとご、ギャアァ」

「捕獲っと」


 突然近づく人が赤くなるから何かと思ったら掏りだったようだ。

 人込みの中を歩くのに無防備な訳がないのにな。

 腕に自信があったのか、小銭を入れている袋を狙って懐に手を入れたが最後、電撃の餌食となった。


 捕縛した掏りを警邏中の兵士に預けて、次に行こうか。

 結構リスクの高い犯罪なのだけれどなぁ。


 この世界の法律なんて人権がどうのこうのは無い。

 野盗の類は容赦なく生死問わずで処理されているし、冒険者組合にも討伐として依頼が張り出される。

 掏りや置き引き、商品を盗む窃盗などは初犯で鞭打ちと手に入れ墨と労役、再犯で指の切断、次に腕、その後は改善の見込みなしとして死刑となる。詐欺も同様で初犯鞭打ちと入れ墨と労役、再犯で舌を切られ、次に喉を砕かれ、最後は同様の処理となる。


 再犯には他にも本人が選ぶ処置はある。

 それが奴隷紋を受け入れて犯罪者奴隷になる事だ。

 大半の犯罪者奴隷は鉱山や僻地での耕作に従事する事になる。


 まあ入れ墨があったから再犯だろうが、知らない犯罪者の行く末など気にしても仕方ないな。





 王都だけあって商店は基本的にどれもが大きい。

 商店の殆どは何かを専門とした品揃えになっている。

 百貨店のようなものは無く、同じ商会でも店舗を分けているようだ。


 治療魔道具をアイちゃんの知識で作成したから、一般の魔道具がどんなものなのか少し気になってたんだよね。

 クリスさんにも散々指摘されているけど、常識の範疇を見極めないとさ。

 さてと、色々物色しようかね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ