姫騎士が現れた
定番キャラの追加
卑劣王ことクロウです。
俺は今練兵場で姫騎士と対峙しています。
「さあ、どこからでも掛かっていらっしゃいませ」
もう、本当に平穏って何処に落ちてるの。
話は先ほどの会談に戻る。
「お姉さまを誑かす卑劣王というのは貴方ですわね。
お姉さまの心の婚約者であり、魂の妹であるこの私エカテリーナ・ユリア・アレクサンドラ・リヒト・シュバイクが成敗しますわよ」
バーンと扉を開けて立っていたのは、女性用の礼装全身鎧兜付、所謂ドレスアーマーが動いて現れた。
いやいや、城内をその恰好で走ってきたのも色々な意味で凄いけど、名乗りからして王女様か何かだよね、顔見えないけど。
点滅ってのも敵なのかどうなのか。
(恐らく敵意を持ちつつも冷静に礼節を保とうとしているのが原因ではないかと。
常時此方に敵意を向けていれば赤で確定するように設定していますから)
お姉ちゃんが取られるのは阻止するぞ、卑劣王なんかに渡さないんだから、でも来客なのだから丁寧に接するべきなのかしら、大丈夫かしらねって事か。
「えーと、クロウです、その良く判りませんが初めまして」
「あら、意外ですが、挨拶はしてきますのね、卑劣王ですのに。
短い間になるでしょうが宜しくしてあげても宜しいですわよ。
ああ、忘れておりましたわ、お姉さまお久しぶりでございます」
「ええ、久しぶりですね。
いつも元気ねカーチャは、だけどせめて挨拶の時は兜を脱いでね」
愛称はカーチャか。
おい、クリスさん相手が王族でも親族なんだからもう少し注意とかした方が良くないかと思うのだが。
「それに、突然飛び込んでくるのはマナーが未だになっていないわ」
ばさって一応兜は脱いだのだが、中身が美少女ね。
ちょっと汗で濡れてしまった髪も艶やかな金髪だし。
顔だけみればこれぞお姫様だね。
この両親から生まれて顔面偏差値が低い訳がないよな。
後は鎧が邪魔で不明だが、全体的に細い。
スペックは高そうだけどさ、汗だくなのはどうかと思うよ。
真夏に甲冑だから仕方がないんだろうけど。
父親の一風変わった所だけ引き継いじゃったのね。
「だってお姉さまが来ていると侍女に聞いたら飛び込まずには居られませんでしたの」
「しかしだ、カーチャ。
いくらお前でもクリスの他にクロウ殿がおられるにも関わらず飛び込むのはいけないよ」
「クリスちゃんが好きなのは知っているけれど、訓練所から飛び出してくるにしても着替えていらっしゃい」
そこじゃない気がするが、飛び込んでくるのも駄目だし、確かに恰好が来客を迎えるには適さないよね。
「駄目ですわ、お父様、お母様。
この鎧姿で来たのには意味がありますのよ。
そこにいる噂の卑劣王からお姉さまをお守りしなくてはなりませんの」
おお、親族一同が無視していた案件に自ら飛び込むその姿勢、正に姫騎士のちょっと残念系を体現しているな。
つか、若干痛い子の気配がするんだよ。
さっきも流したけど、心のとか魂のと言っていたしな。
「そうか、しかし客人にいきなり勝負を挑むのはどうかな」
「流石に王女なのだから礼と言うものが必要だわ」
「カーチャ、間違えた情報もですが、力量を考えないで挑むのはいけないですよ」
この流れなら問題はないのか。
いや、これで黙るタイプじゃなさそうだよね。
「そう言えば話は止まっていたね。
クロウ殿、娘のカーチャだ、お転婆なのだが悪気はないので許してやって欲しい。
所謂、若気の至りと後々に思う、ちょっとした妄想が、な」
おい王様、何を目を逸らしながら言ってるの。
賢王と名高いのになにやってるの。
確実に黒歴史だし、普通なら婚約者もいる年頃じゃないのかね。
「そうなのよ、この子は一人娘だから女王になる可能性が高いのよね。
小さい頃から無双に憧れていて、クリスちゃんの妹になれば無双の義理の娘でしょ。
それに、親同士で結婚させれる相手なら婚約者にしてたのにっていう話がどう理解したのか男より強ければクリスちゃんをお嫁さんにできると思ったらしいのよね」
よりにもよってあの無双のオッサンに憧れるとは、女王になる辺りで拗らせた結果だな。
さらにクリスを慕うあまりにお嫁さんになるんじゃなくてお嫁さんにする方にとか、将来が心配になるぞ普通。
そんな状況を笑顔で説明するのは如何なものでしょうかねヨハンナ王妃様。
「クリスちゃんをお妃にしたいものだから、舞い込むお見合いの話も嫌がっちゃってね。
お陰で婚約者になるには無双を超える男しか認めないとか公言しちゃったのよ。
いないわよそんな貴族や王族なんて」
無双を超えるって、無理難題を押し付けたかぐや姫の上を行くな。
普通の貴族にあれを倒せとか。
「しかも無双に剣を習ってしまったから、自分でその手の相手を全て叩き伏せてるわ。
実際にこのお城でこの子より強い騎士はいないのよね、成長しちゃって」
才能もあったんじゃ止まらないよな。
「そう言う事ですの、クリスお姉さまは私の嫁ですわ」
「駄目よカーチャ、貴方とは結婚できないのよ」
「やはりそこの卑劣王が原因なのですわね。
叩きのめして差し上げますからついていらっしゃい」
――バンッ
おおい、最後まで説明を聞かないと……女同士だから結婚できないんだよね。
え、そうだよね、まさか結婚オッケーだったりするのかな。
「行ってしまいましたね」
「思い込みが激しい所が問題ですわ」
「昔は普通に姉妹のように過ごしていただけなのですけど、どうして女性同士で結婚が出来ないと理解してくれないのか」
「噂の騒ぎなどの真偽は知らないのだけれど、クロウ殿の腕前は相当だとヴォルフから聞き及んでるよ。
なにせあの無双が嬉しそうに『俺を超える強さを持つ』って手紙を寄越したのなんて初めてだったんだ。
私の興味が無いとは言わないけどもね。
ここはひとつ相手をしてやってもらえないかな、世界は広いって知るのもあの子の為になると思うんだよ」
あの筋肉鎧め、いらぬ情報を渡したな、口止めはしてないけどさ。
王女様相手に決闘紛いか。
やりたくないなあ。
「クロウ殿、娘の教育が出来てないのは恥ずかしいのだけれども、無双の言葉を信じていますので、あの子の目を覚ます手伝いをしてくれませんか」
「クロウさん、私からもお願いできませんか」
うーん、喧嘩以外では対人戦闘ってヴォルフガングさんとしかやってないんだよな。
しかも結構ハードな方法だし。
手加減とか厳しいのが問題だな。
「あの、別段試合をしてもいいんですけど、方法は俺とヴォルフガングさんのやっているようなルールでいいんですかね。
基本的に魔法の攻撃などは不可、魔力生体障壁を利用した得意の武器を仕様したかなりキツイ方法しか俺は知らないんですけど」
「そのルールでヴォルと特訓しているのかい、凄いな。
勿論それで構わないだろう。
判定は攻撃がまともに入ったら一本ということで」
「解りました、じゃあやってみます」
そんなこんあがありましてこの状況です。
「では、参りますわ」
「ああ、手加減はしないからね」
いやするけどさ、手加減するよなんて言えないじゃない。
怒りそうだし。
実際に魔法を使わないってなったらかなりの手加減ではあると思うんだよな。
少しだけ思考加速とか使っておこうかね。
「ハァッ」
おお、中々に鋭い突撃からの刺突。
こりゃ普通の騎士は相手にならないだろうな。
だけど、正直な攻撃だよね。
あとはオッサンの双月の突きを見てる俺にはその細い剣がいかに速度重視でも早く感じないし怖くないんだよね。
オッサンとの訓練には思考加速を使ってないってのもあるけど、実際に倍程に速度が違う。
「中々見事な体捌きですわね、私の本気で突いた初撃を躱した方は無双の叔父様以外だと久しぶりですわ。
ですが、これで終わりでは無くてよ」
おお、更に連続で突き払いを繰り返してくるのか。
完全にスピード重視だな。
鎧も武器も一級品だろうから位階:宝ぐらいはあるんだろうね。
思ったよりも軽そうだから、何かしらの付与が付いてるな。
ふむ、これ位なら避け続けるのも一つの戦法だな。
余り冷静に状況を判断するってことはないみたいだし。
「逃げて、ばかりでは、話に、なりませんわよ」
でも空振りって一番体力を失うんだよ。
それに攻撃のパターンも見えるしさ。
「いや、攻撃したら終わる可能性もあるし。
持久力と言う点では鍛え方が足りないだろう、実際に最初の突き程の速度じゃなくなってきてるよ」
全力疾走を10本済ませた所に1本だけしか全力で走ってないのが戦えばどうなるのかなんて考えれば判るんだろうけど、才能と性能に助けられてそう言う事を知る試合相手が居なかったのか。
まあ才能の塊すぎて無双以外は一撃で倒してしまったんだろう。
ふむ、避け続けるのも失礼とは言わないけど、ちょっと逸らしたりしてみようかね。
――ギンッ
武器と武器が打ち合う音が鳴り響く。
と言っても正面からは一切受けないで逸らす、躱す。
やはり速度重視だね、オッサンの攻撃なら往なそうとしても腕に響く攻撃がくるからな。
せめて武器を振るう腕の振りの長さを変えるとかの工夫があれば容易く躱せなくなっていくと思うんだが。
「何故、私の攻撃が当たらないの」
「そりゃ見切ってるからさ。
速度は申し分ないけど、緩急が付いてないし、攻撃が殆ど真正面からのみ。
無双のオッサンならそれで充分だろうけど、あのオッサンでさえ相手の隙を作ろうとするんだから工夫をしないとね。
こんな風に」
まあ、これ以上は甚振るだけだからな。
左に視線をすこし向けて、話をしながらも上体だけ固定して足だけを半歩踏み出す準備をしていた。
微妙な動作を含めつつ足だけはさらに右に進む準備をして頭だけを左に寄せる。
其処まで準備というか平然とやって予備動作無に一瞬で右斜め下方向へ体を落とすようにしながらも一気に踏み込む。
これで意識が頭の動きに惑わされていると。
「こうして死角からの攻撃が入って終わるんだよ」
「なっ」
実際に刃を魔力生体障壁には当てないで体の斜め下から突き上げる手前で止めた。
実際に袴も穿かないでやるのは大変なんだけど、縮地はこんな感じの技術だ。
決してこれは残像だとか、本当に消える転移のようなのじゃない、そりゃ武術の縮地の語原になった仙術の話を元にした創作だよ。
袴で足さばきや動きが読まれないようにしないといけないのを頭や目線で代用している。
歩法として上体をぶれずに移動させて目の錯覚を利用もするしね。
あとは人間の視覚が上下左右を捉えやすく、斜め方向に捉えにくい事を利用して相手の死角へと入り込む。
要は相手に錯覚させて間合いを詰める方法ってことよ。
若干異世界の能力があるからリアルに残像も残せそうだけどさ。
無双の槍の間合いを潰すにはこれ位しないと踏み込めないんだよな。
「ま、参りました」
はあ、良かった素直なタイプの子で。