表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
35/51

解体魔法新書

 俺には何も感じないのだがどうしようね。


 何時までも平伏してもらっても困るから兎に角一旦異次元倉庫に収納。


 聖遺物のような物だとは思うのだけど、俺には効果がない単なる手紙でお墨付き。

 上意書みたいなもんだと思うのだけれどな。


 効果あり過ぎですよ治癒の女神様。


(マスターは上位種ですから神気を受けても平然として居られますけれど、通常の文人族に限らず、人類は聖遺物を目の前にするとその神気に当てられて身分の上下、善人悪人問わずに平伏します)


 ぐえ、このお墨付き下手に表に出せないぞ。

 だって俺以外に読めないんでしょ。


(読めませんね。

 神殿の巫女、もしくは神の加護を持つ者ならば無条件で読めます。

 後は一部の神聖文字を研究している学者、古き知識を継承している王族ぐらいではないでしょうか。

 書かれている内容が内容ですのでお見せになるのはお勧めいたしませんが。

 神気についてはマスターの魔力によって聖遺物を覆えば多少は緩和する事が可能かと類推します。

 ですが魔法によってでも読ませる事は不可能です)


 ハハ、アイちゃんがちょっと辛口になってるよ。

 まぁ、いいか。

 事が事だけに一気に何かする事にはならないだろう。

 無いよね……ああ無駄な抵抗なきがする。




 ちょっと後悔している、無かったことにならないよね。




「クロウ、それは聖遺物か」


 まあ、そこは確認したいですよね。

 でもね、真実は言えない。

 俺も其の辺りは気を遣うんだ。

 神託が手続きが大変だし大仰だから手紙にしちゃったら、聖遺物になっちゃったなんて説明できぬ。


「ええ、治癒の女神様からお送り頂いたお墨付きです」


 どうよ、こんな感じで言えばそれらしくないかな。

 いや、お墨付きだし嘘はついてないよ。

 例え一方的に送り付けられていてもね。


「なんてことかしら」

「驚きつくしたと思っていたのですけどね。

 私の想像を悉く……」


 エリーさんが今までに見せない表情で驚いている。

 いや驚くのが普通かな。

 この人は底が見えないタイプだから驚いている事に俺が驚いたよ。

 クリスさんがちょっと変な感想を述べてませんかね。

 これ以上驚かせることは、然うないと思うので安心してくださいよ。

 約束はしかねますが。



「これはどう処理すべき問題か、ちと時間を掛けねばならぬな」

「流石に女神様からのご指示となると、お兄様、国王陛下にも相談する必要がありますわ」

「強制ではないので、その大事にはしない……なりますよねえ」


 女神様からのお墨付きというか、お願い案件だもんなあ、投げ出せないのが辛い。

 他の話なら逃げてるよね、うん。

 できれば穏便に人生を過ごしたいのですよ。

 大事になっても俺の名前は出ない方向で進めて頂きたいなあ。


「当たり前ですよ、クロウさん。

 治療魔法に関しては教会が権力を振りかざす原因にもなっている一つです。

 その優位性が失われると言う事は教会組織が各国に及ぼしている影響力を失う事になります。

 王侯貴族からのお布施と言う名の無心なども出来無くなる可能性、他にも教会建立や司祭就任費用などの無心と教会の発言力を利用した貴族からの癒着の撤廃など影響は計り知れません」


 うわぁ、ズブズブの貴族もいる訳だ。

 つか思った以上に大事になりそう。

 でもその前にやることがあるよなぁ。

 俺が知っている事なんて高が知れているし、教えられただけの知識って意味がないんだよな。

 でもまあ、知っていることだけでも伝えて足掛かりにしてもらうのはいいよね。

 実際にできるかどうかの確認も必要だろう。


「なら、まずは医療魔法を扱う上で人体に関する知識の向上や、資料の作成などが必要になりますね」

「ふむ、それは如何言う事だろうか」

「そうですね、例えばですが、ブンさんの例の治療の件。

 腕の関節の骨の異常と神経の圧迫、炎症と症状があったわけですけど、これは偶々俺に知識があって当て推量と左右の腕を比較して原因を突き止めて治療魔法で治したわけです」


 腕の肘を動かしながら、ここの関節のことですよと説明する。

 でも、専門でならった知識でもないから上手く説明できないなこれは。

 知識が全くない人に詳しく説明するには医学知識が足りません。


「なるほどな、続けて欲しい」

「今の治癒魔法、所謂、神秘の奇跡ですが、これは神様が自動的に治癒が発動するようにしてくれた魔法なのですけれど、治癒対象の正常な状態が判っていないと、かなり簡易な状態で治療を施すのです。

 故に、ブンさんの腕は一旦魔法薬で簡易な治療を施して骨が正しく治っていない状態になった後でしたから、その状態が正しいと判断され治療魔法が施された為に症状に改善がみられなかったんです」

「ヌヌヌ」

「大丈夫ですよ、貴方、ここは私が理解できておりますわ」

「ふむ、頼んだ」


 いいのかねそれって。

 妻にバトンタッチというか、投げ渡したな。

 オッサンのさっきまでの格好良さは見事に吹っ飛んだぞ。


「すいません。

 その道に詳しい専門の勉強をした訳ではないので、説明が上手く出来なくて」

「あら、いいのよ。

 この人の担当は当代最強の武力。

 私の担当は知力なの」


 お似合いの夫婦だわ。

 なんで夫婦になったか分かった気がする。


「わかりました、続けますね。

 一番簡単に言えば、怪我の治療をするには体の作りそのものを知る必要があるということです。

 腕を動かすのはどうしているか、痛みを感じるのは、痺れを感じるのは、骨と骨の間に何があるか、あらゆる事に何がと疑問をぶつけて知識を得る事です。

 筋肉についてだとヴォルフガングさんも詳しいとは思いますが、どうやって筋肉が増えるか等はご存知ですか」

「うむ、良く食べ、良く鍛え、そして魔獣や魔物を倒すことだな」

「間違ってはいませんが、不十分だとも言えるかと。

 簡単に言っても、筋肉を増やすための食事に必要な栄養素について知る必要があります。

 何を食べれば筋肉が付きやすいのか、量やバランスはどうかなど重要な事だそうです。

 鍛える事で痛めつけられた筋肉が必要を感じて増える仕組みを知る事。

 鍛え方によって作られる筋肉は変わります、持久力を鍛えるのか瞬発力を鍛えるのか。

 ヴォルフガングさんのような大きな力を出す筋肉を目指すのか、俺みたいに絞った持久力重視の筋肉を目指すのか、鍛え方によって違いがでます。

 魔素を取り込んで魂位が上がることによっての上昇とは何かを知る事。

 魂位が上がっての事は魔力的な分野ですからちょっと趣旨が変わるのでまたの機会ですが、恐らくは魔力の関係になりますね」

「成程、知識とはそういう事か」


 流石、筋肉の話で例えたらヴォルフガングさんが理解力を高めてきた。


「確かに治療所とかで無理なら神殿でしか治療できないと決めつけて、原因などを考えた学問はないわね」

「奇跡が魔法の上位だという意識があったのは確かですね。

 クロウさんの説明だと違ってきますから、言われて見て初めて納得しました」


 女性二人は深く考えてくれているみたいだな。

 その学問を研究する人たちを作らないといけないんだよな。

 ドイツ人医師が書いた解剖学図表、アナトーミシェ・タベレンがオランダ人の医者によってオランダ語訳されてオントレートクンディヘ・ターフェレン、となり更に幾本かの図解書を含めて、かの有名な解体新書ターヘル・アナトミアになったように、情熱を持った人物達にこの異世界版の解体治癒魔法新書とでも言うものを作ってもらわないといけない。

 まあ知恵者の奢りを拗らせて漢語で書いちゃえてきなのにはなって欲しくないが。

 今は日本語英語混じりらしいが、ひと昔前みたいにドイツ語で書けば学がある的なのは困る、広めてほしいからね。

 いや、カルテが見られても読まれないようにって説もあるし、ドイツが最先端医療の時代もあったし、欧米の言葉の方が表現が固定されるから誤伝達が少ないってのもあっただろうけど、絶対ちょっと恰好好い的な感覚や優越感的なのは在ったと思う。

 他にも説があるのは知ってるけどさ。


 いかん話が逸れた。

 これはこの世界の治療魔法を使う医療施設の人間に任せたい。

 教会でないのは、恐らくは元の著書を書いた人物や杉田玄白などがやったように実際に遺体を解剖する事によって図解や説明を入れなければならない可能性もあるからだ。

 俺は医者じゃないし、治療魔法使いとして何かを志しているわけじゃないもの。

 精々が身近に知り合った人を助けるぐらいで精一杯だ。

 まあ、最後の手段として図解書ぐらいは作って渡しても問題は無いと思うけどさ。

 何にしても俺の魔法の使い方は非常識だから参考には出来ても模倣は不可能なんだよな。


「それらを研究する人を育てないといけないのでしょうね」

「できれば、治療施設に居る方で希望者を募り、勉強する事が必要になりますね」


 いやさ、流石に貴族の女性に人の遺体を解剖して云々はね。

 其の辺りはヴォルフガングさんにでも後日伝えよう。

 案外と平気かもしれないけどな。

 なので話題をちょっと逸らそうか。


「それともう一つ、病気に対しても同じことが言えまして、病気の原因を知らない事が折角の魔法を活かしきれていない事になっていますね」

「病気とは謂わば、体に病魔が巣食うのだろう」


 やっぱりか、教会とかが言いそうなことだよ。

 これは顕微鏡で実際に見てもらうぐらいしかないよな。

 魔法の使い方と一緒で知らないと駄目だろうし。

 と言って、俺みたいに魔法で感知とかできないだろうよ、これも。


「いいえ残念ながら表現としては正しいのですが、病魔ではなく病気の元になる細菌などですね。

 全ての病気が細菌が原因ではないので一言では言えないのですけれど、目に見えない程に小さな生き物のようなものが体内に入ってそれに拒否反応がおきたりする事で熱がでたり発疹が現れたりと症状が異なるんですよ」


 こっちの魔法なら医学でも無理な癌とかその他の病気も治せるだろうけど詳しくはやらないと判らん。


「では、教会や魔法薬での治療は」

「一部は有効な薬も存在するようですが、殆どは対処療法でしょう。

 人間の持つ生命力を減らさない事で体力を支え続けて病気に体が打ち勝つのを待つのですから」

「教会は病で治癒しきれない場合は、神を信じる心や寄進が少ないとか貶めるがな」


 うん、知ってた。

 どうせそういう理由で逃げてるだろうなって。

 決まり文句だもんね。


「カタリナちゃんを治したって聞いたけど、そう言う事なのね」

「そうですね、細菌の事を研究すればこれも可能になると思います。

 確認できる道具はなんとか作れるかも知れません」


 顕微鏡は確実に作らないといけないな。

 

「あとは病を患わないように予防する手段を研究する必要がありますね」

「それは、どんな方法なのでしょう」

 

 お、クリスさんの食い付きがいい。

 予防っていうのは重要だものな。


「そうですね、この領都は清潔に保たれていますから衛生に関する知識はありそうですが」

「古の時代に神託があり清潔であるべしと、幾つかの方法を王家に伝えられたと聞きます」


 衛生管理は神様達の賜物か。

 あれですか、汚物を投げるような中世のシーンを見ない為ですね、判ります。

 なら病気の理由が不明なのも判る。


「清潔に保つことで病気の原因の菌などの蔓延を防いでいます。

 手洗いやうがいの推奨も一つの方法でしょう。

 他にも風邪などが流行した際の治療にも役立つと思うのですが、布などによって口と鼻を覆い体内に菌が入らないようにする方法や、前もって特定の病気に罹患することですね」

「前もって病になるというのは」

「えっと、特定の病気に一度なると体に耐性が付きます、ステータスの耐性には表示されていないのですが、細菌が入っても体内の対抗する物が排除するようになるのです。

 神殿の治療方法ならば生命力頼りでしょうから、こうした耐性を持つ様になった人が存在しているはずです」


流石に予防接種とか天然痘の話とかは知ってても、自分がそれを出来るかどうかは別問題だよな。

未来の医療関係者に託すよ。

耐性を持った人から云々なんてのは俺には無理すぎます。


「クロウさんの知識は日出島国にあったと言う事ですよね、となればどれだけ進んだ知識があった理想郷なのか想像がつきません」

「クロウちゃんの知識が神に認められたのも当然かも知れないわね」


 あ、アハハハ。

 まあ違う世界から来ましたって告白しても俺が初の渡世人って言われているからなあ。

 証を立てるのも、うん混乱しか起きないよな。

 どう説明すればいいのかも判らないからクリスさんが信じている通りに架空の国、日出島国の知識にしておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ