ころころ
コロコロと転がされる俺、クロウ。
転がされるって以外と悪くないのよ。
もう一つってこの場合は俺がクインタプルになってって事でいいんだよね。
まぁ実際の専属になって貰うとすると、コレクターは俺の天職だと思うからクリスさんも儲けれるだろう。
あれ、でもクインタプルになるってことはティーナ呼びしていいんだよな。
ティーナ呼び解禁の方が重要じゃね?
転がされ過ぎて脳味噌が溶けてきてる気がするよ。
しかし、これはあれだなアイちゃん、想定外だったわ。
(情報を確認した結果、領主の一人娘というのは本当でした、調べて置くべきでした)
まあ、鑑定こそ自主規制してたからね。
アイちゃんが悪い訳じゃないさ。
吃驚はしたけどさ、礼儀的な面からも必要最低限で使わないとね。
俺も朝から歩いているだけなのに、何度か不思議な感覚があった。
何となく魔力生体障壁に違和感を感じていたから鑑定でもされたんじゃないかな。
俺が気が付けたってのは恐らくだが、魔力操作関連で技術が生えかけなのかもね。
でだ、俺が出来るってことは、他の人も何かしらかの理由で鑑定に気が付く事もあるかもしれないという事だ。
そうした行為はやはり敵対行動とまでは言わなくても印象が宜しくないだろう。
だが自重はしないのだよ、身を守る為だからさ。
勿論控えめ且つ必要最低限に止めるけど。
アイちゃん、アーカイブ情報を観覧して犯罪者関連に加えて政治的に危険な人物かどうかだけ照合して、報告が必要な人物の場合のみ教えてもらえれば助かる。
それを自動的に常時稼働で運用しておいて。
(了解しました、判断基準を追加、報告するようにします)
「ニュービーの冒険者には都市での依頼を受け、街の作りを覚える為の仕事を回したり、経験を積ませると同時に、組合などから冒険者としての教育をする期間なのです。
ですがクロウさんにはその必要はないですし、他の冒険者や組合職員に顔を売ってもらう必要もないので、クロウさんは此方で処理してシングルに格上げしておきました。
実績として大量の採取品が納められていますから此方は別段権限を使った無理押しとかではありませんよ」
「シングルスタートですか、まあ、町中だと問題起こしそうですから助かります」
テンプレとかだといきなり上位にランクインがあるけど、常識的で何よりですよ。
冒険者組合の仕組みとか色々と学ばないとね。
シングルからなら許容範囲内だわ。
「ええ、そのあたりも考慮してコレクターのランクを上げました。
フフフ、冗談です」
笑ってるけど絶対に考慮したよね、いや本当に助かりますけど。
嫌な自信だけど、やらかすよ俺は。
「コレクターの判断基準は採取品を冒険者組合に納めてもらう事ですから。
昨日の納入品を追認してシングルへ昇格となります。
他のバスター、ハンターの格付けには討伐記録をカードで確認する事が義務付けられていますのでニュービーのままです。
冒険者協会の規定が無ければ、魔晶石のみで判断できたのですけれど」
「あーそのあたりの格付けは別に低くても問題はないですよ。
俺の担当してくれるクリスさんだけが知っていてくれれば問題は無い訳ですから。
それと自己申告になりますけど、今の俺が単独で安全に倒せる相手が六裂熊ですから、採取に向かえるのは生息地域レベルになります」
「そう、ですね。ええ私が理解していれ問題は起きませんね」
ありゃ、一瞬クリスさん固まったけど、反応も今一ってことは六裂熊の地域ってのは宜しくなかったかな。
でも安全な地域がいいんだよね。
本格的に修行しないとだめだな。
我流も独創性に富んだのも悪くはないし封印した何かが熱く滾るけどさ、やっぱりちゃんとした武器の使い方とかも習いたい。
そうなると槍は教えてもらえるだろうけども、刀が問題だなぁ。
システム上は剣術カテゴリーっぽいけど実際に斬るにも違いがあるっていうし。
何処かに達人落ちてませんかね。
ま、なんとかなるだろうよ、西洋にもシミターとかあったし。
「それでシングルスタートはいいのですけれど、他の冒険者とかに顔を売ったりとかってしなくても大丈夫ですかね」
「それなら昨日に十分以上に売られてますし、ある意味では可也高値で売りつけてる最中でもありますよ」
「何か冒険者に顔を売るような事しましたっけ」
「ワイルド&キャッツで働かれていた事で既にクロウさんが何者なのか調べようとした冒険者が多数いました。
ワイルド&キャッツは冒険者組合にも近いので仕事を終えた冒険者が多く立ち寄る人気のある料理酒屋ですからね。
キティさんも人気ですが、ブーン氏の溺愛も有名ですので。
店員は全員女性のみなのに、男性の給仕が居た事は大きな話題になってますよ」
昨日沢山の恨みのこもった視線を貰ったのはそれでか。
従業員が女性のみって、酒を出す店なら珍しくもないけど、流石ブンさん徹底してるな。
「既に街の住民にも噂は広まっていると思って間違いないでしょうね。
斥候系の人たちが朝から数名情報を売っていましたので」
え、既に街規模で噂が流布してるの。
ちょっと、一躍時の人よ。
いやいや、まてよ。
斥候職とかプロの技つかってなにやってくれてんですかね。
「斥候って本職じゃないですか。
情報ってどれだけ流れたんでしょうか」
「大した話はなにも。
ただ下宿した事は既に分かったみたいです。
昨夜の時点で男性の給仕が閉店後にもワイルド&キャッツから出ていない事、ワイルド&キャッツから出てきた男性がいる事は流れているでしょうから」
本職さんがなにやってんでしょうね。
それって夜店を見張ってたりした馬鹿が居たって事じゃんよ。
索敵もこれから全力全開で使わないと危ないよ。
アイちゃん索敵に敵意のある反応とかって表示可能かな。
(調整してみます――完了、表示マークを赤に設定)
これで安心だね。赤いマークも確認出来るし。
「それと、今ですね」
「今ですか」
「どうしても受付では出来ない話し合いをする必要がありましたからこの部屋を利用してますよね」
「そうですね」
「領主の娘と言うよりも統括の受付嬢と二人きりで、二日連続、二回目です。
ちょっと色々あって時間も掛かりました」
「そうですね」
「街で見かけなかった冒険者が突然現れてランクも何もかもが不明。
でも扱いが個室行きになるなんてどんな奴なのだろうかと思われますよね」
「そうですね」
「自分で言うのも恥ずかしいですが、私の列に並ぶ冒険者の方も多いんですよ」
「当然でしょうね」
つまり意図してなかったけど大変注目を集める状況になってしまっていると。
俺も思わずオウムみたいになってたけど、一番危険なのはクリスさんに憧れている冒険者の方々が注目している事なんじゃねえか。
さらっと自分の事含んで流そうとしてるよ。
「今日は依頼を受けなくてもいいでしょうか。
街を一度散策しておきたかったんで」
可及的速やかな撤退が必要だと思う。
「ええ、勿論です。
本当ならご案内でもして差し上げたいのですが」
殺す気か。
「いえ、大丈夫です、クリスさんのファンに殺されますよ」
「あら、ティーナって呼ぶようになれば確実に対峙する事になりますよ」
ワォ、意外に引っ張りますねそのネタ。
そんなにティーナ呼びが嫌なのね。
「その時は対峙しますが、今はまだですから」
「フフフ、楽しみですね」
微笑むクリスさんは楽しそうだけどさ、盛大なフラグを立てた俺は強がるしかないわ。