正しい治療法
「おい、あれだな。やれ」
「ハッ、オオオオ」
取調室、もとい会議室を出たらキラキラしたチャラそうな兄ちゃんと、ブンさんを二回り程小さくしたような筋肉達磨が居た。
なんで冒険者組合のカウンターの奥にある廊下にいるのか不明だ。
クリスさんを見てから汚い物を見るとそのギャップに目が驚いた。
というか、「やれ」の一言で反応して「ハッ」って了解していきなり襲いかかろうとか、犬の様に忠実な馬鹿だな。
つか襲られる覚えが無い。
職員さん達も驚いているし暴挙で確定。
先ほど改善したシステムで悪意をもった人間の検索表示も終えてたからさ。
赤いマークで居る事自体は知ってたし問題はないんだ。
準備万端、思考加速、身体強化は念のために既に発動済みですし。
さっきの会話の流れから、クリスさんを信奉してる職員さんで俺に悪意を持ってるとばかり思ってたが、違うっぽいね。
(リッティ侯爵家部屋住み次男、護衛者の詳しい情報を表示しますか)
いやいらない。
敵だと分かればいいさ。
一応貴族だと判っていたらそれなりに方法もあるだろうし。
公爵レベル以外ならなんとかなりそうだしね。
ならなきゃ逃げるだけだし。
突撃してくる筋肉。
つか、ブンさんレベルならちょっとビビるけど、こんな見せかけの筋肉如きで俺は怯まない。
フルパワーは拙いか。
つっても関節とか極めるのに触れるのもいやだな。
なんか手を広げて捕まえに来てるし。
せめて低姿勢でスピアーばりのタックルでもしないとそのデカいだけの巨体がもったい無いぜ。
アイちゃん電撃のコントロールを宜しく、意識喪失レベルで。
(了解しましました、コントロール可能です)
フリッカー気味に放ったジャブで相手の顎先を軽く触れる程度に止めて、パンッっと電撃付きのパンチは美味かろうよ。
まるでヘッドショットを決められた兵士を見るように膝から綺麗に沈んだな。
思考加速終了っと。
つかなんなの此奴。
「なっ何が起きた。おい貴様、いきなり倒れるとは何事か。
我が愛しのフィアンンセに着いた虫を払う役目も果たさず何を倒れているのか」
いや騒いで叱咤しても意識もないんだよソイツ。
つかフィアンセなの、護衛殴っちゃ拙かったのかね。
「誰がフィアンセですかっ。
いい加減な事を言わないで頂けますか」
良かった、こんなチャラそうなのがクリスさんの許嫁な訳がないか。
つかこのチャラいのって貴族だよね。
「おお、これは我が麗しのティーナ。
今日も美しい。
そんな貴方に好からぬ虫が付いたと報告がありましてね。
こうしてこのフィアンセである私ゲッツが成敗しにやってまいりました」
俺は虫か。
つか、懲りないでまだフィアンセ言ってるの。
クリスさんの怒りゲージが上がっているのか絶対零度の雰囲気になってるんだけど、なに気が付かないの、馬鹿なの、凍りたいの。
「貴方に名前を呼ぶことを許した覚えはありませんし、父を通じて其方の家にも勝手にフィアンセを名乗る事について抗議させて頂いている筈ですが」
名前を呼ぶのも禁止というかですね。
ティーナ呼びを嫌がってたのってコイツのせいかね。
そりゃ嫌にもなるってもんだな。
「ククク、照れ隠しなどなさらなくとも大丈夫ですのに。
私は文官を輩出する知性あるリッティ侯爵家の次男。
麗しいティーナの家は武を司る辺境伯家。
家格もつり合いお似合いの二人になるだろうと父も言っていましたよ」
電撃を飛ばすときにどうして此奴にも飛ばさなかったんだろう、事故って事で終わらせたかったな。
「私の結婚相手は私が決めます。
それは我が父も納得している事、お引き取りを」
「フッ、そうした気の強いところも素敵です。
ええ、どうですかこの後お食事でも」
「はぁ、いやだなねぇ。
振られてるのに近づく男ってさ。
なっクリス」
「なっ、私のフィアンセの名を軽々しく」
ほんと、聞いててイライラってくるタイプだわ。
「え、ええ。
ホントこの人って名前を呼ぶのを許した事も無いのに、しつこくて困るのよクロウ」
ですよねー。
その名前を呼ぶのを許してないって俺のティーナ呼びも入ってますね。
「名前で呼び合っているだとっ」
名前を呼んでも貰えないのも呼ばせて貰えないのもお前が嫌われているだけだから。
貴族の習慣だと違うのかも知れないけどさ、上位者が先によぶとか色々と決まり事がありそうだもの。
でも俺には関係ありませーん。
「ええ、それが何か。
クリスは俺の(秘密を知っている)クリスだし、な」
「そう、当然の事よ。
クロウだもの(コレクターの)パートナーの(専属)予定ですし」
見つめあって語り合ってしまった。
意味は通じているっぽい、アドリブにも対応してくれている、流石だね。
クリスさんがノリノリですけど、後で怒られる気がするから余り調子にはのらないでおこう。
「う、嘘だぁぁ、そんな馬鹿な平民如きがっ、この私からフィアンセを奪うだとぉ」
「しつこいな、勝手にフィアンセを名乗らないで貰えないですかね。
振られた男が見っともない。
それでさ、クリス。
このストーカーとか、突然襲い掛かってくる行為って貴族なら許されるのか」
「いえ、自分の領地でも国王から禁止されている行為ね。
そんな事を許す国ではないし、当然我が家の領地で許される筈もないわ」
おお、いい国だねえ。
フフ、このやり取りはテンプレだろ。
「ってことは此奴って今ぶっ飛ばしたとして、俺って罪に問われるのかな」
「正当防衛ね、襲い掛かってきたのは向こうだし。
指示したのは其処に居る男よ、証人はここにいる組合員全員ね」
ほらお墨付きがでちゃった。
つーわけで。
「オッケー、歯ぁ食いしばれよストーカーのチャラオくん。
クリスを不快にさせた罪は重・い・ぜ」
大丈夫、治療もしてあげる。
だけど気持ち悪いからさくっとで沈んでくれよ。
電撃じゃ痛みを伴って反省できないでしょ。
こういう時には殴る場所にも力加減にも作法があるんだよ。
「ヒッ、ゆブジッ、ガハッ」
ゆべしって和菓子があったな。
奇声を発するから思い出した、美味しいよね。
許してって言おうとしたんだろうけど許しません。
顔面の骨、顎を割れた状態、鼻は歪ませて修復。
鼻は曲がったし、顎もケツ顎ってやつだな。
ククク、モテモテになることだろうから感謝して欲しい。
今後犯罪者が貴族でいられるかも不明だけど。
(マスター素晴らしい治療魔法の使い方ですね)
「フフフッ、何だかすっとしました」
「そりゃ良かった。
それで、此奴等ってどうすりゃいいの」
「衛兵だと荷が重いでしょうし、我が家の騎士に事後処理を任せないと」
「それじゃ、其処まで運ぶからデートしてくれない」
「仕方ないですね。
アロイスさん、皆さんに伝えてね。
あと、この人達を通した職員には残業のお仕事があるから伝えておいてね。
それじゃ、ちょっと出かけてきますから後を宜しく」
やった、余計な荷物はあるけど道案内っていう名のデートっぽい何かだ。
言ってみるもんだね。




