アルさんとヨハンナさん
王都リヒテンシュタインの飛行船発着場から馬車で移動して直接王城を目指す。
残念ながら今回の目的は王様にお墨付きを見せることなので、途中で観光は出来ない。
買い食いとかしたいのに、つまらんなあ。
串焼きを買うのとかデフォでしょうよ。
普段の冒険者組合とお城までの送り迎えとは事情が異なるから仕方がないか。
正式な使者としての役割がクリスさんにはある訳で、護衛や侍女がそれなりに同行している。
形式だけとは言え、雇われている護衛なので、今の所、自由行動は一切許されていない。
今度、訓練場であったら覚えておけよ。
やっぱりこの世界で宮仕えは無理だわぁ。
窮屈でかなわないな。
どうせ手紙さえ見せ終わったら次に飛行船がでるまでは時間が出来る。
そこは自由にさせてもらうぞ。
その時間が取れれば観光出来るだろうから、我慢だ我慢。
でも少しぐらいは自由時間があるかもなんて思ったけど、宿も辺境伯家が所有する館があるから街に取る必要も無く、下手をすれば王城にお泊りになる可能性すらあるそうだ。
自由を求めたい。
「流石に使者になるのは面倒ですか」
「ええ、窮屈ですね」
「フフフ」
「ウフフフ」
「ですよね」
「このドレス、仕方がないとはいえども無駄にひらひらしてて伯父様が送ってきた物でなければ絶対に着ませんよ。
動きにくいだけの服装なんて、趣味ではないのですが判っていただけないのですよね」
「まあ似合い過ぎていて、オジサンって国王陛下ですよね。
うん、クリスさんに何が似合いそうか考えて送ったんだろうなあ」
「はぁ、自分の子供にさせれない恰好をさせようとしますから王妃様と協力してるのでしょうね、もう恒例ですよ」
「国王陛下がエリーさんのお兄さんに当たるのはお聞きしましたが、実際どんな方なのですか」
想像だとあの無双のオッサンの竹馬の友なんだろ、ガチムチ筋肉を想像するんだけど、エリーさんの兄でもあるんだよね。
「聡明な方ですよ。
人を率いる魅力、知力、人望を備えた優秀な方ですね。
こうしてひらひらの服を姪に贈る事以外は。
但し見た目はお父様と正反対なのにも関わらず親友だけあって、様々な逸話を残すような破天荒な部分もあります。
普段は温厚を絵に書いたような方なのですけれどね。
ええ、どこかの好色な公爵を殴りつけたとか。
不正を見つけてお父様と共に乗り込んで捕縛したとか。
それはもう数えきれない程に」
うわぁ類はって奴か、国王陛下がなにしてるんよ、ってあぁ王太子時代とかだろうな、若気の至りってやつ。
「若気の至りもあったんじゃないですか」
「いえ、好色な公爵を殴ったのは、確か一昨年でした」
本の少し前かよ。
「……国王陛下が公爵を殴っても大丈夫なんですかね」
「まあ、色々と問題を起こす人物だったんですけど、王宮で開かれた夜会でも羽目を外しすぎて、酔っ払いながら王妃様に抱き着こうとしたところを殴り飛ばしているので丁度罰を与えるのに良かったと本人は述べられておられましたよ」
「成程そういう事情なら」
「いえ、実際は自分の愛する王妃に手を出そうとしたから考えなしに拳を振りぬいただけだと、お父様もお母様も言ってました」
男には譲れないものがあるからな。
寧ろ尊敬するわ。
「まあ、その方が共感できますよ」
「国王陛下としては困ったモノなんですけれどね。
それがまた人気を呼んで拍手喝采をうけるのがあの方の凄いところでしょう」
中々に面白い人みたいだな。
ま、無双の親友なんてつまらない筈がないか。
王城ってやっぱり壮大だったよ、案内されてるんだが、かれこれ10分は歩いてるぞ。
様々な手続きを経て、城内に入る許可を頂いた訳だが、いくら姪で有力な辺境伯家の使者だとしても直には王様に合う事は不可能だ。
一応は先に何日のこれ位にお伺いしても宜しいでしょうかと問い合わせていてもスケジュール通りに物事は進まないし、国王陛下ともなれば待たせるのも一つの権威付になる。
筈だよね?
「やあ、いらっしゃいクリス。
久しぶりだね、うんうん、そのドレス良く似合っているよ。
そのアクセサリーも新しい物だね、ドレスにも合わせてくれたみたいで嬉しいよ。
美しい髪の色をより引き立てているし、可愛らしい仕上がりになってるね。
ほんの少し見ない間にさらに輝きをますなんて私の姪は何処まで美人になるのだろうか」
なんで国王陛下まで一直線なんですかね。
護衛や侍女の皆さんが控室に通されて、俺たちは自然に案内された。
しかも扉を開けて早々にこのテンションにこの褒め言葉の嵐。
ナチュラルに姪じゃなきゃ只のナンパ男の褒め言葉なんだが、これは本気で言ってるよね。
さらっとこうした褒め言葉を言えるとは、天然物だな。
本当にあの無双と竹馬の友なのか疑わしい。
筋肉無双のオッサンとは正反対の容姿だぞ。
眉目秀麗で理知の光を宿している目を見れば判るように普通に知性派だよね。
「国王陛下……その」
「フフフ、伯父さんでいいんだよ」
「いえ、流石に公式の使者として」
「いやいや、ほら謁見の間を使ってないから」
「……伯父様、真面目な話が出来ません」
「ハハハ、すまないね。
ついついクリスの顔を見て浮かれてしまったよ」
訂正、やっぱオッサンの親友だった。
「もう、貴方はいつもそうなのだから、他の方も同席しているのに、ごめんなさいねクリスちゃん達。
でも、ほんとそのドレスに合ってるわぁ。
見立てに間違いは無かったわね」
「おっとそうだった、悪かったね。
シュバイク王のアルブレヒト・ユリウス・ケルティ・リヒト・シュバイク。
長いからアルと呼んでくれればよいよ」
この国の人はフレンドリーな人が多すぎる。
国のトップがこれだもの。
「貴方……いえ、構わないのだけど、公の場ではアルブレヒトと呼んであげてね。
貴方に迷惑がかかるわ。
この人の妻で王妃のヨハンナ・フォン・アルザスよ」
「冒険者コレクターシングルランクセブンのクロウです」
「うん、色々と此方にまで噂は聞こえているよ。
面白い話も聞いたんだ、クリスと婚約を」
――バーンッ
「お姉さまが来ていると聞いてやってきましたわ」
どうやらこの会談も平穏無事には終わらないようだ。
だってマップに点滅を繰り返す赤い印があるんだもの。




