ワイルド&キャッツにようこそ
オッサンの名前はブーン。
目の前でガハハハと笑う筋肉達磨である。
まず出会った人は豪快だなという印象を誰もが持つだろう。
元冒険者にしてベテラン、二つ名を持つ男。
その名も野獣。
引退したのも今の奥さんを庇った時の怪我が元とか、ワイルドに生きてるわ。
そりゃ惚れるだろうよ、強面でもな。
因みに怪我や身体の欠損で引退する冒険者は多い。
オッサンのように――特に冒険者に多いそうだが――治療魔法があるこの世界でも完治しない怪我があるそうだ。
あれじゃないかなと思い当たるものは幾つかある。
まあそれは後にして。
このオッサン、野獣と言われる程に強面なのに現在は料理人。
しかも可也の腕前。
冒険者カードと代金1,925,400エールを受け取った俺はクリスティーナさんと一緒にオッサンの経営するワイルド&キャッツに来ている。
因みにまだ全額ではない。
六裂熊のオークション代金追加分は後日振り込みになる、一気に金持ちになった。
目の前には食べきれるかねコレと言うほどに料理を並べて貰っている。
これがオッサンのお礼だそうだ。
いやマジで美味いから嬉しいんですけどね。
着いた途端に「まあ食べろ」と有無を言わさず出して来たのには驚いたよ。
クリスティーナさんと一緒に貸し切り状態でお食事、悪くないな。
料理を運んできたのが奥さんのマルガリータさんだそうで、嘘だろ、なんでこの美人がという話。
店名もビューティー&ビーストで良いじゃねえかと思う。
だがこの奥さんの身のこなしも只者では無い。
理由も無くステータスを覗くのは失礼だろうと思い使ってないけど、クリスティーナさんといい、このオッサンと奥さんといい、なんで一癖も二癖もありそうな人ばかり出会うかね。
平凡な少年トーマス君が懐かしい。
酒は飲まないんだと言うと、そうかなら食えと更にステーキが出てきた。
白いご飯があれば嬉しいのだけど、まだ穀物店に行けてないんだよね。
食事を美味しく頂いております。
「それでよ、クリスティーナだったら問題はねえから一緒にいても大丈夫だろう、当事者の一人でもあるしな。
クロウ、おめえのあの薬は一体なんだ」
料理を出し終えたオッサンがテーブルの横の席に座って真剣な顔つきで話始めた。
「うーん、普通に月神草を抽出して解熱用に作った薬ですよ」
すっとぼけられないのは判ってるけど、まあ話は最後まで聞いておこう。
元ベテランだからってだけじゃなさそう。
「まあな、クリスティーナの鑑定でもそう出てたな。
位階は優なんてふざけた程だったけどよ」
「確かにその鑑定結果でしたね」
優なぁ、逸だと知ったらどうなるのかねこれ。
「完治はしてないんだけどな、飲んだとたんに熱が引いて、おまけに娘の話じゃ体力が戻ったらしい」
あ、そうだった効果を低くしても回復効果はつけてたわ。
鑑定結果に出て無かったんだよなぁ不思議な事に。
あれか、薬は薬でもあれ魔法薬だから判らなかったのかも。
あ、またやっちゃったてたかもしれない。
「クロウ様、もしかしてですが、私の鑑定技術が低いので判りませんでしたが、その薬は魔法薬では御座いませんか」
「やっぱりクリスティーナもそう思うか」
「えーと言ってませんでしたっけ」
アハハハ。笑って誤魔化したいのに声がでないわ。
「ぐっ、とんでもねえものをさらっと」
「クロウ様の来歴を考えれば可能性は御座いますか。
先に知っていなかったとはいえ」
あ、あれ、魔法薬ってまずかったの。
アイちゃーん。
(いえ、魔法薬が害を及ぼす事になる症例は記録にありません、また可能性もまず無いかと)
なら、この悲壮感はなんだろう。
「えっと何か拙かったでしょうか」
「いやおめえ、魔法薬だろ」
「ええ、魔法薬ですよ」
と其処にオッサンの奥さんがやって来て状況を説明してくれた。
「クロウさんの譲ってくれたのが普通の薬なら代金は1000エール。
薬で優なら良心価格って納得できる値段だよ。
それが魔法薬で優なんて代物になれば100,000エールでもおかしくはないさ」
「は?
100,000エールってなんですかその箆棒な値段。
冗談ですよね」
「二人とも、このクロウって兄さんはこういうタイプだよ」
そもそも薬で100,000エールって1,000,000円だぞ、高すぎるわ。
想定してねえよ、1,000エールでもまあ完治するならギリギリ安いかとか思ってたのに。
「クロウ、魔法薬ってのは普通は王族や上級貴族様っていう雲上人が使うぐらいだ。
まあ冒険者だったら持ってても可笑しくはないけどよ。
それだって見習いが作ったような一番低い位階ので一本10,000エール。
最後の頼みの一本的な扱いが普通なんだよ。
薬でも優を作れる事自体が知られるとちょっとまずい事に巻き込まれるレベルだぞ。
それが魔法薬だなんてなったら、もう大変じゃすまん」
「恐らくは王侯貴族でも優の魔法薬を使ったのは数える程でしょう。
それほどに希少価値が高いものです」
これは、そう、こういうときにはぶっちゃけ、ケセラセラ。
「アハハハ、まあ知らなかったんで。
ラッキーと思っておいて貰えるといいなあ。
序に忘れてもらえたら嬉しかったり?」
そんな感じでお願いしたいと思っております。
「ブッ、ククク」
「ハァ……」
「フフフフ」
ほら見事に呆れられてるじゃないか、あれ?
まあ、笑ってしょうがねえなって思ってもらえると嬉しいな、俺。
「現役時代の野獣を超える大物っぷりだね」
「俺達大概だとは思うが、俺以上の馬鹿な上にお人よしだぞ」
「流石に私の予想をこうも悉く斜め上に逸れていかれては、心配になってまいりました」
えへへへ。
可愛く笑ってみたいのにまた声が出ないのはあれですね、お手上げって奴に認定されてるのが判るから下手に笑えないってことですよね。
あ、そうだ序にあれやったら拙いかなあ、でも治療魔法の範囲なんだよなあ。
どうするよ。
(マスターの心が思われるままに)
文章評価はすてるぞぉクロウ
物語の評価で高得点を目指したい……




