一筋の軌跡
イメージはFの艦長
波に乗る男
「怪鳥が前方より接近中、至急船内へ移動してください」
兎に角、今は指示に従って船内へと移動するしかないか。
船内は緊張に包まれてはいたが全員が落ち着いていて混乱が起きる様子ではない。
暫くすると甲板に人が残っていない事を確認したのだろう、飛行船は大きく動き出した。
「かいぃとぉぉそなえぇ、とりぃぃかじぃぃいっぱあぁいぃ、こうかぁ、かいしぃ」
これは下降しながら左に舵をとって転舵しようとしてるのか、凄い斜めになってるぞ。
うぉぉ、これは転げるぞ。
そのままの角度で転進出来ないのかよ。
「護衛人員に告げる。
怪鳥の種別判明、三頭鷲。
怪鳥の種別判明、三頭鷲」
「ちぃ、三頭鷲か。
厄介な奴だ、可也速いぜ」
「いや、船長の回頭指示が早かったから距離は稼げた筈だ」
「突っ込んでくる前に不時着さえしてりゃ撃退は出来るんだがな」
「回頭が緩やかになったら牽制に出るぞ」
「おうよ」
護衛の冒険者達が焦る程の相手か。
ふむ、どんなもんなのかなアイちゃん。
(マスターの魔法が命中すれば先ず倒せない相手は居ないとは思いますが。
頭が三つある巨大な鳥です。
攻撃方法特殊を含めて、風、火、水の各種咆哮、嘴、爪の攻撃、錐揉飛行、体当たり、絶叫。
推奨格付がバスター基準ですとクアドラプルランクセブンですね)
但し、基準は空戦の場合です。
地上での格闘能力はダブルもしくはトリプルまでさがります。
鳥だけに空戦だと強いのね。
飛行速度もかなりの物っぽいけど……
想定していない筈がなかろう。
「こんなこともあろうかと」ってやつな。
いや俺ってば基本的に臆病なんで準備してたぜっていうこのセリフが好きなのだよ。
中二病武器とか大好きだからさ。
先日の狩りで今一つだった弓を作っておいたんだ。
名称:魔導工学式可動弓閃空
分類:弓
位階:幻
特殊:不壊:不動:矢継:連動:圧縮
基本的な設計こそコンパウンドボウだが形状は大きく違う。
外見的に特徴的なのは本体である弓の前部分にエアシリンダーが装着されていてリムと組み合わされている事と弓の本体とリムがギアによって可動する仕組みになっている点だろう。
滑車の原理やテコの原理にギアと強力な魔術式エアシリンダーを組み合わせて発生させた力を、リリース時にギア比を換える事でさらに増幅し射速を強める事に成功したファンタジーな一品。
弦を弾いて撓りで打つ弓では無い時点で弓とは言わないかも知れないな。
まぁ普通の人間には既に引け無い弓なのだけど。
矢は専用の矢筒に入れたものを魔力操作で自動的に装填。
スマホ機能と連動している魔術でレーザーサイトを付与しているので狙いも外さない。
スタビライザーの代わりに魔術で振動しない仕様になっている。
俺のフルパワーで引いても弦や可動部位などが壊れない魔術仕様だ。
勿論の事だが矢も通常の物よりも少々太く様々な術式を施した物が用意されている。
推進力を魔力で発生させる物や、爆散、凍結、炎上、散弾、貫通、照明と数種類を使い分ける。
中でも飛距離と威力を重視し推進力を付与した物は最大飛距離こそ計測していないが、有効射程は2.500mまでは計測した。
色々と能力を使う事が前提の弓だけど強力すぎる程の威力がある。
試射の段階で鎧や盾、石の壁はぶち抜いたり爆破できた、対物狙撃銃とか対戦車推進砲弾並みだな。
作ってる途中で試射した結果を考察したんだが、威力があり過ぎるかもと思ったほどだ。
まあ、対竜用殲滅兵器として考えて作ったから仕方がないよね。
物理と魔術の理想的な組み合わせに弾頭の容易な変更、そして浪漫。
あれだな魔銃作る方が楽だっただろうな、だがこれは浪漫兵器だから理解は求めないのさ。
「クロウさん、何かしようとかしてますか」
「ええ、ちょっと三頭鷲とやらを打ち落とそうかなと」
「何かの魔法でしょうか」
「いえ、実はこんなこともあろうかと、ヴォルフガングさんからも物理攻撃手段は持つように弓を進められてまして、強力な弓を作っておいたのですよ。
最終的にヴォルフガングさんやブンさんでも引けるかどうかと言う逸品に仕上がりました」
「それは最早弓と言わないのではないでしょうか、良くてバリスタ並みでは」
「いえいえ、自分の手で引くので弓ですよ」
あーでもヴォルフガングさんやブンさんならバリスタを担いで動きそうだな。
「あの二人ならバリスタを背負って発射するのが似合いそうですけどね」
「クロウさん、それは幾ら……いえ確かに似合いますね。
しかし、良いのですか目立って」
「落ちるよりはマシですよ」
「それはそうですね」
「それに、俺はクリスさんの護衛ですしね」
「わかりました、お気をつけて」
「はい、では行ってきます」
後部甲板に行ってみたら、騒いでた。
「ちっ、もうちょっとで地上だってのに、厄介な鳥だぜ畜生」
「頭が三つもあるくせになんて速度だよ」
「あいつの風とかの咆哮だと距離もとられるからな、弾幕を張るしかねえ」
お、ちょうどいい具合のタイミングに到着できたみたいだな。
「おっちゃん、ちょっといいかな。
あれなんだが、別に打ち落としても構わんのだろう」
一応お断りを入れておかないとね。
専属はこの人達な訳だから。
得物の横取りになるといけない。
あの名剣の鞘に訳の分からない名前を付けた作品の弓兵の科白に近いが、実際雑魚あいてだからフラグは立たない。
「フハハ、おう。
豪気だな兄ちゃん。
やってくれて構わんよ」
「当てられたらいいな、アイツは100m位離れて攻撃してくるぜ」
「まあやるだけやってみな、ってあれ、この坊主何処かで」
「ならば遠慮なく、いかせて貰うとするよ。
……………………………………。
一撃必殺――狙い打つ、術式開放」
思考加速と極限にまで高めた集中力によって音の消えた世界。
全てのギミックが作動する動作音が軋みを上げる。
そして爆発的な推進力を得た矢は空気を切り裂く鋭い音を奏でながら目標へと達する。
一筋の軌跡のみが空に残る。
普通の矢であれば魔力生体障壁を破り突き刺さるのが精一杯だっただろう。
いや、届く事すらない距離。
だが俺の込めた魔力と魔導工学式可動弓閃空の生み出した推進力は螺旋を描きながらいとも簡単に到達し魔力生体障壁を貫いていく。
爆裂の魔術式の込められた矢が突き立てた錐のように回転しながら三頭鷲の胸部から内部へと侵入する。
矢に仕込まれた魔術式が発動し痛みの叫びをあげる暇もなく三頭鷲は爆散した。
よし、加速終了っと。
正に一撃必殺という言葉を具現化した威力だったな。
実用にも問題なかった。
だけど矢の種類は考えないと爆散は酷かった。
「よし、終わったな、魔晶石と素材は仕方がないな」
(マスターの魔力範囲に掛かりましたので回収しております)
お、サンキューアイちゃん。
「はぁ」
「ちょ」
「お、思い出した。
この坊主、あの卑劣王じゃねえか。
ノルトマルク家のクリスティーナ様の婚約者だっていう」
「なんだとっ、そいつはコレクターだった筈じゃねえか」
「いや、その噂なら聞いたが50人の冒険者と自称フィアンセを一瞬で屠ったとか聞いたぞ」
「どんな噂にせよ、やべえぜこんなコレクターいねえよ」
「弓の攻撃とは思えねえ」
「狙撃王の方が卑劣王より正しいだろ」
「じゃあ、お邪魔しました。
あ、変な噂は流さないでくださいね、迷惑してるんですよ」
「ヒッ」
注意はしたが質問とか面倒だし絡まれる前にさっさと帰ろう。
噂が酷くなっている気がするが、一体何処までいくのかここまでいくと楽しみだわ。
飛行船はその後高度と進路を元に戻して王都へと無事到着した。
密やかに狙撃王の噂は船内に広まっていたらしく、船を下りる時に握手を求められる程だった。
王都では大人しくしよう。




