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チキン!  作者: せおはやみ
古の契約編
31/51

モフモフに絡まれる

 中層に向かって採取を続けてたらアイちゃんからの報告で子供がいるとか。

 しかも集団で何してるのか知らないが、後ろから魔物が迫っているらしい。


 悩むよりも駆けろとすぐさま走り出した。

 よりにもよって森の中層に向かって地図上の表示は動いている。

 追いかけている魔物の識別はまだだけど距離は20mか其処等しか開いていないじゃないか。

 何処かで見つかってから逃げているって事だよな。

 しかし俺はまだ魔物にはまだ対峙した事がなかった。

 初物がこんな緊急事態なんてついてないな。


 子供達に合流するのは悪手になるか。

 きっと気が付いて気が抜けたり、驚いている間に距離を詰められかねない。

 魔物の斜め横から全力で突撃あるのみ。

 一気に殲滅する。


 魔物は亜人系とも言われる種類の小犬鬼、いわゆるコボルトとロールプレイングゲームでは表記される事が多い背丈の低い犬の頭を持つ鬼。

 所説はあるけど、まあそんな事はどうでもいいや。


 視界を耐閃光仕様に変更宜しく。


(了解しました、視覚補正開始――耐閃光仕様に変更しました)


「おらぁ犬畜生がっ、敵はこっちだ馬鹿野郎」


 スタングレネードの光のみをイメージしろ。

 あれってマグネシウムの粉と硝酸アンモニウムの科学反応だっけかな。

 あれの継続版でいこう、3秒位光ったらいいっしょ。


 「閃光」


 敢て声を出す事で此方に顔を向けさせるのは基本だよね。

 子供を追いかけていた全部の小犬鬼が「ギャゥゥゥ」と鳴き声にもならぬ声を上げて地面に転がった。

 きっと「目がぁ」という意味なのだろう。定番だからな。

 一匹と数えていいのか判らないが、一匹残らず首を墨鴉で刎ねていく。

 魔物の中でも弱い部類に入るけれど、群れとなって襲い掛かると油断できない相手だよな。

 キャンプ地で野犬と格闘になったことがあったがあれは恐怖だったからな。

 たった三匹の野犬で死ぬかと思ったのが懐かしい。


 しかしだ、一応は人型で犬っぽいとなれば忌避感がもっとあると思ったが、俺ってば意外と冷静でいられたな。

 顔が完全に醜悪な面をしていて体も毛むくじゃらだったからか。

 まあ何にせよ子供は助けたしいいか。



 閃光の光と俺の声に子供達も気が付いたらしく、動きが止まっている。

 まあ森の中では迂闊な事だとしか言えないけれど、下手に中層に行ってないだけましか。



 で、なんで俺子供をあやす事になってるんでしょうかね。



 本当なら修行を兼ねての採取の筈が。

 コレクターで受けた採取は既に終わらせていたりするけどさ。

 こいつ等をそのまま帰れと放置もできないし連れて帰るしかないよね。

 と言う訳で近づいた途端、大人を発見して助かったと思ったのかジョジョビーと漏らす子供や泣き出そうとする子供、一応は俺を警戒する子供と反応は多数。


 

 とりあえず生活魔法で綺麗にしてやった。



 森の中で遊ぶような危険な文化はこっちには無いと思うのだがな。

 なんで10人も子供がと思ってたら泣かずに我慢していた子たちも抱きついてきた。


 いやさ、さっき小犬鬼を殺っておいてなんですが、この子達モフモフだから抱き着かれるのは構わない、むしろヨーシヨシヨシと懐柔したい。

 抱き着いてくるモフモフな子供たち、中型犬がじゃれてくる時はこんな感じだわ。

 収取がつかない状態になった。

 流石に大量の子供を世話する保育士の経験はねーよ。

 まあ何とかなるか。


 さて、事情よりなによりまず。


「全員いるのかな」


 こくっと全員がキョロキョロとしてから頷いた。よし逃げ遅れとかは無しか。

 運が良かったな。

 んじゃまずはケモ耳と尻尾がピーンってなってる坊主だな。


「よし、坊主、何してたんだこんな森で」

「……」

「坊主ってのが気に入らなかったか、名前を教えてくれるか」

「……」

「警戒しているのは偉い、偉いが時と場合によるぞ」

「……」

「ほら、一応は命の恩人じゃないか俺って」

「……」


 おう、警戒心が強いのはいいけどもこの状況にはそぐわないわ。

 おかしいな、目線を坊主と一緒の高さにしているから威圧感とか無いと思うのだけど。

 よし対象を変更だ。

 六根清浄があるからいいけども俺の服に鼻水を垂れ流していた女の子にしてみよう。


「えーとお嬢ちゃんは落ち着いたかな」

「う、うん」

「おい、返事するな」

「でも、アマド兄さんこのお兄さんがいなかったら小犬鬼に食べられちゃってたよ」

「うぅ、逃げ切れた筈だ、それに名前を教えるなっ」


 得てして幼少の頃合いというのは女子の方が精神的には早熟しているもの。

 感情で話すようになる前ってのはこうも違うのかと一瞬遠い日々を思い出しそうになったわ。


 言い負かされてるぞ坊主いやアマドって名か、アマドだけなら何とかってとこだろうか。

 獣人だから足も素早かったのだろうが体力ってのがある。


「よし、お嬢ちゃんのお名前を教えてくれるか」

「うん、カリナ・ルナっていうの、カリナって呼んでねお兄さん。

 そっちの男の子がアマド・フルメン」

「おいぃ」

「無駄だよ、アマド兄。

 カリナはいつも正しい」


 兄とはそういうものだなアマドよ。

 孤立無援のようだぞ、だから諦めろ。


「それで、なんで森の中にいたのかな。

 もう少し今走ってた方向へ行くと中層って危険な場所になるんだよ」

「薬草を取りに森の近くに来たの。

 中に入らないでも生えてる事があるって聞いたから。

 でも薬草が無くて、仕方がないから少し森の中に入ってみたら小犬鬼に見つかっちゃってみんなで逃げてきたの」


 子供が薬草を取りに森に突入するのはこの世界のデフォルトなのか。

 しかしだ、10人の子供が集団で薬草とか。

 どう見ても何か事情があるんだろうなあ、男の子も警戒具合が過剰だし。


「こう見えてもお兄さんはコレクターで採取の専門家だからな、薬草には詳しいぞ」

「えっと、お兄さんは私たちを見て何も思わないの」

「ん、なんだ、カリナ達ってモフモフしてて可愛いいけど、それがどうかしたのか」

「か、かわいい」

「僕もかわいいかな」

「おう、もっふもふしてて可愛いぞ」

「うへへへ」


 しまった又もや収集がつかなくなる。


「えへへ、じゃあ院長先生と同じだね。

 えっと私たちは孤児なの。

 だからお金が無くて、高くなっちゃって買えない薬を取りに来たの」


 どうして子供がヘビーな話をするの。

 つか高くなったって、もしかして月神草なのかね。

 でも一昨日ので十分な量は行渡った筈じゃないのか。

 いやまだ持っているけどさ。


「月神草を探しにきたのかい」

「ううん。

 月神草は今は凄く奥に行かないと取れない時期なの。

 これ探してたの」


 おお、これは生姜じゃん、ふむ、アーカイブ情報だと魔力をもった万能草の根ね、それらしい名前になっとるわ。


「万能草の根か、月神草がないから代わりに多めに採取されたのかもしれないな」

「そうみたい、みんな考える事は同じなのかも」

「よし、取り合えず万能草の根はお兄さんに任せな、コレクターだからな」

「うん」

「それじゃまずは森の外に向かおうか」


 さて、万能草の根か、確かに浅い所から平原にかけてだが。

 森の中の奴の方が品質は上になっているって情報があるから魔素が何か関係はしてるんだろうな。

 よし、沢山見つけてあげよう。


「お、そこの右みてみ」

「あ、万能草の葉っぱだ」

「取って良いぞ」

「その右上の実も採取しておけばいいぞ」

「これはなにー」

「山椒の実だな。

 薬味にも使えるし、虫下しにも利用できる」

「へー」

「おっと、その左の茂みの前に万能草に似たやつあるだろ」

「うん」

「それが酒神草だ。

 万能草と同じような根があるから」

「おおー」

「兄ちゃん詳しいな。

 コレクターなのに強いし」


 おっとツンデレ坊主とか、モジモジしてるのは恥ずかしいからか。

 そんな事ではツンデレを男が極めるのは難しいぞ。

 しかし、悲しきコレクターの情報が語られた。

 子供たちにも知られるほどに弱いって思われるのね。

 負のスパイラルじゃね、コレクター人気が無いのって。


「まあ、専門でやってるからな。

 それに強いのは死にたく無いからな鍛えてるんだよ」

「そうか、バスターじゃなくても冒険者は強い人がいるんだな」

「魔物を討伐するのも重要だけど、魔法薬は採取した薬草からしかできないからな」

「脳筋バスターより、お兄さんの方が素敵だとおもうな、私」

「コレクターか……」

「その次がハンターじゃないかなあ」

「ハンターか……」


 おい少女よ、少年達の進む道が変わりそうな一言をさらっと口にするとか、モフモフ属性の小悪魔ちゃんなのか。

 小さくても女は女だと言うけれども、末恐ろしいのぉ。

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