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チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
34/51

控えおろう

「ホレ、ホレ、ホレ」

「クッ、軽々とデカい槍をっ、自由自在に」

「この我が一番使い続けているお気に入りの武器、双月だからなっ」


 単なる槍ではなく、斧槍と言われるハルバードだと本人は言うが、名称まで付けてる通り、それって違うよね。

 ハルバードは西洋の方天戟だと思うけどさ、それ先端が槍の穂先で片側に半月の斧、もう片側に三日月の刃付が付いてる。

 双の月(二種類)の斧槍って事だろ。


 方天画戟なら両方が三日月の刃だったかな。

 でもどう見ても呂布の方天画戟っぽい物だよね。

 呂布が使ったってのは創作だそうだが、何か似たような武器だったんだと思う。


 切る、突く、叩く、薙ぐ、払う、引くを見事に熟すだけに相手にするのが大変すぎる。

 特に最後の引くってのがね。

 間合いに一気に入ろうにも引いて斬るっておい。

 まあ対処法が無い訳でもないけど大変なのですよ。

 あれだな、宝蔵院だね、「突けば槍、薙げば薙刀、引けば鎌」膂力に優れた筋肉鎧のオッサンだからこそ重量のある得物で攻め続けられるんだろう。


 今日の俺の得物は墨鴉、得物同士の間合いの差が大きい。


 ならば、俺が踏み出さねばならない。

「斬り結ぶ 太刀の下こそ地獄なれ 身を捨ててこそ 浮かぶ瀬もあれ」「一足ふみこめそこは極楽」」よく似たフレーズでの狂歌がある。

 どれも似たような歌なのだけれど、要は自分の攻撃を通すには更に前に一歩いけよと。

 一歩前へ。

 全力での踏み込み、オッサンのハルバード的方天画戟を払いながら、進むは更に極楽への一歩。

 其処に至る道。

 墨鴉を収納、これは流石に放り投げたくない。

 オッサンが目を見開いたが遅せえ。

 武器を手放して素手で来るとは思わなかったようだな。

 ガシッと柄を掴む。

 行けた、と思ったんだよ。


 しまったフラグった。


「今のは良かったぞ。だがしかし、その踏み込み、二歩目の筋肉の鍛錬が今一つ足らぬな」


 オッサンは俺が掴んだ瞬間を見逃さずグリッと柄を捻じりあげながら両脇を締めた。

 

「なっ」


 柄を離そうとした時には体が既に浮いていた。

 捻じりあげた瞬間に体幹を崩されて柄が体に寄せられている。

 俺はそのままオッサンに持ち上げられて上空にブン投げられた。

 手を離すとかの次元じゃない速度って何、一瞬で人間を一人軽く打ち上げるとか冗談だろう。

 地上に落ちる所でジエンド。


 うぬぬ、オッサンめ。


「ふむ、だが剣やおぬしの使う刀などは室内でこその武器。

 そして斧槍などは屋外でこその武器故に致し方あるまいよ」


 言ってる事は正しいがな。

 オッサンなら室内や廊下でもその武器でなんとかするんだろ。

 壁事切り裂くとかさ。


 にしても、また負けたぁ。

 悔しいものは悔しいのだよ。

 水分補給の休憩だ。


「クロウちゃん頑張るわねえ、私の旦那様、無双といい勝負するのだから大したものよ」

「フッ、エリーよ。

 そやつ、自分の全力を封印して我とやりあっておるぞ。

 魔法なども攻撃魔法の類は使っておらぬし、六裂熊を屠った技なども見せぬままよ。

 ククク、中々に将来が楽しみだ」

「え、そうなの、クロウちゃん」

「修行ですから」

「フフフ、二つ名の卑劣王とは違い過ぎるわね」

「ブッフォ、誰にそれを」

「クリスちゃんにも女帝から微笑乙女って二つ名に」

「お母様、何故それを」

「目と耳は優秀なのよねぇ」


 領営だからおかしい話ではないが、早いなぁ。

 勝負を始めたのって城に着いてすぐだし、相当な速度で連絡をとる手段があるのか。



 一休み一休み。



「ふむ、獣耳族の子供に教会の孤児院か」

「教会の孤児院ね。

 以前商会が寄贈した建物かしら」

「恐らくそれですね」

「教会は医療的な分野をほぼ独占しておるからな」

「領主としても手を出しにくい案件ね。

 教会が監督している施設だと、特定の孤児院のみに寄付するのは無駄な行為になるのよね。

 それに領主として物品を送るのも問題にされかねないのよね、信仰がどうのこうのと」


 教会の権力の源が医療行為か。

 女神様へ祈って起こす神秘ってだけで権力をもっている。

 普通の診療所で出来る治療魔法は精々傷を塞ぐ位のレベルだからか。

 神殿と治療所のレベルが違い過ぎる。


「治療魔法の神秘ですよね」

「そう、神秘だけは教会が独占しているもの」

「あれって、ただ単に体の構造とか仕組みとか組織を治療する側が理解していないから、仕方なく神様が与えてくれている祈りに対応した魔術的な魔法ですよね」

「え?」

「クロウちゃん?」

「クロウよ」


 あれ、前にクリスさんには説明した気がするんだが。


「クリスさんには前に説明してませんでしたっけ」

「いえ、ただ神秘の奇跡で治せなかったブーンさんの古傷の治療方法を知っていて、治療魔法で治しただけだと理解していました。

 たしか神殿の奇跡でも左右一対の怪我ならば治療の再現は可能かもと説明は受けましたが」


 これって広めても大丈夫か。

 治癒の女神様に祈ってるのが減るのかね。

 どうなんでしょうか女神様!


 ――ピコーン


(異次元倉庫に物質混入、確認中、マスター宛てのメッセージが届いております。

 恐らく先ほどの心の叫びが祈りとして届いた模様)


 は?

 いやいや、このタイミングでダイレクトメッセージですか。

 確実に治癒の女神様からですよね。

 祈りが届いたっていいのか。



 脳内で読み上げてみた。



 クロウ殿へ

 説明も少なく授けた加護を上手く使っているようで感心しております。

 神託を下すには様々な制約やこちらの事情があり、また少々大仰かと考え、故に手紙という形をもってご連絡しました。

 お伝えしたいのは神託と言う程のものではありませんので。


 医療行為の発展は望むべきものです。

 義務ではありませんが、加護を使ってよりよい癒しをこの世界の人々に与えて下さいね。

 またクロウ殿は既に理解されているかと思いますが、神殿にて癒しを求める際に祈りを捧げられておりますけれど、治療を求めた祝詞での祈りが魔法発動のキーワード、いわば呪文と同じ扱いになっていて治療を施す魔術的な魔法を患者へ施す様に自動的に処理されています。

 治癒魔法の行使に対する感謝の想いこそが私に届く祈りなのです。

 よって教会を気にする必要はありませんよ。

 何かあればこの手紙を見せる事を許可しておきます。

 神聖文字を読めずとも理解することでしょう。

 では今後もクロウ殿の活躍を楽しみにしておりますね。

 治癒の女神より。


 神託とまで言わないですがと前置きしつつ、医療行為の発展は望ましく、奇跡、神秘となっている現状よりも多くの人を助ける行為に繋がる事を期待して加護である眼光炯炯を授けて頂いたとの事。

 女神様のお墨付きを頂いてしまった。

 どうしよう。

 色々と不遜としりつつ突っ込みたい、我慢するけども。

 はぁ、それにしてもこれ俺にしか読めないのね。


 軽いよ女神様、神託と手紙なら神様からの手紙の方が普通は大事ですからね。

 確かに大仰ではなさそうですが確実に価値観の相違がありますよ。

 人が神からの手紙って下賜された聖遺物扱いだよね、絶対に神託より上だと思う。



 色々と考え中――考えても答えがでない。



「どうかしましたか」


 加速世界で手紙を読んでから思考の海で考え込んだんだが、余りにも予想外の非常識が襲い掛かってきたからフリーズしたらしい。

 フッ、こうなればいつものだよね。


(マスターですからね、お墨付きも届いておりますから問題はないかと)


「怪我や病気に対してその治療方法を知るの事、元に戻す正しい状態と原因を取り除く方法を知る事が重要なんです。

 神様頼りのみでいる現状は好ましくないのだそうで。

 治癒の女神様も其の辺りの発展を望んでいてより広く医療行為が広まって欲しいそうです」

「それは……神託がクロウに齎されたと」

「治癒の女神様からの神託」

「伝え聞く神託に比べると具体的過ぎる気がするわね」

「えっとはい、こんなのが」

「うぉぉ」

「ハッ」

「これはっ」


 うわ、何処かの時代劇の印籠シーンになっちゃったよおい。

 ズサササと三人が地面に膝をついちゃったよ。

 どうすんのよこれ。


クロウは新たに女神様の手紙を手に入れてしまった。


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